厚生労働省労働局長登録教習機関
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読売新聞に、このような事故の記事がありました。
とても痛ましい事故なのですが、痛みが具体的にイメージできる事故ほど、我が事として捉えられ、安全意識の喚起になるのではと思います。
今回は、この事故を事例として紹介し、原因等を推測するとともに、類似事故事例も取り上げたいと思います。
石を砂利にする破砕機、建材会社代表挟まれ死亡
(平成26年9月22日)
9月22日午前11時頃、静岡県富士市大淵の建材業の作業場で、石を砂利にする破砕機に同社代表の男性が挟まれているのを、出勤した従業員が見つけた。
男性は頭や胸を強く打っており、現場で死亡が確認された。 富士署の発表によると、破砕機は大きな石を左右から挟んで砕く機械で、人間が入るだけの幅があるという。同署は、同日午前7時頃から一人で作業をしていた男性が、何らかの原因で破砕機に巻き込まれたとみて調べている。 |
出典:読売新聞(記事リンク切れ)
※日付に月を入れる、会社名等削除など、一部記事内容改変しております。
この事故の型は「はさまれ・巻き込まれ」で、起因物は「破砕機」です。
石を砕く破砕機の動画は、YouTubeなどでアップされていたので、見たことがあります。
平行に2つ並んだスクリュー付きローラーが、内側に回転し、その間を通る石を細かく砕く機械です。
こんな機械に巻き込まれたのですから、想像するだけで、痛くなります。
どうして、このような事故に至ったのかは、今後捜査で明らかになっていくでしょうが、被災者は1人で仕事をされていた時に事故に巻き込まれたようです。
推測になりますが、考えられる原因としては、開口部付近で作業中に誤って転落したがあります。
または機械を稼働させたまま、ローラー等のつまりを取る、出来上がった砂利を取り出そうとしたところ、転落又は衣服が絡まってしまったなども考えられます。
安衛則第142条で、粉砕機や混合機の開口部で、作業者が転落や接触するおそれがある場所では、蓋や覆い、囲い、または90cm以上の手すりなどの転落や接触防止措置をとらなければなりません。
この蓋などの措置を設けると転落の危険は軽減されます。
しかし物をローラーに入れる時に、毎度開け閉めしなければならず、作業者にとっては手間がかかります。
そのため、蓋はあるけども使わない、囲いはあるけれども外されているなどのケースもあります。
作業上の都合なのですけども、すぐ側にとんでもない破壊力を持つ機械が動いているのですから、ものすごく危険なのは、分かりますよね?
富士市の事故では、これらの措置があったのかは分かりません。
仮に措置がとられていた場合、事故防止に至らなかったのは残念です。
1人で作業されていたということなので、普段やり慣れている作業の途中で、被災したのではと想像されます。
この事故のような、はさまれ・巻き込まれという死傷事故は、ものすごく多いです。
特に製造業では、最も多い死傷事故なのです。
平成25年では、はさまれ・巻き込まれでの死傷者数は、全体の28.2%、約7,600人もの人が被災しています。死者数は、実に61人にものぼります。
全産業でも、死傷者が約15,200人、死者数が132人にもなっているのです。
これは平成25年度の1年だけの人数です。
そしてこの傾向は、何年も何年も変わっていません。
当然、機械の安全装置の発達や、安全教育と意識の高揚などで、年々減少しています。
しかし、建設業の墜落と並び、依然として最も多い事故のパターンだといえます。
はさまれ・巻き込まれの事故について、他の事例も見ていこうと思います。
参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例
ミキサーによる麺生地練り作業中、ミキサー内に転落し死亡
この災害は、うどん、そば、ラーメンの生地の製造を行っている事業場において、麺生地をミキサーで練る作業中に、ミキサーの周囲に付着した粉をハケで払い落とそうとして、作業者がミキサー内に誤って転落し、羽根に巻き込まれ被災したものです。
災害が発生した作業場には、原料の粉を練るミキサー、練り終った生地をローラーに送出すフィーダー、生地を巻き取るローラー等が設置されており、被災者が一人で操作していた。 作業工程では、粉を入れて練った後、動きが停止するのを待ってから、中身を取り出すことになっていました。 災害発生時の状況は、そば生地の練りが終わり、次の工程に移るためにミキサーの羽根の回転が完全に止まる前に、ミキサーの蓋を開けてヘラでミキサー周囲に付着した粉を落していたときに、麺生地が身体の一部に絡まり引き込まれミキサーに転落してしまいました。 ミキサーの非常停止スイッチは通常の作業位置から手が届かない1mほど離れた操作盤に取付けられていました。 |
この事故の型は「はさまれ・巻き込まれ」で、起因物は「食品ミキサー」です。
直接原因としては、まだ動いているミキサーの羽根に近づき、引きずり込まれてしまったことです。
安衛則では、平成25年の改正で、食品加工機の安全装置規定が追加されるようになりました。
ミキサーは粉砕機、混合機ですので、第130条の5で可動部分に接触する危険がある場所には蓋や囲いを設けなければならないと規定されています。また第130条の7では、内容物を取り出す場合は、機械を停止する、または用具等を使用すると規定されています。
この事故は、この規則が制定される前の事故ではありますが、十分な安全対策がとられていたとは言い難く、結果として痛ましい事故になりました。
羽根が動いている所に、手を入れるなどは、日常的にやっていて慣れていたのかもしれませんが、とてもこわい作業ですよね。
ミキサーに巻き込まれるというのは、想像するだけでも痛くなります。
さて、これらを踏まえて、事故原因をまとめたいと思います。
1.ミキサーのインターロック機能が不十分。回転中も扉が開けられた。
2.ミキサーが回転しているにも関わらず、蓋を開けて、粉払いの作業を行った。
3.非常停止装置が、手の届く範囲になかった。
4.作業手順、安全教育が行われていなかった。
加工機械の多くは、安全性能を持っています。
その1つがインターロックなどと言われ、危険な使い方を機械側で防止する機能があります。
作業者が危険な使い方をしようとしても、機械がダメという仕組みです。
その1つとして、今回の機械であれば、蓋をあけるとミキサーがすぐに停止するといったもの、または開けようとしても、羽根の回転が完全に停止するまでは開かないといったものです。
電子レンジは、加熱中に扉を開けるとストップしますよね。
これもインターロック機能なのです。
扉を開けたまま、加熱させないようにするためです。
他には、洗濯機なども蓋をあけると止まる、または完全に停止するまでは蓋は開かないなどがありますね。
このように機械側で、危険を防止することが義務付けられていますし、メーカーも安全装置については腐心しているのです。
残念ながら、このミキサーにはそれがなかったようです。
非常に古い機械であれば、元々ついていなかった可能性があります。
しかしそうでなければ、改造したのかもしれません。
さらに危険を察知した場合には、非常停止ボタンを押して、停止できることが義務付けられています。
この非常停止ボタンは、作業位置から「手の届く範囲」になければなりません。
理由は分かりますよね。
とっさの場合ですから、移動するのが不可能な場合が多いです。そんな悠長なことはできません。
この機械は、作業位置から1メートル離れており、手が届く範囲とは言えませんでした。
機械の安全性能が良くなったとしても、使うのは人間です。
何よりも作業者が安全意識を持ち作業を行わなければ、危険を排除することは不可能です。
羽根が回転しているのに、その間近で作業を行うなどは、危険極まりないことは、会社も被災者も分かっていたと思います。
このような作業方法は、この日だけイレギュラーに行われたのか、日常的に行われ、事業者も黙認したのかは不明です。 いずれにせよ、非常に危険な作業を行った結果の事故には違いありません。
作業者に、危険な作業をさせないためには、作業手順を徹底し、教育を行わなければなりません。
この事故を起こった会社では、この作業手順書と安全教育が行われていませんでした。
作業者は、危険だと教えられていなかったのかもしれません。
これは事業者の責任です。
一方で、作業者自身もこんな作業を行ったら危険だという意識を持たなければなりません。
これらの原因をふまえての、対策は次のように考えれます。
1.ミキサーは、羽根が回転中は蓋を開けることができない構造とすること。
2.ミキサーの羽根が回転しているに、内部の作業を行わせないようにすること。
3.非常停止スイッチを作業者の通常の作業位置から操作できる位置に設置すること
4.作業手順書を作成し、安全教育を行うこと。
冒頭に紹介した破砕機の事故や、ミキサーの事故は、痛い事故です。
当然、どのような事故でも痛いのですが、とても生々しく想像できる痛みある事故といえます。
もし自分の身に起こったらと考えると、ぞっとしますね。
生々しい痛みのイメージは、我が身へ置き換えやすくなります。
富士市の事故もとても痛ましい事故です。
しかしただ痛い事故として見るのではなく、自分の身にも起こりうる痛みとして想像してもらえたらと思います。
知り合いが交通事故になったりすると、直後の一時的とはいえ、安全運転を心がける人が多いようです。
これは事故がグッと近くに感じられるからでしょう。
同様に、この事故も身近なものとして感じてもらえたらと思います。
痛みを避けたいというのは、単に事故を防ごうよりも強い安全意識になるはず。
ほんの少しのきっかけで、いつでも痛みが襲ってくるのです。
どうか、この事故の痛みを想像して下さい。
そして、痛みが自分の身に起こらないようにして下さい。