○コラム

安全衛生管理計画書とは|策定のメリット・作成手順・注意点を解説

安全衛生管理計画書とは、事業者が安全衛生管理計画について、具体的な方針や内容を記載する書類です。
 
しかし、安全衛生管理計画書は法的に義務化されているわけではないため、策定していない事業者も珍しくありません。一方で、安全衛生管理計画書がないと、計画的に安全衛生管理を進めることができませんので、作成をするのがよいでしょう。
 
そこで、この記事では安全衛生管理計画書とは、策定のメリット、作成手順、注意点について詳しく解説します。
 
安全衛生管理計画書をまだ策定していない場合は、当記事を参考にぜひ作成してみてください。

 

安全衛生管理計画書とは?

まずは、安全衛生管理計画書について見ていきましょう。
 
安全衛生管理計画書とは、具体的な方針や内容を記載する書類です。安全衛生管理計画書の作成は法的には義務ではないものの、労働安全衛生法において、事業者は労働者の安全と健康増進に努めるのが事業者の責務と定められています。
 
ここでは、安全衛生管理計画書とは何かについて見ていきましょう。

 

記載事項

安全衛生管理計画書の記載事項は、次の通りです。
 
・安全衛生管理の方針:現場で意識すべきことや考え方
・安全衛生管理の目標:取り組む課題に対する達成目標
・安全衛生管理の計画:重点施策ごとの実施内容・目標・実施期間・評価・留意点など
・安全衛生管理の行事:交通安全運動や安全協議会などのイベントスケジュール
・安全衛生管理の体制:働者代表者、安全衛生管理の担当者などの署名
・特定された危険性または有害性:気を付けるべき課題や危険性・有害性のある点
 
安全衛生管理計画書には方針や目標、計画、行事、体制、特に留意が必要な危険性・有害性について記載していていきます。
 
安全衛生管理計画書は、工事現場では安全書類の一環で提出を求められることもあるため、あらかじめ作成しておくことが推奨されます。
 
なお、安全衛生管理計画書を作成する場合は、下記の管理者の確認が必要になります。
 
・労働者が常時10人以上~50人未満の場合:安全衛生推進者(衛生推進者)
・労働者が常時50人以上:安全管理者/衛生管理者/産業医
・労働者が常時100人以上(300人以上):統括安全衛生管理者

 

安全衛生管理計画書の策定を行うメリット

次に、安全衛生管理計画書の策定を行うメリットについて見ていきましょう。

 

労働災害の防止

安全衛生管理計画書の策定は、労働災害の防止に効果的です。
 
計画的な安全衛生活動を実施することにより、職場の危険性や有害性を特定し、あらかじめ対策を講じることで労働災害を予防できます。
 
過去の労働災害は、実際に現場で発生した事故として事業者・労働者に共有できるため、より具体性のある安全衛生管理計画書の策定に役立ちます。
 
労働災害は周知させて初めて効力を発揮するため、可能であれば印刷し掲示することも重要といえるでしょう。紙媒体で安全衛生管理計画書の策定を共有すれば、働く人の意識改革に繋がり、最終的には労働災害の防止に繋がるのではないでしょうか。

 

安全意識の向上

安全衛生管理計画書の策定は、安全意識の向上に効果的です。
 
計画書の共有により、働く人全体の安全衛生に対する意識が高まり、労働災害の防止に繋がります。
 
働く人の意識の低さは労働災害に直結する可能性があるため、事業者・労働者ともに安全衛生に対する意識を持つことが重要となるでしょう。実際に安全衛生に対する意識があれば、未然に労働災害を防ぐことが可能です。むしろ、安全衛生に対して何もしていなかった場合、働く人のちょっとした不注意で労働災害が発生する可能性があります。
 
労働災害は普段の意識をいかに変えられるかで、防げるかどうかが変わるため、安全衛生管理計画書の策定して周知させることが重要といえるでしょう。

 

イメージ向上

安全衛生管理計画書の策定は、イメージ向上に繋がります。
 
安全衛生に関する積極的な取り組みは、労働者を守ることになり、結果的に事業者のイメージアップに繋がるわけです。
 
事業者によって労働者の安全衛生を守ることは社会的責任を果たすことと同義であるため、本来、安全衛生は基本中の基本といえるでしょう。しかし、積極的に安全衛生に対して取り組みを行えば、外部の人だけでなく内部の人からも評価されます。労働者自身、事業者の取り組みに賛同すれば、より現場で作業する際も気を付けて行動するようになるはずです。
 
小さな意識改革がやがて大きな安全衛生に繋がるからこそ、安全衛生管理計画書の策定は欠かせないものといえるのではないでしょうか。

 

コスト削減

安全衛生管理計画書の策定は、コスト削減に繋がります。
 
安全衛生を怠ったために労働災害が発生した場合、人材や機材の費用的損失が発生するだけでなく、怪我で離脱している間に稼げたであろう機会損失も有無ことになるわけです。
 
しかし、安全衛生管理計画書を策定して労働者に周知しておけば、自らの行動を改め、労働災害が起こらないように注意してくれます。結果的に労働災害だけでなく健康障害を防止でき、関連する費用や損失を軽減できるわけです。
 
仮に労働者が働けなくなった場合、新たに採用活動が必要となるなど、別の部分にもコストがかかります。事業者として安定した労働環境を守るためにも、安全衛生管理計画書の策定は必要です。

 

安全衛生管理計画書の作成手順

次に、安全衛生管理計画書の作成手順について見ていきましょう。
 
安全衛生管理計画書を作成する際は、3つのステップで行うのがおすすめです。ちなみに、厚生労働省や各都道府県の労働局が業種別のガイドラインを提供しているため、作成に関してわからないことがあれば参考にしてみることをおすすめします。

参考)年間安全衛生管理計画書の作成の手引き(業種別)

 

チェックシートを用いて現状把握と問題点の洗い出し

まずはチェックシートを用いて、現状把握と問題点の洗い出しを行いましょう。
 
安全衛生管理計画書を作成するには、現場がどのようになっていて、どのような問題が発生しているのかを把握しないといけません。厚生労働省をはじめ、各都道府県の労働局では現場の安全に関するチェックシートを提供しているため、ぜひ活用してみてください。
 
チェックシートの内容に従い、自社が置かれている現状や問題が見えてくれば、具体的に何を講じるべきなのかが見えてきます。課題がある場合は、早急に対応することが重要です。

 

計画書の作成と実施

次に、計画書の作成と実施を行いましょう。
 
チェックシートによって現状と問題が浮き彫りになったら、実際に安全衛生管理計画書を作成します。月ごとに重点管理項目を定め、実施項目を定めていくことが重要です。厚生労働省をはじめ、各都道府県の労働局には安全衛生管理計画書のフォーマットもあるため、ぜひ活用してみてください。
 
必要事項を記載したら、内容に従って実施します。ただし、いきなり事業者から「安全衛生を徹底してほしい」といわれても労働者は困惑するため、どのような主旨で安全衛生管理計画書の作成に至ったのかを説明するのが望ましいです。
 
作成の背景が伝われば、現場で働く人もより安全衛生を意識してくれるでしょう。

 

計画の評価と改善

最後に、計画の評価と改善を行いましょう。
 
安全衛生管理計画を実行してみて、実際に現場にどのような影響があったのかを評価します。ただし、ただ評価するだけではなく、一緒に改善を進めることが重要です。
 
例えば、安全衛生管理計画を実施したにもかかわらず労働災害が発生してしまった場合は、なぜ労働災害が発生したのかを再度確認します。その後、原因を突き止め、さらなる安全衛生管理計画書を作成するのが効果的です。
 
基本的に安全衛生管理計画書は1年間の計画を記載するものであるため、改善を繰り返しながら1年ごとに作るのが良いでしょう。毎年改善していけば、より安全に配慮した労働環境を作れるのではないでしょうか。

 

安全衛生管理計画書を作成する際の注意点

次に、安全衛生管理計画書を作成する際の注意点について見ていきましょう。

 

具体的な目標設定

安全衛生管理計画書を作成する際は、具体的な目標を設定しましょう。
 
数値化できる具体的な目標を設定し、後で検証可能にしておくと便利です。逆に具体的な目標がないと安全衛生管理計画書を作成する意義が薄れ、労働環境の改善に繋がりません。大切なのは明確な目標を設定し、実行に移すことといえます。

 

幅広い関係者の参与

安全衛生管理計画書を作成する際は、幅広い関係者の参与も欠かせません。
 
安全管理者や衛生管理者、安全委員会・衛生委員会のメンバー、産業医、作業現場の代表など、幅広い関係者が参加して課題を共有することが重要といえます。なお、中小規模の会社であれば、安全衛生推進者や別の安全担当者が中心となって検討すると良いです。
 
場合によっては労働者本人の意見も聞き、社長を交えて最終決定するのが良いでしょう。

 

管理区分の記載

安全衛生管理計画書では、管理者が確認し、承認を経て効力を発揮します。
 
なお、管理者の承認後は各部門に周知が必要となります。朝礼や安全大会などで、全員に周知できるのが理想ですが、部門ごとに周知するのでも問題ありません。可能であれば、掲示板に張り出したり、共有サーバに保存したりと、いつでもどこでも見られるようにしておくのがおすすめです。

 

実効可能性の検証

安全衛生管理計画書を作成後する際は、実行可能性の検証を行いましょう。
 
現場の実態に即した実行可能な計画を立てなければ、安全衛生管理計画書は絵に描いた餅です。単なる紙と変わりません。よくあるのが、事業者と労働者の間に認識の差があり、事業者は「できる」と思っていても、労働者は「できない」と思っているパターンです。この場合、実行可能性のある計画とはいえず、安全衛生に対する意識を変えるにも苦労します。
 
まずは現場の声に耳を傾け、どのような対応が求められているのかを考えなければなりません。その上で、現場レベルで実行できるのかをご検討ください。

 

まとめ

安全衛生管理計画書は、事業者が労働者に向けて作成した安全衛生管理計画について、具体的な方針や内容を記載する書類です。作成の義務はありませんが、あらかじめ周知しておくことで、労働災害を防げます。
 
労働災害はいつどこで発生するかわからないからこそ、労働者本人だけでなく事業者が一丸となって対策しなければなりません。安全衛生管理計画書の作成については、厚生労働省や各都道府県の労働局がガイドライン・フォーマットを提供しているため、何から始めれば良いかわからない場合はぜひ参考にしてみてください。
 
なお、安全教育センターでは安全衛生管理計画書に関わる安全衛生についての安全教育を行っています。現場で求められる対応について社内全体に周知させることが可能なため、気になる方は一度ご相談いただけますと幸いです。