厚生労働省労働局長登録教習機関
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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。
第47話「鼠川、落ちし鉄筋で安全靴をガコンする」 |
猫井川はようやく羊井の現場の塗装工事から開放されました。 コンクリート工事に向けて、鼠川と鉄筋を組み立てることになったのでした。 「今日も暑いですね。」 作業前から額に汗の玉を浮かべ、猫井川が言います。 「ああ、年寄りにはこたえる。 今年はいつもより暑い気がするな。」 幾度となく夏を経験してきた鼠川も、暑さにうなだれています。 「なんか、そういう台詞は毎年言ってる気がしますね。」 猫井川がそんな軽口を言うと、 「若造が分かったふうなことを言いよって。 鼠川がしみじみ言うのでした。 「同じようなことを兎耳長さんも言ってましたよ。 「そうだな。年寄りの言い分だと思うが、昔はそれが当たり前だったんだ。 「ほんと、熱中症には注意しないとですね。 「まあ、あいつは昔からだ。 「よく知ってますね。お昼くらいに着替えてました。 「それは牛黒の性格だな。 「確かにそうでした。面白い人なんですけどね。」 そんな話をしながら、2人は鉄筋をパーツごとに並べていくことにしました。 「よし、とりあえず部品ごとまとめていってから、組み立てていこう。 鼠川が作業の段取りを決めました。 「そうですね。 「まあ、暑くなる前になるべく進めよう。」 そう言うと、2人はトラックに積まれた鉄筋を掴みました。 鉄筋を同じ寸法に加工されたもの同士をまとめ、地面に並べていきます。 トラックから全て下ろし終わったところで、長さや数を確認し、いよいよ組み立てていきます。 組立のために、並べた鉄筋を、所定の位置まで運んでいきます。 ここまで、2人は黙々と鉄筋を運んでいましたが、すでに汗だくになっていました。 「鼠川さん、大丈夫ですか?」 汗を拭いながら猫井川が聞きました。 「おう、ちょっと動いただけなのにな。 「そうっすね。 そういうと、2人はまた鉄筋を運び始めたのでした。 鉄筋の組立図を元に、各パーツを並べていきます。 なるべく短時間で終わらせたい2人は、一度に何本もの鉄筋をまとめて持っていくのでした。 何往復かすると、すでに猫井川も鼠川も、服の色が変わるほど汗をかいています。 鼠川が2メートルくらいの長さの鉄筋を5本まとめて運んでいる時でした。 先ほど鼠川が言ったように、すでに軍手が汗で濡れています。 あっという間もなく、鉄筋は鼠川の手を離れ、足元に落ちていきます。 ガコン。 乾いた落として鼠川も靴に直撃したのでした。 ゴン。 安全靴をクッションとし、多少勢いが弱まったとはいえ、弁慶の泣き所に鉄筋が直撃したのです。 手にした鉄筋を全て滑り落とし、鼠川はしゃがみ込み、脛を押えます。 「大丈夫ですか?」 あわてて猫井川が駆け寄ります。 「だ、大丈夫。怪我はない。大丈夫。」 うなりながら、鼠川は脛をさすっています。 「軍手がもうダメだな。汗で濡れて滑るわ。」 しばらく悶絶してから、回復すると鼠川は軍手を脱ぎながら、そう言いました。 「新しいの持ってきます。おれ、すべり止め付きのがあるんで、使ってください。」 そう言うと、猫井川は予備の軍手を取りに行きました。 「おお、すまんな。」 ようやく痛みから開放された鼠川は、ゆっくり立ち上がりながら、太陽を見上げ、そして落ちた鉄筋の束を見つめました。 「昔も今も、暑さは思いもよらぬこともやってしまうな。」 鼠川の脳裏には、何やら昔のことを思い出した様子なのでした。 |
ヒヤリ・ハットの補足と解説 |
今回は鉄筋を滑り落としてしまうヒヤリ・ハットです。
滑り落ち、跳ね返った鉄筋が脛にあたってしまったのですが、大きな怪我にならなかったということで、ヒヤリ・ハットとしています。
鼠川も普段であれば、こんなミスはなかったでしょうが、猛暑に当てられてしまったのでしょう。 軍手が滑るとなると、かなりの汗であったはずです。
炎天下だと、短時間で急速に体の水分が失われてしまうので、注意が必要です。 自分で思っている以上に、脱水しており、喉が渇いた時には、すでに全身からかなりの水分が失われているようです。
こまめにと言っても、人それぞれの間隔だよりになるので、ここは30分にコップ1杯というルール決めも大事ではないでしょうか。
さて、熱中症については、また別の機会に譲るとして、落下のヒヤリ・ハットです。
作業において、手で運ぶという行動は非常に多いです。 ハンマーやペンチ等の工具から、木材や鉄筋などの材料まで、大きいものから小さいものまで、あらゆるものを持ち運びます。
物を持ち運んでいる時に、落としてしまったということは、誰でも経験があるでしょう。 その時に、運悪く足の上に落としてしまって、痛い思いをしたことも、あるのではないでしょうか。
軽く小さなものであれば、少し痛いくらいですみます。 しかし、落とすものが重かったり、刃物だったりすると、危ないですよね。
建設業に限りませんが、作業場では足の上に落とすと、大怪我になる物も少なくありません。 足の上へ物が落ちた時に、怪我を防ぐため、つま先の部分に鉄板を仕込んだ安全靴というものがあります。
作業場では、安全靴を履くことが怪我防止に重要です。
鼠川も鉄筋を落としましたが、安全靴のお陰で、つま先が押しつぶされるという危険は避けられました。 ただ残念ながら、跳ね上がった鉄筋までガードできませんでしたが。
忙しい時や、暑い寒いの極端な環境下では、注意力は疎かになります。 気づかぬうちに危険に踏み込むことすらあります。
足元の保護のため、安全靴は必ず履きましょう。 また鉄筋を落としたきっかけは、軍手が滑ってしまったことですが、すべり止め付きの軍手を使うのも大事ですね。 そして、落とさないためには、一度に持つ量を加減することも重要です。
それでは、ヒヤリ・ハットをまとめましょう。
ヒヤリハット | 軍手が滑って、鉄筋を落とし、脛に当たった。 |
対策 | 1.すべり止め付軍手を使用する。 2.材料は一度にたくさん持たない。 |
炎天下の作業は、どうしても頭がぼんやりして、普段起こさないような事故を招いてしまいます。 作業の手を止めてしまうので、非効率的に思うかもしれませんが、30分に1度程度小休止を入れたいところです。 これによって、安全に作業できますし、疲労も抑えられるので、かえって効率はよくなることも考えらます。
年配の方や、作業に慣れていない人がいる作業場では、休憩も指導しましょう。
さて、夏の太陽を見上げ、鼠川は何やら思い出したようですが、どんなことがあったのでしょうか。