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平成26年の安衛法改定により、化学物質等を取り扱う事業者のリスク・アセスメントが義務付けられるようになりました。
今までは、業種にかぎらず努力義務でしたので、より踏み込んだ政策になっていきます。
ここ10年くらいでしょうか、安全衛生という分野ではリスク・アセスメントという言葉をよく耳にするようになりました。
根拠となっているのは、安衛法第28条の2という条文です。
【安衛法】
小難しい表現なので、分かりづらいと思いますが、簡単にまとめるとこんな感じです。
事業者は、労働者に危険を及ぼしたり、有害になるものを調査し、対応するのに努めなければならない。
この危険や有害性の調査と対応がリスク・アセスメントというものなのです。
調査して、あとは労働者に「ここが危険だから、気をつけろ」と注意するので終わってはいけません。 きちんと、危険性や有害性自体をなくす、もしくは小さくするを含んでいるのがポイントです。
しかし、事故を防止するための取り決めが安衛法なんじゃないのとも思います。
機械や化学物質の取扱い時、高所作業の時など、守らなければならないことが、法律で事細かに規定されています。
それらを守っていれば、事故は防げるんじゃないでしょうか?
実際に仕事をしていると、法律を守っていても、事故はあります。
法律が全ての事故を防ぐ、危険をなくすことなど、無理です。
なぜなら各事業所には事業所特有の仕事や環境があります。 そのため危険も千差万別です。 とてもじゃないけど、全ての状況を想定することなど不可能なわけです。
この条文が追加されたのは、平成18年の法改正の時です。
下のグラフを見てもらうと、死亡事故は安衛法が施行された昭和47年から急激に下がっています。
(建災防より)
どんどん、右肩下がりで災害が減っていますが、平成10年以降横ばいなのがわかります。
法律整備だけでなく、自主的なKY活動、ヒヤリ・ハットなどの安全活動による災害減少について、頭打ち感が出てきたのでした。
依然として、2000人前後の死亡災害がある状態です。 これ以上下げるには、どうしたらいいんだろうと画策している時に、制定したのがリスク・アセスメントです。
イギリスの死亡事故は極めて少ないという記事も書きましたが、イギリスやドイツなどの取り組みも参考にしたといえます。
イギリスがすごい!先進国の労災防止で、発展途上国に伝えられること
リスク・アセスメントとは、事業者の取り組みとして、リスクを把握し、減災措置を含めた管理を行なうこと。
法律では網羅できないけど、それぞれの事業場のリスクは、事業者なら分かるはず。
だから事業者は、労働者を守るしよう。 事業所に合った安全対策なら、法律を守るだけでは防げない事故も抑えられるよね。
リスク・アセスメントに導入にかじを切ったのは、こういう流れだと、私は理解しています。
さらに国際化の流れが、この流れを後押しします。
ISOなどを導入している事業所も多くなってきました。
品質マネジメントシステムのISO9000シリーズや、環境マネジメントシステムのISO14000シリーズなどが有名ですね。 これは国際標準化の規格ですが、安全衛生にもこの風潮に乗っかっています。
それはOHSAS18001や18002のシリーズです。 労働安全衛生マネジメントシステム(OHSMS)と呼ばれるものです。 日本では、JIS化しようともしています。
国際的な安全衛生マネジメントで、リスク・アセスメントは必須です。
企業は国際化に伴い、安全衛生の国際規格であるOHSAS18001を取得する事業者も増えてくるでしょう。 リスク・アセスメントは、いつの間にやらどんどんと身近な所に迫ってきているのです。
リスクアセスメントってなあに? |
リスク・アセスメントについて、あちこちで講習なども開かれています。
手法の解説も出回っているので、安全衛生に携わっていて全く知らないというのは少ないかもしれません。
これは私感になるので、全体的にリスク・アセスメントの手法や進め方は浸透しています。 しかし、実際に自分の事業所に当てはめようとしたら、よくわからないというのが多いように感じます。
もちろん私自身のことも省みてですけども。
一例をあげると、墜落リスクは、足場で作業中などの状況が想定できます。
しかしそれは一般的な状況に過ぎず、必ずしも自分が受け持つ現場に適応できないことも、多々あります。
一般的な情報を、個別状況に適合する、つまりカスタマイズすることが一苦労です。
作業は内容ごとに違う危険があるのですから、全ての危険を洗い出すことから、困難です。
しかし、よく考えれば、会社経営と同じなんですよね。 会社の経営は本もたくさん出てますし、参考になるものはたくさんあります。 もしそういった情報を、経営に取り入れ、適合させていけば、うまくいくでしょう。 実際、そんなのはごく少数です。
そんな時にお手伝いするのが、コンサルタントですね。 あらゆるデータやノウハウを使って、顧客の問題を解決する仕事です。
課題解決に、コンサルタントを使えということではありません。
コンサルタント任せにしていると、高い金だけ払って効果はどうなの?ということもあるのが実状なのですから。
アドバイスを求めるのは構わないのですが、課題に取り組むのは、自分たち自身です。
「いつやるの?いまでしょ!」という言い方になぞられるなら、「誰がやるの?会社のトップでしょ!」というものです。
これは余談なので、さておき。
手法、やり方だけが先行しているのが、リスク・アセスメントの実状のように感じます。
私もまだリスク・アセスメントを勉強中です。 そのため偉そうなことも言えません。 ましてや、労働安全コンサルタントだから任せとけとも言えません。
学び身につけ実践し、悩み考え、壁にぶつかり、失敗しまた学ぶところです。
このブログでは、そういったものをなるべく書いていこうかなと思っています。
もしご自身の事業所で、同じ問題があるなら、一緒に悩み考えていけたらなと思います。
とりあえず、言葉の定義と手法を整理 |
リスク・アセスメントをあれこれ言う前に、よく出てくる言葉を整理します。
整理する言葉は「安全」、「リスク」など、分かっているようで曖昧なものです。
ISOの定義では、「受け入れ不可能なリスクがないこと」とされています。
ちなみにJISでは、「人への危害または損傷の危険性が、許容可能な水準に抑えられていること」です。
ISOの定義とか言っても、何だと思うかもしれません。 しかし、この定義が前提になるのです。
絶対的に事故のない状態はありません。 まずこれが大事なポイントです。
大きな事故はなくとも、小さな怪我をすることはあります。
例えば、自分の部屋の中は安全でしょうか? ゴミが散乱している状態とかは別として、床が見えて、ほとんどのものが収納されている状態の部屋を想定してくださいね。
くつろいだり、睡眠をとったりする場所ですから、とりあえずは安全といえますよね。 部屋の中に車が行き交う、電車が走るなどは、まあないでしょう。
こんな部屋はあるみたいですけど。
部屋の中は安全。でも、危険はゼロですかと聞かれると、どうでしょう?
100%そう言い切れますか? 全くのゼロとは言い切れないのではないでしょうか。
例えばこんな危険はないでしょうか。 何かが落ちてきたりしませんか?
棚の上の本やフィギュアは落ちてこないでしょうか? 何かに挟まる場所はないですか? 扉に指を挟んだりしませんか? 何かにぶつける場所はないですか?
ベッドに、足の小指をぶつけたりしませんか?
それで命を落としたり、大怪我するほどではなくとも、ちょっとした怪我をするなどの危険はありますよね。
この場合の危険はリスクと言います。
(リスクについての定義は後ほどになりますが、とりあえず使います。)
部屋の中にもリスクはありますけど、気にならないですよね。 いつ大けがをするだろうかと、ヒヤヒヤして過ごしたりはしませんよね。 とりあえずは安全な場所であると思うんじゃないでしょうか。
リスクが低い、それこそ気にならない程に小さい状態のことを安全というわけです。
まとめましょう。
事故ゼロ、リスクゼロ状態ではない。 全くのゼロ災害状態というのはない。
要するに危険か安全かは、リスクの度合いの話になるわけです。 つまり、リスクはあるけども、まあ死なないし大怪我にならないから、いいかと思える状態や環境のことです。
安全=全くのリスクゼロではないことに注意!
リスクは要するに、危険のことです。
しかし危険にも色々ありますので、整理します。
実は「危険だ!」という時、いくつかに分類できます。
まずは「hazard(ハザード)」ですが、これは「危険源」と呼ばれます。 そもそもある危険物です。
例えば、虎、ダイナマイト、刃物など。 これらは危険だとわかりますよね。しかしそれらに、近づかなければどうでしょう?
本物の虎は危険ですが、日本にしてインドの虎に危険を感じるでしょうか? 遠くのことですし、それにビクビクする人はいませんよね。 将軍様も、そんな虎なら一休さんに依頼しません。
「hazard」は、そもそも危険なもの「危険源」です。
固い表現だと、「潜在的に危険となる根源」というものです。
身に危険を及ぼすのは、この危険源に近づいた時でしょう。
本物の生きた虎を縛ってくれと言われたら、一休さんも逃げ出します。 これも「危険だ!」と叫んでしまう状況ですよね。
遠くに危険源があっても何の心配もありません。
危ないのは、「危険源に接近した」時です。
危険源と人が近づくこと、これを「危険状態」といいます。
つまり「危険状態」とは危険にさらされていることですね。
英語で言うと、「danger」といったところでしょうか。
足場自体や加工機械自体は、危険源ですが、誰も近づかなければ危険でもなんでもないですよね。
人が足場に登る、加工機械を操作する時、危険に近づくわけです。いつ事故が起こってもおかしくない「危険状態」といえます。
しかし「危険状態」だからといって、すぐ事故になりません。
もしそうなら仕事になりませんもんね。
事故が起こるのは、足場から足を滑らす、加工機械の回転部に手を入れるなどの時です。
うまく逃れられるかもしれませんが、事故にも成り得ます。
この事故が起こってしまうことを「危険事象」といいます。
ちょっと堅苦しいですが、「危険」はこんな分類ができるということで。
では、「リスク」はどれに当てはまるのでしょう?
実は、これら全てを統合したのが「リスク」です。
日本語では「リスク」のことを、「危険性」と言ったりもします。
リスクは、危険源と人が接近することで起こります。 リスクには大きい小さいがあります。 死んでしまう危険と指先を切る危険では、対応の仕方も異なりますよね。
つまり、「リスク」とは「 予想される危害の大きさと、その発生確率の組み合わせ 」であるといえます。(ちなみにこれは濱田勉氏の定義です)
事故が起こる可能性はどれくらいあるのか?
事故が起こった時に、どれほどの被害になるのか?
これらをひっくるめて「リスク」というのです。
そういう意味で「危険性」という日本が合うのかもしれません。
安全とは受け入れられる程度のリスクが残っている状態です。
安全を実現するのは、大きなリスクをいかに小さく受け入れられる状態にまでコントロールするかが重要なんですね。
じゃあ、リスクの大小を測るのはどうしたらいいのでしょう。
対応するために、時には多大な費用がかかるわけですから、個人的な感覚に頼るわけにはいきません。 みんなが納得する、客観的な指標がほしいところです。
このリスクの大小を客観的に見ようよというのが、リスク・アセスメントで使われている指標なのです。
リスク・アセスメントでは、2つの軸でリスクの大きさを測ります。
上でも書いてますが、もう一度まとめますね。
1つの軸は「起こる可能性・頻度」です。 どれだけ起こりやすいかということ。
人が危険源に近づく回数です。 年に1回、2回危険源に近づくのと、1日に10回近づくなら、どっちの方がよりリスクは高いでしょうか? 後者ですよね。
もう1つの軸は「被害の大きさ」です。
わかりやすく言うと、死ぬ危険源と、打撲する危険源では、どっちの方がリスクが高いですかということです。 当然、死ぬほうがリスクが高いですよね。 さらに1人死ぬのと、10人死ぬのとでは、どちらのほうがリスクが高いでしょうか。 10人ですよね。 怪我の大きさ、災害の及ぶ範囲の大きさも指標になるのです。
この2つの軸「頻度」と「被害の大きさ」から、リスクの大きさを測るのです。
とりあえず「安全」と「リスク」について、整理しましたが、イメージはつかめたでしょうか?
これでリスク・アセスメントとは何をするのか、少し分かるかもしれません。
つまり、リスク・アセスメントとは 「リスク特定、リスク分析、リスク評価を網羅するプロセス。危険源と作業の関わりなどの調査と、その対応。」 です。
これでは固い表現ですね。表現を砕いてみると、こんな感じです。
「リスクを見つけ、大きさを見積もって、小さくすること」
ここで、安全衛生管理者の方が目にする、リスク・アセスメントのプロセスが出てくるのです。
またプロセスについては、書くことがあるでしょうが、簡単にまとめると次の手順。
1.リスクを見つける
2.リスクの頻度と災害規模から、大きさ見積もる
3.対応するリスクの優先順位をつける。
4.リスクを低減する対策を行う。
5.低減後の、リスクを再度見積もる。
だいたいこの手順です。 この手順に従った管理書類もあちこちにあります。
ただ、実際の所手順は分かっても、どうやったらという感じはありますね。
最初の「リスクを見つける」で、挫折しかねません。 一般的なものを持ってきても、あまり意味がありません。事業場を見渡し、作業者に意見を聞きなどがあるわけですが、ただ実行しても効果はありません。
ただ書類を作ればいいってものじゃありません。 実際にリスクを減らさないと意味がありません。
リスクアセスメントの目的は、 「死んだり、大怪我や大病になる人を、どこまでも小さくするための取り組みをやっていこうよ」 というものです。
大きな災害を減らすことが、何よりの目的です。
これから幾度となく、リスクアセスメントについて書いていくと思います。
もしかしたら、前と言ってることが違うこともあるかもしれません。 でも、それは実践し、学び、見直したりしてのものだと思います。 また多少、表現が適切じゃないこともありますが、ご了承ください。
目的は、死ぬ人、大怪我や大病を激減させることです。
実は、あれこれリスク・アセスメントにかこつけたネタが溜まってきています。
どうぞ、これからお付き合いください。 そして、実践のお役に立てれば、幸いです。