○安衛法と仲良くなる高所作業・足場

最も多い事故。墜落・転落事故の防止。 その3

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墜落や転落の事故は、高所作業だけではありません。

墜落・転落事故というと、ビルの壁に沿って組み上げた足場から、建物の屋根からなどがイメージされやすいですが、それ以外の場所もあります。

林業であれば、木の上から落ちます。
掘削作業であれば、掘削した穴に中に落ちます。
港湾作業であれば、海に落ちます。

上下に多少なりとも段差があれば、そこには墜落、転落の危険があります。

これらの事故は、決して遠い出来事ではありません。

身近でも起こり得るものなのです。

今回は、墜落転落事故の続きです。

【安衛則】

(移動はしご)
第527条
事業者は、移動はしごについては、次に定めるところに
適合したものでなければ使用してはならない。

  1)丈夫な構造とすること。

  2)材料は、著しい損傷、腐食等がないものとすること。

  3)幅は、30センチメートル以上とすること。

  4)すべり止め装置の取付けその他転位を防止するために
   必要な措置を講ずること。

(脚立)
第528条
事業者は、脚立については、次に定めるところに適合したもの
でなければ使用してはならない。

  1)丈夫な構造とすること。

  2)材料は、著しい損傷、腐食等がないものとすること。

  3)脚と水平面との角度を75度以下とし、かつ、
   折りたたみ式のものにあっては、脚と水平面との角度を
   確実に保っための金具等を備えること。

  4)踏み面は、作業を安全に行なうため必要な面積を有すること。

ハシゴや脚立は、仕事でなくとも使用することが多いと思います。
電球を取り替えたり、天井のエアコンの掃除などでも使ったりしますね。

身近なものであり、何気なく使うものにも危険は潜んでいます。

ハシゴや脚立も、正しく使わないと落ちてしまうのです。
2メートル以下の高さでも、よほど打ち所が悪ければ、亡くなったりもあるでしょう。

ハシゴや脚立については、別の記事でまとめていますので、そちらをご覧ください。
移動はしごと脚立の安全な使い方

よく使うのに、意外と正しく使われていないのも、ハシゴなどの特徴なのです。

今一度使い方を確認するのも大切です。

さて、高所作業で墜落・転落事故防止のためには、設備だけでなく、仕事のやり方も大切になります。

(建築物等の組立て、解体又は変更の作業)
第529条
事業者は、建築物、橋梁、足場等の組立て、解体又は変更の
作業(作業主任者を選任しなければならない作業を除く。)を
行なう場合において、墜落により労働者に危険を及ぼすおそれの
あるときは、次の措置を講じなければならない。

  1)作業を指揮する者を指名して、その者に直接作業を
   指揮させること。

  2)あらかじめ、作業の方法及び順序を当該作業に従事する
   労働者に周知させること。

(立入禁止)
第530条
事業者は、墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所に
関係労働者以外の労働者を立ち入らせてはならない。

建築物や橋梁、足場は、地上や床面より高い場所に作っていきます。
高い場所での作業となると、当然ですが、常に落下の危険性がある仕事です。

これらの場所での仕事では、足場を組み、作業床などの設備を必要とします。
設備だけ整えておけば、安心かというと、そうでもありません。

地上とは違うのですから、仕事の仕方も、十分に注意しなければならないのです。

一定の高さ以上の場所で仕事を行う場合は、作業主任者を選任しなければなりません。
作業主任者の選任要件は、次のとおりです。

・高さ5メートル以上の建築物の鉄骨などを組立、解体する場合
・高さ5メートル以上のコンクリート造の建築物等を、組立、解体する場合
・高さ5メートル以上の木造の建築物等を、組立、解体する場合
・高さ5メートル以上、長さ30メートルの金属製橋梁の上部構造を組立、解体する場合
・高さ5メートル以上、長さ30メートルのコンクリート製橋梁の上部構造を組立、解体する場合
・つり足場、張出し足場、高さ5メートル以上の足場を組立、解体する場合

5メートル以上の高所が作業主任者選任の基準になります。

しかし、5メートル未満の高さであっても、墜落・転落事故は起こりますし、大事故になります。

そのため、作業主任者を選任する必要がない場合でも、作業指揮者を指名し、指揮させる必要があるのです。
この作業は、建築物や足場などの組立解体の場合に必要となります。

作業指揮者は、作業主任者が行う作業と同様に、作業方法を事前に取り決め、指揮します。

好き勝手に作業をしたら、自分だけでなく、周りの人にも危険を及ぼしてしまうのが、高所作業です。
指揮者の元、十分に注意して作業する必要があるんですね。

なお、足場の作業主任者についてですが、近く法改正があり、2メートル以上の作業で、作業主任者を選任しなければならなくなります。

足場組立解体時の事故の多さを考えての法改正です。
今後の足場組立解体作業では、注意してくださいね。

さて、作業床で作業している人も、墜落の危険性と隣合わせです。
この人たちは、作業主任者や作業指揮者の監視を受けていたり、安全帯(要求性墜落制止用器具)などを着用しているものの、危険はゼロではありません。

もし、作業関係者以外の人が、何の対策もなく入り込んだら、どうでしょうか。
危険きわまりないですよね。

そのため、危険性がある場所は、関係者以外は近づかせてはいけません。

関係者以外の人が入り込まないように、入口を塞ぐなどの対策を取り、第三者の事故を防ぎましょう。

高所から落ちるのは、建築物や足場以外にもあります。
その1つが、港湾作業での墜落です。

船や岸壁から、海や川に落ちる。
この事故にも対策が必要になります。

(船舶により労働者を輸送する場合の危険の防止)
第531条
事業者は、船舶により労働者を作業を行なう場所に輸送するときは、
船舶安全法及び同法 に基づく命令の規定に基づいて当該船舶に
ついて定められた最大とう載人員をこえて労働者を乗船させないこと、
船舶に浮袋その他の救命具を備えること等当該船舶の転覆
若しくは沈没又は労働者の水中への転落による労働者の危険を
防止するため必要な措置を講じなければならない。
(救命具等)
第532条
事業者は、水上の丸太材、網羽、いかだ、櫓又は櫂を用いて
運転する舟等の上で作業を行なう場合において、当該作業に
従事する労働者が水中に転落することによりおぼれるおそれの
あるときは、当該作業を行なう場所に浮袋その他の救命具を
備えること、当該作業を行なう場所の附近に救命のための舟を
配置すること等救命のため必要な措置を講じなければならない。

船に乗って人を運ぶ時、最大とう載人員数を越えて、載せてはいけません。

理由はわかりますよね。
転覆するからです。

船も過積載によって、容易にバランスを崩します。

過積載が原因で起こった船の事故といえば、韓国のセウォル号事故が記憶に新しいのではないでしょうか。

風や波の影響を受ける船であり、一度船から落ちると、水の中です。
転覆や船からの墜落は、死につながるのです。

過積載しないことなどが前提ですが、もしもの時に備え、船には救命具などを備え、常に整備して使える状態にしておかなければなりません。

船だけではありません。丸太材やいかだ等で水上を移動する場合も、救命具を備えておく必要があります。
また近くには、救助できるような船も置いておかなければなりません。

水中への落下は、地上以上に死に直結します。
十分な備えが必要になるのです。

墜落は、水中や地表にだけでもありません。

製造業などでは、機械やタンク付近で作業しますが、これらの中への墜落もあるのです。

(ホッパー等の内部における作業の制限)
第532条の2
事業者は、ホッパー又はずりびんの内部その他土砂に
埋没すること等により労働者に危険を及ぼすおそれがある場所で
作業を行わせてはならない。
ただし、労働者に要求性墜落制止用器具を使用させる等当該危険を防止するための
措置を講じたときは、この限りでない。
(煮沸槽等への転落による危険の防止)
第533条
事業者は、労働者に作業中又は通行の際に転落することにより
火傷、窒息等の危険を及ぼすおそれのある煮沸槽、ホッパー、
ピット等があるときは、当該危険を防止するため、必要な箇所に
高さが75センチメートル以上の丈夫なさく等を
設けなければならない。
ただし、労働者に要求性墜落制止用器具を使用させる等転落による労働者の危険を
防止するための措置を講じたときは、この限りでない。

ホッパーやずりびんとは、入口が広く、下にいくほど狭く小さな穴になるものです。
とても大きなろうと等を想像するとイメージしやすいかもしれません。

ホッパーなどでは、土砂をいれ、これをふるいにかけ、粉砕したりして、細かくします。
この中に人が落ちると、大変なことになりますね。

ちょうど、蟻地獄に落ちた状態です。
常に下に流れる土のため、地上に上がることができません。
どんどん体は土の中に沈みます。

沈む体は、容易に地上に上げることもできません。

顔まで沈むと、どうなるかは分かりますよね。

このような場所で作業をする場合には、ホッパー内に落ちない設備を設けるか、安全帯を着用して墜落・転落を防止しなければなりません。

また作業する人を制限して、関係者以外は近づかせるのも禁止しなければなりません。

容易に近づいて、落ちてしまうことほど、恐ろしいことはありませんよね。

また仕事によっては、煮沸する釜や酸などをためたタンクなどを必要とし、開口部付近を通行することもあります。

ぐつぐつと煮えたぎった釜の中に落ちるなんて、想像するだけでも恐ろしいですよね。

このような場所に墜落・転落することを防ぐために、開口部には高さ75センチ以上の柵や囲いを設けなければなりません。

柵があれば、体がよろけて落ちるということは防げますね。

もし、柵を設けることができない場合は、安全帯を着用させましょう。

もちろん、不用意に近づかないことが大切です。

墜落や転落は、事故の中でも、大きな割合を占めています。
逆に言うと、墜落・転落を防止すると、労災をかなり減らすことができるともいえます。

厚生労働省なども、墜落・転落事故の対策は、重点的に行なっていますが、依然として多いのです。

仕事で、作業が優先されると、安全対策は後回しになりがちです。
今まで大丈夫だったから、今回も大丈夫だろう。落ちることはないだろう。

墜落で亡くなった方は、みんなそう思っていたはずです。

数の上では、平成25年度で266人の方が亡くなっています。

この亡くなった方には、家族があり、その家族にとっては、266分の1の数字ではありません。
欠けがえのない、たった1人なのです。

どうしても避けられなかった墜落事故もあるでしょう。
しかし十分に対策しておけば、防げたのにという事故も少なくありません。

同種の仕事をしている者にとって、事故は遠くのものではないのです。
昨日までなくとも、明日事故があるかもしれません。

事故が起こってから、後悔しても遅いです。

起こってしまった事故を取り消すことはできませんが、せめて教訓し、学びへと換えることが、残されたものの役割ではないでしょうか。

この墜落・転落に関しての条文も、全て起こった事故を元に作られています。
一条一条の背景には、犠牲があるのです。

今だに増え続ける墜落・転落の犠牲。
いかに事故を防ぐことが、この犠牲に報いることではないでしょうか。

まとめ。
【安衛則】

第527条
移動はしごについては、丈夫なな構造など適合したものでなければ、使用してはならない。
第528条
脚立については、丈夫なな構造など適合したものでなければ、使用してはならない。
第529条
建築物、橋梁、足場等の組立て、解体又は変更の作業を行なう場合は、指揮者を指名して、指揮させなければならない。
第530条
墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所に関係労働者以外の労働者を立ち入らせてはならない。
第531条
船舶により労働者を作業を行なう場所に輸送するときは、最大とう載人員をこえて労働者を乗船させない、救命具を備えるなどの措置をとること。
第532条
水上の丸太材、網羽、いかだ、櫓又は櫂を用いて運転する舟等の上で作業を行なう場合において、救命具を備えること。
第532条の2
ホッパー又はずりびんの内部その他土砂に埋没すること等の場所で作業を行わせてはならない。
第533条
労働者に作業中又は通行の際に転落することにより火傷、窒息等の危険を及ぼすおそれのある煮沸槽、ホッパー、ピット等があるときは、丈夫なさく等を設けなければならない。