厚生労働省労働局長登録教習機関
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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。
(株)HHCでは、この数ヶ月請け負っていた工事が完了したため、今日は現場の後片付けをすることになりました。
現場近くの用地を借り、仮設事務所と資材や建設機械の仮置き場として活用していました。 今日のメンバーは、保楠田コンをリーダーとして、猫井川ニャン、兎耳長ピョンです。 「それでは、兎耳長さんは重機で、場内を均していってください。 現場に到着後、保楠田は作業の段取りについて話しました。 「それでは、ささっとやっていきましょう。」 保楠田の号令で、全員持ち場に移動しました。 兎耳長は、ショベルカーに乗り込んでの場内整備です。 保楠田と猫井川は、仮設事務所の片付けです。 「猫ちゃん、まず小物を運び出してから、テーブルとか出していこうか」 保楠田と猫井川は、細々としたものから、大きめの事務用品を運び出し、トラックに積んでいきました。 「大体、出したから。机とか椅子に取り掛かろう。」 二人して重めの机や椅子を運び出しては、トラックに積み込みして、しばらくすると事務所中が空っぽになりました。 「これで、全部ですね。このトラックの荷物はどうしましょう?」 「ここ引き上げるときに、ついでに持ち出せばいいよ。 そこで、猫井川は兎耳長に合図し、三人で休憩に入りました。 兎耳長の作業も順調そうで、均し作業はほぼ完了し、残りは砕石敷というところまでです。 「兎耳長さんは、あとどれくらいで終わりそうですか?」 保楠田は尋ねます。 「う~ん、あと1、2時間くらいもあれば、終わると思うけども。 いつもの間延びした話し方で、兎耳長は答えました。 「こっちも後は事務所の積込みだから、小一時間くらいで終わりそうですね。 ところで、猫ちゃんは移動式クレーンの技能講習がこの前だったよね。 「ええ。もちろん、行きましたよ。 「それじゃ、積込みは任せてもいいかい?」 「はい、分かりました!」 猫井川は、先月に移動式クレーン運転技能講習を受講したばかりなのです。 休憩が終わり、作業を再開しました。 兎耳長は、またショベルカーに乗り、砕石を敷き均していきます。 「猫ちゃん、俺は兎耳長さんの砕石敷を手伝うから、事務所の積込みお願いね。」 「はい、任せておいて下さい!」 仮設事務所の大きさは、この4tユニック車の車台いっぱいで載せることができます。 仮設事務所ギリギリまで車を寄せられなかったので、少し離れた場所に配置しました。 「猫ちゃん、なるべく車近づけないと、吊れないから気をつけてね。」 「はい、了解です」 猫井川は、今の位置でも大丈夫だろうと思い、アウトリガーを設置し、作業の準備をしました。 仮設事務所の屋根に登り、四隅にあるリングにワイヤーを通しました。 ややアームが長く伸びているので、車の位置が少し遠かったかもと不安に感じました。 いよいよクレーンで吊上げます。 全体が見える位置に付き、リモコンで操作を開始しました。 横に寝ているアームを上に上げていくと、ウイーンと大きなモーター音がします。 遠くでは、保楠田が作業の手を止め、見ています。 モーター音は大きくなっているものの、事務所はガタン、ガタンと少し浮き上がっては、落ちるを繰り返しています。 「あれ、重いかな?」 事務所の重量は1tもありません。計算上では十分に吊上げられる重さです。 少しワイヤーを巻上げて、またアームを上に立てていきます。 「猫ちゃーん、大丈夫?」 「大丈夫でーす。」 猫井川は、保楠田に返事をして、再度吊上げました。 その時です。 事務所と反対側のアウトリガーが、ふわっと浮き上がりました。 「あ、やばい!」 猫井川は急いで、リモコンを操作し、アームを下におろしました。 ガフンと大きな音がして、車体は水平に戻ります。 あのまま続けていたら、クレーンは転倒していました。 「危なかった。。。」 小声でつぶやくと、背後から、 「うん、ちょっとドキッとしたね」 との声。 いつの間にか、保楠田が側に来ていました。 「いったんワイヤー外して、もっと車を近づけた方がいいね。」 保楠田は、怒るでもなく話します。 「・・・はい。」 猫井川は、素直に従うことにしました。 その後は保楠田の指示の下、猫井川は車体の位置を改め、次はうまく吊り上げることができました。 「まあ、最初は分からないことが多いから、これから経験積めばいいよ」 猫井川のクレーン作業デビューの感想は、保楠田の背中の大きさを感じたのでした。 |
猫井川のクレーン操作のデビューは、少し背筋が冷えたものだったようです。
普段、ベテランの作業を見ていると、とても簡単そうにやっているように思います。
しかし、いざ自分でやろうとすると、なかなか難しかったりするものです。
料理番組を見ていると、料理人が野菜をトントンと小気味よく切っているのを見ますが、これも自分がやってみると、全然うまく行きません。
調子に乗って真似をすると、怪我をしたりします。
私も先日、玉ねぎのみじん切りをしていた時に、指を切ってしまいました。
クレーンに限らず、どのような作業も見ているだけでは、分からないことがたくさんあります。
今回の猫井川の場合は、クレーンの配置位置がそれに当たります。
クレーンは、アームの長さやアームの傾斜角、荷物との車体の距離とで、吊り荷重が異なります。
この吊り荷重を定格荷重といいます。
定格荷重は、条件によって変化するのです。
車体から遠くなればなるほど、定格荷重は小さくなります。
これを計算して、クレーンの位置を決めなければならないのです。
このことは、実際に荷物を持つと体験できると思います。
腕をまっすぐ前に伸ばして、荷物を持つと軽いものでも、結構力が必要になります。
しかし腕を曲げ、体の近くで下から上に荷物を持ち上げる方が、簡単に持ち上がります。
クレーンも同様なのです。
最大の定格荷重は、アームを最短にした時のものなのです。
また仮設事務所のサイズも4t車の車台いっぱいということなので、大きいものです。
全体重量が重くなくとも、吊り上げるときのバランスにより、負荷がかかってしまうのです。
猫井川は、まだこの感覚が未熟だったのですね。
重いものが片側に掛かってしまうと、アウトリガーがどんなに踏ん張っても、踏ん張り負けてしまいます。
もし、あのまま作業を続けていたら、クレーンは転倒していたかもしれません。
そうなると、大きな事故になります。
今回はとっさに荷物を下ろしたので、転倒には至らなかったですが、目の前でアウトリガーが浮き上がるのを見たら、そうとうドキッとしたはずです。
このアウトリガーが浮き上がってしまうこと、案外多いのかもしれません。
実は私も数度、そんな状態になっているのを見たことがあります。
作業者は、よくあることなのか、そんな状態でも作業を続行させていましたけども。
危険と思われることに、ヒヤリもハットもしないのは、危険に対しての不感症です。
そんな慣れは、あまりよろしくないですね。
さて、今回のヒヤリハットをまとめたいと思います。
ヒヤリハット | 移動式クレーンで、仮設事務所を吊り上げていたら、車体が傾いた。 |
対策 | 1.吊り荷と車体の位置を確認し、最適な車体配置とする。 2.定格荷重を検討し、十分な能力がある機械を選定する。 |
クレーン作業を行う場合は、何もなしに行うのではなく、事前の調査と検討が必要になります。
作業配置、機械の能力など、十分な検討を行いましょう。
特にクレーンの吊り能力は、コストもかかるので過剰である必要はありませんが、ギリギリなのも不安です。必要十分な能力のものを選定しましょう。
今回ヒヤッとしたことで、今後は猫井川も事前にあれこれ考えるようになると思います。
事故を起こすのは考えものですが、ヒヤリハットを経験して、次に活きる経験になるならば、失敗も大切なことですね。
保楠田が優しく指導したことは、猫井川の身になっていくと思います。