はさまれ・巻き込まれ激突され○事故事例アーカイブクレーン

移動式クレーン「激突・はさまれ」の事故

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移動式クレーンの事故事例として、いくつかのパターンを紹介してきました。

作業の方法として、荷物を吊り上げる、移動させる、降下させるという動きがあるので、この動きに伴う事故があります。

今回も移動式クレーンにまつわる事故事例を、見て行きたいと思います。

今回は、吊り上げた荷物に人がぶつかるケースについてです。

荷物を持ち上げて振り回すわけですから、振り回した先に労働者がいれば、ぶつかってしまいます。
そのようなケースは、あまりにも不注意すぎるので、まれでしょうが、風などで不意に振れたりして、ぶつかる事故も少なくないようです。

また、荷物を移動させる経路が、壁や柱などの障害物すれすれを通る場合、荷物と壁との間に労働者が挟まってしまうという事故もあります。

そのような事故事例を見ていきます。

参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例

移動式クレーンのつり荷に激突される

この災害は、SRC造の建築工事において、鉄骨建て方工事中に鉄骨柱を移動式クレーンで移動するためつり上げたところ、この鉄骨柱が荷振れし、被災者の腹部にこの鉄骨柱が激突した事故です。

この現場は、前日までに基礎鉄骨部のコンクリート打設が終了し埋め戻されたところに鉄骨柱、H鋼等が仮置きされた状態でした。

事故発生当日は鉄骨柱の建て方や梁の組立てを行う予定でした。
一定の鉄骨柱の建て方は終わったため、仮置きのH鋼を移動式クレーンにより移動させることになりました。

この作業時に移動式クレーンは、ブームを最長にして、荷を吊り上げようとしました。
しかし過負荷防止装置が作動したため、ブームを短縮し、作業半径を小いさくしました。
しかしこれにより吊り荷が斜め吊り状態となってしまいました。

さらに、仮置きされていたH鋼が鉄骨柱に引っ掛かり、その部分を軸として鉄骨柱が回転し、鉄骨柱のボルト締めを行っていた被災者につり荷の鉄骨柱が衝突した。

被災者は、病院に運ばれましたが、死亡しました。

この事故の型は「激突され」、起因物は「移動式クレーン」です。

無理な状態の荷釣り、つまり斜め吊りで作業を続行しようとしたこと、周りに鉄骨柱があり、それらの障害物に十分な検討がなかったことが原因です。
そして最も大きな事故の要因は、吊り荷作業を行っている時に、作業範囲で作業を行っていたことです。

クレーン作業では、吊り荷作業中に、落下や荷の激突ある場所には立ち入ってはいけません。
これはクレーン作業の鉄則と言えます。

吊り荷作業そのものに携わっている人は、荷物に注目していますので、あえて危険箇所に入ろうとはしません。荷物に触れるのも、十分降下してから、バランスをとるために触れるくらいです。

しかし、その他の仕事をしている人は、この注意は抜けがちです。
自分の仕事に集中していることもありますし、もしかすると自分とは関係がないという心理もあるのかもしれません。

それに、ほとんどにおいて、このような事故は起こりません。
そのため、近くでクレーン作業をしているけども、大丈夫だろうという気持ちもあったと思います。

ほんの少し、何かのきっかけで、事故は起こってしまうのです。

そもそも鉄骨を組み立ててから、仮置き資材を取り除くという作業方法にも問題があったのかもしれません。
鉄骨が組み上げた、外から荷を吊ろうとして、過負荷になり、結果斜め吊りになってしまいました。

作業手順がどうしようもない場合は、もっと吊り能力が高いクレーンを選定するべきでした。

また5m以上の鉄骨の組立であれば、作業主任者を選任しなければなりません。
作業主任者は、作業を直接指揮しなければならないのですが、この事故の時には、指揮されていませんでした。

さて、これらを踏まえて、事故原因をまとめたいと思います。

1.クレーンの作業範囲内で、別の作業を行っていた。
2.作業手順に無理があった。
3.作業に適した能力のクレーンを配置していなかった。
4.鉄骨組立作業主任者が、直接指揮していなかった。

これらの原因をふまえての、対策は次のように考えれます。

1.クレーンの作業範囲内では、労働者の立入りを禁止にする。
2.作業手順を検討し、無理のない計画を立てる。
3.吊り荷重とクレーン配置位置を考慮した、機械を選定する。
4.鉄骨組立作業主任者を選任し、直接指揮をとらせる。

仕事に慣れてくると、どうしても油断がうまれます。
その油断が、間近で重量物が吊られていても、特に注意を払わないことになるのです。

また宙に浮いている物は、例えそれがどんなに重いものであっても、重くないと錯覚してしまう傾向にあります。

昔、建築物解体用機械として、鉄球をぶつけるものがありました。
現在は、騒音等の問題で、使用されなくなり、目にすることはありませんが、浅間山荘事件では壁を壊すために使用されていたので、映像は見たことがあるかもしれません。

この鉄球、重さは数トンもあるのですが、宙に浮き、動きもゆっくりなので、端から見ると手でも止められそうという錯覚をしてしまうようです。
そのため、動いている鉄球を止めようとした人もいたとも聞きます。
結果は、言うまでもありません。
ビルの壁を破壊する力でぶつかられるのですから、当然悲惨なことになるはずです。

中空にある重量物は、重さを錯覚させてしまうのも、激突事故の原因の1つかもしれません。

とはいえ、事故は常に起こるとは限りません。
むしろ、事故なく作業が進むことのほうが、圧倒的に多いです。

しかし、ほんの少しだけ何かの拍子で、たやすく命を奪う結果になるのです。
この事例でも、被災者はまさか自分に鉄骨が激突するなんて思わなかったでしょう。

ちょっとした仕事の油断。ちょっとしたクレーンの角度、ちょっとした障害物との接触。
これらが、被災者の命を奪う事故になってしまったのです。


さてもう1つ別の事例をみたいと思います。

積載型トラッククレーンを用いて荷の積下ろし運転操作中、トラッククレーンが傾き挟まれた

この災害は、積載型トラッククレーンを用いて電柱用コンクリート柱の積み下ろし作業を行っていた際に、傾いた車体と柱とに挟まれるという事故です。

この災害当日、電柱用コンクリート柱の整理作業を行っていました。
被災者は他の作業者と2人で、資材置き場で、積載型トラッククレーンを用い、コンクリート柱の積み下ろし作業を行っていました。
被災者はクレーンの操作を行い、コンクリート柱が積まれているところと、クレーン車の間に位置していました。

積み重なったコンクリート柱のうちから、1本を吊り上げ、ジブを旋回させた際、クレーンのアウトリガーが敷板から外れて地面に入り込んだため、車体が傾斜しました。

その時、運転操作していた被災者が、積載型トラッククレーンとその横に積み重ねてあったコンクリート柱との間に胸部を挟まれ、胸部圧迫窒息により死亡しました。

この事故の型は「はさまれ・まきこまれ」、起因物は「移動式クレーン」です。

事故に至った原因は、アウトリガーの設置方法が悪かったことです。
また、吊り荷が、クレーンの吊り荷能力(定格荷重)を超えて、過負荷になっていたことも、傾いた原因と言えます。

さらに、操作する位置がまずかったといえます。
車載型クレーントラックで、ジブやアームの操作を行う場所は、車体の左右にあるのが通常です。
被災者は、吊り荷を見ながら行おうとしたのでしょうが、コンクリート柱と車体の間で、操作を行ってしました。
こうなると、いざという時に逃げ場がありません。

これらを踏まえて、事故原因をまとめたいと思います。

1.クレーンのアウトリガーの設置方法が適切でなかった。
2.クレーンが過負荷になっていた。
3.作業に適した能力のクレーンを配置していなかった。
4.操作を荷物と車体の間で行っていた。

これらの原因をふまえての、対策は次のように考えれます。

1.安定した地盤に車を配置し、アウトリガーを設置すること。
2.クレーンの定格荷重を守ること。
3.吊り荷重とクレーン配置位置を考慮した、機械を選定する。
4.避難できる位置で操作すること。

荷物と車体の間ではなく、2人で作業していたのですから、もう1人に状況を確認させ、自分は荷物と反対側で操作していたら、挟まれず、車体が傾いた時にも、逃げられたかもしれません。

今までも同様の仕事をしていたので、危ないという感覚も薄れていたのかもしれません。
運が悪いと言えなくもないですが、起こるべくして、起こっているのです。

同じような作業をしていて、今まで事故にならなかったから、今回も起こらない。
などとは、考えないほうがいいです。

事故で死傷した人のほとんどは、事故を起こるなんて思っていなかったはずです。
慣れた仕事も事故の可能性はあるのです。

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