厚生労働省労働局長登録教習機関
北海道・宮城県・岩⼿県・福島県・東京都・⼤阪府・福岡県
事故が多い世代は、高齢者だけではありません。対象的な年齢層である若年層、つまり10代後半から20代の事故も多いのです。
平成24年度で、20代の死傷事故を年千人率で比較した場合、全世代が2.6であるのに対し、若年層は3.5という結果になりました。
年千人率とは、千人当りの死傷者数です。20代の作業者が1000人がいれば、3.5人事故にあうということです。
中災防:若年労働者の労働災害防止のための安全衛生管理手法の開発に関する調査研究 中間報告書の概要
高齢者が事故にあう原因は、身体的な衰えによるものです。
しかしこの原因は、若い世代には当てはまりません。もちろん、中には若者より頑強な高齢者もいるでしょうけども。
原因は、別のところにありそうです。
20代で欠けているものは何か。
それが事故の原因と言えそうです。
事故の背景は |
『若年労働者の労働災害防止のための安全衛生管理手法の開発に関する調査研究 中間報告書』(平成24年3月)によると、若年層の事故原因は、「人間特性」によるものが多いとのことです。
「人間特性」とは、聞き慣れない言葉ですよね。これはいわゆる「ヒューマンエラー」というものです。
ヒューマンエラーは、人間が起こすミスのことです。その多くは「認知」、「判断」、「行動」によるものです。いわゆる「不注意」、「うっかり」、「勘違い」、「錯覚」、「誤った行動」などです。
車の運転で考えると分かりやすいかもしれません。信号を無視したり、スピードを出しすぎる、左右の確認を行わない、飛び出し者を見落とすなどです。これらのことは免許取り立ての時の方がやってしまうのではないでしょうか。
仕事でも、慣れていない間は、失敗が多くなり、これが事故の原因になってしまうのです。
「人間特性」に次いで多い事故原因は、「技術不足」、「知識不足」、「危険への感受性が低い」、「教育が不十分」、「コミニュケーション不足」などが続きます。
仕事を始めたばかりの頃は、技術も知識も乏しいです。さらに何が危険かもよくわかっていません。若年層の事故では「有害物との接触」といった事故が多いのです。これは有害物の危険性を知らないことが原因であるといえるでしょう。
一方で、高齢者に多い「転倒」は少ないのも特徴です。
仕事を始めた若い人が知識や技術が不足しているのは、仕方ありません。誰もが最初は初心者です。時間をかけて勉強し、仕事して一人前になっていくものです。しかし事故はその成長を待ってくれないのも事実なのです。技術が不足してても、事故を防ぐこと。これが若者を雇用する事業者の責任といえます。
若者を雇うと、しっかり教育する必要があります。教育には時間がかかります。 この教育コストと時間を考えたら、事業者としては、すでに経験を積んでいる高齢者を雇う方が即戦力になると考えるのかもしれません。高齢者の雇用が増えているのは、こういう原因もあるのかもしれません。
ところが、高齢者はずっとは働けません。長く会社を持続させるためには、若い世代を育てていくことが大事なのは言うまでもありません。
若年層の事故を減らすには、何が必要か。
この課題への取り組みは、急を要すものと言えます。
若年層の事故防ぐには |
仕事を始めたばかりの若年層の事故防止を本人任せにしてはいけません。本人では、判断がつきません。
何よりも大事なのは、教育と監督です。
しかし教育は大事とわかっていても、じっくりと研修を行うことは、大企業でない限り無理でしょう。ほとんどの場合、仕事をしながら、覚えさせていきます。
いわゆるOJTというのです。OJTは実践的に仕事を覚えていけるのですが、仕事を行うので危険を伴うことも事実です。
OJTでは何から教えればいいのか。多くの場合は、1に作業方法、2以降も作業方法という感じです。安全や危険に関することは、後回しになりがちです。
しかし最初に教えることは、危険についてであるべきではないでしょうか。
怪我をしたら仕事にはなりません。本人の辛いですが、雇っている事業者も休業されると困るはず。事故が原因で退職ともなると、それまでの教育コストが水の泡になります。コストを考えると、安全を優先的に教えることが大事です。
安全については、どんなことを教えればいいのでしょうか。
まずは、教える側が常識だろうと思っていることは、相手にとっては常識ではないことを理解しておく必要があります。
例えば、ショベルカーのバケットが動いている時に、接触すると危険なのは、当たり前のように思います。裁断機に手を入れるとダメとか、化学薬品を素手で触ってはいけないとか、当たり前すぎで気にも止めないことかもしれません。しかしこのこともきちんと教えなければなりません。
まず何が危険かを教えるのが大事ではないでしょうか。
教育係が経験的に知り、常識だろうと思っていることであっても、言葉にして、伝えなければなりません。「見ていればわかる」、「経験を積めばわかる」はダメです。見て盗め的な教育より、言葉で教える方がはるかに効率的です。
作業方法を教えるときには、その作業によって起こる危険もセットで教えましょう。作業だけでは片手落ちです。
そして、これが重要な事ですが、教育は一度教えて終わりではありません。同じことを何度も何度も、身につくまで教えましょう。
繰り返し繰り返し。これがポイントです。
誰でも一度見聞きしただけで、覚えるという人は少ないですよね。繰り返し触れて覚えるのではないでしょうか。作業も危険ポイントの理解も同じなのです。
教える側にとっては、繰り返し同じことを言うのは面倒でしょう。でもなぜ繰り返し教えなければならないのかを、きちんとわかってもらいましょう。教育者を教育するのは事業者の責任です。
分からないところを質問してといっても、教わる側は何が分からないかも分からないことも多いです。 繰り返し教え、身につけていくにつれ、質問も出てくるでしょうから、その時までじっくり腰を据えて教える必要があります。
若年層は、無茶もしたがる傾向もあります。あえて無謀で危険なことをやりがちです。 ノーヘルでバイクに乗ってしまうのに似ていますが、分かっていても、危険に身を浸したいのです。
作業場での、ルール違反や危険行動は、厳しく注意しましょう。その場合も、ただ怒るだけでは、効果はありません。きちんと理由を説明します。安全帯を着用せず、高所作業を行うのは、なぜ危険なのかをきちんと説明します。
この説明不足は、反発を招きかねませんので、この点は注意が必要ですね。
若年層の事故防止のためには、教育が大事ですが、同様にコミュニケーションの充実が重要といえます。コミュニケーションが苦手という人も多い世代ですが、他愛のない話ができるようにすることが、大事なのでしょう。コミュニケーションがとれていれば、注意もしやすいです。
じゃあ、コミュニケーションなんて、どう取ればいいの?と思う人も多いと思います。私も人見知りするので、初対面の人とのコミュニケーションは苦手です。それでも、現場を担当すると話さなければならなくて、割り切っています。
コミュニケーションが苦手な人にとって、これといった打開策があるわけではありませんが、教育担当者はある程度割りきらなきゃいけないのかなと、少し無責任ながら思います。
ただ、苦手苦手といっていると、目の前の人が事故になってしまう可能性があるのも確かです。何を大事と思うか。事故を一つでも防げるならば、苦手なコミュニケーションに勇気を出すのは、とても意味のあることだと思います。