○安衛法と仲良くなる安全体制元方事業者の責務

特定元方事業者の職務1

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建設業のように、特に危険な仕事を請け負った元方事業者のことを、「特定元方事業者」といいます。

特に危険が伴う作業のことを、「特定作業」と言うのですが、この「特定作業」を請け負うのが、「特定元方事業者」なのです。

特定元方事業者は、「特定作業」という作業内容と、常時使用する労働者の人数が一定以上である場合の元方事業者のことですが、名前に「特定」と付くだけあって、義務も特別になります。

主には、安全衛生に関することではあるのですが、一歩間違えれば、労働者の命の危機にさらしてしまうこともあるので、慎重に慎重を重ね、対応することが必要になります。

今回は、「特定元方事業者」の責務についてまとめます。

さて、特定元方事業者は、「統括安全衛生責任者」と「元方安全衛生管理者」を選任しなくていけません。
この詳細は、こちらをご覧ください。
現場の安全管理体制1 「統括安全衛生責任者・元方安全衛生管理者」

また業種も限定されており、建設業造船業です。

表にまとめると、次のとおりです。

1 ずい道等の建設工事 常時30人
2 特定の場所での橋梁の建設の仕事
3 圧気工法による作業を行う仕事
4 その他の工事 常時50人

「統括安全衛生責任者」を選任する作業なので、店社安全衛生管理者を選任しなくてはいけない作業は、「特定作業」に含まれません。

さらに、「統括安全衛生責任者」と「元方安全衛生管理者」の選任要件ですが、次のとおりです。

業種 統括安全衛生責任者 元方安全衛生管理者
建設業
造船業 ×

建設業では、「統括安全衛生責任者」と「元方安全衛生管理者」を必要としますが、造船業では「統括安全衛生責任者」のみ必要です。

ここまでは、一度説明しておりますので、さらっと収めますね。

さて、「特定作業」と、どういった仕事を請け負ったら「特定元方事業者」になるかは分かりました。
では、どのような措置をとらなければならないのかをまとめていきます。

統括安全衛生責任者などの説明をした時に、家を買う例えをしたので、再度同じ例えをするならば、購入にあたっては、現地を見たり、モデルルームを見たり、業者の話を聞いたり、友人知人の話を聞いたり、あれこれシミュレーションしたりと、家電を買うよりも、慎重に検討しますよね。

もちろん家電を買う時でも、ネットで調べたり、お店で現物を見たりして検討すると思いますが、大きな買い物になるともっと慎重になるはずです。

再掲になりますが、そんな特定元方事業者が慎重を重ねなければならない措置について、安衛法第30条にまとめられています。

(特定元方事業者等の講ずべき措置)

第30条
特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の
作業が同一の場所において行われることによって生ずる
労働災害を防止するため、次の事項に関する必要な措置を
講じなければならない。

  1)協議組織の設置及び運営を行うこと。

  2)作業間の連絡及び調整を行うこと。

  3)作業場所を巡視すること。

  4)関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に
   対する指導及び援助を行うこと。

  5)仕事を行う場所が仕事ごとに異なることを常態とする業種で、
   厚生労働省令で定めるものに属する事業を行う特定元方事業者に
   あっては、仕事の工程に関する計画及び作業場所における機械、
   設備等の配置に関する計画を作成するとともに、当該機械、
   設備等を使用する作業に関し関係請負人がこの法律又は
   これに基づく命令の規定に基づき講ずべき措置についての
   指導を行うこと。

  6)前各号に掲げるもののほか、当該労働災害を防止するため
   必要な事項

2 特定事業の仕事の発注者(注文者のうち、その仕事を他の者から
  請け負わないで注文している者をいう。以下同じ。)で、
  特定元方事業者以外のものは、一の場所において行なわれる
  特定事業の仕事を二以上の請負人に請け負わせている場合において、
  当該場所において当該仕事に係る2以上の請負人の労働者が作業を
  行なうときは、厚生労働省令で定めるところにより、請負人で
  当該仕事を自ら行なう事業者であるもののうちから、前項に
  規定する措置を講ずべき者として1人を指名しなければならない。
  一の場所において行なわれる特定事業の仕事の全部を請け負った者で、
  特定元方事業者以外のもののうち、当該仕事を2以上の請負人に
  請け負わせている者についても、同様とする。

3 前項の規定による指名がされないときは、同項の指名は、
  労働基準監督署長がする。

4 第2項又は前項の規定による指名がされたときは、当該指名された
  事業者は、当該場所において当該仕事の作業に従事するすべての
  労働者に関し、第1項に規定する措置を講じなければならない。
  この場合においては、当該指名された事業者及び当該指名された
  事業者以外の事業者については、第1項の規定は、適用しない。

1項に、特定元方事業者がやらなくてはならないことが規定されています。

  1)協議組織の設置及び運営を行うこと。

  2)作業間の連絡及び調整を行うこと。

  3)作業場所を巡視すること。

  4)関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に
   対する指導及び援助を行うこと。

  5)工程、機械・設備の配置、工事用の仮設設備の配置等について、
   計画を立てること

  6)その他の労働災害を防止するため必要な事項

どうやら、安全管理体制を整え、関係請負人をとりまとめなさいというのが要旨のようです。

さて、1つずつ詳細に見ていこうと思いますが、先に2項について、触れておきたいと思います。
指名については、安衛則第643条に規定されています。
【安衛則】

(特定元方事業者の指名)
第643条
法第30条第2項の規定による指名は、次の者について、
あらかじめその者の同意を得て行わなければならない。

  1)法第30条第2項の場所において特定事業
  (法第15条第1項の特定事業をいう。)の仕事を
  自ら行う請負人で、建築工事における躯体工事等
  当該仕事の主要な部分を請け負ったもの
  (当該仕事の主要な部分が数次の請負契約に
  よって行われることにより当該請負人が
  2以上あるときは、これらの請負人のうち、
  最も先次の請負契約の当事者である者)

  2)前号の者が2以上あるときは、これらの者が
   互選した者

2  法第30条第2項の規定により特定元方事業者を
  指名しなければならない発注者(同項の発注者をいう。)
  又は請負人は、同項の規定による指名ができないときは、
  遅滞なく、その旨を当該場所を管轄する労働基準監督署長に
  届け出なければならない。

工事の種類によっては、発注者は同じ場所に複数の工事を発注することがあります。
この場合、複数の元方事業者がいることになります。

特定元方事業としての責務はあるのですが、両方が特定元方事業で先導していたら、作業場は混乱しかねません。
Aの工事とB工事で合図が違う、ルールが違うなどしたら、どちらの合図やルールを優先したらいいのか、労働者は分からなくなります。
まさに船頭多くして、山を登る状態になりかねないのです。

この場合は、1社を特定元方事業として指名し、指名された者が1項の措置を講じなければならないわけです。
指名は相談の上、合意をえて指名になります。
特定元方事業が決まらない場合は、労働基準監督署が指名します。

指名されなかった元方事業者は、特定元方事業としての措置は不要ですが、協力していく必要はありますね。
同じ作業現場で工事する同士なのですから、元方事業者同士がしっかりとした協力関係がなければ、各関係請負人の労働者を危険に晒すことになりかねません。

では第1項の各号の内容を見ていきます。
今回は、1~5号までとし、その他に含まれるものは、別の機会でまとめたいと思います。
なぜなら、6号に含まれる内容が、やたらと多いからです。

各号の内容についての詳細は、安衛則でまとめられています。


1)協議組織の設置及び運営を行うこと。

一定数以上の労働者がいる事業所では、安全委員会、衛生委員会、安全衛生委員会を実施しなくてはいけませんでした。
これと同様に、特定元方事業者も関係請負人を協議組織を作り、作業場の安全衛生について、話し合わなければならいとなっています。

【安衛則】

(協議組織の設置及び運営)
第635条
特定元方事業者(法第15条第1項の特定元方事業者をいう。
以下同じ。)は、法第30条第1項第1号の協議組織の
設置及び運営については、次に定めるところに
よらなければならない。

  1)特定元方事業者及びすべての関係請負人が
   参加する協議組織を設置すること。

  2)当該協議組織の会議を定期的に開催すること。

2  関係請負人は、前項の規定により特定元方事業者が
  設置する協議組織に参加しなければならない。

特定元方事業者は、全ての関係請負人が参加する協議組織を設置して、運営しなければなりません。
当然、関係請負人は参加する義務があります。
全労働者が参加するところもあるでしょうし、現場を止められない場合は、関係請負人の安全衛生推進者のみ参加する場合もあると思います。
しかし、特定元方事業者は統括安全衛生責任者や元方安全衛生管理者のみならず、職長など現場作業の担当者も参加する必要はあります。

特に開催頻度についても規定されていませんが、大体毎月1回行うことが多いのではないでしょうか。

さて、何を話し合うのか。
もちろん、任意なのですが、大体のこんなところでしょうか。

1.作業の進捗状況
2.今後の作業で想定される危険ポイントと安全対策
3.発注者等の指示事項の通達
4.巡視、パトロールで発見した注意点、改善点
5.今月の安全目標の設定
6.その他

もちろん現場ごとで違うと思いますし、より詳細な議事進行表を持っているところもあると思います。

大切なことは、定期的に全関係者が一同に会し、あれこれ協議し、お互いに安全意識を高めることではないでしょうか。


2)作業間の連絡及び調整を行うこと。

いくつもの関係請負人が入り、多数の労働者が働いている作業場の中では、作業範囲がかぶってしまったり、邪魔になってしまったりします。
関係請負人通しで、うまく話し合いができる場合はいいのですが、工期の関係上どうしても折り合わないこともあります。 危険性が高い現場で、お互いが譲らなければ、事故になりかねません。

特定元方事業者は、全ての関係請負人の間を取り持つことが求められています。

(作業間の連絡及び調整)
第636条
特定元方事業者は、法第30条第1項第2号の作業間の
連絡及び調整については、随時、特定元方事業者と
関係請負人との間及び関係請負人相互間における
連絡及び調整を行なわなければならない。

随時、特定元方事業者と関係請負人との間の連絡調整、関係請負人相互間の連絡調整を行います。

互いの主張がぶつかる時は、うまく場所とスケジュールを調整していかなければなりません。

そのためにも、毎日どのような作業を行うのかなどを把握しておかなければなりません。
全関係請負人が協力して、作業が進めていける環境づくりが大きな仕事ですね。


3)作業場所を巡視すること。

現場の状況を把握するためには、机に座っているだけではできません。
実際に自分の目で確認しなくてはいけません。

(作業場所の巡視)
第637条
特定元方事業者は、法第30条第1項第3号の規定による
巡視については、毎作業日に少なくとも1回、
これを行なわなければならない。

2  関係請負人は、前項の規定により特定元方事業者が
行なう巡視を拒み、妨げ、又は忌避してはならない。

統括安全衛生責任者、元方安全衛生管理者は毎日1回は作業場を巡視しなくていけません。
巡視して、作業方法は適切か、危険箇所はあるか、安全対策は行われているかを確認します。

関係請負人は、巡視の時に拒否してはいけません。

巡視には、あらかじめチェックシートを作っておき、チェックしていくのがいいですね。
チェックシートの内容は、現場に合わせたものをアレンジすると、より効果的に見て回れますね。

もし危険箇所があったら、すぐに是正指示を出して、改善させる必要があります。
あとでまとめて言おうすると、忘れてしまいますし、その間に事故になるかもしれないので、迅速な対応が必要になります。
巡視の内容は、協議会で伝えて、全関係請負人と共有するといいですね。


4)関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に対する指導及び援助を行うこと。

関係請負人が安全で衛生的な作業を行うためには、労働者へしっかりとした教育を行わなければなりません。
特定元方事業者は、安全衛生教育の指導とサポートを行います。

(教育に対する指導及び援助)
第638条
特定元方事業者は、法第30条第1項第4号の教育に
対する指導及び援助については、当該教育を行なう
場所の提供、当該教育に使用する資料の提供等の
措置を講じなければならない。

建設業では、大体の現場において、労働者に対し、毎月1回は半日以上の安全衛生教育を行うことになっています。
内容については、現場進捗状況や危険箇所、安全対策、ヒヤリハットなどの確認などの他、視聴覚資料を用いたものもあります。

この安全衛生教育は、全ての労働者を集めて実施するのは、到底無理です。
作業現場には、仮設の現場事務所が設けられていますが、30人や50人が入るような大きさではありません。

そのため、安全教育は関係請負人ごとに行うことになります。
特定元方事業者が直接、教育を行う必要はありません。

ただし、特定元方事業者は関係請負人に、教育を行うように指導し、教材や資料の提供、場所の提供などの援助を行わなければなりません。
現場の安全対策は、労働者実施して効果があるものですから、しっかりとした教育体制を整えることが大切です。


5)工程、機械・設備の配置、工事用の仮設設備の配置等について、計画を立てること

この号は、建設業のみ適用と、規定されています。

(法第30条第1項第5号の厚生労働省令で定める業種)
第638条の2
法第30条第1項第5号の厚生労働省令で定める業種は、
建設業とする。

造船業では、固定した場所で行うので、臨時の仮設計画などは想定されていないのかもしれません。
一方建設業の現場は、日々状況が変わります。
そのため、しっかりとした計画が必要になるわけです。

(計画の作成)
第638条の3
法第30条第1項第5号に規定する特定元方事業者は、
同号の計画の作成については、工程表等の当該仕事の
工程に関する計画並びに当該作業場所における
主要な機械、設備及び作業用の仮設の建設物の配置に
関する計画を作成しなければならない。
(関係請負人の講ずべき措置についての指導)
第638条の4
法第30条第1項第5号に規定する特定元方事業者は、
同号の関係請負人の講ずべき措置についての指導に
ついては、次に定めるところによらなければならない。

  1)車両系建設機械のうち令別表第7各号に
   掲げるもの(同表第5号に掲げるもの以外のもの
   にあっては、機体重量が3トン以上のものに限る。)
   を使用する作業に関し第155条第1項の規定に基づき
   関係請負人が定める作業計画が、法第30条第1項第5号
    の計画に適合するよう指導すること。

  2 )つり上げ荷重が3トン以上の移動式クレーンを
   使用する作業に関しクレーン則第66条の2第1項
   の規定に基づき関係請負人が定める同項各号に
   掲げる事項が、法第30条第1項第5号の計画に
   適合するよう指導すること。

特定元方事業者は、全体を把握する必要があるので、全体工程と作業ごとの詳細な工程も必要です。
そしてどこで、どのような機械を使用するのか、仮設設備についてなどを把握して、無理で危険が伴わない、適切な工事計画を作成しなければいけません。

特に、関係請負人が使用する重量が3t以上の車両系建設機械(ショベルカーやブルドーザーなど)や吊り荷重が3トン以上クレーン車の使用予定を把握し、計画に反映させなければなりません。
ちょっとした荷物の搬入、搬出であれば、他の作業に影響はありませんが、3トン以上の機械となると、かなり大きく、影響を及ぼします。
また運転にあたっての資格者も必要になります。
事前に計画しておかなければ、色々と影響してしまうわけです。

無計画で、行き当たりばったりの作業であれば、危険が大きいのは何となく分かりますよね?
とても大きな資材が同時に搬入となったら、置く場所もありません。

しっかりとした把握と計画が安全な現場のために一番大切なことだと言えます。

第30条にあげられた、特定元方事業が講じなければならない措置のうち、1~5について見てきました。
残りは、6のその他なのですが、このその他が実は結構多いのです。

そのため、残り分は、別の機会にまとめます。

まとめ。
【安衛法】

第30条
特定元方事業者は、必要な措置を講じなければならない。 元方事業者が2つ以上ある場合は、どちらかを特定元方事業者に指名しなけばならない。

【安衛則】

第643条
複数の元方事業者がいる作業場では、同意を得て1人を特定元方事業者に指名すること。
第635条
特定元方事業者は、協議会組織を設置し、運営しなければならない。
第636条
特定元方事業者は、元方事業者または関係請負人相互の連絡及び調整を行わなければならない。
第637条
特定元方事業者は、1日1回以上は作業場を巡回し無くてはならない。
(教育に対する指導及び援助)
第638条
特定元方事業者は、関係請負人が行う教育の指導及び資料や
設備の提供などの援助を行わなければならない。
第638条の2
法第30条第1項第5号の厚生労働省令で定める業種は、建設業とする。
第638条の3
特定元方事業者は、工程、機械、設備の配置などの計画を作成しなければならない。
第638条の4
特定元方事業者は、関係請負人が作成する3t以上の車両建設機械、吊り荷荷重3トン以上のクレーン車の配置等の計画が、元方事業者の作る計画に適合するよう指導しなければならない。

 

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