○安衛法と仲良くなる酸欠危険作業

酸欠作業。 異常環境下での仕事は細心の注意を。

なるべくなら仕事は快適な環境でやりたいものです。

事業者には、快適な職場環境を提供するというものが義務付けられています。

いるだけで、気が滅入るような場所では、仕事をしたいとは思えないですよね。

しかし、必ずしもそうも言ってられないのも確かです。

仕事によっては、危険であったり、不衛生であったりする場所での仕事が避けられない場合もあります。

製造業であれば、工作機械に接近しての仕事や、有機溶剤が身近にあります。
建設業であれば、建設機械の側で仕事したり、高所作業で仕事したりしもします。
その他の業種でも、何かしらの危険と接していることでしょう。

危険な状況での仕事には、異常に酸素濃度が低い環境下というものもあります。

生物が生きていく上で、酸素が不可欠であることは誰しも知っていますよね。

通常、空気中での酸素濃度は約21%です。
この濃度が下がって17%、15%となると、人間は意識低下や運動障害が起こります。
さらに濃度が下がり、数%ともなると、人は生きていけません。

登山をされる方だと、高い山の上だと、低酸素の影響は分かるかもしれませんね。

通常であれば、酸素濃度を気にして作業することはありません。

しかし仕事の中には、どうしても酸素濃度が低い環境で作業することが避けれらないこともあります。

そのような環境で最も注意しなければならないことが、作業者の酸素欠乏症です。

酸欠は、死に直結します。

酸欠は、それほど危険なものなので、安衛則だけでなく、酸欠則という専門の規則が定められています。

今回から、酸欠則を中心に、酸欠作業についてまとめていきます。

まずは安衛則で、作業場の立ち入りについて、定められています。

【安衛則】

(立入禁止等)
第585条
事業者は、次の場所には、関係者以外の者が立ち入ることを禁止し、
かつ、その旨を見やすい箇所に表示しなければならない。

1)多量の高熱物体を取り扱う場所又は著しく暑熱な場所

2)多量の低温物体を取り扱う場所又は著しく寒冷な場所

3)有害な光線又は超音波にさらされる場所

4)炭酸ガス濃度が1.5パーセントを超える場所、
酸素濃度が18パーセントに満たない場所
又は硫化水素濃度が100万分の10を超える場所

5)ガス、蒸気又は粉じんを発散する有害な場所

7)有害物を取り扱う場所

8)病原体による汚染のおそれの著しい場所

2 労働者は、前項の規定により立入りを禁止された場所には、
みだりに立ち入ってはならない。

関係者以外立入りを制限する場所が、いくつか上げられていますが、第1項第4号が酸欠のおそれのある場所になります。

酸欠のおそれがある場所は、危険のあるので、関係のない人が近づいてはいけません。
近づかせてもいけません。

酸欠作業の基準となる数値は、酸素濃度が18%以上であることです。
これよりも低い濃度となると、意識や行動に障害を起こしかねないのです。

またその他にも炭酸ガスの濃度が1.5%を超える、硫化水素濃度が100万分の10(10ppm)を超える場所も、生命に関わる危険があります。

これらの数値は、作業環境の確認する上で、基準になりますので、覚えておくといいですね。

さて、安衛則だけでは、酸欠による事故防止を網羅することは困難です。

そのため、酸欠に特化した規則が別途まとめられているのです。

この規則は「酸素欠乏症等防止規則」といいます。

条文数は数多くないのですが、酸欠作業を行う上で重要です。
今後はこの条文をまとめていきます。

【酸素欠乏症等防止規則】

第1章 総則

(事業者の責務)
第1条
事業者は、酸素欠乏症等を防止するため、
作業方法の確立、作業環境の整備その他必要な措置を
講ずるよう努めなければならない。

作業者が酸欠症状に陥らないようにするために、事業者は対策を取らなければなりません。
対策には、設備や保護具、教育など様々あります。
事業者は、これらの全てを行うことが義務付けられているのです。

対策なくして、危険作業を行ってはいけません。

第1条に掲げられているものは、事業者として、酸欠事故を防がなければならないことを明記したものなのです。

(定義)
第2条
この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、
それぞれ当該各号に定めるところによる。

1)酸素欠乏 空気中の酸素の濃度が18パーセント未満
である状態をいう。

2)酸素欠乏等 前号に該当する状態又は空気中の
硫化水素の濃度が100万分の10を超える状態をいう。

3)酸素欠乏症 酸素欠乏の空気を吸入することにより
生ずる症状が認められる状態をいう。

4)硫化水素中毒 硫化水素の濃度が100万分の10を
超える空気を吸入することにより生ずる症状が
認められる状態をいう。

5)酸素欠乏症等 酸素欠乏症又は硫化水素中毒をいう。

6)酸素欠乏危険作業 労働安全衛生法施行令
(以下「令」という。)別表第6に掲げる
酸素欠乏危険場所(以下「酸素欠乏危険場所」という。)に
おける作業をいう。

7)第一種酸素欠乏危険作業 酸素欠乏危険作業のうち、
第二種酸素欠乏危険作業以外の作業をいう。

8)第二種酸素欠乏危険作業 酸素欠乏危険場所のうち、
令別表第6第3号の3、第9号又は第12号に掲げる
酸素欠乏危険場所(同号に掲げる場所にあっては、
酸素欠乏症にかかるおそれ及び硫化水素中毒に
かかるおそれのある場所として厚生労働大臣が定める
場所に限る。)における作業をいう。

一口に酸欠と言っても、それが何かということが分からなければ、話を進められません。

これから続く条文では、酸欠に関わる用語がいくつも出てきます。
それが何かということを定義したのが、この条文です。

この定義の中でも、空気中の酸素濃度は18%未満が低酸素状態、硫化水素濃度が100万分の10以上が危険とされていますね。

この数値は、管理する上で、特に重要になります。

では、どういった場所が酸素が欠乏しやすいのでしょうか。

大きく分類すると、次のような場所が、酸欠の恐れがあります。

1.タンクの内部、井戸やたて孔の中、トンネル、窪地の底

空気の循環が行われにくい場所です。
周囲より低い場所にはガスも溜まりやすくなります。

閉鎖された場所、イメージとして空気が淀んでいそうな場所は、酸素が不足しがちです。

2.マンホールの内部

いわゆる下水を通す管路です。
悪臭があるので、閉鎖され、空気循環が行われないだけでなく、汚水に含まれる微生物が酸素を消費します。

さらに、汚水に含まれる硫黄が、硫化水素となる場所でもあります。

なおいわゆる硫黄の臭い、卵が腐ったような臭いというのは、硫化水素の臭いのことを指します。

3.野菜、穀物、牧草、木材の貯蔵庫

腐敗するものは、酸素を消費します。

4.屑鉄・屑アルミ等の金属倉庫

金属が酸化する際に酸素を消費します。

5.閉鎖した場所で、七輪などの燃焼

燃焼で酸素が低下するとともに、猛毒の一酸化炭素も増加します。
冬場のコンクリート打設で、凍結防止のために七輪などで養生することがありますが、この時に酸欠で倒れることも少なくありません。

以上のような場所に、これらに関係する仕事に携わる人以外、そうそう入ることはないでしょう。

しかし、ちょっと洞窟があるから探検気分で入ってみたら、酸欠で倒れたということは、あり得ることです。
好奇心、猫を殺すという諺がありますが、安易に洞窟探検は、こんなリスクもあることは知っておくといいですね。

さて、酸欠の恐れがある場所でも、仕事をしなければならないこともあります。

何の備えもなく着手するのは、危険です。

作業の前には、何をさておき、その作業場所が安全かどうか、酸素濃度は十分か確認する必要があるのです。

第2章 一般的防止措置

(作業環境測定等)
第3条
事業者は、令第21条第9号 に掲げる作業場について、
その日の作業を開始する前に、当該作業場における
空気中の酸素(第二種酸素欠乏危険作業に係る作業場にあっては、
酸素及び硫化水素)の濃度を測定しなければならない。

2 事業者は、前項の規定による測定を行ったときは、
そのつど、次の事項を記録して、これを3年間
保存しなければならない。

1)測定日時

2)測定方法

3)測定箇所

4)測定条件

5)測定結果

6)測定を実施した者の氏名

7)測定結果に基づいて酸素欠乏症等の防止措置を
講じたときは、当該措置の概要

(測定器具)
第4条
事業者は、酸素欠乏危険作業に労働者を従事させるときは、
前条第1項の規定による測定を行うため必要な測定器具を
備え、又は容易に利用できるような措置を
講じておかなければならない。

酸欠のおそれのある場所で、作業を行う場合、必ずやらなければならないことがあります。

それは作業前に酸素濃度や硫化水素、その他ガスの濃度の測定です。

この測定によって、酸素濃度が18%以上あること、硫化水素濃度がなどが基準値以下であることを確認した上でないと、作業者に仕事をさせてはいけません。

測定を省き、いきなり地下タンクなどに入って行くと、入った途端に倒れて意識を失うこともあります。

酸欠症状が出るのは、一瞬です。
逃げる間もなく意識を失いかねません。

そのような危険を避けるためには、何よりも先んじて測定することです。

昨日やったから、今日はやらなくていいということはありません。
酸素濃度は変化することがあります。

そのため、作業者が入る前には必ずチェックしましょう。
午前中に仕事が終わり、午後の仕事開始前も確認しなければなりません。

そして測定したら、その記録は残しておきましょう。
記録は3年間保管しなければなりません。

測定を行うには、測定器具が必要です。

今はセンサーで酸素濃度や硫化水素濃度を測定してくれる器具もあります。

こういった器具を備えておく必要があります。

また壊れていたり、正しく測定できないと役に立ちませんので、定期的に校正するなどして、常に正しく動く状態を維持しなければなりません。

酸欠事故は、致命傷になります。

被災者を救出しようとした人も、被害に合うというケースも少なくありません。

命にかかわる危険な作業です。

そのことを理解した上で、準備と対策が大事なのです。

まとめ。

【安衛則】

第585条
事業者は、有害な場所には関係者以外の者が立ち入ることを禁止し、その旨の掲示を行わなければならない。

【酸素欠乏症等防止規則】

第1条
酸素欠乏症等を防止するため、作業方法の確立、作業環境の整備などに努めなければならない。
第2条
酸欠則での定義について。
第3条
酸欠等の危険がある場所での作業では、作業前に測定を行わなければならない。
第4条
酸欠等の危険作業時に測定を行う器具は、正常に動くものを使用しなければならない。

コメント

  1. 伊花勇 より:

    21%を超えた酸素濃度は危険ですか
    基準は18%から21%以内が安全で酸素欠乏なしとありますが
    上記の数値ではどうなりますか

    1. itetama より:

      こんばんは。
      コメントありがとうございます。

      酸素濃度ですが、通常の空気中には約21%の酸素濃度です。
      酸素マスクなどがなしでも作業していいのが、18%以上になります。

      質問の21%以上の場合ですが、21%より少々高くなったも、すぐに危険ということはありません。
      しかし30%以上になると、高酸素中毒という症状が出ます。そして仮に50%、100%ともなると数時間で命の危険にさらされます。

      そのため、通常の大気中ではそう危険はありませんが、高すぎる酸素濃度も危険です。