厚生労働省労働局長登録教習機関
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クレーンは、建設業や製造業、運送業、その他ありとあらゆる仕事で使用されています。
重さが数トンになる重量物を吊上げて、任意の場所に運ぶ。
この技術がなかったならば、ビルも家も建てることはできませんよね。
製造業であれば、材料を運びこむこともできませんし、運送業であれば車に積み込むこともできません。
クレーンには、いくつか種類があります。
特定の決まった場所で使うならば、固定式のクレーンを使います。
貨物船で荷の揚げ降ろしを行うのであれば、船に搭載されたクレーンを使用します。
また、建設工事のように場所が不特定であれば、移動式クレーンを使用します。
様々なクレーンが、様々な状況で使われています。
多くの状況で使われていると、それは同時に多くの事故もあるということになります。
クレーンの事故は、少なくありません。
クレーン協会によると、平成24年度のクレーン事故による死傷者数は1,783人で、内死亡者は51人とのことです。
この傾向は数年間さほど変動がなさそうです。
またクレーンによって引き起こされた事故として、非常に大きなものとして記憶に新しいのは、平成18年に起こった、首都圏大規模停電ではないでしょうか。
これは、クレーン船のアームが電線を切ってしまい、東京23区などが停電になりました。
結果として、首都圏のありとあらゆる方面に影響が出ました。
私の会社でも、移動式クレーンはよく使います。
ほぼ全ての工事現場で使用すると言っても過言ではありません。
幸い今まで事故などはありませんが、危ない!と思ったことも何度かはあります。
身近な機械だからこそ、ちょっと事故事例などを見てみようと思ったところ、何のタイミングなのか、このような事故があったようなので、紹介したいと思います。
クレーンが横転 男性1人が死亡 佐久穂町
(平成26年9月9日)
9日午前、長野県佐久穂町の中部横断道建設現場でクレーンが横転する事故があり、 落下した鉄板に巻き込まれたオペレーターの45歳男性が死亡した。 9日午前10時半頃、佐久穂町の中部横断道の橋を作っている現場で、停車中のクレーンが横転した。 事故当時、晴れていて強い風は吹いていなかったという。警察が事故の原因を詳しく調べている。 |
この事故の型は「転倒」になり、起因物は「クレーン」となります。
事故の原因について、詳細は今後明らかになるでしょうが、現時点では、はっきりわかりません。
ただ事故現場の映像を見ると、アームが伸びきっていること、足元が田んぼの側の土であるようなので、アウトリガーの足元の地盤が沈下した、吊り荷が横に大きく振れてしまいバランスを崩したなどが考えられそうです。
クレーンに乗っていた鉄板という表現が気になるのですが、おそらく吊っていたものだと思われます。運転をしていた被災者の方は亡くなられたとのことなので、大きな災害となっています。
他の事例紹介では、原因の推測などを書いたりしているのですが、この事故については、今のところ原因等がわかりませんので、控えたいと思います。
また詳細が分かるようでしたら、改めて事例としてまとめる機会があればと思います。
この事故のように、クレーン事故は少なくありません。
被災者も運転士だけでなく、玉掛け者などの荷の周囲で仕事をされている方など、広範囲に及びます。
事故のパターンとしては、吊り荷の落下、吊り荷がぶつかる、クレーンが転倒するなどがあります。
特に移動式クレーンは、場所にあわせた配置や作業方法が求められ、少し油断するだけでも事故になってしまうのです。
移動式クレーンの横転事故について、もう1つ事例を見てみたいと思います。
参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例
土止め支保工の近くに張り出したアウトリガーが沈下し、移動式クレーンが転倒
この災害は、公園内の建設作業現場において、移動式クレーンを用いて鉄筋束の搬入作業を行っている最中に発生しました。
災害発生当日、被災者であるクレーン運転士は、アスファルト舗装された遊歩道上に移動式クレーンを設置し、トラックで搬入された1束約800kgの鉄筋のつり下ろし作業を行っていました。 3回目の作業で鉄筋の束を所定の位置に下ろした直後になって、前方のアウトリガーが地中に沈み始め、そのまま移動式クレーンは横転しました。 現場では、掘削作業が同時に行われており、土止め支保工から1mの距離に移動式クレーンの前方のアウトリガーが張り出されおり、不安定でした。 アウトリガーは厚さ9cm、縦横50cm角の硬質プラスチック製の敷板の上に張り出されていました。 工事計画書は元請が作成していたが、鉄筋束の搬入作業と掘削作業は同時に行われることになっていた。また、周囲は雑木林と建物になっており、ほかに鉄筋束の搬入場所を確保することは困難であった。 |
事故の型は「転倒」であり、起因物は「クレーン」になります。
直接的な原因は、移動式クレーンを地盤の緩い場所に配置し、作業を行ったことです。
移動式クレーンを配置し、アウトリガーを置いた場所は、舗装道の上ではあるものの、土止め支保工に接近した場所でした。
土止めを行ったとはいえ、周辺地盤の安定度は悪くなっています。
そのような場所に重量のある移動式クレーンを配置し、荷重をかけたとすると、舗装の下の土が押されて、逃げてしまいます。
実際に、土止用の矢板が崩れ、土が流れ込んでいたようです。
クレーンで地盤が緩い場合というとピンと来ないかもしれませんが、このように考えたら想像できるかもしれません。
重いものを、固い床の上で持ち上げるのと、ふかふかのベッドの上で持ち上げるのとでしたら、どちらのほうが踏ん張れるでしょうか?
重いものを持たないとしても、固い床の上とベッドの上だと、立った時に安定するのは、どっちかなと考えても分かるかもしれません。
どっちでしょう?
体験すると分かると思いますが、断然固い床の上です。
これはクレーンも同じなんです。
土の地面であり、人の体重程度ではそう沈んだりしません。
しかしクレーンの重さは人の比ではないのは一目瞭然ですよね。
さらに車体荷重に加え、数トンもの荷物を吊り上げるのですから、車体を支えるアウトリガーに掛かる荷重は数十トンにも及ぶでしょう。
アウトリガーの足元には、クレーンに付属しているプラスチックの厚板を敷くのですが、この大きさが縦横約30cmで、暑さが5cmほどのものが多いです。
四方が30cm程度の足元に、相当の荷重が集中するのですから、緩い地盤だと沈み込んでしまうのは想像できますよね。
ちょうど、布団の上で立ち上がると、両足に全ての体重がかかるので、布団が沈み込む。
地面もそんな状態になるのです。
この事故では、直接的ではないですが、事故につながった背景がありそうですね。
それは、作業方法です。
掘削作業を同時進行させながら、不安定な場所での鉄筋の荷降ろしという作業方法に問題がありそうです。
他に荷を下ろす場所がないにせよ、もし掘削作業の前に、鉄筋を運び込んでいたら、少なくともより安定した場所で荷降ろしができたのではないでしょうか。
施工計画を作成した時は、このような事故が起こるなんて想像していなかったでしょう。
舗装道もあるので、十分にクレーンが踏ん張れる場所があると思って、配置したと思います。
路面下の地面が流れるなんて、想像もできなかったでしょう。
以上のことを踏まえて、事故原因をまとめてみたいと思います。
1.掘削面近くの地盤が不安定な場所に、移動式クレーンを配置した。
2.工事の計画が掘削と鉄筋搬入を同時期に行うようにしていた。
3.鉄筋の荷降ろし場所の関係上、移動式クレーンの配置位置は、掘削場所の近くにせざるを得なかった。
これらの原因をふまえての、対策は次のように考えれます。
1.掘削する前に荷物を運びこむなど、無理のない計画を作成する。
2.安定した地盤の上に、移動式クレーンを配置する。
3.足元が不安定な場合は、鉄板を敷く。
移動式クレーンは、アウトリガーで横広に車体を支えているのですが、踏ん張りが効かなくなるとたやすく倒れてしまいます。
移動式クレーンで、足元が不安定な場合は、十分な広さと強度を持った鉄板を敷くように定められています。(クレーン則第70条の3及び4)
鉄板を敷くことで、足元が沈み込まないのもありますが、荷重が鉄板全体に分散されます。 先の布団の例で説明すると、立ち上がるよりも寝るほうが沈み込む深さは小さいですよね? 同じ体重であっても、荷重が掛かる面積が広いほど、分散され一箇所にかかる荷重が小さくなるからです。 これは移動式クレーンも同じで、広さ30cmの足元よりも、広さ2mの鉄板の方が、荷重を分散できるということです。
今回の事故でもあるいは鉄板を敷いていたら、崩壊しなかったかもしれまえせん。
しかし、掘削面の近くであるというのは変わりませんので、不安定な場所であることには違いありません。
重い荷物を吊り上げるパワフルな機械ですが、結構繊細なのです。
私の会社でもよく使いますが、身近な機械です。
身近で慣れているがゆえに、慎重さを欠いた使い方になることも、多々あるようです。
これくらいなら大丈夫だろうの許容範囲が、どんどん広がり、事故になる。
慣れてくると油断するとはいえ、怖いですよね。
移動式クレーンは、特定機械に指定され、管理を徹底しなければならないものです。
それは、事故が起こりやすい、また一度事故が起これば、大きく深刻な被害になるからです。
長野県の事故も、まさかこんな事故が起こるなんて思ってもみなかったと思います。
移動式クレーン。
今日も明日も使うと思います。
今一度、機械を点検し、使い方を確認して、事故がなくしていきたいものです。