○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

保楠田、履帯でスリンする

entry-539

こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第71話「保楠田、履帯でスリンする」
木曜日、猫井川が全面的に受け持つ現場の準備は整い、いよいよ明日作業開始となりました。

夕方、みんなが事務所に戻ってくると、犬尾沢は猫井川に話しかけてきました。

「明日からだな。準備はできているか?」

「ええ、砕石ももう一車積んでいますし、大丈夫です。」

「明日は俺は行けないけど、鼠川さんと保楠田さんに行ってもらうから。」

「はい。2人にはお願いしています。」

「明後日の土曜は作業できるのか?」

「作業のお願いをしたら、OKだったので、やります。」

「そうか、明後日は俺も行くよ。
 とりあえず、明日は掘削だな。」

「そうですね。長さも結構あるので、土曜も掘削になりそうです。」

「だろうな。でもあまり広い場所ではないから、ある程度ごとに作っていかなきゃいけないかもな。」

「そうですね。なるべくならまとめてやりていですけど。」

「その判断は、鼠川さんとも相談して決めていってくれ。」

「はい。そうします。」

「それじゃ、明日から頼むよ。」

翌日、いよいよ作業開始の日となりました。

猫井川は、鼠川、保楠田と現場に向かいました。

現場で使用するショベルカーは、保楠田が運びます。猫井川と鼠川はダンプに乗って、現場に向かいました。 現場に向かう車中、猫井川は昨日犬尾沢と話したことについて、鼠川に話しました。

「昨日、犬尾沢さんと話していたのですけど、今回の擁壁は結構長さがあるので、ある程度区切って作っていったらいいんじゃないかと思うんですけど。」

「そうだな。長い間穴を開けておくのもどうかだしな。
 法面が崩れるかもしれないし。
 順々にやっていくのが、いいと思う。」

「では、どれくらいで区切りましょうか。」

「そうだな・・・て、わしが決めてどうする。
 お前の現場だろうが。
 お前はどれくらいならいいと思うんだ。」

「うーん、そうですね。
 掘削、型枠とか1日単位で作業していくのが、いいなと思うんですけど。」

と、窺い見るような目で鼠川を見ると、

「うん。それで、どれくらいならいいんじゃ?」

そげなく、返されます。

「そうですね。20メートルくらいなら、今日で掘削して、砕石、うまくいったら均しコンまで行けるかなせ思うんですけど、どうですか?」

「いや、だからそれはお前が決めるんだって。
 今日均しコンとか言ってるけど、頼んでいるのか?」

「いえ、まだです。」

「急に頼んでも無理かもしれんぞ。現場に着いたらすぐに数量を調べて、聞いてみろ。
 そもそも、こういったことは、先に決めなきゃダメだぞ。」

現場までの車内は、この計画のなさについての説教が続いたのでした。

現場に到着すると、猫井川はすぐに今日の作業範囲を決め、均しコンクリートの量を調べました。
量を出すと、すぐにコンクリートプラントに連絡したのでした。

「すいません。はい。その時間で、お願いします。」

電話を切ると、すぐに鼠川に伝えました。

「鼠川さん、コンクリートは3時半くらいでいけそうです。」

「そうか。じゃあ、それまでにやらないとな。」

段取りが決まり、作業の準備が出来ると、後は保楠田の到着を待つばかりでした。
しばらくすると、保楠田が到着しました。

到着後、ショベルカーを下ろすと、猫井川のもとに来ました。

「猫ちゃん、今日はどこをやるの?」

「えっと、急なんですけど、ここからここまで20メートルくらい掘って、砕石入れていきます。3時半に生コンが来るので、均しコンを打ちます。」

「えっ、今日コンクリート打つの?
 3時半だったら、あんまりゆっくりもできないね。
 早速はじめる?」

「急にすみません。区切って作っていく方針でいこうかと思って。
 あまり余裕もないので、よろしくお願いします。」

打ち合わせが終わると、作業にとりかかりました。

保楠田がショベルカーに乗り、掘り始めました。

丁張した範囲をガリガリ掘っていくと、猫井川たちはスコップやジョレンを持ち穴の中を平坦に均していきました。

だいたい目標の深さまで、掘ってきたら、保楠田はいったんショベルカーを止めました。

「深さを確認する?」

運転席から顔を保楠田に、猫井川は、

「そうですね。一回見ましょう。箱尺持ってもらっていいですか?」

猫井川はあらかじめ設置していた水平器のところに向かい、保楠田はショベルカーから降り、穴の中に行こうとした時でした。

運転席から身を出し、履帯の上に足を乗せたところ、

スリン

と、滑ったのでした。

ズシンと尻もちをついてしまったのです。
あやうく、そのまま穴の中まで落ちてしまうところでしたが、かろうじてバランスをとり、転落をまぬがれたくらいです。

「あぶなかった〜。」

ほっと息をついていた保楠田ですが、じっと見られる視線を感じました。

その視線の主は、鼠川。

「見てたぞ〜。もうちょっとで落ちてたな。」

「いや〜、足が滑ってしまって。危なかったです。」

照れて顔を赤らめる保楠田でした。

尻もちから腰を上げると、今度は慎重に降りていったのでした。

ちらっと猫井川の法を見てみると、気づいていない様子。

少しだけホッとして、箱尺を手に取り、穴の中に降りていったのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

ようやく、現場が始まりました。
いきなり作業予定が変わってしまったのですが、ひとまずスタートをきることができました。

丁張りは、すでに終わっているので、早速掘削から始まったのでした。
ショベルカーは保楠田が運転していたのですが、降りるときに滑ってしまったのでした。

ショベルカーの足回りは履帯式のクローラー(キャタピラ)です。運転席はそのクローラーの上にあり、高い位置にあります。車の乗り降りとは違います。大きな動作になります。

大きな車体だと、履帯に足をかけて、乗り降りすることもあります。
ドロドロに汚れていたら、足を滑らせることもあります。

保楠田は長年ショベルカーに乗っていましたが、それでも時としては、滑ってしまうこともあるようです。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット ショベルカーから降りる時、滑って転んだ。
対策 1.履帯の状態を確認する。
2.足を下ろすのは履帯の中央とする。

いよいよ掘削が始まりました。猫井川の現場が形になっていくのも、これからですね。

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