○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

保楠田、土のう袋に足を取られる

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

昨晩、飲みに行った猫井川は、ほんの少し頭痛を抱えて出勤しました。
普段は飲みに行くこともなく、家で晩酌もしません。
飲みなれない酒が、激しく回ったようでした。

「若い頃は朝まで飲んでも平気だったのに、俺も年を取ってきたのかな」

そんな風に思う猫井川27歳でした。

「おう、猫井川。おはよう。
 昨日は帰ってしっかり休んだか?」

思いにふけっていた猫井川を、現実に戻したのは、昨晩一緒に飲みに行った、エスパニョール鼠川でした。

「おはようございます。昨日はごちそうさまでした。
 ちょっと二日酔いですかね。。」

「なんだ、あの程度でか。生っちょろいな~。
 シャキーンとしないと、しっかり仕事ができないぞ。」

「は、はい。
 でも、ちょっと音量下げて下さい。」

鼠川の大声が、頭に響くのでした。

「おはよう。猫ちゃん昨日はやっぱり飲みに行ったの?」

そう言って入ってきたのは、保楠田でした。

「はい。なんと鼠川さんの奥さんの実家に連れて行ってもらいましたよ。
 奥さんとも会いました!」

「へー、そうなんだ。どこのお店?」

「ちょっと離れた場所の、スペイン料理屋です。」

「スペイン料理屋なんだ。
 なんとも似つかわしくない2人でいったねー。
 
 鼠川さん、また今度、連れて行ってくださいよ。」

「おお、いいぞ。また今度行こう。
 猫井川もいつでも来い。」

「ええ、またご一緒します。」

そんな話をしていると、社員がみんな出勤し、それぞれの現場作業に向かうことになりました。

「犬尾沢、今日も昨日の現場か?」

鼠川が犬尾沢に尋ねます。

「はい。昨日コンクリ打ったんで、次の準備です。
 それでは、向かいますか。」

犬尾沢チームは、保楠田、猫井川と鼠川の4人で現場に向かうことになりました。

現場に着くと、犬尾沢が全員を集めてミーティングを始めます。

「昨日のコンクリートは養生するとして、次の部分の鉄筋と型枠を準備していきます。
 全員で鉄筋とか運んで行って、俺と保楠田さんが配筋、鼠川さんと猫井川で型枠の準備を進めていって下さい。」

犬尾沢の指示の下、作業にかかりました。

まずは全員で鉄筋などの材料を運びます。

「猫井川は、土のう袋を何枚か持ってきて、ゴミとか端材をまとめて行ってくれ。」

犬尾沢から指示を受け、猫井川は材料とともに土のう袋も運ぶことになりました。

「うーん、まだ頭がズキズキする。」

ややぼんやりしながらも、猫井川は言われたように、材料と土のう袋とを運びました。

普段より注意力が散漫だったからでしょうか、持っていた内の1枚の土のう袋がするりと抜け、そのまま地面に落ちました。
猫井川はそれに気づきません。

そのまま、運んでいきます。

やや前に進み、ふと後ろを振り返ると、そこには長さが4メートルくらいの鉄筋をまとめて10本くらい肩に担いだ保楠田が歩いてくるのが見えました。

「保楠田さん、さすがに持ち過ぎじゃないですか?」

やや呆れながら猫井川が、言います。

「こ、これくらいは、だ、大丈夫。
 へ、平気平気。」

全然、平気そうじゃありません。

「もうちょっと減らしていかないと、危ないですよ。」

「だ、大丈夫。もう少しだから。」

保楠田は、そんな様子で歩いていたので、足元に白いものが転がっているのを見つけられないのは、仕方のないことでした。

それは、先ほど猫井川が落とした、土のう袋でした。

土のう袋は、ヨレヨレと歩く保楠田の足元に転がり、そのヒモは大きく口を開けていたのでした。

その口はうまい具合に、保楠田の足元に絡みつき、覚束ない足取りをさらに覚束なくします。

「お、おぅ」

足を取られた保楠田は、バランスを崩し、体を傾けました。
その傾きに抱えていた鉄筋の束は勢いづき、保楠田の手元から離れていきます。

ガラガラガラ!

何本かの鉄筋が、足元に落下しました。

その音に、作業していたみんなが振り返ります。

「やっべー」

保楠田は、間一髪の所で倒れるのを免れました。
しかしその顔はやや焦りの色が浮かんでいます。

「大丈夫ですか?」

猫井川が声をかけます。

「だ、大丈夫。ちょっとバランスを崩しただけ。
 でも、何でこんなところに土のう袋があるの?」

「あ、それは。。。」

土のう袋を見て、思い当たるフシのある猫井川。

「猫井川!そこに土のう袋を置いてたのは、お前か?」

猫井川の様子を見た犬尾沢が聞きます。

「たぶん、さっきボーっとして運んでいた時に落としたのかも。」

猫井川が恐る恐る応えます。

「猫井川ー!」

犬尾沢の雷に、ひぃと肩をすくめる猫井川。

昨日、鼠川と話していたことが、さっそく空回りしたみたいです。

「保楠田さんも、無理して持ちすぎない!」

犬尾沢の叱責は、保楠田にも飛び火します。

「すみません!!」

猫井川、保楠田、今日の仕事の始まりは、犬尾沢の雷から始まったのでした。

今回は、2つもヒヤリハットがありました。

猫井川は、前日の酒が少し残っているのか、ぼんやりとしていたようでした。
そして、保楠田も妙に張り切ってしまったらしく、過積載みたいでしたね。

昨日、鼠川と話した矢先なので、少々バツが悪そうです。

そういえば昔、小学校の頃の話を思い出しました。
先生に帰りに寄り道しないで帰るようにと話があった日のこと、そんな話はどこ吹く風で、帰る途中、学校近く堤防で遊んでいました。

斜面を転がっていたところ、頭を石にぶつけて流血するということがありました。

先生も、注意をした側からこんなことにと呆れ気味だった記憶があります。

今となっては、昔の話です。

それはさておき、今回のヒヤリハットを見ていきます。

作業現場では、様々な材料を使います。
材料は、使用する場所に合わせ、切ったり、削ったりしてゴミがでます。

理想的な作業場は、きちんと整理整頓がされている状況ですが、作業時は端材や工具があちこちに散らかっているということも少なくありません。

仕方ないと言ってしまえばそうなのですが、散らかっている材料などが原因で、つまづき転ぶこともあります。

今回は土のう袋のヒモに足を取られてしまいました。
たった1枚の土のう袋でさえ、転倒の原因になることがあります。

特に足元まで注意が及ばない時には、こういったものが危険になります。

足元に注意が及ばない状況として、大量の荷物を運ぶなどがあります。
保楠田の鉄筋10本運びなどがそうですね。

もちろん慣れや体力などに関係しますが、保楠田には無理だったみたいです。

無理を承知なのにも関わらず、なぜ一度に大量に運ぼうとするのでしょうか?

これは仕事に限りませんよね。
行き来する回数を節約しようと、可能な限り、一度に運びたいという心情は理解できるのではないでしょうか。

こういった時、たいがい運んでいる途中で、1つ2つ落としたりするものですけどね。

小物が持ちきれず、落としてしまったという程度であれば、些細な事でしょう。
しかし鉄筋や鉄パイプなど、落としたら怪我をしかねないもので、同じことをすると危険です。

落としたものが足にあたって怪我をしかねません。

そういった加減の判断は、事故防止のために大切なのです。

それでは、今回のヒヤリハットを、それぞれまとめます。

ヒヤリハット1 土のう袋が足に引っかかり、転びそうになった。
対策 1.作業中の整理整頓を行い、通路は開けておく。 2.物が落ちた場合は、すぐに片付ける。

 

ヒヤリハット2 大量の鉄筋を運んでいたところ、バランスを崩した時に落とした。
対策 1.一度に運ぶ量を減らす。
2.足元に注意して、障害物が無い所を歩く。

どちらも作業時の注意ですね。

作業場の整理整頓を含めた、4Sは非常に大切です。

作業をしやすくするだけでなく、事故になる原因を除くのが4Sの目的なのです。

そして、安全な作業を行うように指導するといったことは、4Sにもう1つ付け加えられるS、「しつけ」に含まれます。

5Sという言葉は、掲示物などスローガンで耳にする機会があると思いますが、その根底は、安全に健康的に仕事する環境づくりです。

ほんのちょっとしたゴミ拾いが、怪我防止になります。

少し注意して作業場を見ていくと、安全な現場作りになっていきますね。

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