厚生労働省労働局長登録教習機関
北海道・宮城県・岩⼿県・福島県・東京都・⼤阪府・福岡県
2020年の東京オリンピックに向けて、すったもんだの末、新しい国立競技場のデザインが決定し、今後建設が進んでいきます。これに先立ち、旧国立競技場は取り壊しが行われました。
一度作った建物や構造物は、長い時間が経つと劣化します。劣化したものをそのまま使い続けると、自然崩壊などの危険があるため、新しく作りなおす必要が出てきます。
また劣化は激しくなくとも、新しく建物などを立てるときには、以前からある物を取り壊さなければなることも少なくありません。
構造物を取り壊すときは、周りにその破片が飛び散ったり、落下してきたりするので、周囲に危険があるのです。大きなコンクリート片が落ちてきて、当たろうものなら、命の危険があるのです。
埼玉県戸田市の解体工事の現場で、作業者がコンクリートの下敷きになる事故がありました。
今回は、この事故の原因を推測し、対策を検討します。
事故の概要 |
事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。
落下したコンクリートの下敷きに 男性作業員が意識不明/戸田 (平成28年1月7日)
7日午前11時55分ごろ、戸田市の下水路の工事現場で、さいたま市の男性土木作業員が落下してきたコンクリートの下敷きになったと119番があった。男性は川越市内の病院に搬送されたが、頭と胸を骨折するなどして意識不明の重体。
蕨署によると、男性は同日午前9時から、同じ会社の作業員とともに「ボックスカルバート」と呼ばれる箱状下水路の解体工事を行っていた。別の作業員が発見した際、男性は上から落下したとみられる縦約125センチ、横約110センチ、厚さ約20センチのコンクリートの下敷きになっていたという。同署で事故原因を調べている。 |
この事故の型は「飛来・落下」で、起因物は「コンクリート片」です。
この事故は、下水路の解体工事の際に起こりました。
ボックスカルバートとは、コンクリート製で、中身がくり抜かれた、四角い箱で、寝かせると水を通すトンネルになります。水路が道路を下越しで横断する場合などに使われます。
このボックスカルバートの撤去では、ある程度壊し、小さな破片にして、持ち出します。
破片といっても、事故の時に落下したものは、大きさが約1メートル四方で厚さが20センチもありました。重量は100キロを超えていたことでしょう。そんなものの下敷きになったのですから、体への衝撃は相当だったはずです。
事故当時の記事によると、被災者は意識不明の重体となったようです。
それでは、原因を推測していきます。
事故原因の推測 |
事故の直接原因は、コンクリートの塊の下敷きになったことです。
落下したのは、破片をショベルカーのバケットに載せ、運び出そうとした時に落ちたのか、き裂の入った壁が崩れ落ちたのかもしれません。
解体現場なので、破片が落下したり、飛び散るのは、珍しくありませんが、コンクリートの塊の落下地点に、作業者がいたことが事故を深刻なものにしたのでした。
崩壊する恐れのある壁の近くや、ショベルカーが破片を載せて移動中に側にいたことが問題だといえそうです。
高所を伴う解体作業ではないのですが、事前に作業計画が作成されていたか、また作成されていても、きちんと守られていたかが、ポイントになりそうです。
それでは、原因を推測をまとめてみます。
1 | 破片の落下地点に、作業者がいたこと。 |
2 | 作業計画が作成されていなかったこと。 |
3 | 合図や破片の落下地点への立入禁止措置などが守られてはいなかったこと。 |
それでは、対策を検討します。
対策の検討 |
解体作業に限りませんが、工事を行うにあたっては、作業計画を作成しなければなりません。特に解体のように、作業者の危険を伴うような作業は、事前に調査が必要になります。
計画には作業者の安全を確保する方法については、しっかり検討しておく必要があります。
そして作成した計画を書類だけで終わらせては、意味がありません。実行してこそ意味があるのです。しかし実際の現場では、作業手順書の通りに行われないことも少なくありません。これは作業者が計画書の内容を把握していないこと、現場が計画通りにいかないということなどの理由もあります。あと、現場では計画書があまり重要視されていないというのもあるのでしょうけど。
また作業中は、解体に伴う危険を防ぐようにしなければなりません。壁などを倒す時は、合図して、作業者が避難させなければなりません。
なにより大事なことは、破片などが飛来したり、落下してくる危険がある場所から作業者を入らせてはいけません。ショベルカーが破片を運ぶ時には、距
離を保つ必要があります。
安全な計画を立て、現場できちんと安全を確保するのが、事故防止になるのです。
対策をまとめてみます。
1 | 作業計画を作成し、現場でも守る。 |
2 | 作業時は合図や立入禁止、作業時の安全距離の確保などを徹底する。 |
3 | 作業者への安全教育やKYを行う。 |
解体作業は、常に頭上への注意が必要になります。コンクリートの破片から自分の身を守るためには、飛来や落下の危険がある場所への立入りを制限するなど、気を使う必要があるのです。
違反している法律 |
この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。 【安衛則】
>第536条 3メートル以上の高所から物体を投下するときは、投下設備や監視人などの措置をとらなければならない。 |
第537条 物体が落下して危険がある場合は、防網や立入禁止などの措置をとらなければならない。 |
第538条 物体が飛来する危険がある場合は、飛来防止設備や保護具などの措置をとらなければならない。 |
これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。
飛来・落下の危険防止。