コラム

猫井川と鼠川が最初に行った現場調査では、鼠川の熱中症により、あえなく途中で終えることになりました。

その後、嫌がる鼠川を病院に連れて行き、診察させたところ、軽い熱中症とのことでした。
点滴をしようとすると、これまた注射針を嫌がる鼠川を説得し、何とか治療を終えることができたのでした。

病院からの帰りに、鼠川の義理の父がやっているスペイン料理屋に行くと、奥さんから病院に言ったことを問いつめられることになったのでした。

次の日の朝、鼠川が出社すると、

「俺はもう熱中症にはならん。
　病院に行ったら、説明に時間がかかってしかたがない。」

と、ぼやくのでした。

それを聞いた猫井川は、昨日鼠川が問いつめられている様子を思い出し、

「そうですね。おちおち病気も怪我もできませんね。」

と同情するのでした。
しかも、奥さんの問い詰め先は、猫井川にまで及んだので、他人事ではありません。

「これから、一層気をつけましょうか。」

と、後ろ向きな理由で、決意するのでした。

昨日の測量はまだ全て終わらなかったため、残りは改めてとなったのでした。

「今度いつ行きます？」

猫井川が鼠川に聞きました。

「うーん、急ぐほどでもないが、図面を描かなきゃならないしな。
　犬尾沢に相談してみろ。」

そこで、犬尾沢に相談してみると。

「明日だったら、俺も手が空くから、一緒に行けるぞ。
　お前も大丈夫だろう。
　野虎さんに連絡しとけ。」

こうしてまた翌日に、調査に行くことになったのでした。

翌日。今回は犬尾沢も含めた３人での調査です。
現地に着くと、猫井川が犬尾沢に大体の範囲について説明しました。

「なるほど、作業前にかなり準備しなければだな。
　伐採しないとどうしようもない。

　測量は少しはやったんだよな。今日は残りをやって、伐採する木の範囲も抑えていこう。」

こうして３人で測量を行うことになりました。

この日も先日来た日と同じくらいの暑さです。
準備の際に、鼠川はしっかり水分補給をし、塩飴を口に放り込んでいるのでした。

今回は少し山の奥まで入り込んで、測量することになりました。
猫井川は三脚とトランシットを持ち、木をかき分け入り込みます。
犬尾沢が少し道を拓いてくれているとはいえ、なかなかの足元の悪さです。
後ろからついて来る鼠川も慎重に歩を進めています。

ある程度拓けた場所を見つけると、そこにトランシットをセットすることにしました。

「それじゃ猫井川は覗いて、測ってくれ。」

犬尾沢はそう言うと、自分は計測地点まで箱尺を持って向かいました。

しばらく測量は順調に進みました。
いくつかの地点を測り終え、犬尾沢が次の箇所に移動した時でした。

猫井川がトランシットを覗くと、

「ちょっとぶら下がってるツタが邪魔ですね。」

と言いました。
ツタを取り除こうと、ぶら下がっている木に近づき、下に引っ張った時でした。

ドサッ。

ツタと一緒に枝を落ち、猫井川の目の前に落ちたのでした。
長さは１メートル近く、太さは５センチほどの枝が足元に横たわり、それに絡まるツタは猫井川の手につながっています。

しばらく沈黙した空気が流れなた後、猫井川の背中に冷や汗が流れ、鳥肌が立ちました。

「やっべー。」

出てきた言葉はそれだけ。

その様子を見ていた犬尾沢と鼠川が近づいてきます。
鼠川が落ちた枝を見ると、

「どうやら、根本が折れて腐っていたようだな。」

と、分析しました。

「とりあえず、直撃しなくてよかったな。
　再開しようか。」

猫井川に怪我がないことを確認すると、犬尾沢はあっさり本の場所に戻っていくのでした。

あと数センチ前に立っていたらと思うと、この暑さの中寒気を感じつつ、トランシットに戻ろうとしました。

すると、鼠川が、

「おい、いい加減そのツタを離したらどうだ。」

と言いました。
気がつくとまだツタを握ったままなのでした。

あわててツタを捨てると、その手には青臭い匂いだけが残り、その匂いとともに測量に戻る猫井川なのでした。