○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

犬尾沢、鉄ピンの破片に襲われる

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第99話「犬尾沢、鉄ピンの破片に襲われる」

伐採作業が終わると、次は土工事になります。
山裾で建物にかかる部分を掘削し、基礎にあたる箇所を平らに均していきました。

掘削した土砂は、ダンプに載せてどんどん運びだしていきました。
何日もの間、ダンプは何度も往復して、土地は造成されていきました。

初めて現場に入ったころは、木と雑草が茂っていた場所でしたが、ここにきてようやく建物工事のための土地が目の前に広がったのでした。
猫井川は、まず最初の工程が無事終わり、一安心でした。

「とりあえず、準備工は終わりました。
 次は、地盤改良ですね。」

猫井川は、鼠川に言いました。

「そうだな。まだこれからだが。」

鼠川は答えましたが、その声に力はありません。
よく見ると、額に汗をにじませています。

「どうしたんですか?疲れてます?」

「ああ、少しな。」

「少し休みます。」

「いや、そこまでではないから、大丈夫だ。」

「そうですか。でも本当に無理しないでくださいね。」

「まだまだ、お前に心配されるほどではないぞ。」

「そこまで言うのならいいですけど。今は少し休憩してください。
 地盤改良の業者が来るまで、時間がありますから。」

「そうか、じゃ少し車の中で休憩するぞ。
 すまんな。」

鼠川は車に向かってゆっくりと歩いて行きました。
その背中は、少し丸まっている様子でした。

そこにショベルカーから降りて保楠田が近づいてきました。

「鼠川さん、どうしたの?」

「どうも元気ないみたいなので、少し休憩に入ってもらいました。」

「そう。最近なんか元気ないね。」

「そうなんですよね。ちょっと心配で。」

「元気に見えても、年も年だから、一緒にいる猫ちゃんが、気をつけていないとダメかも。
 あの人も、なかなか自分で弱いとこ見せないからね。」

「そうですね。気をつけます。」

猫井川はそう言って、車に乗り込む鼠川を見つめたのでした。

「鼠川には休憩してもらっていて、2人で準備していきましょうか。」

「そうだね。土壌改良の測点位置出しだね。」

「ええ、これだったら2人でもできますね。」

猫井川と保楠田は、トランシットと杭を持って測点出しの準備をしたのでした。

猫井川がトランシットを覗き、保楠田が杭を打つことになったのでした。

図面と照らしあわせ、測点箇所を出していきました。

山裾の箇所の位置出しをしていた時でした。
位置を決め、保楠田が杭を打ち込むと、地盤が固く、杭がバキッと割れました。

「あれ、ここ固いな。」

保楠田はそう言うと、もう一本の杭を持ち出し、再度打ち込みました
しかし、またしても先端が少しも入らず、杭の先端がバキッと割れてしまったのでした。

「まただ、ここかなり固いよ。」

そして、また新たな杭を持ちだして、打ち込んだのものの、また刺さることはなかったのでした。

「ダメだ。全然入らない。」

保楠田は、掛矢を置くと、手をぶらぶらせ、言いました。

「どうしましょうか?」

猫井川が保楠田に聞きます。

「うーん。コンクリートハンマで穴を開けて、それから杭を打とうか。」

「じゃあ、コンクリートハンマを取ってこないとダメですね。
 倉庫に行って、取ってきますよ。」

猫井川は急ぎ車に乗り、事務所に向かいました。

現場には車の中で休んでいる鼠川と、保楠田だけが残されていました。

しばらすると、1台の車が来ました。
猫井川がもう帰ってきたのかなと思っていると、出てきたのは犬尾沢でした。

「お疲れさまです。
 あれ、保楠田さんだけですか?猫井川は鼠川さんは?」」

犬尾沢は保楠田に近づき、聞きました。

「猫ちゃんは、今倉庫にコンクリートハンマを取りに行ってる。
 鼠川さんは休憩中。」

「コンクリートハンマなんて何に使うんですか?」

「ここの地盤がやたらと固くて、杭が入らないんだよ。
 だから、先に地盤に穴を開けようと思ってね。」

「そうですか。でも杭がダメでも、鉄ピンなら入りません?」

「鉄ピンね。でもそれもここにはないから取りに行かないと。」

「それだったら、俺持っていますよ。
 今別の現場で使ってきたんで。」

犬尾沢はそう言うと、車からハンマーと鉄ピンを何本か取り出しました。

「やってみましょうか。」

犬尾沢は、先ほど保楠田が杭打ちを諦めた場所に行くと、鉄ピンをセットしました。

そうして、鉄ピンを強く打ち込んだのでした。

2度、3度打ち込みますが、ピンはなかなか入りません。

「確かに固いですね。」

どんどん強くハンマーを打ち込みますが、先端が少し入っただけです。
犬尾沢は、ハンマーを両手で持つと、さらに強く打ち込みました。

ガンガンと打ち込んだときでした。
鉄ピンとハンマーの間から、何か犬尾沢に向かって飛んできたのでした。

そしてヘルメットにカンと乾いた音を立てたのでした。

「何だ」と思って、見てみると、それは鉄ピンの頭が折れたものでした。
強く叩いた衝撃で、一部か割れてしまったようなのでした。

「危ね〜。目に当たったら失明だった。」

折れた破片を拾いながら、焦った様子でした。

その時、猫井川が車で帰ってきたのでした。

「あれ、犬尾沢さんどうしたんですか?」

「おう、ちょっと寄ってみたんだわ。
 それで、鉄ピンを打ちこんだら、折れたよ。
 ここは固いな。」

「鉄ピンもダメですか?
 やっぱりコンクリートハンマですかね。」

猫井川は、そう言うと車からコンクリートハンマを取り出したのでした。

「でも、犬尾沢さん作業するんだったら、新規入場者教育を受けてくださいね。
 もし怪我とかされたら、俺が怒られるんですから。」

「ああ、そうか、すまないな。」

そう指摘され、少し気まずい様子の犬尾沢。

保楠田は、
「猫ちゃんも、随分たくましくなったね。」
と言いました。

「そうですね。」

犬尾沢もコンクリートハンマを運んでいる猫井川を見つめるのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

今回は犬尾沢のヒヤリハットです。
固い地盤に杭打ちするのは、一苦労です。

木の杭だと割れてしまうこともあるため、打ち込めないこともあるのです。

鉄ピンはもっと固いですし、木のように割れるものではありません。
しかし強く叩き過ぎると折れることもあるのです。

もし折れた場合に備えて保護具を必ず身につけることが大事なことと、ピンにテープを巻いて折れても飛ばないようにするのが重要です。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット 鉄ピンを強く叩いたら、折れて飛んできた。
対策 1.保護メガネと手袋を着用する。
2.上部にビニルテープを巻く

猫井川が犬尾沢に注意を言うようになったのは、かなり成長してきましたね。
このヒヤリハットのショートストーリーも次回で100話目になります。

よく続けてきたなと思います。

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