厚生労働省労働局長登録教習機関
北海道・宮城県・岩⼿県・福島県・東京都・⼤阪府・福岡県
建設業や工場では、非常に危険を伴う業務があります。
それらの業務に就く労働者は、特別教育を受けなければならないのですが、大きな災害のおそれがある業務については、資格者以外の就業を制限しているものもあります。
特別教育と有資格の差は何か。
自動車の運転免許を考えてもらうと、分かりやすいかもしれません。
運転免許を得るためには、多くの人は、教習所に通い、学科と実技を身につけ、試験に合格しなくてはいけません。
一方、原付は学科試験を合格すれば、乗ることができます。
言うなれば、原付の運転は特別教育を受けなければならない業務。自動車の運転は就業制限のある業務といえますね。
さて安衛法第61条は、就業制限のある業務について、規定しています。
【安衛法】
クレーンの運転などの一部の業務は、特別教育ではなく、免許や技能講習修了など、資格が必要となります。
どのような業務が、就業制限があるのか?
それは、非常に危険を伴い、事故が起こった時に大きな被害をもたらすような危険な機械や業務内容です。
非常に危険な業務であるため、高度な技能を持つ技術者が当たるようにしているわけですね。
就業制限のある業務については、安衛令第20条にまとめられています。
【安衛令】
就業制限のある業務内容を見てみると、特別教育と同様に建設業関係が多いことに気づきます。
建設業は労働災害の約30%を占めているほど、事故が多いので、制限が多いんですね。
就業制限のある業務を見ると、大きな機械や特殊な内容が多いことに気づきます。
特別教育の内容よりも、より高度で慎重な作業が求められるということですね。
特別教育と就業制限の業務では、どれほどの差があるのか、一例を見てみましょう。
12)の機体重量が3トン以上の建設系車両機械の操作運転について比較していきます。
車両系建設機械の1つに、ユンボなどのショベルカーがあります。名称としては、バックホーなどとも言います。
この機械は、地面を掘るなどの掘削作業に使用します。
特別教育を受ければ使用可能な3トン未満のものは、小型なので街中など小規模な工事で活躍します。
しかしダムや河川工事など多量の土を掘り返す作業で、ちまちまやってやれません。一度に大量の土砂を掘らなければなりませんので、3トン以上の機体を使うわけです。
単純に能力比較します。ショベルカーはバケット、つまり土を掘って溜める部分の容量の大きさが能力として表わされます。
とあるメーカーのショベルで、車体重量が2.7トンの能力は0.08m3。5.3トンの能力は0.22m3とのことです。一度に掘削する量が、約3倍ですね。
容量ではピンと来ないかもしれませんので、仮に土砂1m3が1.7トンとするとわかりやすいかもしれません。
(比重は条件によるのは承知しています。1.7トン/m3は、密度や水分量など関係なく、ググって拾ってきた数字です。)
2.7トンの機体は1.7トン×0.08m3=0.136トン。一度に約140kgを持ちあげられます。これでもかなり大きいですね。
一方5.3tの機体は、1.7トン×0.22m3=0.374トン。つまり一度に約370kg運べるわけです。これだけの量の土砂が行き交うわけですから、少し間違うと大事故になるのは想像できますね。
ちなみに機体重量が20トン近くになると、バケット容量は0.8m3。土砂の重量は1.36トンにもなります。当然車体も大きいわけですから、高い操作能力が必要ですし、周囲への注意も重要になりますね。
長くなりましたが、建設系車両機械のように、就業制限のある業務は、多大な技能と危険があるわけです。
それでは、各業務について、少し詳しく見ていきます。
1)発破作業
言うまでもなく、ダイナマイト等を扱う全ての業務です。岩石の採掘などですね。
爆発物なのですから、特別注意が必要な作業だと分かります。
2)制限荷重が5トン以上の揚貨装置の運転
揚貨装置というのは、コンテナなどを積む船舶に取り付けられたクレーンまたはデリックです。港湾に接岸して、陸と船との間で荷をやりとりする作業ですね。
工場などで使うクレーン作業とは、また違った専門性を要しているのです。
このように就業制限のある業務には、特別教育の制限を超えて使用するといったものが多々あります。
3)~5)はボイラー、第一種圧力容器に関してです。
3)ボイラーの取り扱い業務。
小型ボイラーは特別教育を受けると扱えます。ボイラーには伝熱面積や容積などの要件が事細かに定められていて、資格も特級、1級、2級と分かれています。取り扱いに関しては、どの資格でも扱えます。
ボイラーは熱を蓄積しているわけですから、取り扱いを間違えると爆発するので、慎重な取り扱いが必要になるわけですね。
4)ボイラー、第一種圧力容器の溶接
溶接の免許には、特別と普通の2種類があります。溶接する箇所の板厚が25mm以上の場合は、特別免許が必要になります。ボイラーの溶接に不備があると、大事故につながりかねないので、専門的な溶接の技能が必要とされます。
5)ボイラー、第一種圧力容器の整備 ボイラーなどに不備があれば、事故につながりかねません。そのため整備にも専門性が必要とされます。
6)つり上げ荷重5トン以上のクレーンの操作
クレーン作業のことです。特別教育では5トン未満まで運転可でしたが、5t以上の場合は、免許が必要になります。
このクレーンは工場やビル建設などで使用する、固定式のものです。工場内では、荷を移動させるために天井クレーンなどがありますが、この使用には特別教育又は免許が必要になります。
非常に重いものをつり上げるのですから、高い技能が必要になるわけですね。
7)つり上げ荷重1トン以上の移動式クレーンの操作
移動式クレーンは、タイヤやクローラ(キャタピラ)が付いたクレーンで、移動することができます。建設業の工事現場では、移動式クレーンが必須と言っても過言ではないでしょう。
移動式クレーンには、様々な種類がありますが、つり上げ荷重が1トン以上には特別講習又は免許が必要になります。
1トン未満は特別教育を受けていれば、就業可能です。
私の業種でも、移動式クレーンを使うことが多いですが、クレーンオペレーターは非常に気を使っているのが分かります。
8)つり上げ荷重5トン以上のデリックの操作
6)と同じです。
9)潜水作業
潜水業務は、酸素ボンベを着けて水中で作業を行います。どれほど危険を伴った作業かは、容易に想像ができると思います。
ちなみに酸素供給のバルブ開閉は、潜水士の生命を左右するわけですから、特別教育を受けたものでないと業務につくことができません。
10)ガス溶接
主にアセチレンガスを使って溶接する業務です。
可燃性のガスなので、一歩取り扱いを間違えれば、大爆発を起こしかねません。慎重な取り扱いが求められますね。
11)最大荷重1トン以上のフォークリフトの運転
これ以降の項目は、特別教育の制限以上の業務です。
フォークリフトは1t以上のものを積載運搬するには、資格が必要になります。
12)車体重量3トン以上の建設系建設機械の運転操作
工事現場などで使用する大型の重機の取り扱いです。大型のショベルカーなどの掘削機や基礎工事、解体用の機械です。大型機械を使用すると、それだけ危険も大きくなりますね。
13)1トン以上のショベルローダー又はフォークローダーの運転
11)のフォークリフトと同様の積載運搬業務です。
14)最大積載量が1トン以上の不整地運搬車の運転
これも11)と同様です。不整地運搬車は、建設現場などで、土砂や岩石などを運んだりするのに使います。建設現場なので、地面が土など一般車両では走りづらい場所での運搬に活躍します。
15)作業床の高さが10メートル以上の高所作業車の運転
10未満の運転は特別教育です。高い場所で作業するのですから、墜落する危険も大きくなりますね。
16)制限荷重が1トン以上玉掛けの業務
玉掛けというものは、クレーン等で荷を吊るときにワイヤーなどで荷を固定する作業です。玉掛けが不適切ですと、つり上げ作業中に荷が落下して、大事故になります。
1トン未満は特別教育ですが、より重い荷をつるには、高い技能が必要になります。
以上、就業制限のある危険業務です。
これらの業務を行うためには、免許などの資格が必要になります。
それぞれどのような資格必要かは、安衛則第41条に規定されています。
【安衛則】
第5章 就業制限 (就業制限についての資格) 第41条 法第61条第1項に規定する業務につくことができる者は、別表第3の上欄に 掲げる業務の区分に応じて、それぞれ、同表の下欄に掲げる者とする。 |
令第○○条では、業務内容がわからないため、()で補足しています。薄地の部分は、補足なので、本文にはありません。
各資格要件の職業訓練を受けたものも就業できるとありますが、 こちらは、安衛則第42条で規定されています。
資格には、ボイラーのように試験を合格して取得する免許と、技能講習を受講して取得する技能講習修了資格があります。
これらの資格は、作業主任者という現場での指導者になるためにも必要です。
いずれにしても、十分な知識と技能習得のために、投資が必要です。
事業者にとっては、特別教育と同様に、大きな負担になるわけです。
個人で資格を取得することもできますが、その場合でも多大な費用がかかります。
操作だけならば、現場で教えてもらえれば、できるようになるでしょう。
しかし、安全上注意すべきポイントなどがわからないため、危険な操作をやってしまい、事故になることもあります。
事故の事例を見ていると、無資格で業務にあたり、事故が起こったというものが、非常に目につきます。
事故事例は、氷山の一角。実際の無資格での業務は多いはずです。
当然のことながら、事故が起こると、警察はもとより労働基準監督署の捜査があります。
無資格で業務に当たらせている場合、事業者は処罰対象になります。
安衛法違反は、両罰規定です。つまり事故を起こした本人のみならず、事業者も処罰されます。
事故は行政処分に留まりません。仮に死傷事故となった場合の損害賠償は莫大なものになります。
費用がかかるからといって、無資格で業務を行うことは、結果的に多大な対価を払わなければなりません。
業務に従事する本人とっても、事故で死傷事故を起こせば、本人が受ける被害も大きいですが、家族に対しても大きな悲しみになります。家族のもとへ帰れなくなるわけですから。
さらに事故を同僚を巻き込んでしまうと、悲しむ家族は増えます。
危険な作業には責任を伴います。安衛法では、事業者の責務としていますので、事業者が安全に業務を遂行させるのは、必須です。同時に、業務を行う人自身も、自分と一緒に作業を行う同僚に対して責任があるのです。
それとご家族で就業制限のある仕事をされている方がいらしたら、その方は危険だけど、とても高度な仕事をしているのだと、ぜひ労ってあげてください。実はものすごくかっこいい仕事をしているのですよ。
そのねぎらいは、明日、安全に仕事を終えて帰ってくる活力になるはず!
まとめ。
【安衛法】
(就業制限) 第61条 危険な作業な作業は、免許や技能講習を終了しないとつけません。 |
【安衛令】
(就業制限に係る業務) 第20条 就業制限のある業務をまとめています。 |
【安衛則】
(就業制限) 第41条 就業制限のある業務を行うのに必要な資格をまとめています。一覧は別表3に。 |
(職業訓練の特例) 第42条 就業制限のある業務は、特例で職業訓練を受けることで就くことができます。 |