30分間の安全衛生教育レシピ

統計データを安全教育で効果的に使うには

厚生労働省より平成29年の労働災害統計(確定値)が発表されたのは、5月末でした。

 
 
例年ですと、連休明けくらいに発表になるのですが、今年は遅れていました。
6月早々に使用する安全教育の資料で、最新の統計データを盛り込みたいのに、全然発表にならないとヤキモキしたものです。

おそらく、現国会で「働きから改革」関連法案が議論されているので、職員の方はそちらに手一杯だったのではと想像されます。
そんな事情も忖度しながらなので、文句は言えませんし、何より「お疲れ様です。」とお声掛けしたい気持ちも大きいのですが
 
6月1日からは全国安全週間の準備月間がスタートです。

安全大会や総会、また安全教育などの需要が一気に高まる時期です。
安全教育センターも、てんやわんやしています。
(この時期は全ての協会等も手一杯なので、連絡する際には優しい声を掛けてあげてください。)
 
統計データは、この時期にあちこちで安全大会等で活用されることが多いのではないでしょうか。
各都道府県労働局の方や監督署の方も講演される機会も増え、必ず統計データは使われています。
 
講習を行う立場から言うと、統計データは、非常に使いやすいのです。
私も職長教育や特別教育等でも、オープニングで統計データを使うことが多いです。
 
一方、どのように扱うのかを考えていないと、ただの数字です。
「どのように扱うのか」がとても大事です。
 
今回は、統計データを教育でどのように扱うかです。
 
今回の教育の目的
災害統計データから、死傷災害が明日は我が身を理解する
 
自分と周りの人たちが、死傷災害にあわないために、準備や作業行動を決められたとおりに実行する。
教育で使用するもの 1.配布資料
今回の教育の
大事なポイント

(この教育の目標)
 

1.統計に上がっている数字一つ一つには、生活と人生があることを知る。
2.自分がその数字に加わらないためにはの具体的方策を考える。
オープニング
オープニング~ 
開会の挨拶を行った後、今回のポイント、教育の流れを説明。
 
1.昨年度(平成29年)の統計データの確認
平成29年の統計データを死傷者数、死亡者数の別で見ていきます。
 
ちなみに死傷者数とは、死亡または休業4日以上の怪我・疾病です。
4日以上の休業ですが、そこそこ重い症状ですね。
 
労災による死亡者数は、978人でした。
労災による死傷者数は、120,460人でした。
 
いずれも前年(平成28年)に比較して、増です。
 
死亡者数は、+50人(平成28年は928人)
死傷者数は、+2,550人(平成28年117,919人)
 
業種の内訳を見ると、
死亡者数は、建設業が最も多いです。これは例年通りです。
近年は、第3次産業(小売業・社会福祉業・飲食業等)の比率が高い傾向です。
 
特に死傷災害では、第3時産業が約半数を占めています。
次いで、製造業、建設業となっています。
 
事故の型の内訳を見てみると。
死亡者数は、墜落・転落事故が多いのがわかります。特に建設業では、約半数の死亡事故が墜落・転落です。
製造業では、はさまれ・巻き込まれが多い傾向です。
 
死傷災害では、転倒が多いです。これは業種を問わず上位を占めています。
転倒で休業4日以上なので、多くは骨折などが多いようです。
また、この傾向は高齢化も1つポイントになりそうです。
さらに詳細は、今年の「安全の指標」が参考になります。
 
自分の所属する業種は、どれくらいの方が災害にあわれているでしょうか?
 
身近なところでは、事故にあったなどの話を聞いていなくとも、全国で見渡すと誰かが死亡または大怪我や重病になっているのです。
 
この事実を共有しましょう。
 
数が多い、少ない、または増加した、減少した等は、重要ではありません。
監督署等の行政では重視されますが、各職場で働く一人ひとりにとっては、さほど意味はないです。
 
だから、ただ単にこれらの数字を紹介したところで、「へ~、そうなんだ」で終わります。
例えば、「去年より死亡災害が増えているから気をつけましょう」と言われたところで、気を引き締める効果があるでしょうか。
 
重要なことは、統計データにどのような意味をもたせるかです。
 
私は、昔に比べ、安全管理や個人の安全意識が高まっているが、まだ毎年1000人近くの方が亡くなっているという事実を見てもらいます。

データで見ると、ただの数字ですが、数字1つには、1人の命が関係しており、仮に建設業の講演で300人集まっていれば、ここにいる人全員がいなくなるのだと伝え、決して遠くの出来事ではないことを意識してもらいます。
 
統計データはマクロ情報です。これを自分自身や周りのことと関連付けることが、大事です。
 
2.数字には見えないものを理解する
統計データは、死亡者または死傷者をカウントしたものです。
もちろん被災した本人が一番ダメージが大きいでしょう。
しかしダメージを受けるのは、被災した当人だけでしょうか?
 
結論から言うと、違います。
被災した当人には、その人を中心とした人間関係のネットワークがあります。人間は一人で、生きていくことは困難です。
 
伴侶や子ども、親等の家族があります。
友人がいます。
仕事関係では、同僚等がいます。
 
みんな繋がりのある人たちです。
 
もし仮に「あなた」が事故にあったとき、誰に影響を与えるでしょうか?
もし仮に「あなた」が事故にあい、命を落とした場合、周りの人はどうなるでしょうか?
 
ここで少し時間をとって、この問いかけについて、内省してもよいと思います。
 
亡くなられた978人の方は、皆さん誰かの家族であり、友人であり、同僚でした。
何年も一緒にいた人が、急に欠けてしまった。
 
今日までと同じように、明日も必ず来ると信じていたものが、ぷっつりと断ち切れる。
 
事故とは、そのような影響があるのです。
 
普段はなかなか事故や、その影響について考える機会は少ないと思います。
このような話は非常に気持を沈ませてしまいます。
中には、言霊信仰ではないですが、悪いことが考えると、悪いことが起こるから避ける人もいます。
 
しかし、安全衛生の大切さのベースは、これなのです。
嫌なことを考えさせると思われるかもしれませんが、こんな機会でなければ考えられないことを考えてもらいましょう。
 
「あなた」が、統計データに計上されることがあれば、数字に上がらない影響があることをしっかり理解しましょう。
 
3.事故の影響を考える
先ほど、しっかり内省してもらったならば、ややテンション下がり気味の状態で、話し合いの時間をとってみましょう。
 
テーマは、「もし自分が災害に巻き込まれたら、どんな影響を与えるだろうか」です。
グループ内で5分ほど時間をとるとよいのでは、ないでしょうか。
 
「独り身だから、影響ないよ」と言う人もいるかもしれません。
そのような人には、仕事の上で、同僚としてどんな影響があるかなど、少し視点を変える、視野を広げてあげてもよいと思います。
 
特に、心残りについて考えてもらいましょう。
私自身は、今死ぬと子どものことが心残りです。
みなさん、きっと何かあるはずです。
 
とてもパーソナルな話題なので、発表はなしにして、それぞれの人がしっかり事故の影響が、他人事ではない、明日は我が身かもしれないことを理解してもらうのが重要なのです。
 
もし身近に事故事例などがあれば、そのような話をするのもよいでしょう。
 
4.事故にあわないためには
事故はいつ何時、誰の身にも降りかかる可能性があります。
 
ただ、その可能性を小さくする努力はできます。
 
何ができるかを考え、具体化することが今回の教育で導き出したいものです。
 
新たに何かアイデアを出すことも大事ですが、それは別の機会に回し、今回は今やっていることの見直しを中心にしましょう。
 
1.ルールを疎かにしていることはないか。
2.作業場で、改善の余地はないか。
3.家族や友人たちと、もっとやりたいことはないか。
 
このあたりのことを中心に、グループ内で話し合ってもらいましょう。
5分くらい時間とってもよいと思います。
 
考えてもらうポイントは、もしこれらのことを実行すると、先ほどイメージしてもらった状況になる可能性が低くなるというものです。
 
些細なことが多いかと思います。しかし凡事徹底することが困難なことは、誰しもが経験のあることではないでしょうか。
 
5.おわりに
最後は、事故を起こさないことなどを確認して、コミットメントとします。
管理者の方は、コミットメントが実行されているかをチェックしましょう。
 
このような話をしていると、30分になるのではないでしょうか。
 
統計データを用いる時は、その数字の意味をいかに我が事として落とし込むことが重要です。
 
古今集や伊勢物語に、
 
つひにいく 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思わざりしを
 
という、在原業平の歌がありますが、誰もがいつかは死ぬとは分かっているけど、それは遠い未来と思っています。
 
事故にあった全員が、そう思っていたはずです。
しかし、事故にあい、命を落とす人もいるのが現実です。
 
メメント・モリ(死を忘れるな)等の言葉もありますが、そんな緊張感を常に持つことはできません。
 
全国安全週間やその準備月間は、なぜ安全衛生が重要なのかを考えるよい機会になります。
今回は統計データを用いましたが、どのようなストーリーでデータを使うのかは、考えておくと効果的になりますね。
 
最後に、配布資料とレシピを公開します。
 
 
 
自由にダウンロードしていただいても構いません。
 
ただこの教育を実施される場合は、コメントに報告やご意見をいただけると、今後の励みなりますので、ぜひお願いします。
 

コメント

  1. 矢野 昭尚 より:

    安全衛生について時々教育をしているものです。
    安全に関する情報や考え方を学び、現場で感じたことと理論のGapについて自分の想いも教育に盛り込むことを考えて、貴サイトを拝見させて頂いております。
    そのなかで、統計データで言いたいことは考えていましたが、データに隠れている内容を考え、イメージすることが意識向上につながると感じました。
    有益な情報ををありがとうございました。是非この考えと手法を使わせて頂きます。

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