厚生労働省労働局長登録教習機関
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リーマン・ショック以降、世界中の経済が冷え込みました。 日本でもこの影響で、デフレが深刻化しました。
不況になると、会社は業績が悪くなり、新入社員の採用もかなり控えられました。
就職氷河期の底の底でした。
さらに新規採用だけでなく、給料が上がらない、リストラなどで、労働者の立場は苦しくなってしまいます。
このような労働者不遇の時、ブームになった本がありました。
小林多喜二の「蟹工船」です。 翻訳も新たにされ、読みやすくなったこともあり、よく売れていました。
「蟹工船」はかなり悲惨な現場で働く人たちを描いていますが、彼らに自分自身と重なるものを見ていたのかもしれません。
小林多喜二などは、労働者の文学、いわゆるプロレタリア文学に分類されます。
大正から昭和初期にかけて、近代化を推し進めていく日本の闇の部分が、悲惨な労働環境でした。
劣悪な環境で働き、事故や怪我、病気が蔓延している労働現場。
「あゝ、野麦峠」や「女工哀史」なども、近代化の影で命を落としていく労働現場を描いている作品です。
葉山嘉樹の「セメント樽の中の手紙」 |
このようなプロレタリア文学の中に、葉山嘉樹の「セメント樽の中の手紙」という作品があります。
この作品、わずか5ページほどの短い話です。
学校の教科書にも掲載されているようなので、読んだことがある人も多いのではないでしょうか。
短い話ですし、青空文庫では無料で読むことができます。
内容は、かなり凄惨なものです。
コンクリート打ちのため、セメントを練っていた職人が、樽の底に木箱があるのを見つけます。
何だろうと気になり、持ち帰って開けてみると、その中には1通の手紙がありました。
その手紙には、衝撃の内容が書かれていました。
手紙を書いたのは、セメント工場で働く女性です。
彼女には同じ工場で働く恋人がいました。
彼は砕石を破砕機(クラッシャー)という機械に入れる仕事をしていました。
ある日の作業で、彼はその破砕機に巻きこまれます。
周りの人たちは助けようとしますが、彼はそのまますっぽりと引きこまれてしまいました。
破砕機の出口からは、赤いセメントが出てきます。
そして、恐ろしいことにその赤く染まったセメントは、樽詰めされ、出荷されていったのです。 彼はセメントになってしまったのです。
彼女が手紙を書いた理由。
それは、彼がどこの現場で使われたかを教えて欲しいというものでした。
彼のセメントは、とある発電所に使われました。
それが彼の墓です。
建物が彼の墓標なのです。
わずか5ページほどの間に、こんな内容が書かれています。
この作品が書かれた時、労働者の権利などは低いものでした。
怪我と弁当は、自分持ち。 そんなことも言われていました。
今とは大きく状況が異なります。
しかし、同様の事故は、今も起こっています。
破砕機に巻き込まれる事故など、極めて痛く怖い事故です。
さすがに事故があった製品をそのまま出荷はありえません。
倫理的にも品質的にも、絶対NOです。
事故の対策も、この作品が書かれた時より、はるかに進んでいます。
でも事故は起こってしまいます。
機械とはほどほどの距離感で |
機械メーカーは、日々性能も安全性も改良を重ねています。
安全設備については、法的に規制があることに加え、メーカーの努力で安全性を高めているのです。
事故の確率は減っています。
残念ながらゼロへの道は、まだまだ遠いようですが。
機械自身の安全性能が進歩したのですが、最終的に安全に作業をするのは人の手にかかっています。 全てを機械任せにすると、命取りです。
事業者、管理者は安全に作業させることに、力を注がなければなりません。
作業者は、自分と同僚の安全を守ることに、集中しなければなりません。 機械の性能と、人の意識と行動が一緒になって、安全が作られるのです。
「セメント樽の中の手紙」のような事故は、遠くて近い話です。
遠い時代だけれども、身近に起こることです。
長い間仕事に携わっていると、「機械に巻きこまれたら死ぬ」という事実が頭から抜けます。
そんなことないだろうと、思うかもしれません。 一緒に働いているうちに、機械も相棒になります。相棒に牙を剥かれるなんてと、油断してしまいます。
機械はある意味、野生の動物に似ているのかもしれません。
ある程度コントロールできるが、気を許しすぎたり、油断すると、襲われます。
柵の中にいるのを見るくらいが、調度良い距離感なのでしょう。
ぜひ、機械は怖く痛いものなんだという教訓になる作品ですので、安全教育で使ってみるのをおすすめします。
自動車免許の更新の時に、事故現場の映像とかを見せると、身が引き締まるみたいになるのではないでしょうか。
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野生の動物も工作機械に挟まれたり、巻き込まれたりしたら当然大ケガするか死んでしまいます。熊だろうがライオンだろうが。