厚生労働省労働局長登録教習機関
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仕事にまつわる貸与、つまりレンタルや貸し出しというものは、機械だけではありません。
忙しい時には、労働者を借りることもあります。これは派遣や期間工という扱いになり、労働基準法や派遣労働法などで規定されています。
その他に貸し出すものとしては、建築物や部屋もあります。
今回は、建築物等の貸与についてです。
建築物の貸し出しとは、どういう場合にあるでしょうか。
まずは、事務所を借りるのがありますね。 またビルの1室を借りて、店舗とするのがあります。
1階が飲食店で、2階より上がオフィス事務所というのは、街中ではよく見かけます。
その他では、工場や会社を改装する間の仮工場、仮事務所というのが考えられますね。
また、建設業であれば、作業現場に現場事務所を設けることが一般的です。
多くの場合は、プレハブで仮設します。
しかし街中等であれば、プレハブ事務所を置くスペースがありません。
その場合、貸し店舗などの建物の一室を借りて、現場事務所とする場合もあるようです。
1部屋だけでなく、ビル1棟まるごと、家1軒まるごと借りるケースもあるでしょう。
従業員の多い会社の場合、自社ビルとまではいかないにしても、ビル全体が会社というのも少なく無いと思います。
建物もしくは部屋を借りるのは、珍しいことではありません。
不動産の賃貸についての法律は民法などの範囲でしょう。
安衛法は、貸す貸さないの話ではなく、建物を貸与するにあたって、安全で衛生的に環境を保つことに主眼を置いた、規定になっています。
建築物の貸与は、安衛法第34条に規定されています。
【安衛法】
(建築物貸与者の講ずべき措置) 第34条 建築物で、政令で定めるものを他の事業者に貸与する者 (以下「建築物貸与者」という。)は、当該建築物の貸与を 受けた事業者の事業に係る当該建築物による労働災害を 防止するため必要な措置を講じなければならない。 ただし、当該建築物の全部を一の事業者に 貸与するときは、この限りでない。 |
建築物の貸与者は、労働災害を防止するために必要な措置をとらなければならない、とあります。
労働災害とは、事故だけでなく、不衛生な状態で健康を害することも含まれます。
1つ注意点があります。
「当該建築物の前部を一の事業者に貸与するときは、この限りではない」とあります。
これは建物全部、つまりビルなら1棟まるごと、家ならば1軒まるごと、倉庫なら倉庫まるごとを1つの事業者に貸与した場合は、措置義務はないということです。
その場合は、貸与を受けた事業者が、責任をもって措置をとらなければなりません。
この後の条文でも同様の記述がありますが、全部同じ意味です。
建築物の内、「政令で定めるもの」とあります。
このことは、安衛令第11条に規定されています。
【安衛令】
(法第34条の政令で定める建築物等) 第11条 法第34条の政令で定める建築物は、事務所又は工場の用に 供される建築物とする。 |
措置が必要な建築物は、事務所又は工場用に供されるものです。
つまり仕事のために貸与する場合のみです。
住宅用のものは除外されます。
さて、具体的にどのような措置をとらなければならないのでしょうか。
これは安衛則に規定されています。
【安衛則】
(貸与建築物の給水設備) 第673条 建築物貸与者は、工場の用に供される建築物で飲用又は 食器洗浄用の水を供給する設備を設けたものを貸与するときは、 当該設備を、水道法第3条第9項 に規定する給水装置 又は同法第4条の水質基準に適合する水を供給することができる 設備としなければならない。 |
(貸与建築物の排水設備) 第674条 建築物貸与者は、工場の用に供される建築物で排水に関する設備を 設けたものを貸与するときは、当該設備の正常な機能が 阻害されることにより汚水の漏水等が生じないよう、 補修その他の必要な措置を講じなければならない。 |
(便宜の供与) 第676条 建築物貸与者は、当該建築物の貸与を受けた事業者から、 局所排気装置、騒音防止のための障壁その他労働災害を 防止するため必要な設備の設置について、当該設備の設置に 伴う建築物の変更の承認、当該設備の設置の工事に必要な施設の 利用等の便宜の供与を求められたときは、 これを供与するようにしなければならない。 |
(貸与建築物の便所) 第677条 建築物貸与者は、貸与する建築物に設ける便所で当該建築物の 貸与を受けた2以上の事業者が共用するものについては、 第628条第1項各号に規定する基準に適合するものとするように しなければならない。この場合において、労働者の数に 応じて設けるべき便房等については、当該便所を共用する事業者の 労働者数を合算した数に基づいて設けるものとする。 |
ホテルなどに泊まると、必ずどの部屋にも避難通路の案内があります。
建物には、通常の通路やエレベーターなどの他、避難用の通路が必要になります。
避難用の階段が設けられない場合は、緊急脱出用の避難設備、窓から地上へのシューターを備えて、有事に備えなければなりません。
当然ですが、これらの設備は、常に使える状態を保たれなければなりません。
建物を丸ごと貸与している場合であれば、借りている人に伝えるだけでもいいですが、雑居ビルのように複数の事務所があるビルなどでは、全ての利用者が、どこに避難通路があるのか伝えなければなりません。
そうでないと、火事などの有事の際に、危ないですよね。
そして、扉についても注意があります。
避難路の扉は、外開きにします。内側に開くタイプはダメだということです。
理由は、避難時に通行の妨げにならないようにするためだそうです。
緊急時、扉が内開きだと、扉を開ける際に一歩体を引かなければなりません。避難に1秒を惜しむ場合、タイムロスです。
外開きだと、扉を開けつつ体を外に脱することができます。さらに扉を蹴って開けるのにも、外開きのほうが適しているようです。
当然ですが、避難用の扉の前に荷物などの障害物を置いてはいけません。
そして通路に物を置いて、通行の妨げにしてもいけません。
雑居ビルで、非常階段に荷物が積み上げられ、逃げられなかったという事故もあったことを、記憶しています。
通路の確保だけでなく、火事などが起こった場合の、警報も備え、しっかり使える状態を保たなければなりません。
建物の貸与は、事務所だけではありません。
時には工場用に貸与することもあります。
工場用の建物を貸与する場合は、あれこれ措置をとる必要があります。
ただし、建物を複数の事業者等に貸している場合の措置です。
丸ごと1棟貸しの場合は、借りている者が責任を負います。
まずは、設備について。 排気などの換気設備がある場合は、整備など機能の保持をしなければなりません。
水回りもきちんと水道水を引かなければなりませんし、トイレ廻りや排水設備も適切にそなえなければなりません。
また半年に1回は、全体的に清掃する必要があります。
特にネズミや虫がいるようならば、これらの駆除を行わなければならないのです。
その他、貸与を受けた者の業務上、支障があることに対して、改造を行う場合は、便宜を図ります。
支障があることとしては、騒音を発する機械を使用しているため音漏れがする、有機溶剤を使用しているなどがあります。
これらに応じた、対処をする必要があります。
建物内で事故や火事が起こった時のために、警報を統一して、全員に周知します。
まさかの時に備えることも、重要な責務なのです。
まとめると、複数の人に貸す場合、使用者が衛生的に使用でき、緊急時には適切に避難できるように備えることが、建物貸与者の責務だと言えます。
事務所や工場用の倉庫を借りるのは、事業者にとっては大きなことです。
決して安くない費用を払い続けます。
せっかく借りた建物が、臭い、汚い、ネズミや虫がいるとなると、気が滅入るどころの話ではありませんよね。
体も心も健康を害してしまいます。
衛生的で健康的な環境で仕事を行うのは、最低限保証されるべきことです。
建築物の貸与者は、その責任を担っていると言えます。
仕事は気持ちのいい環境で、やりたいものです。
建築物貸与者は、労働者の健康を支える役目があるのです。
まとめ。
【安衛法】
第34条 建築物貸与者は建築物による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。 |
【安衛令】
第11条 法第34条の政令で定める建築物は、事務所又は工場の用に供される建築物とする。 |
【安衛則】
第670条 (共用の避難用出入口等) 建築物貸与者は、建築物の避難用の出入口若しくは通路等を備えるとともに、表示し、機能を保持しなければならない。 |
第671条 建築物貸与者は、建築物の内部で就業するものの数が50人以上であるときは、非常警報設備を備え、機能を保持しなければならない。 |
第672条 建築物貸与者は、工場の用に供される建築物では、換気設備を点検、補修等の必要な措置を講じなければならない。 |
第673条 建築物貸与者は、工場の用に供される建築物で飲用又は食器洗浄用の水を供給する設備を設けたものを貸与するときは、の水質基準に適合する水を供給することができる設備としなければならない。 |
第674条 建築物貸与者は、工場の用に供される建築物で排水に関する設備を設けたものを貸与するときは、汚水の漏水等が生じないよう、補修その他の必要な措置を講じなければならない。 |
第675条 建築物貸与者は、工場の用に供される建築物を貸与するときは、当該建築物の清潔を保持するため、当該建築物の貸与を受けた事業者との協議等により、清掃しなければならない。 |
第676条 建築物貸与者は、当該建築物の貸与を受けた事業者から、施設の変更などの便宜を求められたときは、これを供与するようにしなければならない。 |
第677条 建築物貸与者は、貸与する建築物に設ける便所は基準に適合するものとするようにしなければならない。 |
第678条 建築物貸与者は、貸与する建築物において火災の発生、特に有害な化学物質の漏えい等の非常の事態が発生したときに用いる警報を、あらかじめ統一的に定め、貸与を受けた事業者に周知させなければならない。 |