厚生労働省労働局長登録教習機関
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私の会社は、建設関係、中でも設備関係の工事を行っています。
以前、下水処理施設で、施設内で、腐食した配管を取り替える仕事をしていた時の出来事です。
取り替える配管は、汚水を溜めた水槽から、ポンプアップして別の水槽に移すための配管です。
作業の前には、ポンプのブレーカーを切り、取替え作業中に送水しないようにしていました。
作業は順調に進み、配管を取り外してから、新しい配管を取り付けようとしたときのことです。
ポンプが止まっている間、水槽の水位は上昇していきます。
そして一定の水位まで上昇した時、悲劇は起きました。
ポンプは止めていたのに、ポンプアップされ、外している箇所から水が吹き出したのです。
吹き出した水は、水道水でも川の水でもありません。
汚水です。
作業をしていた作業員は、汚水をかぶってしまったのです。
実は、この水槽にはメインのポンプの他に、バックアップ用のポンプが別にあるのですが、こちらの電源OFFを忘れていたのです。このバックアップ用のポンプが、水位上昇に伴い、自動的に運転してしまったのです。
そして、このバックアップ用ポンプの電源は、作業している目の前にありました。
実に悲劇的な出来事です。
さて、同様にもう一つの出来事。
これも下水道の仕事ですが、私とは別の会社ですが、マンホールポンプ場での仕事をしていました。
仕事の内容は、マンホールポンプ場に付けられている水中ポンプの取替え工事です。
仕事の最中は、ポンプの電源は切って、作業しています。
仕事は順調に進み、ポンプを取替え、取り替えた後の試運転も問題なく終わりました。
こうして仕事は無事に完了し、引き上げました。
ところが、この後恐ろしいことが起こったのです。
実は、試運転が終わった後、電源を切って、最終チェックを行いました。
この時、再度電源を入れることを忘れて、撤収してしまったのです。
マンホールの中には絶えず汚水が流入します。
上がる水位。
回る注意を促すパトライト。
マンホールいっぱいになり、やがて溢れ出ました。
溢れ出た水は、水道水でも川の水でもありません。
汚水です。
周囲に汚水が溢れてしまったのです。
その後、管理者から叱られ、周囲の清掃に追われてしまったようです。
いずれも私の近くでの出来事ですが、共通することはチェック漏れです。
仕事をしているとついウッカリということは、よくあります。
またチェックはさっきやったと勘違いしたり、他人がやってくれているだろうと思い込んでしまったりということもあります。
紹介した事例も、同様ですね。
臭い思いはしましたが、幸い怪我や命を落とすとまでとはなりませんでした。しかしついうっかりが大きな事故を引き起こすことは多々あります。
工場で、大きな加工機械があるわけですから、ついうっかり安全装置を切ったまま、手を近づけてしまったら。
建設現場で、20mの高さの足場で、手すりを外して作業したものの、ついうっかり元に戻し忘れたら。
恐ろしい事故になります。
うっかりミスを未然に防ぐ方法として、「指差呼称(指差確認・指差喚呼)」があります。
1つの作業が完了する度に、「○○ヨシ!」などと言いながら、指を差し確認する方法ですね。
電車の運転手が「出発進行」などと、行っているのを目にしたことがあるのではないでしょうか。
この指差呼称は、運転手さんが行っているように、旧国鉄より実施されて始めたそうです。
注意を払うべき対象に、意識的に確認行動を行うことによって、錯覚、誤判断、誤操作などの格段にミスを防ぎ、労働災害を防ぐ効果があります。
先の事例で言うと、確実に電源オン、オフをチェックするわけですから、ミスは防げますね。
指差呼称は、電車以外のあらゆる仕事に使えます。
特に危険を伴う場合には、有用ですね。
有用な指差呼称ですし、おそらくやった方がいいとも思われるかもしれませんが、導入実施には障壁もあります。
障壁の1つは、実施者の気恥ずかしさです。
JRのようにやって当たり前の環境であれば、問題ありませんが、新たに導入しようとすると、労働者は抵抗することもあります。声を出したアクションが恥ずかしい、あとは子供扱いされているような思いを抱き、実施したがらないこともあります。
その点は、事業者や監督者が、事故を防ぐために有用なのだと説明し、徐々に浸透させていく他ありません。
もう1つ導入後の注意点があります。
それは、ただ指差をしているだけになること。
しっかりチェックせずに、ただ指差をしていると、間違っているのにヨシとしてしまうこともあります。
これも、チェックの大切さを繰り返し説き、意識的に実施させるようにしなくてはいけません。
新たな制度導入には、トップの強い意志が必要になります。
チェックの仕方として、他に電源のオン、オフなど、作業後には現状復帰させるものであれば、元の状態を写真に撮っておき、作業完了時に照合する方法があります。またスイッチなどであれば、元の位置にチョークなどで印を付けて、現状復帰させるなどもありますね。
より確認の精度を上げるのであれば、ダブルチェックも有用です。
指差呼称は、チェックで有用です。導入にあたっても作業負担も軽く、コストもかかりません。
事故防止に役立るためにも、ぜひ活用したいものです。
何をチェックするべきかについては、仕事によると思います。
例を挙げると、次のようなことが考えれそうです。
足場を使用する工事ならば、ボルト・クランプは締めた時に、「ボルトよし!」などと使えますね。
建設機械などを使用する時は、操作前に前後に人や障害になるものがないかを確認して、「周囲よし!」などできますね。
クレーンの玉掛けならば、5cmほどつり上げて安定を見る地切りというものが行いますが、その際に「吊り荷安定よし!」などできますね。
工場で、加工機械の整備時は電源を切り、点検中の表示板などをつけるならば、「電源OFFヨシ!表示板よし!」などと使えますね。
作業手順書作成とあわせ、チェックポイント決めていくとよいですね。
ただあれもこれもチェックとなると、逆にチェックがおろそかになるので、バランスを考える必要があります。
私も現場安全パトロールの際には、指差呼称でチェックしています。
そして、今年は現場作業員にも、できるだけ実施するよう促しており、ただいま導入中です。
チェックを徹底するだけで、かなりの事故が防げると思います。
ちょっとした恥ずかしさを克服すれば、なかなか侮れない結果が期待できます。