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クレーン付きのトラック、ユニック車は重い荷物を運び、荷降ろししたりするのに便利です。現場に行って作業するのに、ユニック車1つあれば、相当はかどるのは間違いありません。
しかしユニック車はトラックの形はしているとはいえ、移動式クレーンに含まれます。
移動式クレーンの使用には資格が必要であったりと、規制も少なくありません。
なぜそのような規制があるかというと、吊り荷作業には危険を伴うからです。
秋田県大仙市でクレーン作業中に、ユニック車が転倒するという事故がありました。
今回は、この事故の原因を推測し、対策を検討します。
事故の概要 |
事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。
トラック横転し男性死亡、大仙市 クレーン作業で事故か (平成27年11月4日)
3日午後0時5分ごろ、秋田県大仙市の住宅建築工事現場で、会社員が横転したトラックの下敷きになっているのを近所の男性が見つけ、119番した。市内の病院に運ばれたが、約1時間20分後に死亡した。死因は圧死。助手席には娘が乗っており、頭部裂傷の軽傷を負った。
大仙署によると、同日正午前にトラックで工事現場に到着。トラックを降りて助手席と荷台の間にあるレバーを操作、トラックに装備されたクレーンで荷台の角材(長さ4メートル、12センチ角)約30本をまとめてつり上げたところ、バランスを崩してトラックが助手席側に横転したとみられる。現場で作業していたのは1人だった。 |
この事故の型は「はさまれ・巻き込まれ」で、起因物は「クレーン車」です。
この事故では、作業は1人で行っていました。
助手席には、娘さんが乗っていたということなので、現場に連れて来ていたようでした。
トラックに載せた材料の角材を、クレーンで吊り降ろす時に事故は起こりました。
この時降ろそうとしていた角材は、長さ4メートル、12センチ角なので、比重を0.4とすると、重さは1本で約23キロくらいでしょうか。
これを30本まとめていたので、総重量は約690キロあったと思われます。
角材を吊り上げた時、ユニック車はバランスを崩し、操作していた側に倒れました。
ユニック車の下敷きになった被災者は病院に運ばれましたが亡くなり、助手席に乗っていた娘さんも怪我をしました。
状況を想像するに、とても痛ましい事故だったと思います。
それでは、原因を推測していきます。
事故原因の推測 |
ユニック車がバランスを崩し、転倒してしまったことが事故の原因です。
なぜバランスを崩したのでしょうか。
まず、吊っていた角材の重量がクレーン能力を超えていた可能性があります。
単純な重量は、690キロ程度なので、そう重くはありません。しかしクレーン作業では、荷物の重さに加えジブの伸び方、角度などによりクレーンにかかる荷重が変わってしまうのです。
つまりクレーンの根本から遠くなればなるほど、つまりアームを寝かせ、ジブを伸ばすほど、吊れる荷重は小さくなるのです。
そのためクレーンの最大荷重が1トンであっても、1トンの物を吊り上げると重量オーバーになるのです。
このユニック車の最大荷重が1トンであれば、690キロの角材は重量オーバーになった可能性があります。
ましてや吊っていたのが長さ4メートルの長尺物です。
上手に玉掛けしないと、一方に傾いたりして、バランスを崩しやすくなります。
また、ユニック車を設置する場所にも問題があったのではないでしょうか。
ユニック車は吊り荷作業では、アウトリガーを伸ばします。アウトリガーは、吊り荷するときに踏ん張るための足です。
アウトリガーには吊り荷の荷重がかかるため、設置する場所の地盤は堅固でなければなりません。
柔らかい土の上などでは、荷重に負け、沈んでしまうのです。
それでは、原因を推測をまとめてみます。
1 | 吊り上げる荷重が最大荷重を超えていたこと。 |
2 | 吊り荷のバランスが崩れたこと。 |
3 | 設置した場所の地盤が弱かったこと。 |
それでは、対策を検討します。
対策の検討 |
クレーン作業では、吊り荷の荷重が最大荷重を超えないようにしなければなりません。
あまりに重いものを吊ると、荷が落下したり、今回の事故のようにバランスを崩し転倒してしまうことがあるのです。
クレーンは常に最大荷重を吊ることができるわけではありません。
ジブの距離や角度によって、変わるのです。そのことを考慮して、吊り荷の重さを決めます。
今回の事故のように、角材の本数によって荷重が変わるのであれば、数を減らすなどして加減することができたのではないでしょうか。
角材のような長尺物は、バランスをとるのが難しいです。しかも1本1本がバラバラなので積み方が悪いと、片方だけが重いということもあります。地切りでバランスを確認し、吊り上げることが必要でしょう。また長尺物は風の影響も受けやすいので、強風の時には作業は控えたほうがいいでしょう。
またクレーンを設置する場所の選定は非常に大切です。アスファルトの上などであればともかく、ぬかるんだ土の上などであれば、アウトリガーは荷物の重さに耐えられません。
もしどうしても固い地盤に設置できない場合は、鉄板などで地盤を補強してやります。鉄板をわざわざ持ってくるのかというもあるのですか、転倒を防ぐためには必要なのです。
この時アウトリガーは最大限伸ばさければなりません。この左右への張り出しが、吊り荷を支えることになるのです。
対策をまとめてみます。
1 | 吊り荷半径を考慮して、荷重を決める。 |
2 | 長尺のものを吊るときは、バランスを考える。 |
3 | クレーンは堅固な場所に設置し、アウトリガーは最大限張り出す。 |
ユニック車などの移動式クレーンは、設置する場所が重要です。
また一度になるべく多くの荷物を吊りたくなりますが、それは危険を伴うことも覚えておきたいことです。
違反している法律 |
この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。
【クレーン則】
第69条 事業者は、移動式クレーンにその定格荷重をこえる荷重をかけて使用してはならない。 |
第70条の3 事業者は、地盤が軟弱などの場所では、移動式クレーンを 用いて作業を行ってはならない。 ただし、必要な広さと強度の鉄板を敷くなどの措置をとった場合は、この限りではない。 |
第70条の5 事業者は、移動式クレーンのアウトリガーは最大に張り出して使用しなければならない。 ただし、最大に張り出さなくとも、定格荷重を下回る場合は、この限りではない。 |
これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。