厚生労働省労働局長登録教習機関
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日本は、諸外国に比べ地震が多く、毎年のように台風は直撃します。さらに近年ではゲリラ豪雨や竜巻などといった災害も起こり、人や建物に甚大な被害をもたらしています。
8月19日未明に発生した広島の大雨による土砂災害は、夜間であったたこともあり、死者数も50名を超えるなど、甚大な被害となりました。
このような災害は昼夜問わず、いつ起こるか分かりません。時には、昼間仕事を行っている時に発生することもあるでしょう。
仕事中に災害が起こった場合、事業者は労働者の安全を確保することが義務付けられています。
今回は、事業者が労働者を災害等から守るべき規定をまとめてみようと思います。
安衛法では、事業者の責務について規定しています。条文としては、事業者が災害から労働者を守らなければならないということは、あれこれありますが、こと豪雨などの天災に関係していると思われるものは、第25条の記載内容です。
【安衛法】
25条 事業者は、労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、 労働者を作業場から退避させる等必要な措置を講じなければならない。 |
この条文は、労働者に労働災害発生の危険があれば退避させなさいという内容です。
労働災害には仕事上のあらゆる原因による事故や怪我などがあり、天災も災害の1つに含まれます。
この条文は第20条から第27条に連なる「事業者の講ずべき措置等」の条文の一つです。他の条文もあれこれ書かれていますが、次回以降に書こうと思います。
今回はテーマに沿って、豪雨による土石流について見てみたいと思いますが、安衛法には、これ以上詳しいことは書いていません。
具体的な内容は、安衛法に付随する「労働安全衛生規則(安衛則)」で規定されています。
土石流発生時に事業者が取らなければならない措置は、安衛則の「第575条の9~13」で規定されています。
【安衛則】
第12章 土石流による危険の防止
(調査及び記録) |
(把握及び記録) 第575条の11 事業者は、土石流危険河川において建設工事の作業を行うときは、 作業開始時にあっては当該作業開始前24時間における降雨量を、 作業開始後にあっては1時間ごとの降雨量を、それぞれ雨量計による 測定その他の方法により把握し、かつ、記録しておかなければならない。 |
(降雨時の措置) 第575条の12 事業者は、土石流危険河川において建設工事の作業を行う場合において、 降雨があったことにより土石流が発生するおそれのあるときは、監視人の 配置等土石流の発生を早期に把握するための措置を講じなければならない。 ただし、速やかに作業を中止し、労働者を安全な場所に退避させたときは、 この限りではない。 |
(退避) 第575条の13 事業者は、土石流危険河川において建設工事の作業を行う場合において、 土石流による労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、 労働者を安全な場所に退避させなければならない。 |
(警報用の設備) 第575条の14 事業者は、土石流危険河川において建設工事の作業を行うときは、 土石流が発生した場合に関係労働者にこれを速やかに知らせるための サイレン、非常ベル等の警報用の設備を設け、関係労働者に対し、 その設置場所を周知させなければならない。 2 事業者は、前項の警報用の設備については、常時、有効に作動するように 保持しておかなければならない。 |
(避難用の設備) 第575条の15 事業者は、土石流危険河川において建設工事の作業を行うときは、 土石流が発生した場合に労働者を安全に避難させるための登り桟橋、 はしご等の避難用の設備を適当な箇所に設け、関係労働者に対し、 その設置場所及び使用方法をを周知させなければならない。 2 事業者は、前項の避難用の設備については、常時有効に |
(避難の訓練) 第575条の16 事業者は、土石流危険河川において建設工事の作業を行うときは、 土石流が発生したときに備えるため、関係労働者に対し、工事開始後 遅滞なく1回、及びその後6ヶ月以内ごとに1回、避難の訓練を 行わなければならない。 2 事業者は、避難の訓練を行ったときは、次の事項を記録し、 1)実施年月日 |
建設工事では河川での仕事も多々あります。堰堤を作成や護岸工事など、川の中でショベルカーが掘削し、ダンプカーが土を運んだりしていますね。
河川内の仕事なので、雨が降れば増水の危険と隣合わせです。豪雨となれば、いつ上流より土石流が起こるか分かりません。
そんな環境下での仕事のなのですが、この規則ができたのは、ほんの16年前で、それまでは特に対策なしで仕事をしていたんですね。
工事中に土石流が発生したことはあるのなと調べてみたら、平成8年に長野県の蒲原沢土石流という大きな災害がありました。
平成8年12月6日の午前10時40分に大規模な土石流が発生し、流域の橋を流出させたり、砂防ダム等を破壊しました。さらにこの時、前年の豪雨災害の復旧工事が複数行われていたのです。土石流はこれらの現場も飲み込みました。被害は死者14名、負傷者9名という甚大なものとなりました。
平成8年は土石流に関する規則はまだなく、当然工事でも十分な対策をとっていなかったと思われます。災害レポートを見ても、警報装置や作業中止の基準もなかったとのことです。
土石流防止の規則ができるのは平成10年なので、この事故も契機になったと想像に固くありません。
このケースも、もう土石流による被害を起こさないという感情のムーブメントがあったのでしょう。
さて、規則の内容に戻ります。各規則をまとめると次のようになります。
○第575条の9
土石流が起こりそうな場所で仕事するときは、事前に調査しなさい。
○第575条の10
土石流他の災害があった場合に取る措置を事前に決めておきなさい。
○第575条の11
雨量を把握して、記録おきなさい。
○第575条の12
雨が降った際には、土石流の監視をするか、作業を中止しなさい。
○第575条の13
土石流が発生しそうなら、労働者を退避させなさい。
○第575条の14
土石流発生を知らせる警報装置をつけなさい。警報装置はきちんとメンテしなさい。
○第575条の15
労働者の退避場所を用意しなさい。退避場所はきちんとメンテしなさい。
○第575条の16
定期的に避難訓練をしなさい。
小難しい表現はありますが、内容は一読すると分かりますね。ちなみに上記の規則は、臨時作業の場合には除外されます。ただし危険がある場合に、退避しないとダメです。
現在河川内で工事をされている事業者は、安全管理の一環としてこれらの実施を求められています。ゼネコンや中堅など大きな事業者は、おそらく実施しているはずです。
近年は毎年のように夏場になると、ゲリラ豪雨や台風により土砂崩れのニュースを目にします。土砂崩れの可能性のある箇所は、日本全国に50万ヶ所!もあるらしく、次どこで発生するかは予測はこんなんです。備えをすることも限りがあるでしょう。
しかし、災害は備えがあろうがなかろうが、襲ってきます。せめていち早く避難できるような体制は必要ですね。
まだ調査は十分ではない所も多々あるようですが、各自治体で危険箇所は公開しているので、お住まいの都道府県や市町村のホームページをチェックしてみてください。
今回の条文のまとめ。
安衛法 第25条 事業者は、災害の危険が迫ったら、労働者を避難させなさい。 安衛則 第575条の9 土石流が起こりそうな場所で仕事するときは、事前に調査しなさい。 第575条の10 土石流他の災害があった場合に取る措置を事前に決めておきなさい。 第575条の11 雨量を把握して、記録おきなさい。 第575条の12 第575条の13 第575条の14 第575条の15 第575条の16 |