厚生労働省労働局長登録教習機関
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日本の事故ではないのですが、結構大きなニュースになっていたので、取り上げてみようと思います。
私もあれこれコメントを残しているNewsPickでもコメントが沢山ついていました。
これはドイツのフォルクスワーゲンの自動車組み立て工場で起こった事故ですが、決して他人ごとではありません。
日本でも十分起こる可能性があることです。
自動車工場など製造業では、かなりの範囲で産業用ロボットが使われ、オートメーション化が進んでいますね。
もう、どんどん人が行う部分が少なくなってきているのが実状です。
ロボット任せにできる部分も多いのですが、やはりメンテや維持管理は人が行わなければなりません。
ロボットは機械です。 そのため人の何倍もの強い力で作業を行います。 もしロボットに勝負を挑もうとしても、腕力で負けてしまいます。
そのためロボットに近づくことは、作業者にとってはリスクの高いことです。
フォルクスワーゲンの工場でもロボットによる作業がありました。
修理やメンテなど、人が近づくこともあったでしょう。
事故は、作業者とロボットが接触して起こってしまいました。
今回は、この事故を事例として取り上げ、原因を推測し、対処を検討してみます。
事故の概要 |
事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。
作業員がロボットにつかまれ死亡、独フォルクスワーゲン工場(平成27年7月3日)
ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲンの組み立て工場で、作業員がオートメーション用のロボットにつかまれて死亡する事故があったことを、検察当局が明らかにした。
地元紙がフォルクスワーゲン広報の話として伝えたところでは、事故は6月30日にドイツ・カッセル近郊のバウナタルにある工場で発生。 男性は取引先から派遣されていた従業員で、救命措置が行われたものの、搬送先の病院で死亡した。 検察は、男性の死に事件性がなかったことを確認するための捜査を行っている。フォルクスワーゲンは3日までの時点で取材に応じていない。 |
この事故の型は「はさまれ・巻き込まれ」で、起因物は「作業用ロボット」です。
事故は、製造ラインに配置された産業用ロボットで起きました。
ロボットのアームが、材料ではなく、作業者をつかんでしまったのです。
本来つかむはずのパーツと人間の体では、強度から何もかも違います。 ロボットの強い力に耐えられるはずもなく、作業していた男性は亡くなってしまいました。
ロボットが人を殺すという衝撃的なニュースということもあり、広く取り上げられたのだと思います。
日本でも製造ラインにロボットを多数導入しています。
決して、遠い国の遠い出来事ではありまえんよね。
ちなみに、ドイツの労災状況については、どんな感じかまとめてみます。
ドイツの産業部門及び公務部門の2013年の死亡災害数が455人であることは、ドイツの雇用者数が約3426万人(2010年)であるので、ドイツの雇用者1万人当たりの災害死亡者数を試算すると約0.133人になる。
一方、日本の雇用者数が約5575万人(2013年12月)であることを考慮すると、日本の2013年における産業別労働災害死亡者数が、全産業で1,030人であり、これから雇用者数1万人当たりの災害死亡者数を試算すると約0.185となるので、ドイツのそれは日本に比較してやや低い水準にあると推定される。 ちなみに、日本の業種別労働災害死亡者数は、製造業で201人、建設業で342人、第三次産業で282人である。(資料出所厚生労働省;安全課調べ) |
ドイツ法定災害保険は、2013年における作業関連及び通勤災害の状況を公表
数年前のデータですが、1万人あたりの死亡者数を比較すると、ドイツは日本よりやや死亡者数が少ないと言えます。 背景には、イギリスと同様にリスクアセスメントを積極的に行っているのがあるようです。
イギリスがすごい!先進国の労災防止で、発展途上国に伝えられること
しかし、どれほど安全対策に積極的であっても、事故は起こってしまうのが実状です。
無災害は素晴らしいのですが、それは今後も絶対はない根拠にはなりません。
それでは、原因を推測していきます。
事故原因の推測 |
産業用ロボットと加工用機械との違いは何でしょうか?
どちらも機械といえば機械ですので、違いがなさそうに見えます。
違う点は、作業をプログラミングできるかどうかにあるようです。
加工用機械は、切ったり混ぜたりと単一の作業のみ行います。
しかし、ロボットは動きをインプットしてあげると、その通りの動きをしてくれます。
いわゆる作業をプログラミング、つまり教えることできるのです。
プログラミングを終え、実稼働中は、加工用機械と同じように、その可動範囲は、非常に危険地帯です。
アームを左右に移動するだけでも、接触すると人体では耐えられないこともあります。
通常であれば、防護柵が設けられ、運転中は近づけないようになっています。
さらに、より安全性を高いものになると、センサーを備えているものがあります。
もし作業者が近づき、センサーに引っかかると、自動的にストップします。
今回事故が起こったロボットは、このセンサーは付いていなかった、もしくは機能していなかったようです。
ロボット自体には防護柵などの安全設備が必要ですが、同時に取り扱いを行なう作業者にも教育が必要です。
無防備に近づいたら大変な事故になるのですから、その取扱には注意が必要ですよね。
日本では、産業用ロボットの操作やメンテを行なう作業者は、特別教育を受けなければなりません。
原則としては、電源を落として近づきます。 しかし動きを教えたり、動き方をチェックする場合は、電源を入れたままにして置かなければなりません。
その場合は、メンテモードなど動きが遅くなるようにします。 さらに非常ボタンで、いつでもストップさせられるようにします。 また作業時も1人で行なうのではなく、指揮者を置かなければなりません。
そのようなロボットに近づく時の作業手順が定められていなかった、もしくは守られていなかったのではないでしょうか。
ロボットの取り扱いには、かなり厳密に決まりがあります。
ドイツではどのような規定があるのか分かりませんが、似たような条件があるのではないでしょうか。
それでは、推測をまとめてみます。
1 | ロボットの電源を停止せず、近づいたこと。 |
2 | 作業手順がさだめられていなかったこと。 |
3 | 作業者の安全教育やKYなどが行われていなかったこと。 |
それでは、対策を検討します。
対策の検討 |
ロボットの稼働中に、接近すること自体が危険です。
ある程度決まった動きをするものの、接触したり、巻きこまれたりする危険があります。
そのため、可能であれば電源を切るのがよいでしょう。
修理などは、電源を切って行ったほうがいいですね。
しかし、場合よっては動かしながらメンテすることも必要です。
その場合には、しっかりと安全な作業手順に従う必要があります。
被災したのは、21歳と若い作業者でした。 このような危険作業は、ベテランが作業を主導し、1人で作業を行わないのも重要です。
もしかすると、この作業者はロボットに近づくことが危険だと知らなかったのかもしれません。 危険を理解させるために、日本では特別教育を受けさせます。
組織としての安全作業手順を徹底させていなかったことと、個人作業者の油断が事故を招いたのではないでしょうか。
対策をまとめてみます。
1 | 通常稼働中のロボットに近づかせない。 |
2 | ロボットに近づく際には、安全作業手順を守らせる。 |
3 | ロボットを取り扱う作業者には特別教育を行なう。 |
もう1つ事故の原因となった背景について想像していみます。
実は、作業者は容易にロボットを止められなかったのではないかと思います。
ライン製造では機械を停止すると、他の工程に影響があります。
自分だけの判断では止められません。
そのため、なるべく製造工程に影響がないように、トラブルを解決しようとすることもあるのだそうです。
しかし、通常稼働中のロボットに近づくのですから、非常に危険なことは間違いありません。
おそらく何かトラブルがあれば、ライン長に聞いて、ロボットをストップさせるという手順が定められていたはず。
気になるのは、「機械をストップしてください」と言った時、聞いてくれる職場だったかということです。
もし嫌な顔する、嫌味を言うライン長であれば、言いたくないですよね。
でも、こんな職場や環境はあるのではないでしょうか?
もちろん、フォルクスワーゲンの工場がこうだったとは思いません。
むしろ、あちらの国では、気にせず必要なことは言いそうな印象があります。
そうなると、被害にあったのは若い作業者なので、自分だけでも何とかなると思い、報告せずに作業し、事故に巻き込まれた可能性も捨て切れません。
ライン長に言いづらい、上司にトラブルを報告しにくいのは、日本のほうがたくさんありそうです。 もしくは事業者が、報告を聞かないとかもあり得そうです。
手順は作業者だけに守らせるだけではなく、事業者やライン長も守らなければならないのだと、しっかり肝に銘じる必要がありますね。
違反している法律 |
この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。
【安衛法】
第59条 事業者は、労働者を雇い入れた時には雇入れ時教育を行わなければならない。 危険または有害な作業に従事させる場合は、特別教育を行わければならない。 |
【安衛則】
第36条 特別教育を行わなければならない、危険または有害作業。
31号 産業用ロボットの教示 32号 産業用ロボットの点検、修理 |
これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。
【安衛則】
第150条の3 産業用ロボットの可動範囲内において教示等の作業を行うときは、ロボットの不意の作動による危険防止の措置を講じなければならない。 |
第150条の4 産業用ロボットを運転する場合において、ロボットに接触する危険がないように、措置を講じなければならない。 |
第150条の5 産業用ロボットの可動範囲内においてロボットの検査、修理、調整、掃除等を行う場合は、運転を停止するとともに、第三者がスイッチを入れないような措置をとらなければならない。 |
第151条 産業用ロボットの可動範囲内において 教示等の作業を行うときは、点検し、異常を認めたときは、直ちに補修その他必要な措置を講じなければならない。 |
これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。