厚生労働省労働局長登録教習機関
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今年の年明け早々、埼玉県の本庄市で2名もの方が亡くなる事故がありました。
事故については、事例として別の記事で書いていますので、詳しく状況などを書いたりはしませんが、この事故の原因となったものは、有毒ガスです。
何らかの原因で、有毒ガスを中に貯めたタンクが爆発し、ガスが漏れ出しまし。そのタンクの周りでは、防毒マスクを着けていない作業者がいたのですが、ガスはこの人たちを襲いました。そして大きな被害を出してしまったのです。
モノ作りでは、材料に何らかの加工を行います。
それは、切ったり、穴を開けたりといった、物理的な手の加えかたばかりとは限りません。
薬品等を使った加工もあります。この時使われる薬品や化学物質は、必ずしも人体や環境に害のないものではありません。また薬品そのものの毒性は低くとも、何かか混ざることで、猛毒になるものもあります。
薬品などの化学物質は、取り扱いに注意が必要なのです。
また化学物質は、種類が多いのも特徴として挙げられます。その種類は、約6万種とか。さらに毎年100Kg以上の新規届出製造は1200種類、少量の新規製造届出は17000種類もあるそうです。
もちろん全ての物質が有害なのではありませんが、一部は毒性が強いものもあります。中でも、アスベストなどのように特に有害な物質は製造そのものが禁止されています。しかし製造や使用が認められているが、かなり毒性が強いものもあるのです。これらはSDS(安全データシート)などで管理され、規制されています。
安衛法では、特に640物質について、SDS等で管理するように規制しています。
しかし種類が多く、毎年のように新規の物質が生み出される現状を考えると、全ての物質の危険性を把握し、規制するのは不可能なのは分かりますよね。規制されていないけど、実は危険というものも、いっぱい潜んでいる可能性が高いです。その最たる例が、大阪の印刷会社で起こった胆管がんの事例でしょう。この原因となった物質は、当時は規制されていなかったのてす。
禁止されていないからといって・・・な事故。大阪の印刷会社で胆管がん発症
法律だけで規制するのは、限界があります。また日進月歩で新たな物質が生み出される状況を考えると、危険性が判明する度に規制物質を追加する方法はいたちごっこです。
これらの状況に対応するため、平成26年度の安衛法改正で、化学物質の取り扱いに関して、リスクアセスメントが義務化されました。今までリスクアセスメントは、化学物質の取り扱いも含め、努力義務でした。他のリスクアセスメントは引き続き努力義務ですが、化学物質の取り扱いのみ必ずやりましょうという義務になったのです。
条文としては、次のとおりです。
【安衛法】
第57条の3 事業者は 厚生労働省令で定めるところにより 第 事業者は 、厚生労働省令で定めるところにより 、 第57条第1項 の政令で定める物及び通知対象物による危険性⼜は有害性等を調査しなければならない。 2 事業者は 前項の調査の結果に基づいて この法律⼜はこれに 事業者は 、 3 厚生労働大臣は 第 厚生労働大臣は 、第28条第1項及び第3項に定めるもののほか、 4 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者⼜はその団体に対し |
ポイントは、第1項の「調査しなければならない。」です。やらなければならないと、はっきり書かれているのです。
とはいうものの、全ての物質が対象なのでは、ありません。対象になるのは、SDS対象となる670物質の この変更は、交付日の平成26年6月25日から2年以内に施行なので、現時点では施行されてはいませんが、近々施行されるのは、間違いありません。
化学物質取り扱いるリスクアセスメントは、他の製造業などで行われるリスクアセスメントと、進め方がちょっと違いそうです。
今回は、このリスクアセスメントの違いについて、簡単にまとめてみようと思います。
なお、化学物質のリスクアセスメントについて、詳細は中災防にわかりやすい資料があるので、こちらもご覧ください。
化学物質のリスクアセスメントの進め方 |
どんな違いがあるかを見る前に、まずは一般的なリスクアセスメントの手順を見てみます。
いわゆる一般的なリスクアセスメントの手順は、次の通りです。
1.どんなリスクがあるのか?(リスクの特定)
2.そのリスクは、どれほどの頻度で起こり、事故になった時にはどれほどの重大な結果になるのか?(リスクの見積)
3.リスクの見積結果を踏まえて、どのリスクから手をつけるのか、どのような対応をするのか?(優先順位と対策の検討)
4.リスク対策を実際に行う。(対策の実施)
簡単にまとめると、リスクを見つけ、見積もり、優先順位を決め、対策するです。
リスクアセスメントの特徴は、リスクの見積もりというプロセスにあると言えます。この見積もりは、危険に近づく頻度、危険に巻き込まれる可能性、事故にあった場合の被害の重さから判断します。
リスクアセスメントとは、リスクの大きさを見積もり、優先順位を決めて、リスクを小さくするためのものです。この目的は、製造業や建設業であろうが、化学物質であろうが変わりません。
それを踏まえた上で、化学物質を取り扱う時のリスクアセスメントを見てみます。参考にしたのは、中災防の化学物質 化学物質のリスクアセスメントとはです。
1.どんな化学物質等による危険や有害性があるか?(リスクの特定)
2.そのリスクは特定されたどれほどの危険性又は有害性があるか?(リスクの見積り)
3.リスクの見積もりを踏まえて、優先度を決め、低減するためにどのような対応をするのか?(低減措置の検討)
4.優先度に対応したリスク低減措置を行う。(対策の実施)
一見すると、手順は似たようなものですね。どうやら手順は同じでも、内容に違いがあるようです。
1のリスクの特定はほぼ同じだと言えますが、危険や有害性の特定のために、SDS等が必要になるので、あらかじめ入手しておきましょう。
特徴的なのは、2の見積もりの仕方です。
化学物質のリスクの見積もりは、危険性と有害性の観点から検討します。
危険性については、発生の可能性と負傷や疾病の重篤という影響の大きさから、見積もります。有害性については、化学物質の有害性の強さという度合いと、ばく露量(程度)から、見積もります。
化学物質のリスクを見積もりは、この有害性が特徴であるといえそうです。
3の低減措置の検討ですが、これも特徴的なものがあります。
・危険性又は有害性の高い化学物質等の使用の中止、代替物質への変更
・化学反応のプロセス等の運転条件の変更、化学物質等の形状の変更等
・工学的対策・衛生工学的対策(設備の防爆構造化、局所排気装置等)
・管理的対策(マニュアルの整備、立入禁止措置、ばく露管理等)
・個人用保護具の使用
概ね同じですが、危険性や有害性の低い物質への変更、または化学反応プロセスなどの運転条件の変更という本質的対策が、やや特徴的と言えそうです。
4は、決めたことを実行することですから、同じですね。 この手順にはありませんが、リスクアセスメントは、評価と見直しが大事ですので、定期的に見積もりしなおすことも大事です。
以上のことをまとめると、化学物質のリスクアセスメントは、一般的なリスクアセスメントと手順などは、大きく違いはないものの、リスクの見積もりの仕方に有害性という観点が入るのが特徴と言えそうです。
ところで化学物質のリスクアセスメントについては、簡易な方法もあります。それは「コントロール・バンディング」という方法です。海外でも活用されている方法なので、実績のあるものといえそうです。
こちらも参考にしてみてください。
化学物質のリスクアセスメントを簡単にまとめてみたのですが、私は普段化学物質の取り扱いを行っておりませんので、非常に疎いです。そのため、突っ込んだ内容までは踏み込めていません。
今後、リスクアセスメントが義務化に伴い、どうしたらいいのかと悩まられる事業者さんもあるかと思います。理想は、リスクアセスメントのやり方を学び、自分たちで実行することでしょう。しかし、なかなか難しいのも事実です。
もしリスクアセスメントをやってもらいたい、相談したいと思われたならば、化学に強い労働安全コンサルタントか労働衛生コンサルタントに問い合わせるとよいかもしれません。
コンサルタントは、各都道府県のコンサルタント協会に聞くと、紹介してもらえますよ。
義務化にあたり戸惑いを感じることもあるかもしれませんが、やり始めれば慣れてくるものだと思います。最初のうちは専門家に相談しつつ、導入していくのがよいのではないでしょうか。