○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、吊りしパイプで、板倒す

entry-394

こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第50話「猫井川、吊りしパイプで板倒す」
保楠田と猫井川、鼠川は、型枠支保工を行なうことになりました。

型枠支保工とは、一度に大量のコンクリートを打ち込む時、通常の型枠で押さえこむだけでは、コンクリートの内圧に負けてしまいます。 型枠がコンクリートの内圧に負けないためには、かなり強い力で外部から締め付けてやる必要あります。

ちょうど、掘削作業で土砂崩壊を防ぐために、土止め支保工を行なうのと同じなので、これを型枠支保工といいます。
型枠支保工は、型枠を鉄パイプなどを組付けて、かなりの力にも耐えられるようにしたものなのです。

保楠田は、型枠支保工の作業主任者資格を持っているので、今回の作業の指揮に当たることになったのです。 今回、犬尾沢は不在ですので、少しだけ緊張感が和らいでいるのでした。

「猫ちゃんは、型枠支保は初めて?」

作業に先立って、保楠田が尋ねました。

「はい。土止めはあるんですけど、型枠は初めてです。
 こんなにでかい構造物って、あんまりないですよね?」

「そうだな。ワシが現役の時は、よくやったけどな。
 ゼネコンの下請けで、岸壁だとか、堰堤だとかな。
 最近は、うちの会社も小さいものが多いから、型枠支保工まで必要なのは少ない気がするな。」

猫井川の問いに、鼠川が答えました。

「そうだね。この10年は、かなり減ってきた気がする。
 まあ、俺は前の会社でも、よくやってたから、今日は任せておいてよ。」

保楠田がそう言うと、今回の作業の段取りにかかりました。

「まあ、基本は土止めと同じで、型枠に腹起しをつけて、ハリで支えるんだよ。
 そんなに広い場所じゃないから、支持をしっかりとる必要があるけどね。
 まずは、材料をサイズごとに揃えていこう。」

普段は、仕切りを犬尾沢に任せている保楠田が、今日は活き活きと指示しています。
猫井川と鼠川は、保楠田の指示に従い、材料をトラックから下ろし、並べていきました。

「じゃあ、型枠を作っていこうか。」

設計図に従い、コンパネを並べ固定していきました。
一区画のコンパネを固定すると、鉄パイプもセットしていきます。

「ちゃんと水平に固定してね。猫ちゃん、左をちょっと上げ。」

保楠田の指示で、どんどん組み上がっていきます。

作業がある程度進んできた時でした。

「あ、猫ちゃん、パイプが足りないや。
 倉庫に行って、ユニックで取ってきてくれる?」

「分かりました。」

猫井川は、そう言うと、ユニック車に乗り込み、自社の倉庫に向かったのでした。

「猫ちゃんが帰ってくるまで、休憩しましょうか。」

保楠田が、鼠川にそう言うと、

「おう、久しぶりの作業だから、少し疲れたな。
 何飲む?コーヒーくらいおごってやるぞ。」

鼠川もほっとした様子でした。

猫井川の分のコーヒーも買うと、2人は日陰で休憩しました。

「今年は、まだまだ暑いですね。」

「ああ、そうだな。年をとるときつい。
 そういえば、お前、この前熱中症になったらしいな。」

「そうなんですよ。急にしんどくなって。
 その後、犬尾沢くんに言われて、病院に行きました。」

「おお、そうか。大丈夫だったんだな?」

「ええ、軽い熱中症ということでした。
 点滴したら、楽になりましたよ。」

「昔に比べ、気を使うようになったな。」

「そうですね。
 それに、体調を崩した時は、独り身は辛いなと思いました。
 鼠川さんが、羨ましい。」

「お前もいい人を見つけなければだな。
 当てはないのか?」

「全然ですよ。帰っても、母親とテレビ見るくらいです。」

「それは寂しいな。
 前も言ったが、何がきっかけになるか分からんからな。」

「そうですね。
 俺にも出会いが降ってきて欲しいですよ。」

「見合いとかどうだ?聞いてやるぞ。」

「まあ、いい人がいれば、お願いします。」

「そうか、じゃあ知り合いに聞いてみるよ。」

おっさん2人が恋話をしている一方、猫井川は倉庫で1人作業していました。

「さて、コンパネも何枚か持っていったほうがいいな。」

持っていくコンパネを5枚壁に立てかけて、仮置きしました。

「鉄パイプを荷台に載せて、上からコンパネで押さえよう。」

ユニック車のクレーンを操作すると、鉄パイプを数本束ね玉掛けしました。
そして、そのまま持ち上げていきました。

パイプが持ち上がった時、少しバランスが崩れたのでしょうか、鉄パイプが宙でくるくると回転しました。

「あ、やべ、1回降ろそう。」

そう言って、クレーンを操作した時でした。

回転する鉄パイプが、立て掛けてあったコンパネに当たり、コンパネが倒れてきたのでした。

バタバタバタと、猫井川のすぐ側をかすめて倒れていきました。
風圧を感じる猫井川。

しばらく、ユニック車のエンジン音だけが響く以外、何も音がしない状況が続きました。

「やっべ。当たりそうだった。パイプをとりあえず降ろそう。」

我に返った猫井川は、すぐさま鉄パイプを地面に降ろしました。
少し冷や汗をかいた猫井川。

気を改め、コンパネを持ち上げようとした時、

「こらー、猫井川。玉掛けをきちんとしろ!」

響き渡る怒声。

ちょうど、倉庫に入ってきた犬尾沢にバッチリ目撃されていたのでした。

何ともタイミングの悪いことか。
猫井川のヘコむ心をがっちり押さえこむ、支保工がほしいなと薄っすら思うのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

今回は、鉄パイプなどを使った、型枠支保工での現場で起こったヒヤリ・ハットです。
実際には、パイプをトラックに載せるときに、起こしてしまったものですけども。

コンパネ板や鉄板など、すぐに使う材料は、地面の上に置かず、立て掛けていおくということはよくあります。 多くの場合は倒れたりすることはありません。

しかし、今回の猫井川のように、クレーン作業中に吊り荷が接触してしまったり、突風が吹いたりすると、立て掛けた物は倒れこんできます。
倒れこむ先に、誰もおらず、何もなければよいのですが、もし人が居ようものなら。
実際に、足場の鉄板が倒れ、近くを通りかかった人に当たっという事故もあります。

ほんのちょっとした時間の仮置きに過ぎませんが、もしもということがあります。

そして、このもしもが大事故になってしまうことが多いのです。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめましょう。

ヒヤリハット 鉄パイプを吊り上げたらコンパネに当たり、倒れてきた。
対策 1.コンパネなどは立て掛けて、仮置きしない。
2.鉄パイプなどの玉掛けは、回転しないようにする。

保楠田と鼠川のおっさん2人も、恋の話をするんですね。
この2人の話なのですから、中身は、非常に濃そうです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA