厚生労働省労働局長登録教習機関
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掘削作業は、土木工事の根幹に関わるところですが、常に土との戦いでもあります。
もともと地面は、土が詰まった状態で安定しています。
これを一部掘り返し、穴を開けるのですから、穴の周りはひどく不安定になります。
当然のことながら、穴を掘って、ただ埋め戻すというのでは仕事になりません。
穴に何かしらの構造物を作ったり、置いたりしてから、埋め戻すのです。
穴の中に構造物を作るためには、穴の中に入らなければなりません。
一歩穴の中に足を踏み込むと、そこは地上とは勝手の違う空間になります。
周りを土で囲まれた、実は危険な場所になるのです。
掘削後、土壁が崩れないようにするためには、様々な対策があります。
土止め支保工は、その対策の最たるものといえるでしょう。
土止め支保工は土壁を内から外に向かって押さえつけ、崩れ落ちることを防ぎます。
多くの場合、土止め支保工は有効ですが、時として効果を発揮しない場合もあるのです。
先日、茨城県取手市で起こった、土砂崩壊事故は、土止め支保工を行っていたものの、崩壊してしまいました。
どのような原因があったのか、これを推測し、対策を検討します。
下水道工事中に土砂崩れ、1人死亡 茨城・取手
(平成27年4月17日)
17日午後2時15分ごろ、茨城県取手市宮和田で下水道工事をしていた男性から「土砂やコンクリートが崩れ、作業員が生き埋めになっている」と119番通報があった。取手署によると、同県の建設会社役員が約1時間40分後に救出されたが、外傷性窒息で死亡した。
消防や署によると、現場は住宅街の一角にある県道沿いの歩道。被災者ら2人が、掘った穴(幅1・6メートル、長さ2・3メートル、深さ1・5メートル)の中で下水管の埋設工事をしていた。穴の東側は土留めをしていたが、崩れた西側はしていなかったという。署は業務上過失致死の疑いもあるとみて調べる。 作業員の一人は取材に対し「雨が強くなってきて、そろそろ作業を中断しようかと話していた矢先だった」と話した。 |
この事故の型は「倒壊・崩壊」で、起因物は「地山」です。
下水道管の埋設工事の際に、起こった事故です。
穴というより、配管を設置するためのものなので溝という方がよいのですが、幅1.6メートル、深さ1.5メートルの土壁が崩れ落ち、中にいた作業者を押しつぶしてしまったのでした。
事故直後の映像を見たのですが、土壁のには土止め用のパネルが置かれているようでした。
しかし、土壁の両サイドでなく、片側だけだったようです。
掘削から、配管設置、埋め戻しまでを、その日のうちに行う作業です。
土止め支保工も、すぐに移動でき、特に崩壊しそうな場所に作ったのでしょう。
溝であれば両サイド支える必要があるので、この土止めは不完全です。
とはいえ、少々のことであれば、崩壊することはなさそうです。
なぜ、崩壊が起こったのでしょうか。
原因は、雨です。
事故の起こった日、関東地方では強い雨が降っていました。
多少の雨であれば、問題はありません。
しかし近年頻発しているゲリラ豪雨のような時では、地盤は一気に緩んでしまいます。
掘削溝の中で、作業を行っている時、強い雨が降っていたのでした。
地面に染みこむ雨水は、地盤を緩め、ほぐし、崩れてしまったのでした。
作業を中断しようとした矢先の出来事だそうです。
天候に対する判断が、命を失う原因となったのです。
原因を推測してみます。
1.大雨により、地盤が緩み、土砂が崩壊したこと。
2.土止め支保工は、片側だけを支えており、不完全であったこと。
3.大雨が降ってきたのに、作業を中止しなかったこと。
4.土止め支保工作業主任者が土止め方法について指揮していなかったこと。
何よりの原因は、土止め支保工が中途半端で、不完全であったことです。
片側だけ支えても、効果は薄いです。
掘削作業にあたっては、地山の掘削及び土止め支保工作業主任者を選任して、作業を指揮させます。
ただし、掘削する深さが2メートル未満の場合は、地山の掘削作業主任者を選任する必要はありません。
しかし、土止め支保工の作業主任者を選任については、深さは関係ありません。
土止め支保工を設置するところには、作業主任者が必要です。
作業主任者の役割は何か。
それは、安全に作業を進めることです。
そのために、道具や保護具を点検し、作業方法を直接、指揮するのです。
すぐに移動したいという思惑はあったものの、中途半端な対応は、かえって危険を招くことになるのです。
そして雨です。
少々の雨であれば、問題ありませんが、夕立のように勢いよく降る雨であれば、作業を中止する事が必要です。
すぐに止むだろう、仕事の手を止めたくないなどあるでしょうが、安全を確保することが何よりも大事だということを忘れてはいけません。
中止のタイミングがもう少し早ければと、後から悔いても元には戻らないのです。
対策を検討します。
1.強い雨脚になった時には、迅速に作業中断などの判断を行い、避難する。
2.天気予報を確認し、作業予定を立てる。
3.土止め支保工作業主任者を選任し、安全な土止め支保工を行う。
道路など狭い範囲を垂直に掘る場合は、土壁が崩れやすくなるので、深さに関係なく土止め支保工が必要になります。
1.5メートルというと、男性だと大体胸から首までがすっぽりと収まる深さです。
土砂崩れでは、腰から下を埋まるだけでも、致命傷になることもあります。
また判断の遅れが時として命取りになることもあるのです。
もうちょっとだけ、もうすぐしたら止むだろうなどと、考えず、まずは天気予報などで確認することも、作業長の役割です。
ここ数年、毎年のように夏場は大雨の被害があります。
雨が降れば、大雨になる。
ゲリラ豪雨のように判断が難しいものもあります。
危険かもと少しでも感じたら、すぐに避難させることが大事ではないでしょうか。