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移動式クレーンは、特定機械という、特に危険な作業を必要とする機械等に含まれています。
そのため製造から使用に至るまで、常に機械が正常に稼働するよう、ありとあらゆる検査を受けなければなりません。
しかし、機械の状態が正常であれば事故が防げるかというと、そうではありませんよね。
使い方が悪ければ、事故になってしまいます。
車でも、きちんと整備されていたとしても、事故は起こりますよね。
運転の上手下手という技能もありますし、スピードを出し過ぎるなどは、整備状態とは直接関わりません
移動式クレーンも同じで、現場での使用方法で事故に至ることがあるのです。
今回は、移動式クレーンの現場作業での使用方法について、まとめていきたいと思います。
移動式クレーンを用いて作業を行う前には、事前に現地調査し、作業計画を作成しなければなりません。
現地に行かなければ、分からないこともありますので、必ず現地調査をして計画しましょう。
作業にあたっての事業者が行わなければならないことについては、安衛則に規定されています。
【安衛則】
事前調査では、移動式クレーン配置予定場所の地盤について調査が必要です。
舗装されている場所ならともかく、土の上なのであれば、地盤が緩いと、物を吊った時に足元が沈み込み、転倒してしまいます。
第634条の2の2項では、そうやって転倒するおそれのある場所では、必要な措置をとらなければならないとあります。
必要な措置とは、何か。
1つは、地盤改良をしてしまうことです。水気を抜いて締め固めたり、セメントを混ぜて固結させる方法などがあります。
もう1つは、機械の足元に鉄板を敷くことです。これで足元の安定を図るわけです。
地盤以外にも現地で確認しておかなければならないことがあります。
それは、電線です。
クレーンは上に物を吊上げ、移動させる機械です。
物を吊り上げた時に電線に触れてしまい、感電するという事故が、意外と少なくないのです。
そのため、電線の位置を考慮して、クレーンの配置位置を決めなければなりません。
しかし、どうしても電線と接触してしまう場合には、第349条の措置を取ります。
次のような措置ですね。
1)当該充電電路を移設すること。
2)感電の危険を防止するための囲いを設けること。
3)当該充電電路に絶縁用防護具を装着すること。
4)前3号に該当する措置を講ずることが著しく困難なときは、監視人を置き、作業を監視させること。
まず気をつけなければならないことがあります。
それは、勝手にやってはダメということです。
必ず、電力会社と相談しましょう。
電線路の移設や囲い、絶縁用防護具の装着には、電流をカットしなければなりません。
勝手にやったら感電事故になります。
これは最重要です。
さて、これらの措置が取れない場合は、作業を監視させるのですが、これはしっかりクレーンの腕部と電線との離隔がしっかり取れていることの監視です。
クレーンの車体は金属なので、電導性があります。
例え接触していなくとも、近づくと誘電してしまうのです。
そのために、必要な離隔を確保することが大切なのです。
離隔距離については、労働基準局通達(基発第759号)と電力会社の推奨離隔距離があります。
基発第759号では、このように書かれています。
移動式クレーン等の送配電線類への接触による感電災害の防止対策について 基発第759号(昭和50年12月17日) 1 送配電線類に対して安全な離隔距離を保つこと。
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電圧の区分があるので、簡単に説明します。
高圧は、直流は750Vを超え、6,600V以下、交流は600Vを超え6,600V以下です。
特別高圧は、7000Vを超える電圧となります。
電圧が高くなるほど、十分な離隔が必要になりますね。
基発での離隔と、電力会社推奨の離隔を一覧にまとめると次のとおりです。
電圧(KV) | 労働基準局通達 | 電力会社推奨 |
6.6KV | 1.2m | 2.0m |
22KV以下 | 2.0m | 3.0m |
66KV | 2.2m | 4.0m |
77KV | 2.4m | 4.0m |
154KV | 4.0m | 5.0m |
275KV | 6.4m | 7.0m |
電力会社のほうが、長い距離を見ています。
作業する場合には、安全を十分に確保するため、電力会社の離隔距離を取ったほうがよいでしょう。
しかし離隔距離が、どれくらいか目視して分かるものではありません。
離隔距離確保の対策としては、離隔限界位置にロープなどを張っておく方法があります。
高圧(6,600V以下)の電線の近くで作業する場合は、電線から2m離れた場所に、支柱を建て、支柱の間にロープを張るのです。
監視者は、クレーンの腕部がこのロープに近づかないようにチェックするというわけです。
監視者の配置は、最終手段になりますので、対策としてはしっかり行わなければなりませんね。
さて、安衛則では、3t以上の移動式クレーン作業を、下請け等の関係請負人に注文する場合の措置について規定しています。
作業間の連絡体制と指示、立入禁止などの連絡調整が必要になるということです。
頭の上を数tもの荷物が動きまわるのですから、しっかり連携をとらないと危険ですよね。
安衛則と同様の規定については、クレーン則でも規定されています。
連絡体制や転倒防止などの措置については、クレーン則第66条の2にも規定されていますね。
【クレーン則】
作業時について、計画、配置や指揮系統などをしっかりやりましょうということです。
クレーン則での規定は、安衛則の内容を補足したりもありますが、より具体的な内容のものも多くなっています。
それでは、クレーン則での規定を見ていきます。
(過負荷の制限) 第69条 事業者は、移動式クレーンにその定格荷重をこえる荷重を かけて使用してはならない。 |
(傾斜角の制限) 第70条 事業者は、移動式クレーンについては、移動式クレーン明細書に 記載されているジブの傾斜角(つり上げ荷重が3トン未満の 移動式クレーンにあっては、これを製造した者が指定したジブの傾斜角)の 範囲をこえて使用してはならない。 |
(定格荷重の表示等) 第70条の2 事業者は、移動式クレーンを用いて作業を行うときは、 移動式クレーンの運転者及び玉掛けをする者が 当該移動式クレーンの定格荷重を常時知ることができるよう、 表示その他の措置を講じなければならない。 |
(アウトリガーの位置) 第70条の4 事業者は、前条ただし書の場合において、アウトリガーを 使用する移動式クレーンを用いて作業を行うときは、 当該アウトリガーを当該鉄板等の上で当該移動式クレーンが 転倒するおそれのない位置に設置しなければならない。 |
1つずつ簡単に見て行きたいと思います。
第69条は過負荷の制限です。
つまりクレーンの能力以上に重いものを吊ってはいけませんということです。
移動式クレーンの吊り荷重には制限があります。
クレーンの能力には、1t未満から数十tまで吊上げられる種類があります。
しかし常にマックスの能力が出せるわけではありません。
車体と吊り荷の距離、腕の傾斜などの要素により、吊り荷重の限界は異なります。
限界に近づくと、過負荷防止装置が働くのですが、これを無視するのはダメです。
もし過負荷であると、荷物の落下、ワイヤーの切断、腕部の折れるなどの事故になりますので、必ず荷重の制限は守りましょう。
第70条も吊り作業時の注意ですが、腕部の傾斜角度の制限です。
あまり腕を寝かせ過ぎない、または上げ過ぎないということです。
クレーンの腕は、寝かせれば寝かせるほど、吊れる荷重は小さくなります。
これは重い荷物を腕を伸ばして垂直に立てた状態から、徐々に肩の高さまで水平にしていくと、かなり負担がかかりますよね。
これと同じことがクレーンでも発生しているのです。
だから、傾斜角には注意しなければなりません。
第70条の2は、荷重計についてです。
吊り荷の重さがリアルタイムで分かるようにしましょうということですね。
そのためには計器が必要なので、備え付けなければなりません。
第70条の3は、安衛則第634条の2で説明した内容に被るのですが、軟弱な地盤や地下に埋設物がある場所では、移動式クレーンを使ってはいけないということです。
そんな場所で使用せざるをえない時は、鉄板を敷きましょうとありますね。
第70条の4と5は、アウトリガーについてですね。
アウトリガーとは、吊り作業を行うときの足です。車体の左右に張出し、踏ん張り力を増加させるためのものです。
このアウトリガー、吊り荷重と一点に受けるので、安定した地盤でないと沈んで、転倒してしまいます。
アウトリガーを張り出す場所は、しっかりした地盤の上か、鉄板の上でないとなりません。
このアウトリガーは、原則として最大に張り出します。
最大に張り出すとカチンと音がして、ロックが掛かります。
この状態が最も踏ん張れるのです。
しかし作業場所によっては、アウトリガーを十分に張り出せないところもあります。
例えば、道路上の作業で、片側通行規制をとっている場合、規制外の車線に足をはみ出すわけにはいきませんよね。
こんな場合は、転倒しないなどの条件をクリアすれば、最大に張り出さずに作業しても可になります。
しかしこれは仕方ない場合に限ります。
基本は最大に張り出すようにしましょう。
少し長くなってきましたので、今回はここまでとして、続きは次回とします。
【安衛則】
第349条 事業者は、移動式クレーンを使用する際には、感電防止の措置をとること。 |
第634条の2 特定注文者は、移動式クレーンの転倒など、危険作業に対して措置をとること。 |
第662条の8 特定発注者等は、移動式クレーン作業時には合図を決める、作業間の連絡調整などの措置をとること。 |
第643条の3 元方事業者クレーン等の運転についての合図の統一すること。 |
【クレーン則】
第66条の2 事業者は、移動式クレーンを用いて作業を行うときは、危険防止のための作業方法を決めなければならない。 |
第69条 事業者は、移動式クレーンにその定格荷重をこえる荷重をかけて使用してはならない。 |
第70条 事業者は、移動式クレーンについては、ジブの傾斜角の範囲をこえて使用してはならない。 |
第70条の2 事業者は、移動式クレーンを用いて作業を行うときは、定格荷重を常時把握できる表示をつけなければならない。 |
第70条の3 事業者は、地盤が軟弱などの場所では、移動式クレーンを 用いて作業を行ってはならない。 ただし、必要な広さと強度の鉄板を敷くなどの措置をとった場合は、この限りではない。 |
第70条の4 事業者は、アウトリガーを当該鉄板等の上で移動式クレーンが転倒するおそれのない位置に設置しなければならない。 |
第70条の5 事業者は、移動式クレーンのアウトリガーは最大に張り出して使用しなければならない。 ただし、最大に張り出さなくとも、定格荷重を下回る場合は、この限りではない。 |