○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

鼠川、落ちし鉄筋で安全靴をガコンする

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第47話「鼠川、落ちし鉄筋で安全靴をガコンする」

猫井川はようやく羊井の現場の塗装工事から開放されました。
今日は数日ぶりに、屋内作業から屋外作業になります。

コンクリート工事に向けて、鼠川と鉄筋を組み立てることになったのでした。
炎天下の中ですが、猫井川は屋内より屋外のほうが、性に合っているのでした。

「今日も暑いですね。」

作業前から額に汗の玉を浮かべ、猫井川が言います。

「ああ、年寄りにはこたえる。  今年はいつもより暑い気がするな。」

幾度となく夏を経験してきた鼠川も、暑さにうなだれています。

「なんか、そういう台詞は毎年言ってる気がしますね。」

猫井川がそんな軽口を言うと、

「若造が分かったふうなことを言いよって。
 でもな、ワシが若いころに比べたら、暑い気がするぞ。
 昔は、作業中に水を飲んだりしなかったもんだが、今は違うからな。」

鼠川がしみじみ言うのでした。

「同じようなことを兎耳長さんも言ってましたよ。
 昔は、部活の時も水を飲むなとか言われてたみたいですね。
 さすがに、今はそんなことはないでしょうけど。」

「そうだな。年寄りの言い分だと思うが、昔はそれが当たり前だったんだ。
 ワシももっと暑さに強いと思っていたんだが、ここ数年はダメだ。」

「ほんと、熱中症には注意しないとですね。
 牛黒さんは、ものすごい汗をかいてましたよ。」

「まあ、あいつは昔からだ。
 途中で作業服を取り替えただろう?」

「よく知ってますね。お昼くらいに着替えてました。
 おれが休憩しませんかと言っても、必要ないとか言うんですよ。」

「それは牛黒の性格だな。
 変なところ見栄っ張りだから。
 でもすぐ見栄を引っ込めるだろう。」

「確かにそうでした。面白い人なんですけどね。」

そんな話をしながら、2人は鉄筋をパーツごとに並べていくことにしました。

「よし、とりあえず部品ごとまとめていってから、組み立てていこう。
 数はそんなに多くないから、時間はかからんだろう。
 暑くならん内にやってしまおうか。」

鼠川が作業の段取りを決めました。

「そうですね。
 でも、この暑さなので、休憩はこまめにとりましょう。
 犬尾沢さんも朝言ってましたし。」

「まあ、暑くなる前になるべく進めよう。」

そう言うと、2人はトラックに積まれた鉄筋を掴みました。

鉄筋を同じ寸法に加工されたもの同士をまとめ、地面に並べていきます。

トラックから全て下ろし終わったところで、長さや数を確認し、いよいよ組み立てていきます。 組立のために、並べた鉄筋を、所定の位置まで運んでいきます。

ここまで、2人は黙々と鉄筋を運んでいましたが、すでに汗だくになっていました。

「鼠川さん、大丈夫ですか?」

汗を拭いながら猫井川が聞きました。

「おう、ちょっと動いただけなのにな。
 とりあえず、この鉄筋を運び終えたら、一回休憩しようか。
 もう軍手の中が汗でいっぱいだ。」

「そうっすね。
 早いことやってしまいましょうか。」

そういうと、2人はまた鉄筋を運び始めたのでした。

鉄筋の組立図を元に、各パーツを並べていきます。 なるべく短時間で終わらせたい2人は、一度に何本もの鉄筋をまとめて持っていくのでした。

何往復かすると、すでに猫井川も鼠川も、服の色が変わるほど汗をかいています。

鼠川が2メートルくらいの長さの鉄筋を5本まとめて運んでいる時でした。 先ほど鼠川が言ったように、すでに軍手が汗で濡れています。
汗は軍手の表面まで染み出し、ヌルヌルと滑りやすくなっていたものですから、鉄筋の何本かが鼠川の手からツルリと落ちてしまいました。

あっという間もなく、鉄筋は鼠川の手を離れ、足元に落ちていきます。

ガコン。

乾いた落として鼠川も靴に直撃したのでした。
しかし鼠川の靴は安全靴なので、つま先は鉄板で覆われています。
靴に直撃しても、痛くはなかったのですが、鉄筋が跳ね返った方向には鼠川の脛があったのでした。

ゴン。

安全靴をクッションとし、多少勢いが弱まったとはいえ、弁慶の泣き所に鉄筋が直撃したのです。
その痛みは、耐えられるものではありませんでした。

手にした鉄筋を全て滑り落とし、鼠川はしゃがみ込み、脛を押えます。

「大丈夫ですか?」

あわてて猫井川が駆け寄ります。

「だ、大丈夫。怪我はない。大丈夫。」

うなりながら、鼠川は脛をさすっています。

「軍手がもうダメだな。汗で濡れて滑るわ。」

しばらく悶絶してから、回復すると鼠川は軍手を脱ぎながら、そう言いました。
汗で湿った軍手は、脱ぐのにも一苦労です。

「新しいの持ってきます。おれ、すべり止め付きのがあるんで、使ってください。」

そう言うと、猫井川は予備の軍手を取りに行きました。

「おお、すまんな。」

ようやく痛みから開放された鼠川は、ゆっくり立ち上がりながら、太陽を見上げ、そして落ちた鉄筋の束を見つめました。

「昔も今も、暑さは思いもよらぬこともやってしまうな。」

鼠川の脳裏には、何やら昔のことを思い出した様子なのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

今回は鉄筋を滑り落としてしまうヒヤリ・ハットです。
滑り落ち、跳ね返った鉄筋が脛にあたってしまったのですが、大きな怪我にならなかったということで、ヒヤリ・ハットとしています。

鼠川も普段であれば、こんなミスはなかったでしょうが、猛暑に当てられてしまったのでしょう。 軍手が滑るとなると、かなりの汗であったはずです。

炎天下だと、短時間で急速に体の水分が失われてしまうので、注意が必要です。 自分で思っている以上に、脱水しており、喉が渇いた時には、すでに全身からかなりの水分が失われているようです。

こまめにと言っても、人それぞれの間隔だよりになるので、ここは30分にコップ1杯というルール決めも大事ではないでしょうか。

さて、熱中症については、また別の機会に譲るとして、落下のヒヤリ・ハットです。

作業において、手で運ぶという行動は非常に多いです。 ハンマーやペンチ等の工具から、木材や鉄筋などの材料まで、大きいものから小さいものまで、あらゆるものを持ち運びます。

物を持ち運んでいる時に、落としてしまったということは、誰でも経験があるでしょう。 その時に、運悪く足の上に落としてしまって、痛い思いをしたことも、あるのではないでしょうか。

軽く小さなものであれば、少し痛いくらいですみます。 しかし、落とすものが重かったり、刃物だったりすると、危ないですよね。

建設業に限りませんが、作業場では足の上に落とすと、大怪我になる物も少なくありません。 足の上へ物が落ちた時に、怪我を防ぐため、つま先の部分に鉄板を仕込んだ安全靴というものがあります。

作業場では、安全靴を履くことが怪我防止に重要です。

鼠川も鉄筋を落としましたが、安全靴のお陰で、つま先が押しつぶされるという危険は避けられました。 ただ残念ながら、跳ね上がった鉄筋までガードできませんでしたが。

忙しい時や、暑い寒いの極端な環境下では、注意力は疎かになります。 気づかぬうちに危険に踏み込むことすらあります。

足元の保護のため、安全靴は必ず履きましょう。 また鉄筋を落としたきっかけは、軍手が滑ってしまったことですが、すべり止め付きの軍手を使うのも大事ですね。 そして、落とさないためには、一度に持つ量を加減することも重要です。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめましょう。

ヒヤリハット 軍手が滑って、鉄筋を落とし、脛に当たった。
対策 1.すべり止め付軍手を使用する。
2.材料は一度にたくさん持たない。

炎天下の作業は、どうしても頭がぼんやりして、普段起こさないような事故を招いてしまいます。 作業の手を止めてしまうので、非効率的に思うかもしれませんが、30分に1度程度小休止を入れたいところです。 これによって、安全に作業できますし、疲労も抑えられるので、かえって効率はよくなることも考えらます。

年配の方や、作業に慣れていない人がいる作業場では、休憩も指導しましょう。

さて、夏の太陽を見上げ、鼠川は何やら思い出したようですが、どんなことがあったのでしょうか。

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