○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

牛黒、大物にガタッとする

entry-201
こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

牛黒は、とても人柄はよく、周りの人に慕われていますが、少し癖のある人です。
本人の性格は、豪快で明るい人です。
一方では、少々、いやかなり大雑把な人でもあるのです。

その大雑把さで、引き起こすちょっとしたトラブルは、日常茶飯事です。
飲み会などでは、そのことがネタにされてたりするのです。

猫井川とは、違う別の作業チームで仕事をしていることが多いので、一緒に仕事をする機会は少ないです。
時々、一緒に作業すると、牛黒に関するネタ真相の片鱗に触れるのでした。

猫井川は、今日は牛黒と倉庫で整理を一緒にすることになりました。

「おーし、猫井川。 今日はこの辺りの棚を移動だな。
 ちゃちゃっと終わらせようぜ。」

「一応、犬尾沢さんから、丁寧にと念を押されているので、無茶しないようにしましょう。」

「わかってるって。心配ない。大丈夫。」

いつもの明るい感じで、牛黒が言います。

「さて、この棚の周りの箱から運んでいくか。」

そう言うや否や、すぐにたくさんの工具が入ったダンボールを持ち上げ、運び始めました。

猫井川も、「はい」と返事をすると、慌てて、作業を開始しました。

荷物を持ち何度かの往復を行います。
しかし本命の棚を運ぶまでには、まだまだ荷物がたくさんあります。

牛黒は、しばらくするとじれったくなってきたのか、なるべく一度にたくさんの荷物を運ぼうとチャレンジし始めました。
ダンボールを2つ重ねて持とうとしているようですが、さすがに重くて持ち上げるのに苦労しているようです。

「牛黒さん、さすがに2個持つのは無理じゃないですか?」

そんな様子に、さすがに猫井川も呆れ気味に言います。

「いや、もうちょっと減らせばなんとか」

1つのダンボールから少し荷物を取出し、軽くしました。
再度持ち上げようとしますが、やはり無理そうです。

「うーん、やっぱり無理か。おとなしく1つずつ運ぶか。」

そう言って、2つ運びを諦めた牛黒ですが、足元には取り出した道具が散らばっていたのでした。

30分ほどの間、何度も往復し、ようやく棚付近の荷物は運び終えました。

猫井川もさすがに疲れたので、休憩しようとしたのですが、牛黒は先を進めようとします。

「よし、後はこれだけだな。
 ちゃちゃっとやってしまおう。」

「牛黒さん、少し休憩しません?」

「ん?まあ、先に運んでしまって、後から休もうや。」

牛黒のペースに引っ張られて、休憩を取ることなく、作業が続行となりました。

棚を運ぶと言っても、棚にはまだ荷物が載っています。
運ぶためには、先にこの荷物を降ろし、運ばなければなりません。

猫井川は、棚の荷物を持って運ぼうとしました。

「おいおい、これくらいの荷物なら、載せたままでも運べそうだろう。
 このまま運んでしまおう。その方が早く終る。」

「いや、さすがに無理でしょう。
 先に中の物を全部運んでからにしましょうよ。」

「大丈夫だって。何度もやったことがあるしな。
 これくらいなら2人で持ち上げて運べるから。」

「無理ですって。
 そんなチャレンジをせず、棚を空にしましょうよ。」

「大丈夫、大丈夫。
 お前も早く終わらせて、休憩したいだろ?
 棚の中身を出してしまうと、後からまた入れなきゃいけないぞ。
 でも、このまま運べば、もうそれで終わりだろう。
 な?2人で持てば、大丈夫だって。」

牛黒は、結構強引な理屈でグイグイ押してきます。

猫井川は、さすがに無茶だと分かっているのですが、時間短縮は魅力的です。

しばらく、押し問答を繰り返していましたが、最終的に先輩牛黒が押し切りました。

「それじゃ、持ち上げるぞ。
 いいか、猫井川。調子を合わせるんだぞ。
 せーの!」

2人で力を合わせ、持ち上げようとします。

しかし少し浮きますが、歩くことはできません。

「ね、猫井川、もっと力入れろ。
 もう一回行くぞ。せーの!」

今度もほんの少し持ち上げるだけです。

「はぁはぁ、牛黒さん、さすがに無理では。」

「大丈夫。次はいけるから。
 それじゃ、行くぞ。せーの!」

2人して、ムムムムと唸りながら持ち上げますが、持ち上がりません。
そんなこんなしていると、バランスを崩したのか、棚が少し傾きました。

その時、一番上の棚に収められていた荷物が大きな音を立てて落ちたのでした。

ドンガラガッシャーン!

大きな音が響き渡ります。

さすがに、牛黒もやべーという顔をしています。

「おい、どうした?」

音を聞いた鼠川が駆け寄ってきました。
そして、状況を見て、何が起こったのかをすぐに察したのでした。

「荷物を入れたまま、運ぶやつがあるか!
 どう考えても、無理だろうが!」

そう言って、牛黒を叱ります。

「いや、これくらなら行けるかなと思いまして。」

牛黒の返答に、鼠川は、

「お前は同じことを何度もやって、失敗してるだろうが。
 もしこういったものを倒したら、後から取り返しが掴んだろうが。
 考えろ!」

と、さらに言葉を強めます。

「猫井川、お前も一緒に何をやっているんだ!」

「いや、最初は・・」と言いかけた言葉をつぐみ、一緒に怒られるのでした。

猫井川は、これから牛黒さんの無茶ぶりは、しっかり拒否しようと学んだのでした。

今回も牛黒エピソードです。
猫井川も牛黒のペースに巻き込まれてしまったようですね。

仕事がスピーディーに進めたいものですが、それだけではダメなことも多いです。
時間を掛かるけども、丁寧にということも重要です。
とはいえ、時間をかけ過ぎてしまうと、いつまでも仕事が終わりません。

何事もバランスが必要なのですが、牛黒はどうもスピーディーかつ雑というのがスタイルのようですね。

さて、このエピソードは、少し前に私が指摘を受けたヒヤリハットのアレンジです。
私のエピソードは、別の記事で書いています。

安全対策と台所事情

物が機械と倉庫の棚と違いますが、内容的には同様です。

要するに、重いものを少人数で運ぼうとすることです。

棚は物を収納するものですが、運ぶときには、一度荷物を全部取出しますよね。
そうでないと、あまりに重くて運べませんし、少し傾くだけで、中の荷物がバラバラと落ちてしまいます。

いっぱい詰まった本棚を運ぼうとすることを想像して下さい。
できそうな気がしますか?

とてもじゃないですが、無理ですよね。

牛黒は、何の根拠があるのか、可能だと思ったようです。

仕事はきちんとした段取りと準備が大切です。
この場合であれば、中身を全て運び終えてから、棚を運ぶということですね。

その手間を惜しみ、何となくでやってしまうと、悲惨な結果になることもあります。

私のエピソードで言うと、指揮者も人数も、道具も足りないのに、重量物を運ぼうとしたということです。本来であれば、事前に体制や作業方法などを確認するべきでありました。

幸い、事故に至りませんでしたが、一歩間違えれば、取り返しの付かないこともあります。

仕事でスピードは大事ですが、雑すぎてはいけません。
きちんと段取りをつけて、手順良く進めること。
これが無理をしたり、手間のショートカットを行うよりも、早く仕事を終わらせることになります。

無理なショートカットは、事故の元なのです。

それでは、ヒヤリハットをまとめます。

ヒヤリハット 荷物が収まったままの棚を運ぼうとしたら、中身が落ちた。
対策 1.棚を運ぶ時は、先に中身を取り出す。
2.仕事の段取りを決め、手順通り進める。

仕事を早く終わらせたい、少ないコストでやりたいというのは、誰しも、どんな会社でもあります。
しかし安全が犠牲になってはいけません。

時間やコストの節約は、安全の代償であってはなりません。

とはいえ、下請けで仕事を受ける場合、値下げが求められることも多いでしょう。
そして仕事を受注するのは、安い見積を提示したところだったりします。

カットされているのは、質と安全です。

安い費用で安全対策もしっかりやらなければならない。
作業そのものではないので、見えないコストですが、見過ごしてはならないコストでもあるのです。

そういう意味では、注文者側も確保すべき予算は、確保しなければなりませんね。
安く発注し、安全面は高度では、少々請負側には負担が大きすぎるのではないでしょうか。

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