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12月は師走というくらい、仕事も家庭も忙しくなる時期です。
年末年始、特に年末はある程度のところまで仕事終えて、気残りなく新年を迎えたいというのが人情ですね。
また仕事終わりに忘年会などがあると、それまでに仕事を終わらせようと、張り切ってしまいます。
仕事が忙しくなると、それに従い気持ちも忙しなくなります。
気持ちが忙しくなると、事故も起こりやすくなるのです。
落ち着いている状態であれば、起こさないようなミスも、気持ちが急いていたり、焦っていたりすると起こしがちになります。
また仕事を先に進めることを優先して、確認や安全対策も省略することも、起こりがちです。
年末年始は、他の月に比較して多いというわけでもないですが、心理的に事故を起こしやすい状況があるのです。
今回は、年末で大忙しかったなどの関連性があるとは言えないのですが、年末に起こった事故についてです。
この事故は、工場内で鉄骨を移動させようとした時に、鉄骨が倒れ、負傷したという事故でした。
大阪西成の工場で5トンのH鋼倒れる 男性作業員2人が負傷
(平成26年12月19日)
19日午前9時35分ごろ、大阪市西成区南津守の「大綱商運 津守工場」で、H鋼(長さ約8メートル、重さ計約5トン)が倒れ、男性作業員(71)が左足首を挟まれた。男性は足を骨折する重傷を負った。 近くにいた男性作業員(44)も逃げようとした際に転倒し、軽いけがをした。 大阪府警西成署によると、H鋼は7本組みでクレーンでつり上げようとした際、かけていたワイヤが外れたという。 |
この事故の型は「落下」で、起因物は「クレーン」です。
ちなみ加害物は「鉄骨」になります。
H鋼を吊り上げようとしてたところ、ワイヤーが外れてしまい、倒れてきた事故でした。
合計で約5トンのH鋼ですから、1本あたりの重さは約700キロ。
これが足首を挟んだのですから、耐えられるはずもありません。
もし仮に逃げるのが遅れ、体の上に落ちてきたならば、重症もしくは亡くなったかもしれません。
事故の直後の写真を見てみると、H鋼に何本かのワイヤーが絡んでいる様子が見て取れました。
詳しく見えないのですが、中にはちぎれたものもあるかもしれません。
直接的な原因は、玉掛けがきちんとされておらず、外れてしまったことのようです。
なぜ外れてしまったのでしょうか?
1つは吊り荷が重すぎたということがあります。
クレーンの最大積載量が分かりませんが、日常的に同程度の作業を行っていたならば、クレーンは5トン以上吊れるものだったのかもしれません。
しかしワイヤーが、十分な強度がなかったのではと思われます。
また玉掛けの方法が十分ではなかった。
フックからもはずれているようなので、しっかり固定されていなかった。
複数のH鋼を吊っていたのですから、1本だけに比べて、バランスも取りづらかったと思われます。
吊っている最中に、吊り荷が動き、偏荷重となったのも原因として考えられます。
これらのことを踏まえて、原因を推測してみます。
1.玉掛けがしっかり固定されていなかったこと。
2.複数の荷を吊るのに、動かない措置をとっていなかったこと。
3.吊り荷作業中に十分な距離をとっていなかったこと。
4.作業手順が定められていない、または周知されていなかったこと。
安全に吊り荷作業を行うために、「3・3・3運動」というものがあります。
これは、吊り荷作業時には、吊荷を地面から30cm上に上げて、吊荷から3m離れた場所で、3秒間静止状態を確認することです。この作業を地切といいますが、本格的に吊り上げる前に、バランスを確認するためのものです。
地切では、ワイヤーが外れても逃げられるように、ある程度距離をとります。
本格的な吊り作業の時も、荷の下に入らないのはもちろん、必ず安全な距離を保つことが大切です。
仮にこの事故のようなことがあっても、安全に逃げられるようにしなければなりません。
またこの被災者は、外部からの派遣作業者でした。
そのため、しっかりと教育や作業手順などの周知が不足していたこと可能性もありそうです。
この事故の対策を検討してみます。
1.ワイヤーは十分な強度を持ったものを使用する。
2.玉掛けは有資格者が確実に行う。複数の荷をまとめて吊る場合は、動かないように結束する。
3.3・3・3運動で吊り荷の安定を確認する。
4.吊り荷作業時は、安全な距離を保つこと。
5.作業手順の周知など、教育を行うこと。
クレーンでの吊り荷作業は、クレーン操作や玉掛けなど、様々な資格を必要とします。
資格は特別教育や技能講習などを修了することで取得できますが、それほど危険な作業であるとも言えるのです。
作業にあたっては、準備や安全対策を行わなければなりません。
地切をしっかり行っていたり、荷同士をしっかり結束していれば、落下しなかったかもしれません。
ちょっとした確認を怠ると、大事故になるのです。
このような事故はいつでも起こり得ます。年末の忙しさとの因果関係は不明ですが、この時期の怪我は、どうも後味が悪い年の瀬になってしまいます。
年明けも、また忙しくなると思います。
そんな時期こそ、一呼吸を置いて、安全確認をしっかりして、作業しましょう。