安全衛生教育

有機溶剤作業主任者 技能講習について 選任作業場、職務、資格の取り方

有機溶剤作業主任者技能講習について 選任作業場、職務、資格の取り方

 

有機溶剤とは化学物質の一種であり、機械の洗浄や清掃、塗装など幅広く使用されています。一方で、有機溶剤を体内に取り込んでしまうと様々な中毒症状を引き起こします。場合によっては命を落とすこともあります。
事業者は、有機溶剤による中毒発生を防ぐ義務があります。
有機溶剤を使用する作業場では、有機溶剤作業主任者を選任しなければなりません。
有機溶剤作業主任者を選任しなければならない作業や作業主任者の職務について、そして作業主任者になるための技能講習について紹介します。
安全教育センターでは、有機溶剤作業主任者技能講習を行っておりますので、受講をお考えのかたは、このページの情報をチェックし、実施スケジュールをチェックしてください。
目次
  1. 有機溶剤を選任する業務
    1. 作業主任者の役割
    2. 有機溶剤とは
    3. 特定化学物質との違いは
    4. 有機溶剤による災害事例
    5. 有機溶剤業務とは
  2. 有機溶剤作業主任者の役割
    1. 選任する作業場
    2. 職務内容
    3. 特定化学物質第2類の中の特別有機溶剤使用時の役割
    4. 有機溶剤作業主任者は廃止されるのか?
  3. 有機溶剤作業主任者技能講習の内容
    1. 講習科目
  4. 安全教育センターでの化学物質管理者講習
    1. 受講料
    2. 開催エリア
    3. 実際のカリキュラム例
    4. 実施スケジュール
    5. 修了試験

1 有機溶剤を選任する業務

1.1 作業主任者の役割

安衛法第14条では、法令で定める危険有害業務では、事業者は作業主任者を選任しなければならないと定められています。
作業主任者の職務は、危険有害作業において、設備や保護具を点検し、作業を直接指示することなどです。作業主任者になるには、該当作業に関しての免許または作業主任者技能講習の修了が必要となります。
作業主任者は危険有害作業でのリーダー、指揮者の役割です。直接的に命に関わる作業が多いため、その役割は非常に重要です。
有機溶剤を使用する作業場では、有機溶剤作業主任者を選任しなければならないのです。

1.2 有機溶剤とは

有機溶剤とは、厚生労働省発行の「有機溶剤を正しく使いましょう」(PDF)のリーフレットでは、次のように紹介されています。
「有機溶剤とは、他の物質を溶かす性質を持つ有機化合物の総称であり、様々な職場で、溶剤として塗装、洗浄、印刷等の作業に幅広く使用されています。有機溶剤は常温では液体ですが、一般に揮発性が高いため、蒸気となって作業者の呼吸を通じて体内に吸収されやすく、また、油脂に溶ける性質があることから皮膚からも吸収されます。」
法令では現在54種類が規制対象となっています。全て液体です。
具体的には、労働安全衛生法施行令別表6の2で定められています。
普段は液体ですが、常温でも蒸発し、空気中に充満します。有機溶剤の容器の蓋を開けると、ツンとした刺激臭がしますが、これは蒸発しているからです。
蒸気を呼吸で吸い込むと、頭痛や吐き気などの中毒症状を引き起こします。高濃度蒸気を吸い込むと、急性中毒となり、意識消失や場合によっては命を落とすこともあります。
低濃度でも、長期間吸い込み続けると、慢性中毒を発症します。
また皮脂に溶け込みやすい性質もあるため、皮膚から吸収されることもあります。
有機溶剤も化学物質の一部ではありますが、特定化学物質とは別のものです。
ただし、以前は有機溶剤として規制されていたものが、現在は特定化学物質の規制に変更されたものもあります。(これを特別有機溶剤といいます)
いずれも人体には有害性があり、非常に似通っているものではありますが、規制する法令が異なります。有機溶剤中毒予防規則で規制されています。

1.3特定化学物質との違いは

特定化学物質とは、労働安全衛生法施行令別表第3で規制されている物質です。
これらの物質の製造や取り扱いに際しては、特定化学物質障害予防規則で規制されています。
特定化学物質は発がん性があるなど、人体に深刻な健康被害もたらす可能性が高いものです。第1類、第2類、第3類に分かれており、合計75種類が指定されています。
健康被害の度合いが大きいため、局所排気装置のほか、作業環境測定の定期的実施や用後処理装置の設置など、厳重な管理が求められます。
特定化学物質第2類には、特別有機溶剤が含まれています。非常にややこしいところもあります。
今後も有機溶剤の一部が、特定化学物質に移動することもあるかもしれませんので、法改正などで確認する必要があります。

1.4 有機溶剤による災害事例

有機溶剤が規制されるきっかけとなった事件があります。「ヘップサンダル事件」です。
これは、当時ヒットした「ローマの休日」でオードリー・ヘップバーンが履いていたサンダル、通称ヘップサンダルが大流行し、国内でも大量に生産されました。
当時のサンダル製作は手作業が主です。サンダルには「ベンゼン」を含んだ接着剤を使用していたため、多くの作業者がベンゼン中毒になり、再生不良性貧血を発症しました。1958(昭和33)年には、大阪でベンゼン中毒により死亡された方もいました。
この事件を契機にして、「有機溶剤中毒予防規則」が1960(昭和35)年に制定されました。
ベンゼンは、現在は特定化学物質第2類となっています。
有機溶剤による中毒は、現在でも毎年発生しています。

1.5 有機溶剤業務とは

有機溶剤業務とは、有機溶剤中毒予防規則第1条第1項第6号に次のように定められています。
6.有機溶剤業務 次の各号に掲げる業務をいう。
イ  有機溶剤等を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、撹拌(かくはん)、加熱又は容器若しくは設備への注入の業務
ロ  染料、医薬品、農薬、化学繊維、合成樹脂、有機顔料、油脂、香料、 味料、火薬、写真薬品、ゴム若しくは可塑剤又はこれらのものの中間体を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、撹拌(かくはん)又は加熱の業務
ハ  有機溶剤含有物を用いて行う印刷の業務
ニ  有機溶剤含有物を用いて行う文字の書込み又は描画の業務
ホ  有機溶剤等を用いて行うつや出し、防水その他物の面の加工の業務
ヘ  接着のためにする有機溶剤等の塗布の業務
ト  接着のために有機溶剤等を塗布された物の接着の業務
チ  有機溶剤等を用いて行う洗浄(ヲに掲げる業務に該当する洗浄の業務を除く。)又は払しよくの業務
リ  有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務(ヲに掲げる業務に該当する塗装の業務を除く。)
ヌ  有機溶剤等が付着している物の乾燥の業務
ル  有機溶剤等を用いて行う試験又は研究の業務
ヲ  有機溶剤等を入れたことのあるタンク(有機溶剤の蒸気の発散するおそれがないものを除く。以下同じ。)の内部における業務

2 有機溶剤作業主任者の役割

2.1 作業主任者を選任する事業場

労働安全衛生法施行令第6条第22号には次のように書かれています。
22 屋内作業場又はタンク、船倉若しくは坑の内部その他の厚生労働省令で定める場所において別表第6の2に掲げる有機溶剤(当該有機溶剤と当該有機溶剤以外の物との混合物で、当該有機溶剤を当該混合物の重量の5パーセントを超えて含有するものを含む。第21条第10号及び第22条第1項第6号において同じ。)を製造し、又は取り扱う業務で、厚生労働省令で定めるものに係る作業
第21条第10号は、有機溶剤の作業環境を行う作業場、第22条第1項第6号は、健康診断を行う作業場を示しています。
有機溶剤の一覧は、労働安全衛生法施行令別表6の2です。
有機溶剤を使用している作業場の内、作業主任者を選任する場所は、有機溶剤中毒予防規則第1条第2項になります。
有機溶剤中毒予防規則第1条
第1条
2  令第6条第22号及び第22条第1項第6号の厚生労働省令で定める場所は、次のとおりとする。
  1. 船舶の内部
  2. 車両の内部
  3. タンクの内部
  4. ピットの内部
  5. 坑の内部
  6. ずい道の内部
  7. 暗きょ又はマンホールの内部
  8. 箱桁(けた)の内部
  9. ダクトの内部
  10. 水管の内部
  11. 屋内作業場及び前各号に掲げる場所のほか、通風が不十分な場所
いずれも、狭く閉鎖されており、通気性の悪い場所というのがわかります。
建設業でも、塗装や防水で有機溶剤を使用します。屋外作業では選任不要ですが、地下室やピット内、浴室など通風の悪い場所で作業する場合には選任が必要です。

2.2 職務の内容

作業主任者の役割は、次のように決められています。
有機溶剤中毒予防規則
第19条の2 (有機溶剤作業主任者の職務)
事業者は、有機溶剤作業主任者に次の事項を行わせなければならない。
1 作業に従事する労働者が有機溶剤により汚染され、又はこれを吸入しないように、作業の方法を決定し、労働者を指揮すること。
2 局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を一月を超えない期間ごとに点検すること。
3 保護具の使用状況を監視すること。
4 タンクの内部において有機溶剤業務に労働者が従事するときは、第26条各号に定める措置が講じられていることを確認すること。
※4の第26条の内容は、タンク内部において局所排気装置を稼働させるなどです。
労働者の直接指揮や設備や保護具の管理など、労働者が有機溶剤にばく露しないようにすることが求められます。
また閉鎖性の高いタンク内では、第26条の措置とあります。有機則第26条にはタンク内での作業の措置がまとめられています。
また作業主任者を選任した作業場には、作業主任者の職務と氏名を掲示して周知しなければなりません。(労働安全衛生規則第18条)
有機則第24条の有機溶剤の注意掲示とともに、作業主任者の周知を行ってください。

2.3 特定化学物質第2類の中の特別有機溶剤使用時の役割

有機溶剤作業主任者の選任について、1つ特殊な場合がありますので、紹介します。
以前、有機溶剤だったものが、現在特定化学物質に移動し、特別有機溶剤になったと書きました。
特別有機溶剤の使用時は、特定化学物質作業主任者の選任が必要です。
ただし、この場合は、有機溶剤作業主任者技能講習修了者が、特定化学物質作業主任者としての職務を行います。
作業主任者の掲示も、特定化学物質作業主任者の職務を掲示しますが、氏名は有機溶剤作業主任者修了者になります。
非常にややこしいので、ご注意ください。
特別有機溶剤に含まれるエチルベンゼンは、シンナーに多く含まれています。SDSなどの成分をチェックして、エチルベンゼンなどがあれば、特定化学物質作業主任者の選任も忘れずに。

2.4 有機溶剤作業主任者は廃止されるのか?

で、このような方針が示されました。
なお、特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、粉じん障害防止規則、四アルキル鉛中毒予防規則(以下「特化則等」という)は、自律的な管理の中に残すべき規定を除き、5年後に廃止することを想定し、その時点で十分に自律的な管理が定着していないと判断される場合は、特化則等の規制の廃止を見送り、さらにその5年後に改めて評価を行うことが適当である。
今後化学物質の自律的管理に伴い、特化則や有機則等の専門規則の廃止が検討され、同時に作業主任者の廃止も視野に入っているとのことです。そして現在の作業主任者の役割は、職長に担わせるとのことです。
ここからは私見です。
今後廃止が検討されている資格を取る意味があるのかなどと思われるかもしれません。
しかし、5年後(当時からなので2026年)に化学物質の自律的管理の普及具合に応じて判断するとされています。おそらくこの時点での廃止は難しいのでは考えられます。
作業主任者の役割を職長に担わせることを検討していますが、果たして現実的かというと難しいのではと考えられます。
仮に廃止となっても、別の形(化学物質管理者などの要件)などで、有機溶剤作業主任者の資格が必要になるのではないかと考えられます。
いずれにせよ廃止されたとしても、10年以上先の話でしょう。
この件については見守る必要がありますが、今は実務に欠かせない資格であることには間違いありません。そのため現時点では、あまり気しないほうが良いかと思います。

3 有機溶剤作業主任者技能講習の内容

有機溶剤作業主任者技能講習は、学科のみです。

3.1 講習科目

科目は次のとおりです。
① 健康障害及びその予防措置に関する知識
② 作業環境の改善方法に関する知識
③ 保護具に関する知識
④ 関係法令
合計で12時間。2日間の講習です。
講習終了後、修了試験があります。修了試験に合格すると、修了証が発行されます。

4 安全教育センターでの化学物質管理者講習

安全教育センターでは、有機溶剤作業主任者講習を主催と出張講習で行っております。
出張講習とは、お客様の指定の会場に講師を派遣するものです。ただし出張講習は、都県労働局長の認可を受けている都道府県に限ります。詳しくは4.2をご覧ください。
いずれの場合も、修了試験合格者には修了証を発行しております。

4.1 受講料

受講料は、お一人あたり次の通りです。
 16,280円(税込み)

4.2 開催エリア

 以下の都道府県にて、主催及び出張講習を実施しております。
 宮城県・福島県・東京都

4.3 実際のカリキュラム例

 標準的なカリキュラム例です。開催場所などにより、開始時間が異なります。
 また学科が前後することもあります。
1日目
時間
講習科目
講習時間
9:30-9:40
開講挨拶・予定説明
10
9:40-10:40
健康障害及びその予防措置に関する知識
60
10:40-10:50
休 憩
10
10:50-11:50
健康障害及びその予防措置に関する知識
60
11:50-12:50
昼 食・休 憩
60
12:50-13:50
健康障害及びその予防措置に関する知識
60
13:50-14:00
休 憩
10
14:00-15:00
健康障害及びその予防措置に関する知識
60
15:00-15:10
休 憩
10
15:10-16:10
保護具に関する知識
60
16:10-16:20
休 憩
10
16:20-17:20
保護具に関する知識
60
360
2日目
時間
講習科目
講習時間
9:30-10:30
作業環境の改善方法に関する知識
60
10:30-10:40
休 憩
10
10:40-11:40
作業環境の改善方法に関する知識
60
11:40-12:40
昼 食・休 憩
60
12:40-13:40
作業環境の改善方法に関する知識
60
13:40-13:50
休 憩
10
13:50-14:50
作業環境の改善方法に関する知識
60
14:50-15:00
休 憩
10
15:00-16:00
関係法令
60
16:00-16:10
休 憩
10
16:10-17:10
関係法令
60
17:10-17:20
休  憩
10
17:20-18:20
(修了試験)
(60)
360

4.4 実施スケジュール

安全教育センターでの実施スケジュールなどはこちらをご覧ください。

4.5 修了試験について

修了試験は、学科講習修了後にすぐに実施します。修了試験に合格して、初めて修了証を手にして、作業主任者になることができます。
試験の時間は1時間です。
合格基準は、全体で60%以上の正解、科目ごとに40%以上正解となります。
試験では次のような問題が出ますので、参考にしてください。
ただし同じ問題は出ませんのでご注意ください。
有機溶剤による健康障害について、次の記述のうち誤っているものはどれか
 (1)有機溶剤は呼吸からだけでなく、皮膚からも体内に吸収される
 (2)有機溶剤の急性中毒は死亡することもある
 (3)低濃度であれば、長期ばく露しても健康被害はない
局所排気装置等の点検について、次の記述のうち正しいものはどれか
 (1)局所排気装置の定期自主検査は2年以内ごとに1回とされている
 (2)作業前の点検では、スモークテスターは使用しない
 (3)作業主任者の職務には、局所排気措置等の点検がある
労働安全衛生法について、次の記述のうち誤っているものはどれか
 (1)作業主任者の選任は、法令で定められている
 (2)作業主任者は氏名のみの掲示を行い、労働者への周知とする
 (3)作業主任者は、該当業務の技能講習修了者などから選任する
試験問題は、毎年更新しています。こちらに紹介したテストは、傾向を見ていただくために、旧テストの問題にアレンジを加えております。
問題パターンも数種類あり、どのテスト問題になるかはランダムで決定しています。
そのため、講習中はしっかりと聴講してくださいね。
試験では、設問を必ずチェックしてください。「誤っているもの」を選ぶのか、「正しいもの」を選ぶのか。間違われることも多いです。
ほとんどの方が合格されますが、時々不合格になる受講生もいます。不合格の場合は再試験は設けておりません。再度お申込いただき、全課程を受けていただきます。

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