安全体制

職長による作業員教育の時の3つの約束

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労働新聞社の「安全スタッフ」記事紹介で、こんなのがありましたので、紹介したいと思います。

労働新聞社
2014年9月15日 第2218号の記事

職長に「話し方」を指導する

建設投資の急激な増加に伴って、建設業では全国的に人材不足に陥っている。
こうした状況から部下の教育、指導経験の少ない職長が増えてきている実態があり、
安全管理に支障を来す懸念から(株)建設産業振興センターでは、厚生労働省の委託を受けて 「建設業職長等指導力向上事業」に行うこととなった。
おおむね5年以上経過した職長を対象に指導力の向上を図る内容で
「相手に分かりやすい話し方」などをテーマに演習方式を取り入れた講義をする。
全国的に順次、実施していく計画で8月19日に第1回目の研修会が開催された。

この記事の紹介を見て、ちょっと思ったことを書いてみたいと思います。

職長とは、作業リーダーのことです。
建設業や一部の製造業などでは、職長教育を受けた人を、リーダーとして配置しなければなりません。

職長は作業チームの指導監督を行うのですが、記事ではこの指導について、書かれているわけです。

私は所属する建設業では、小泉政権時代の規制緩和路線、デフレ不況と相まって、向かい風がきつく、全国的に多くの会社が店をたたみました。また店をたたまないとしても、リストラを行い、人員を減らしていった会社も多いと思います。

私の会社も、この10年から20年で人員は半分以下となってきました。

リストラはベテランにも及び、次世代への技術継承は乏しくなります。
また残った人も年齢を重ねるため、業界全体が高齢化しています。
新しく人を入れたとしても、10年以上の世代差がある、というのも珍しくありません。
私の会社でいえば、一番若い社員が35歳という状況です。新卒を採用するとなると、この状況は結構深刻です。

しかしながら、ここ数年、震災後の復旧やアベノミクスによる公共工事予算の拡大などがあり、にわかに需要は増えて聞きました。
しかし縮小した業界には、需要を満たす人材が不足しているのです。

そのため、積極的に人材を確保するものの、新たに入ってきた人たちは、未経験の人たちです。
傍目からは簡単にやっているように見えても、仕事の内容は、実に高度で、複雑です。
建設業であれば、ただ土を掘ってるだけとか、壁を作っているだけとかではないのです。
単純に穴を掘っているだけのように見えても、その実、ルール、手順、さらには高度な技術があるのです。

それを何をどう教えるのか?
こんな問題が持ち上がってきます。

さらにもう問題点がもう一つ。
職長といえども、基本職人さんです。
作業内容についてはプロフェッショナルです。
しかし、教える、伝えるとなると話は別ですよね。
仕事について熟知しているからといって、的確に伝えられるかというと、そんなことはありません。

どうやって伝えるのか?
この問題も大きな課題です。

そこで、記事では「教え方」を教える講座を開き、職長の教育能力の向上を行っているとしているわけです。

このような教育は、総務や労務関係ならば、新入社員研修などであったかと思いますが、現場でも必要な時代になってきたんですね。

職長の役割はどんどん大きくなってきています。

そこで、今回は職長による教育の際に気をつけなければならない3つの約束をまとめてみたいと思います。

もしかしたら、職長教育でも触れらているかもしれませんし、記事内の教育でも言われているかもしれません。

この約束事の根拠は何だと言われたら、私の前職である営業教育の時に感じたことからです。

1.見て盗めは、もはや通じない

職人さんの世界では、弟子は師匠の仕事を見て学び、技術を盗むというイメージはありませんか?

私の中では、寡黙な鍛冶職人が火花を散らしてる横で、弟子が師匠の手元を食い入るように見ている絵が浮かんできます。

どうしても言葉で説明するのは困難なので、やっている姿を見せて教えるしかないのかもしれません。
実際のところ、技術を身につけるのは、頭でわかるより、実際にやって体で覚えることが多いと思います。

仕事を実際にやらせながらの教育は、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)と言います。
技能を身につけるには、頭で分かっているだけでは無理です。
体に教えこんでいく必要があります。

建設業や製造業など、技能を要する仕事は、昔からOJTで教育していました。

しかしながら、それは教育というより、簡単に説明だけして、後は実際にやっている姿を見せるだけというのも少なくなかったと思います。
先輩がやっていることを見よう見まねでやり、怒られたり、失敗しながら作業を覚える。
確かに重要です。
長期就労を前提とした終身雇用制度が機能しており、人手も多い時であれば、そのような徒弟関係は有用でした。

しかし今、全く同じやり方は有用ではありません。

なるべく早期に使える人材となり、作業に従事してもらわなければなりません。
また、何も説明もしないというやり方であれば、新人はあっさり離れていきます。

もちろん見て盗めは大切です。見てコツを学ぶことは多々あります。
しかし、それは基礎が身についた、次の段階以降の話。

最初は、職長が積極的に教えることが大切になります。

教育において、まず「見て盗め」は置いておきましょう。
最初は、自分の仕事を「見せる」のではなく、仕事を「伝えてあげて」下さい。そして「見てあげて」下さい。

2.教えるのも段取りが重要

職長になるには、職長教育というものを受けなければなりません。
その学習内容の中に、新人の教育について、こんなプロセスで進めましょうなどと、紹介されていませんでしたか?

1.対象者が覚えてみたいという気持ちにさせる
2.実演して、ステップごとに説明する
3.実際にやらせてみる
4.改善点を指導する

これを繰り返しながら、教えていくというものです。
このプロセスで教えていくと、うまくいきそうですね。

しかし、実際問題として、このようにうまくいくでしょうか?

特に準備もなしにだと、割りとグダグタっとなるのではないでしょうか。

仕事は段取りが大事とよく言われます。
着手する前に、準備し、手回しする。
人によっては、段取りが8割という人もいます。

教育、どのような段取りにするか、事前の準備が重要です。

私の前職は、営業研修の会社でしたが、プロの講師の滑らかな教え方の裏には、台本があり、繰り返し練習することで、身につけていっているのを見ていました。

もちろんプロのようにする必要などありませんが、少なくとも何を教え、どう教えるのかというのはまとめておく必要がありますね。

必要ならば、職長や管理職、他の作業員の意見を聞きながら、マニュアル化してしまうのも1つの手です。

さて、教える時には、次のようなことを気をつけるといいかもしれません。

1.一度に伝わるのは、最大3つまでと考えておく。
 特に注意の必要なことは、1つに絞り込む。

2.何度でも反復すること。一度教えたらかOKはない。

3.専門用語は使わない。

教える側は、仕事の内容は分かっているので、一気に全てを伝えようとしがちです。
しかし、全く知らない情報を滝のように浴びせられても、到底理解ができないものなのです。
ですから、どうしても今日理解して欲しいポイントは、絞り込めるだけ絞り込んでいきましょう。

翌日は、そのポイントをおさらいしつつ、新しいことを教えていきましょう。

そして教育時に頭に入れておくこと。
何の気なしに使っている専門用語、隠語、業界用語は伝わらないと覚えておきましょう。
耳馴染みのない用語は、意味がわからず、思考をストップさせてしまいます。
自分たちが当たり前のように使っている用語も、実は一般的でなかったというのはよくあります。

私も建設業界に入ったばかりのころ、「りゅうべい」という言葉が何なのか、分かりませんでした。
これって「m3」のことなんですよね。今まで「m3」は「立法メートル」としか読んでいなかったので、困惑した覚えがあります。
まあ、「m2」は「へいべい」とも読むので、特殊とは言い難いかもしれませんが。

つまり、専門用語は頭をハテナにしてしまうのです。

仕事でよく使う専門用語や隠語などは、整理して用語集を作っておくと役立ちますね。

さて、ポイントを絞り込んだとしても、すぐに教えたことを身につけ、できたりはしません。
何度も何度も何度も同じ失敗を繰り返すのに、改めようとする素振りも見えないならともかく、最初のうちは失敗もイライラせずに、許容してきましょう。

気持ちは、自動車教習所の教官になった気持ちで。
最初はエンストばかり起こしていた生徒も、少しずつ運転技術を見につけ、しばらくすると路上講習に出れるようになります。

何を教えるのか。
重要なポイントは何か。
どのように教えていくのか。
達成度は、どのように測るのか。

事前に準備し、段取りしておくと、教える側の指針ともなるので、アタフタしないですみます。

繰り返しますが、この準備は、職長だけでやるのではなく、色々な人が知恵を出し合って作るべきものですね。

3.人も仕事もナマモノです。

仕事も突発的なアクシデントなど、その場その場で対応すべきことがあります。
建設業であれば、同じ現場など1つもありません。
常に、現場や仕事の内容に合わせて、対応していく必要があります。

教育でも同じです。
事前準備はものすごく大事です。
事前に準備した段取りで、進めていくことが最重要です。
同時に、目の前にいる人、教えようとしている人のことを見るのも大事なのです。

要は、きちんと相手を見て、コミュニケーションを取りながら、教育を進めていくのが大事なのです。。

相手を見て教育を進めていくためには、次の3つのチェックポイントを意識するといいです。

 1)話しは一方的になっていないか?

職長教育の教本にも、「相手に合わせること」という内容が書かれていました。
準備した台本を読み上げるような感じで進めていくのではなく、相手の反応を見て、対応するのが重要です。

一方的に話していては、相手が届いていないということもあるのです。
言ったことは、何もかも理解しているとは思わないほうがいいです。

また自分では良かれと思ったことも、相手はうんざりということもあります。
自慢話なんて、いい例かもしれません。
自慢話は、話している人の気持は高めますが、聞いている人の気持はウンザリさせます。

自分のエピソードを話すならば、自慢話より、失敗談のほうが、興味深く聞いてもらえます。

相手の反応を見ながら、一方的になっていないかを反応を見たり、質問しながら教えていくといいですね。

 2)相手が持つ「なぜ」を大切にしているか?

教育を受けている立場の人は、初めて聞いたこと、やることが多いと思います。
その場合、どうしてこの手続が必要なのか?や、どうしてこれをやるのか?と言った疑問が出てきます。
その疑問は、仕事をやっている人では、当たり前になっているものが多く、きちんと理由が説明できないものもあると思います。

そんな時、疑問に対して「気にするな」、「やるのが当たり前」だからと返していたら、相手は疑問が解消されず、教えたことが頭に残りません。

疑問は興味なのですから、当たり前で済まさないのがいいですね。

また、直接仕事に関係がないものでも、大切なことは理由とともに教えましょう。
例えば、建設業などで高所の足場で作業する場合は、安全帯(要求性墜落制止用器具)つまり命綱を使います。
これは作業そのものには関係がありませんし、場合によっては仕事のじゃまになります。
しかし墜落事故を防止するためにも、着用しなければいけません。
そういった理由をしっかり教えてると、ただ使えというより、頭に残りやすいですね。

相手が持つなぜに応えるとともに、なぜこの作業を行うのかを大切にしましょう。
このことは、教える立場の人にもいい勉強になるはず。

 3)相手を尊重していますか?

まさに相手を見るということになりますが、自分の都合だけを押し付けたら、相手は受け入れてくれません。
自分のことを全く見もしない、興味もない人、の教えを誰が聞きたいと思うでしょうか。

ただ、やることを教えて、後は「ちゃんとやりなさい」では、うまくいきません。

ちゃんとやってもらうには、相手がどこで躓いているのか、何を考えているのかなどを考えてる必要がありますね。

人を教えるのは、一朝一夕にはいきません。
ものすごく難しいです。
職長ができることも限られています。
しかし教育の任がある以上、やっていくしかないのですから、周りの教育を得つつ、可能な限りのことをやりたいですね。

また、教えることを学ぶ機会として、紹介した記事のような講座も有用だと思います。

3つのポイントのおさらい

1.見て盗めは、もはや通じない 

 → 教える際の心構え

2.事前準備と段取りが8割

 → 何をどのように教えるのかを準備する

3.人も仕事もナマモノです。

 → 教える時は、相手を見て進めてい

 相手を見て教育を行うためのチェックポイント
 1) 話しは一方的になっていないか?
 2) 相手のなぜを大切にしているか?
 3) 相手を尊重していますか?

最後に、知ってる方も多いかと思いますが、山本五十六の人を育てる名言が、なかなかに格好いいので、紹介します。

やってみせ、言って聞かせて、やらせてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。

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