○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、兎耳長の能力に戦慄す

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

猫井川は、兎耳長と一緒に、井戸の掃除に駆り出されました。

この仕事は、エスパニョール鼠川が知り合いに頼まれたものです。
しかし鼠川本人は、別の仕事に行かなければならず、猫井川と兎耳長で作業を行うことになったのです。

「・・・では、後はお願いします。
 終わったら、連絡してください。」

依頼者である、鼠川の知り合いから井戸の場所を聞いた2人は、早速作業の段取りをそうだしました。

「この井戸のそこに土砂がたまって、水が汲み上げられないみたいですね。

 結構深そうですけど、どれくらいあるんでしょうか?」

少しだけ蓋の開いた、井戸の中を覗き込みながら、猫井川が聞きました。

「うーん、たぶん7、8メートルというところじゃないかな。」

同じく蓋の隙間から中を覗き込む、兎耳長が答えます。

「へー、何で分かるんですか?
 とりあえず、蓋を外して、サンドポンプを突っ込んで、水を上げてから、掃除ですか?」

「うん、まずはそれがいいだろうね。」

作業方法としては、井戸の底に、多少の土砂があっても水を吸い上げられるサンドポンプを下ろし、水を抜く方針となりました。

「それじゃ、まずは蓋を外しましょうか。」

猫井川がそう言うと、鉄製の蓋を2人で持ち、取り外しました。

「蓋を外してから、改めて見ると、本当に深いですね。
 ケーブル届くかな?」

少し井戸を覗き込み、猫井川はポンプの準備をします。

ポンプの吐出し口にホースをしっかり縛り、ロープを使ってゆっくりと井戸の中に下ろしていきます。

ポンプは重いですが、何とか1人で持てる程度の重さです。

猫井川はポンプを下ろしながら、

「兎耳長さん、ホースを溝まで延ばしていって下さい。
 多分、長さは十分足りると思うんですど。」

と言いました。

兎耳長は、猫井川の指示に従い、くるくると巻かれていたビニルホースを広げ、水を吐き出し先になる溝まで持って行きました。

「こっちは大丈夫。
 ケーブルは延長コードを使わないと、コンセントまで届かなさそうだね。
 準備しとくよ。」

兎耳長は、延長コードを伸ばし、一方を発電機のコンセントに差し込みました。

「あ、底に付きました。
 やっぱり凸凹してるみたいです。」

ポンプが井戸の底に設置すると、ケーブルを延長コードにつなぎ、準備は整いました。

「では、水を上げましょうか。
 発電機入れて下さい。」

猫井川がそう言うと、兎耳長は発電機のスイッチを入れます。

ゴゴゴゴーンと唸りを上げ、少し煙を吐いた発電機は、動き出しました。

発電機が生み出した電気は、ケーブルを通り、ポンプを動かします。

ポンプは底開いた口から、水を吸い上げていきます。
吐出し口に取り付けた、ホースは徐々に膨らみ、その膨らみが溝まで来ると、勢いよく水を吐出します。

「さすがに、少し水が濁ってますね。
 ポンプで土砂も全部吸い上げてくれればいいんですけど。」

「多少なら吸ってくれるけど、砂利とかになると難しいかも。
 コンプレッサーとかあれば、楽だけど、うちにはないから、仕方ない。」

「はあ、やっぱり水が抜けたら、中にはいらないとですね。」

猫井川は吐出される、少し濁った水を横目に見つつ、井戸の中に入る準備を始めました。

しばらく水を吐き出してくると、少しずつ水量が減ってきました。
どうやら水を吸いきったみたいです。

「もう水が大体抜けたみたいなので、中には入ります。」

猫井川はハシゴを井戸の底まで下ろしました。
ガシガシとハシゴの足元を動かしつつ、しっかり固定します。

「じゃあ降りて、バケツに土砂を入れますので、兎耳長さんは引き上げて下さい。」

そう言うと、猫井川はハシゴに足を掛け、一歩二歩と降りていこうとしたときでした。

降りるの、ちょっと待って!

兎耳長が大きな声を出しました。

びっくりして、兎耳長の方を見ると、兎耳長は真剣な顔で、

「今降りていっちゃダメだ。多分井戸の底は酸欠状態だと思う。
 酸素センサーを確か持ってきてたはずだから、確認しよう。」

「はあ、そうですか。」

本当に酸欠状態なのか、半信半疑ながらも、兎耳長の勢いに押され、猫井川は井戸の外に出てきました。

兎耳長は、酸素センサーを持ってくると、井戸の底に検知器を下ろし、計測します。

「あ、やっぱり。酸素濃度が17%だよ。18%を切ってる。
 もしあのまま降りてたら、酸欠で倒れていたよ。」

「まじですか。」

兎耳長の持つセンサーには、はっきりと「酸素濃度 17%」と表示されています。

もし、兎耳長がストップをかけなかったら、きっと今頃は井戸の底で倒れていたことでしょう。

そう思うと、猫井川はぞっとしました。

「送風機も念のため持ってきてたから、換気してから作業しようか。」

兎耳長は、テキパキと車から送風機を下し、換気の準備をし始めました。
猫井川もその手伝いをしていたものの、ふと疑問が頭をよぎりました。

「でも、なぜ井戸の底が、酸欠状態だとわかったんですか?」

そうです。
兎耳長は作業前のチェックとして、酸素濃度を測ろうとしたわけではありません。
もしそうなら、猫井川が井戸に入ろうとしている前に、測定するはずです。

しかし実際は、猫井川が一歩二歩、ハシゴを降りようとした時に、ストップを掛けたのでした。

「なぜですかね?」

改めて、聞いてみると、兎耳長が答えました。

「うん。井戸の底の気流の音が、少しおかしかったからね。
 前に酸欠している場所で聞いた音に似ていたんだよ。」

「えっ!?」

予想もしない答えに、猫井川は絶句します。

酸素が不足している気流の音って・・・
そんなのあるのか・・・

何者なんだ・・・この人は

猫井川は、酸欠どうのこうのよりも、兎耳長の聴覚に対して、ぞっとしたのでした。

恐るべき兎耳長の聴覚に、一命を救われたお話です。

多才を誇る兎耳長ですが、謎の能力まで備えている事がわかりました。

この男は一体何者なのでしょうか。

おそらく、こんなことを言われたら、猫井川でなくとも、戦慄を覚えることでしょう。

さて、今回のヒヤリハットは酸欠で倒れたかもしれないというお話です。

酸欠とは、酸素が欠乏してる環境で発生する事故です。

通常の空気中では、約21%の酸素濃度があります。
しかし環境によっては、これよりも低い濃度になる場合もあるのです。

どういった場所で、酸欠状態になりやすいかというと、密閉されていて、空気の循環が乏しい場所です。

トンネルや洞窟、水槽、タンク内などのほか、下水のマンホールや井戸のようなたて穴でも、酸素濃度は低くなりがちです。

低濃度の酸素を吸うと、人は意識を失い、呼吸困難となり、最悪の場合、死に至ります。

酸素濃度の基準は、約18%以上であることです。
これより低い濃度だと、その場所に入ってはいけません。

低酸素の場所に入る場合は、換気をして空気を入れ替えてあげること。
もしくは、スキューバーダイビングのように、酸素を吸入できるマスクを着けます。

酸素濃度は、兎耳長が使ったような測定器で測ることができます。
その結果、送風機で換気をしようということになっていましたね。

酸素濃度の高い低いなどは、目で見ることはできません。
もちろん、兎耳長のような特殊能力を持つ人もいないでしょう。

少しでも酸欠が心配される場所で作業する前には、酸素濃度を測り、安全を確認してから、進入することが大事です。

無防備に入って、意識を失い、その場で倒れるという事故も少なくないのです。

それでは、ヒヤリハットをまとめます。

ヒヤリハット 低酸素状態の、井戸の底に入りそうになった。
対策 1.たて穴等に入る前には、酸素濃度を測定する。
2.換気を行う、または送気マスクの着用を行う。

酸素濃度は、目に見えないだけでなく、常に変化します。

もし何日か続けて作業する時でも、昨日までは大丈夫だったのに、今日は急に濃度が低いということもあります。

必ず作業前には酸素濃度を測定することが大事です。

また、酸欠で倒れた人を救出する場合も注意が必要です。
急いで近づくと、自分も倒れます。
そして、こういった事故は非常に多いのです。

救出には一刻を争いますが、二次被害にならないよう、対策をしてから進入することが大事です。

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