厚生労働省労働局長登録教習機関
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製造業・建設業・陸上貨物運送業・小売業・林業などで多発しているのが、飛来・落下による労働災害です。
しかし、飛来・落下と聞いても具体的にどのような労働災害なのかイメージできない人もいるのではないでしょうか。
そこで、この記事では「落下・飛来」事故とは、事故が起こりやすい作業、実際に起きた事例、防ぐための対策について詳しく解説します。
「飛来・落下」とは、物や液体などが飛んできたり落下してきたりして労働者の身体に当たる事故のことです。
「飛来」・・・横、斜め方向から飛んできた物が人に当たる
「落下」・・・上から落ちてきた物が人に当たる
労働災害の中でも重症化しやすいのが特徴で、主に製造業・建設業・陸上貨物運送業・小売業・林業など他業種で発生しています。
具体的な「飛来・落下」の発生状況については以下の通りです。ここでは、厚生労働省の「令和5年労働災害発生状況の分析等」から算出したデータを紹介します。
・製造業の死亡災害:9人
・建設業の死亡災害:21人 ※前年比5人・31.3%増が増加
・陸上貨物運送事業:4人
・林業:1人
以上の労働災害は現場で働いている人が被害に遭うだけでなく、工事中の落下物が歩行者に当たるなど第三者災害になることもあるため、十分注意が必要となるでしょう。
では、飛来・落下事故が起こりやすい作業にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、飛来・落下事故が起こりやすい作業について見ていきましょう。
高所での作業中に工具や資材を誤って落下させてしまうケースが散見され、特に足場の組立・解体作業・建物の外壁塗装作業・屋根の修理や点検作業などで頻繁に発生します。
クレーンで資材を吊り上げている際に固定が不十分だったり、操作ミスがあったりするとつり荷が落下することがあります。
倉庫や工場での高い棚から物を取り出す際やフォークリフトでの作業中に物が落下するなど、常にリスクと隣り合わせです。他にも、フォークリフトで荷を下ろす際、枕木を入れようとして荷の下に手を入れたときに荷が落下して骨折することもあります。
単に低い距離からの落下が事故に発展する可能性もあるなど、常に警戒は怠れません。
加工中の物体の破片が飛散するケースが多いです。例えば、グラインダー作業中、回転によって石が破損し、労働者に刺さるなどの事例があります。
ここからは、飛来・落下の事故事例について見ていきましょう。
当事例は、事業規模30人~99人の「一般貨物自動車運送業」で発生した事故です。
当時、木造3階建て新築集合住宅の建築現場で、トラッククレーンの運転者が木造建築部材を搬入していました。
その日運ばれてきた木材(荷①)は、前日に運ばれてきた長さ320cm、重さ約500kgの木材(荷②)の下に置く必要がありました。しかし、荷②が邪魔だったため、一時的にトラックの後方に移動させ、荷①を指定の場所に降ろしました。その後、荷②をトラッククレーンで吊り上げ、荷①の上に移動させようとした際に荷崩れが起こりました。
この事故を目撃した人はいませんでしたが、大きな音に気づいた他の作業員が現場に駆けつけたところ、被災者が右肩を下にして木材に挟まれ、大量に出血していました。被災者はすぐに病院に搬送されましたが、残念ながら亡くなりました。
事故当時、トラッククレーンのフックには、両端が切れて輪のようになっているベルトスリングが2本掛けられており、それがぶら下がった状態でした。
当事例は、事業規模人300~999人の「機械(精密機械を除く)器具製造業」で発生した事故です。
この災害は、自動車や工作機械などの部品を鋳造している工場の造型工程で発生しました。
災害が起きた日、労働者Aは造型工程のリーダーとして、木型を金枠にセットする準備作業と、鋳物砂が硬化した後に木型を鋳型から外す型抜き作業を担当していました。また、鋳物砂を金枠に流し込んで固める型込め作業は、労働者Bが担当していました。
午後5時頃、Aは型抜き作業を行うため、型込め作業が終わった鋳型を金枠ごとクレーンで吊り上げ、クレーン運転士Cに地切りの合図をしました。地切りの際に、木型の一部が金枠から外れたため、Cが鋳型を確認したところ、砂にひびが入り、不良品であることがわかりました。その後、CはAの指示で鋳型を所定の型抜き作業場所に移動させ、2メートルの高さで吊り上げた状態で待機していました。
その間、Aは鋳型の下に入り、鋳型内に残っている木型を専用工具で取り外そうとしていましたが、その際に鋳型の一部が崩れ、Aは落下した約200kgの砂のかたまり2個の下敷きになってしまいました。本来、型抜き作業は鋳型を反転させて行うべきでしたが、当日は作業が遅れていたことや、鋳型が不良品であったため、Aは作業工程を省略し、鋳型を吊り上げたまま作業を行った結果、崩落が発生した形です。
この工場では、鋳型に不良が発生した場合の非定常作業に関する手順書が定められていませんでした。
当事例は、事業規模1人~4人の「木造家屋建築工事業」で発生した事故です。
この災害は、木造倉庫の解体作業中に丸太梁が突然落下し、それが労働者が抱えていた金属パイプに当たって、転倒したものです。
災害が発生した日は、労働者A・Bの2名で木造平屋建て資材倉庫の解体作業を行っていました。この倉庫は隣の倉庫と梁の一部が連結しており、その連結を外すためにチェーンソーで梁を切断する必要がありました。しかし、チェーンソーによる切断の具体的な方法は決まっておらず、AとBの話し合いで作業方法を決めました。
まず、梁を完全には切断せずに切り込みを入れ、その後ロープで梁を引き倒すことにしました。作業の役割分担としては、Bが脚立の代わりに踏み面のない「ウマ」に上り、チェーンソーで梁を切断し、Aは地上でその補助を担当しました。その後、Bが梁に切り込みを入れた後、Aは地上で転がっていた金属パイプを抱え、梁を下から突いて落とそうとしましたが、その際に梁が突然落下し、Aが抱えていた金属パイプに当たって事故が発生しました。
この倉庫の解体工事は、工事計画や作業手順書が作成されないまま始められ、現場には責任者も派遣されていませんでした。そのため、労働者たちは現場で話し合いながら作業を進めていましたが、作業がバラバラになることも多々ありました。また、該当の労働者が所属する会社では、安全衛生教育が社員に対して実施されていませんでした。
最後に、飛来・落下事故を防ぐための対策について見ていきましょう。
飛来・落下事故を防ぐためには、作業環境の整備が重要です。具体的には次のような施策が必要となります。
・落下防止設備の設置
→足場の幅木や外周シートなど飛来・落下を防ぐための設備を設ける。
・立入禁止区域の設定
→落下物の危険がある場所には立入禁止区域を設け、監視人を配置して安全を確保する
・防護ネットの設置
→高所作業時に物体が落下しても受け止めるために防護ネットなどを設置する
ワイヤーやナイロンスリングの点検、玉掛け、つり上げ前重心の確認(333運動)など。作業は必ず有資格者が行います。
高所作業では上下作業を禁止します。資材の受け渡しなど、上下作業が必要になる場合は、声掛けなど注意をはらいます。
使用する工具などの落下を防ぐため、落下防止コードを取り付けます。特に高所で作業する方は、必須です。
現場で働く労働者は、保護具を着用しましょう。
・ヘルメット:頭部を保護するために必須
・安全靴:足の甲や指を保護するために必要
ヘルメットや安全靴があれば、顔や首、手や足などを守れるため、作業中は常に装着します。ただし、保護プレートのない部分に落下物が当たることもあるので、過信は禁物といえます。
飛来・落下事故に限らず、現場の安全を確保するためには安全教育の徹底が欠かせません。
労働者に対して定期的な安全教育を実施し、飛来・落下事故のリスクと対策について周知徹底することが重要です。
製造業・建設業・陸上貨物運送業・小売業・林業などでは、飛来・落下による労働災害に注意が必要です。
特に、高所作業やクレーン作業、倉庫や工場での作業、加工・処理作業などの作業中は事故が発生しやすくなるため、注意が必要となります。
現場では作業環境の整備やつり上げ前の確認、保護具の着用、安全教育などを行い、飛来・落下のリスクを周知徹底しましょう。
なお、安全教育センターでは現場の安全教育を実施しているので、事業者・労働者ともに事故に対するリスクを周知させたい場合はぜひ一度ご相談ください。