○コラム

騒音障害|主な症状や防止のためのガイドラインについて解説します

日々の生活や職場での騒音は、私たちの健康に深刻な影響を及ぼすことがあります。特に長期間大きな音にさらされる環境では、騒音障害に悩まされるリスクが高まります。耳鳴りや聴力低下といった症状は初期に見られますが、進行すると永久的な聴力障害を引き起こすこともあるのです。この記事では、騒音障害の主な症状とともに、騒音から身を守るための具体的なガイドラインについて解説します。

 

騒音障害とは?

騒音障害は、長期間にわたって大きな音にさらされることで、聴覚や健康に影響を与えることです。特に、85デシベル以上の音に定期的にさらされると、耳の内部にある感覚細胞が損傷し、騒音性難聴が発生します。大音量の環境にいる場合、最初は音がこもって聞こえたり、特定の周波数の音が聞こえにくくなったりすることがあります。工場や建設現場など騒音が常に発生する職場で働く人々に多く見られる問題です。日常生活でも、音楽プレイヤーの大音量が原因で発症することもあります。

 

主な症状

騒音障害の主な症状は、騒音性難聴です。この状態は、耳の内部にある繊細な毛細胞が音の振動によって損傷することで引き起こされます。最初は、特定の高音域の音が聞こえにくくなり、音がぼんやりしたり、会話が聞き取りにくくなります。さらに進行すると、低音域の音も影響を受けることがあり、最終的には永久的な聴力損失に至る場合もあります。さらに、耳鳴り(耳の中での持続的な鳴り音)、疲労、集中力の低下など、聴覚以外の問題にも影響を及ぼすことがあります。初期段階で症状に気づかず、対応が遅れると、日常生活や仕事に大きな支障をきたす可能性が高まります。

 

騒音障害のリスクが高い職業の例

騒音障害のリスクが高い職業には、騒音が発生しやすい環境で働く職業が多く含まれます。特に、製造業、建設業、木材加工業、自動車製造業などの職場は、日常的に大きな音が発生するため、長時間の騒音曝露による聴覚損傷のリスクが高まります。こうした職場では、適切な耳の保護が不可欠であり、定期的な聴力検査の実施も推奨されています。騒音障害を防ぐためには、騒音レベルの管理と従業員の保護対策が重要です。

 

金属加工業

金属加工業は、特に高い騒音が発生する業界の一つです。金属を削る、切断する、または打ち出す作業では、しばしば90デシベルを超える騒音が発生します。例えば、ハンマーやプレス機を使用する作業では、その音量が100デシベルを超えることもあり、これに長時間さらされると騒音性難聴のリスクが急激に高まります。耳栓や耳カバーを使用することが推奨されますが、それだけではなく、騒音を減少させる機械のメンテナンスや作業環境の改善も重要です。

 

自動車製造業

自動車製造業は、組立ラインやエンジンテスト、溶接作業など、騒音の発生源が多い業界です。特に、エンジンテスト中には100デシベル以上の騒音が発生することもあり、耳の保護具なしでは聴覚に重大なダメージを与える恐れがあります。作業者は、耳栓やイヤーマフを着用するだけでなく、作業環境内での騒音レベルのモニタリングや低減策の実施も必須です。また、長時間にわたる作業は聴覚への影響を強めるため、定期的に休憩を取ることも推奨されます。

 

建設業

建設業は、騒音障害のリスクが非常に高い業界です。ジャッキハンマー、電動のこぎり、重機など、騒音レベルが85デシベルを超える機械が日常的に使用されます。特に、ジャッキハンマーは130デシベル以上の騒音を発生させることがあり、長時間使用すると聴力への影響が避けられません。多くの作業員が耳の保護を怠っている現状があり、作業中の適切な耳保護具の着用が重要です。また、作業者は定期的な聴力検査を受け、早期に騒音障害を発見することが求められます。

 

木材加工業

木材加工業もまた、騒音障害のリスクが高い職種です。のこぎりやサンダー、切削機械などの使用時には、しばしば85デシベル以上の騒音が発生します。特に電動のこぎりや刃物を使った加工作業では、90デシベル以上の音が長時間持続するため、耳の保護を怠ると聴覚に深刻な影響を与えます。木材加工業で働く人は、定期的に耳栓やイヤーマフを使用し、作業後には耳の健康状態を確認することが重要です。
 
これらの業界では、適切な防音対策と耳の保護が、騒音障害から労働者を守るために不可欠です​。

 

騒音障害防止のためのガイドラインについて

厚生労働省は騒音障害を防止するためのガイドラインを策定しており、約30年ぶりに2023年4月に改訂されました。このガイドラインでは以下のような対策が定められています。
 
このガイドラインでは、主に作業環境の騒音測定や騒音レベルに応じた対策が定められています。騒音に長時間さらされる労働者の健康を守るためには、定期的な騒音測定と聴覚保護具の適切な使用が推奨されています。また、作業場ごとに専任の管理者を配置し、対策の実施を徹底することも示されています。

 

作業環境の測定

作業環境での騒音レベルは、6ヶ月ごとに等価騒音レベルの測定が義務付けられています。特に、工場や建設現場などの屋内作業場では、定期的な測定が必要です。また、施設のレイアウト変更や作業方法が変わる際にも、必ず騒音レベルの再測定を行わなければなりません。どのような騒音対策を行うにしても、現状を正確に把握することが不可欠です。また騒音対策を行った後も、効果測定のためにも作業環境測定で把握しなければなりません。

 

騒音レベルに応じた対策

騒音レベルに応じた対策は、ガイドラインで明確に規定されています。85デシベル以上の作業環境では、必ず耳栓やイヤーマフなどの聴覚保護具の使用が必要です。また、90デシベルを超える環境では、聴覚保護具の使用に加え、騒音源の見直しや作業の変更が検討されます。作業内容の変更が難しい場合には、作業時間を短縮するか、騒音低減装置の導入も検討することが求められます。

 

聴覚保護具の選定

聴覚保護具を選定する際は、JIS T8161-1規格に基づく十分な遮音性能を持つものを選ぶことが求められます。適切な保護具の使用は、騒音性難聴を防ぐための最も基本的な対策です。耳栓やイヤーマフは、作業環境測定の結果、音の周波数や強さに応じて最適なものを選ぶ必要があり、長時間の着用でも快適で効果的な製品を選択します。また、保護具は定期的に点検し、劣化していないか確認することが重要です。

 

健康管理

騒音にさらされる労働者の健康管理も重要です。定期的な騒音健康診断が義務付けられており、特に4000Hzや6000Hzの周波数に対する聴力検査を追加することが推奨されています。このような診断を定期的に実施することで、騒音による聴覚への影響を早期に発見し、対策を講じることができます。健康診断の結果に基づき、必要に応じて保護具の見直しや作業内容の改善を行うことが大切です​。

 

騒音障害防止対策の管理者選任

騒音障害防止のために専任の管理者を選任することが義務付けられています。この管理者は、衛生管理者や安全衛生推進者、ライン管理者、職長などが担うことが多く、職場の騒音レベルを監視し、必要な対策を指示します。また、騒音に対する安全教育の実施や、従業員が適切に保護具を使用しているかの確認も管理者の重要な役割です。これにより、労働者が安心して働ける環境が整えられます。

 

まとめ

騒音障害を防ぐためには、企業として従業員の健康を守るための継続的な対策が重要です。ガイドラインに基づいて、定期的な騒音レベルの測定や聴覚保護具の使用を徹底することが求められます。また、騒音のリスクを軽減するためには、従業員自身が騒音の危険性や保護具の正しい使用方法を理解することが不可欠です。そのためには、専門的な教育が重要な役割を果たします。
 
安全教育センターでは、騒音作業従事者のための労働衛生教育を実施しております。また今回のガイドラインで示された管理者のための教育も実施しています。いずれも出張講習として、全国どこへでも講師を派遣して教育します。騒音作業をされている事業場では、ぜひともこれらの教育についてお問い合わせください。