厚生労働省労働局長登録教習機関
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労働者が安全で衛生的に仕事をするために、事業者は十分な対策をとらなければなりません。
一定の業種、労働者数に応じて、総括安全衛生管理者や安全管理者、衛生管理者を選任し、安全衛生の管理を行います。
建設業などは、社外で作業することが多いのですが、その場合でも一定の人数以上の労働者が働いていたら統括安全衛生責任者と元方安全衛生管理者、または店社安全衛生管理者などを選任しなければなりません。
その他にも事業者が、労働者の安全で衛生的に仕事ができるようにする義務があります。
労働者あっての事業所なのですから、当然なのかもしれませんが、これらも徐々に制度化していったのです。
昔は、今から考えると無茶苦茶なということも多々ありました。
もしかすると年配の方から、「若い時にはな~」という感じで、話を聞くことが、できるかもしれませんね。
私も50代の方に、「昔はヘルメットなんて被らなかった。そんなのを被っていたら、バカにされた。」などの話を聞いたことがあります。
そんな話はさておき、事業者の安全衛生管理のための体制で必要なものは、まだあります。
今回は事業者が設けなければならない安全衛生体制の1つ「委員会」についてです。
委員会とは、簡単に言うと複数のメンバーで会議をして、あれこれ決める組織のことです。
福島第一原発事故の後、よくニュースなどで見る「原子力規制委員会」があります。
これは、原子力や地質などの専門家が、原発再開について、審査する組織のことですよね。
この審査結果は、政府の決定に大きな影響を及ぼすのですから、とても強い権限と発言力を持っています。
また世界遺産の登録にあたっては、「世界遺産委員会」の決定が必要なります。
委員会とは、とても大雑把な表現をすると、会社や団体組織から、ある程度独立性があり、メンバーの合議で物事を審議する組織という感じでしょうか。
委員会の審議結果は、事業者などの決定に大きな影響を与えます。
決定に影響を与えるのですから、委員会の性格により、権限や独立性などは異なるのは言うまでもありません。
さて、事業者も労働安全に関して、いくつかの委員会を設けなければなりません。
委員会の種類には、「安全委員会」、「衛生委員会」、「安全衛生委員会」があります。
名前からして、安全委員会は安全に関すること、衛生委員会は衛生に関することを、安全衛生委員会はその両方をまとめて審議するのは分かりますよね。
さて、それぞれの委員会は、どんなメンバーで構成され、どんな内容を話し合うのかまとめたいと思います。
これらについては、安衛法第17条から第19条に規定されています。
【安衛法】
まず安全委員会から見ていきます。
安全委員会は、労働者の安全に関する事柄を審査します。
事業者は業種によりますが、一定規模以上になると、安全委員会を設置しなければなりません。
第1項各号には、どのような内容を話し合うのかが書かれています。
1号と2号はともかく、3号のその他については安衛則に詳細が書かれているため、後ほどまとめたいと思います。
メンバーですが、第2項にまとめられていますね。
1号の委員)
総括安全衛生管理者、または総括安全衛生管理者以外で、安全衛生を総括管理している者
もしくは、事業者が指名したもの
2号の委員)
安全管理者のうちから事業者が指名した者
3号の委員)
当該事業場の労働者で、安全に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者
これ以降の説明の便宜上、各委員を○号の委員と呼ぶことにします。
1号の委員について補足ですが、総括安全衛生管理者は分かりますね。
それ以外にも、労働者の人数として、総括安全衛生管理者は不要の事業者であれば、安全衛生のトップがなったりします。
工場などであれば、工場長や所長といった方がなることが多いようです。
また総括安全衛生管理者が選任されている場合でも、都合によっては、別の方が1号の委員になったりすることもあります。その辺りは事業所によります。
委員長は、1号の委員、つまり総括安全衛生管理者もしくはそれに準ずる人がなります。
さてその他のメンバーですが、安全管理者、安全に関する経験を持つ人です。
この人選については、半数は事業者サイドが指名しますが、もう半数は労働組合または労働者の2分の1以上の推薦がある人が選ばれます。
つまり1号の委員は確定するとして、2号と3号の委員は、事業者(経営者)、労働組合(労働者)で半々選ぶわけです。
これによって、事業者だけの都合で決める、労働者だけの都合で決めるのではなく、両方の意見を聞きながら審議していくいう体制を作っているのです。
安全に力を入れるとコストがかかる。
コストを削ると安全が脅かされる。
どちらに傾きすぎても問題がありますので、バランスよくしなくてはいけませんね。
人選について補足ですが、労働組合等と人選について、別途取り決めがある場合は、この限りではありません。
また人数に決まりはありませんので、20人でも50人でも問題ありませんが、人数が多ければ、まとまらないこともあるので、規模にもよりますが、10人~20人くらいがいいのかなと思います。
さて、安全委員会を設けるのは、「政令で定める業種及び規模の事業場ごとに」とあります。
この業種と規模は、安衛令第8条で規定されています。
【安衛令】
50人で設けなければならない業種のラインナップを見てみると、どこかで見たような感じですね。
多少の違いはあるものの、ほとんど総括安全衛生管理者や安全管理者を選任する業種と同じです。
業種 | 人数 |
林業 鉱業 建設業 製造業 (木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業) 運送業(道路貨物運送業、港湾運送業) 自動車整備業 機械修理業 清掃業 |
50人 |
その他 | 100人 |
50人以上で注意なのは、製造業は一部のみということです。
これに含まれない製造業、例えば食品や紙類などは、労働者が100人で安全委員会を設けければなりません。
さて、どんな内容を審議するのか、安衛法と安衛則に規定されています。
【安衛則】
審議内容をまとめると、次のとおりです。
1.労働者の危険を防止するための基本対策に関すること
2.労働災害の原因及び再発防止対策で、安全に関すること
3.その他、労働者の危険防止に関する重要事項
その他に含まれるものとしては、次のとおりです。
1)安全に関する規定
2)危険性や有害性等の調査とその措置に関すること
3)安全に関する計画の作成、実施、評価、改善に関すること
4)安全教育の実施計画の作成に関すること
5)その他、指導や通達に関すること
労働者の安全や労災防止に関する、あらゆることが審議対象になるようです。
さて、安全委員会についてまとめてみます。
業種・規模
メンバー | 1号)総括安全衛生管理者またはそれに準ずる者 2号)安全管理者 3号)労働者の内、安全管理に従事したことがある者 ※2号、3号の者の内、半数は労働組合等の推薦による |
林業 鉱業 建設業 製造業(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、 金属製品製造業、輸送用機械器具製造業) 運送業(道路貨物運送業、港湾運送業) 自動車整備業 機械修理業 清掃業 |
50人 |
その他 | 100人 |
審議内容1.労働者の危険を防止するための
基本対策に関すること
2.労働災害の原因及び再発防止対策で、
安全に関すること
3.その他、労働者の危険防止に
関する重要事項
1)安全に関する規定
2)危険性や有害性等の調査と
その措置に関すること
3)安全に関する計画の作成、実施、
評価、改善に関すること
4)安全教育の実施計画の作成に
関すること
5)その他、指導や通達に関すること
次は衛生委員会についてです。
安全委員会と同様に、まずはメンバー構成から見てきます。
1号の委員)
総括安全衛生管理者、または総括安全衛生管理者以外で、安全衛生を総括管理している者
もしくは、事業者が指名したもの
2号の委員)
衛生管理者のうちから事業者が指名した者
3号の委員)
産業医のうちから事業者が指名した者
4号の委員)
当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者
3項の委員)
当該事業場の労働者で、作業環境測定を実施している作業環境測定士であるもの
メンバー構成は、安全委員会とは異なり、衛生管理に関する面々となっています。
安全委員会と異なるのは、産業医がいること、さらに作業環境測定士がいることです。
また安全委員会と同様に、1号以外の委員の半数は、労働組合等からの推薦を受けたものになり、こちらも事業者の意見、労働者の意見ともに反映されるようになっています。
衛生員会も、「政令で定める規模の事業場ごと」とあるわけですが、こちらも安衛令に規定されています。
(衛生委員会を設けるべき事業場) 第9条 法第18条第1項の政令で定める規模の事業場は、 常時50人以上の労働者を使用する事業場とする。 |
衛生委員会を設ける要件はシンプルですね。
業種は問わず、50人以上です。
50人以上の規模の事業所では、産業医が必要になるのですから、それに合わせてという感じでしょうか。
さて、審議内容については、安衛法と安衛則にまとめられています。
審議内容をまとめると、次のとおりです。
1.労働者の健康障害を防止するための基本対策に関すること
2.労働者の健康の保持増進を図るための基本対策に関すること
3.労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に関すること
4.その他、労働者の危険防止に関する重要事項
その他に含まれるものとして、は次のとおりです。
1)安全に関する規定
2)危険性や有害性等の調査とその措置に関すること
3)衛生に関する計画の作成、実施、評価、改善に関すること
4)衛生教育の実施計画の作成に関すること
5)爆発物、薬品等に関する調査とその対策に関すること
6)有害業務に関する作業環境測定の結果とその対策に関すること
7)健康診断、特殊健康診断の結果とその対策に関すること
8)労働者の健康の保持増進を図るための措置の実施計画の作成に関すること
9)長時間労働による健康障害防止に関すること
10)労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策
11)その他、指導や通達に関すること
労働者の衛生や心身の健康に関する、あらゆることが審議対象になるようです。
10)について、労働者のメンタルヘルスについては、重点課題となっています。
安衛法も27年度の改正で、ストレスチェックが義務付けられるなど、心の健康保持について、事業者が気を配らなくてはなりません。
衛生委員会についてまとめてみます。
規模50人審議内容1.労働者の健康障害を防止するための
基本対策に関すること
2.労働者の健康の保持増進を図るための
基本対策に関すること
3.労働災害の原因及び再発防止対策で、
衛生に関すること
4.その他、労働者の危険防止に関する重要事項
1)安全に関する規定
2)危険性や有害性等の調査と
その措置に関すること
3)衛生に関する計画の作成、実施、
評価、改善に関すること
4)衛生教育の実施計画の作成に関すること
5)爆発物、薬品等に関する調査と
その対策に関すること
6)有害業務に関する作業環境測定の
結果とその対策に関すること
7)健康診断、特殊健康診断の結果と
その対策に関すること
8)労働者の健康の保持増進を図るための
措置の実施計画の作成に関すること
9)長時間労働による健康障害防止に関すること
10)労働者の精神的健康の保持増進を
図るための対策
11)その他、指導や通達に関すること
メンバー | 1号)総括安全衛生管理者またはそれに準ずる者 2号)衛生管理者 3号)産業医 4号)労働者の内、衛生管理に従事したことがある者 作業環境測定士 ※2号~4号の者の内、半数は労働組合等の推薦による |
その他、安全委員会でも、衛生委員会でも共通する事項について、安衛則にまとめられています。
まず委員会の開催頻度は、月1回以上です。
多くは第○週の○曜日、もしくは毎月○日に開催というように設定しているところも多いのではないでしょうか。
定期開催以外としては、事故が発生を受けての対策委員会などがありますね。
委員会を開催したら、その結果や議事録は、すみやかに公表しなければなりません。
公開方法は、全員が見られる場所に掲示する、電子データとして閲覧可能にするなどの方法をとらなければなりません。
そして開催記録は、3年間は保存する必要があります。
さて、安全委員会、衛生委員会と見てきましたが、委員会を設けなければならない事業所では、どちらも開催する必要があります。
1号の委員は、どちらの会合にも出席しなければいけませんし、他にもいずれの委員会にも出席しなければならない人もいるかもしれません。
毎月2つの委員会に出席するとなると、かなりの負担ですよね。
そのため、安全委員会と衛生委員会をまとめて開催してもよいとされています。
これを安全衛生委員会といいます。
安全衛生委員会は、ちゃんと安衛法第19条に規定されています。
安全衛生委員会で審議する内容は、安全と衛生に関する内容です。
参加メンバーも、各委員会を合わせたものになっていますね。
ほとんどの場合は、安全衛生委員会を開催しているのではないでしょうか。
安全員会も衛生委員会も、50人以上の労働者がいる事業所において設けなければなりません。
では、50人未満の事業所では、安全衛生の審議はどうするのでしょうか?
法的には、委員会を設ける必要はありません。
そのため、ほとんどの場合において、安全衛生についても、事業者が判断し、決定していると思われます。
もちろん、こういったやり方で問題はないのですが、判断にあたっては事業者の独断ではなく、労働者の意見を聞かなければなりません。
この事については、安衛則第23条の2で規定されています。
(関係労働者の意見の聴取) 第23条の2 委員会を設けている事業者以外の事業者は、安全又は 衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための 機会を設けるようにしなければならない。 |
事業者だけの意見や都合で決めるのではなく、きちんと労働者の意見を聞き、反映しなくてはいけないわけですね。
実際に、安全衛生の方針で影響を受けるのは、労働者なのですから、その意見は大切です。
安全、衛生に関する委員会をまとめてきました。
この制度については、事業者と労働者の安全衛生に関する意見をまとめ、改善していくという目的に基いているものです。
これは重要です。
しかし、実際の運用はどうなっているでしょう。
おそらく、ほとんどマンネリ化、形だけ、ダラダラと、ただ義務だからやっているというのも少なくないのでしょうか?
長年続いてくると、検討議題も出尽くしますし、新たに何かあるわけでもない。
さりとて、新たな議題を探すほど、委員に熱意もない。
そんな状態になっていくと思います。
当然、それが悪いわけではありません。
仕方がないのです。
次は、安全・衛生委員会のそういった問題について取り上げてみたいと思います。
まとめ。
【安衛法】
第17条 事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに安全委員会を設ければならない。 |
第18条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに衛生委員会を設ければならない。 |
第19条 事業者は、安全委員会、衛生委員会を設ける場合は、それぞれに替えて、 安全衛生委員会を設けてもよい。 |
【安衛令】
第8条 安全委員会を設ける業種と規模について。 |
第9条 衛生委員会を設ける規模について。 |
【安衛則】
第21条 安全委員会での審議事項について、その他事項。 |
第22条 衛生委員会での審議事項について、その他事項。 |
第23条 委員会の議事録の公開と保存について。 |
第23条の2 各委員会を開催する規模以下の事業所では、労働者の意見を聞く機会を設けなければならない。 |