○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

鼠川、丁張糸に足をとられる

entry-518

こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第68話「鼠川、丁張糸に足を取られる」
犬尾沢たちは、新たな現場を受け持つことになりました。
今回の工事は、工場の敷地をぐるっと囲う擁壁を作ることです。
延長距離は、約200メートル。
結構な長さになります。

擁壁はコンクリートで作りますが、それに伴い、掘削したりとやることがたくさんあります。
とはいうものの、擁壁だけなので、それほど大きな仕事ではありません。

犬尾沢は、この工事を受けたとき、少し思うことがあり、鼠川に相談を持ちかけました。

「鼠川さん、今回のこの工事なんですけど、猫井川に仕切らせようと思うんですけど、どう思います?」

「あー、確かにそれはいいかもしれないな。  あいつもそこそこ経験を積んでるし、将来的にはお前の代わりに現場を仕切ってもらわなければならないだろうし。」 「そうなんですよね。
 これは仕事量としては、それほど多くないですし、やりやすいんじゃないかと思うんですよ。」

「うむ。最初にやるのには手頃かもしれないな。」

「おれもサポートするんですけど、できれば鼠川さんがずっと張り付いて、面倒見てやってくれませんかね?」

「そうだな。わしが出来ることはやるか。猫井川を一人前にしていかないとだしな。」

「ええ。お願いします。じゃあ、今回の現場は猫井川に仕切らせます。」

「わかった。わしは猫井川のお守りだな。」

「そんな感じですね。でも、ビシビシ厳しく指導してやってください。」

「任せとけ。責任重大だな。」

少し気を張った様子で、鼠川は答えました。
その様子にどこか違和感を感じた犬尾沢は、

「鼠川さん、最近少し疲れてません?」

と聞きました。すると、鼠川は、

「いや、大丈夫だ。まあ、わしも年だから疲れもあるさ。」

「そうですか?年といっても鼠川さんは元気な方ですからね。」

「そりゃそうだ。嫁さんも若いしな。」

「そうですね。それじゃ猫井川にこのことを話してきます。」

そう言うと、犬尾沢は猫井川の元へ行きました。

「猫井川、ちょっといいか。実は今度の擁壁の現場だけども、お前が仕切れ。」

「ええっ!」

猫井川の素っ頓狂な、声が上がったのでした。

猫井川にとって初めてリーダーとして任される現場です。
計画を立てたりと準備を進めていきながら、ひとまず現場で測量を行い、丁張を行うことになりました。

初めて訪れる現場です。
今回は、猫井川と犬尾沢、鼠川で向かいました。

「ここが現場ですか。」

現場に到着すると、猫井川が言いました。

「ああ。この工場の敷地をぐるっと擁壁で囲う。
 擁壁は図面の通り、重力式擁壁だから、掘削してからコンクリートで打つことになる。

 ある程度、工場本体の作業が完了しないと、作業にかかれないけど、丁張はやっていけるな。」

犬尾沢がそう簡単に説明しました。

「いつから現場に入れるかとかは、猫井川が確認するんだぞ。
で、猫井川、今日はどこまでする?」

「今日は、とりあえず作業範囲だけ確認します。他の作業の邪魔にならない程度に、杭を打って、張れる範囲だけ糸を張ります。」

「糸はいいけど、残してはおけないな。」

「そうですね。だから今日は通りを見て、外します。」

「そうか、仕切りは任せたよ。」

犬尾沢はそう言うと、車から水平器とスタッフを取り出しました。
猫井川はレベルを受け取ると、三脚を持ち、セットに向かいました。

「犬尾沢さんは、仮ベンチマークにいってください。」

犬尾沢は指示を受けるとスタッフを片手に、仮ベンチマークに向かいました。

「鼠川さん、三脚はこの辺りがいいでしょうか?」

「そうだな。そこだったらベンチマークから見やすいし、いいんじゃないか。」

鼠川のOKをもらうと、猫井川は三脚をセットし、水平器をセットしました。

「犬尾沢さん、水平器のセットはOKです。ベンチにスタッフを立ててください。」

犬尾沢にそう叫び、測量を始めました。

猫井川は犬尾沢や鼠川の指示を受けながら、敷地や擁壁の位置を割り出し、丁張を進めていきました。

だいたいの杭とトンボが打ち終わり、擁壁の通りを見るための糸を張り終えたとき、鼠川は猫井川に言いました。

「糸で通りを見るだけじゃなくて、地面にスプレーで描いて位置を確認するといいかもな。」

「あ、そうですね。あれ、スプレーはあったかな?」

「それじゃ、わしが取ってきてやる。お前は位置出しを進めていけ。」

鼠川はそういうと、車に向かいました。

丁張の糸は、地面から20センチ位の位置に張られています。
鼠川が向かう先には、糸が横切っています。
じゃまにはなるものの、車から行って帰ってくるくらいなので、いちいち外してられません。

鼠川は糸をまたごうとした時でした。
持ち上げた足は、彼の予想を下回り、そのつま先が糸に引っかかってしまったのでした。

糸はつま先に絡まり、捉えます。
鼠川は、糸のトラップに引っかかり、ひっくり返ってしまいました。

突然倒れた鼠川に驚き、猫井川がすぐに駆けつけました。

「大丈夫ですか?」

「お、おう。大丈夫、どこも打ってない。
 年だから駄目だな。足が上がらなかった。」

「すみません、糸は必要以外は外しておくほうがいいですね。
 スプレーはおれが取ってきますよ。」

鼠川を立たせると、猫井川はヒョイと糸をまたぎ、車に向かいました。

「ああ、こんな糸に引っかかるなんて。考えものだな。」

ガクンと肩を落とす鼠川。

「復帰したものの、あんまり長くはできないかもな。
 その前に、やらなきゃならないこともあるな。」

猫井川の後ろ姿を見ながら、そう小さな呟きをこぼしたのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

今回のはヒヤリ・ハットというか、鼠川が実際に倒れてしまっているので、未然に防げたものではないのですけど。
しかし、怪我はなかったので、ヒヤリ・ハットに含んでいます。

これと同じ状況が、私の現場でも起こりました。
作業者ではなく、警備員が丁張りの糸をまたごうとして、転倒してしまったのです。

その警備員は、かなり高齢なのですが、どうも足が上がりきらなかったようです。

丁張では、杭や桟木を使ったトンボを打ち、糸を張ります。
細い糸ですが、これがかなりの障害にもなるのです。

私も足下に張られていた糸を見逃し、一度切ってしまったことがありました。

現場にはなかなかのトラップが潜んでいるのです。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット 丁張の糸をまたごうとしたら、引っかかって、転倒した。
対策 1.糸の位置をまたぎやすい、またはくぐりやすい位置にする。
2.必要以外では糸を外しておく。

土木作業等の現場では、重機を使用する危険はありますが、準備段階にも危険があるのです。
猫井川が初めて請け負う工事です。うまくやれていくのでしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA