厚生労働省労働局長登録教習機関
北海道・宮城県・岩⼿県・福島県・東京都・⼤阪府・福岡県
玉掛けは、有資格作業なので、特別教育もしくは技能講習を修了したものでなければ、行うことはできません。
技能講習内では、玉掛け作業についてや、安全に吊り荷作業を行うためにチェックしなければならないことなどを学びます。
パイプのような長尺物や幅広のものにはどのように、ワイヤロープをかけたらいいのか、しっかりとした知識がなければできません。
下手な掛け方を行うと、吊っている最中に、荷物がバランスを崩し、落下してしまいます。
日常的に行われる、たかがワイヤの掛け方。
このワイヤの掛け方1つで、作業員全員の安全を守ることになるのです。
とはいえ、作業方法については、法律で規定されていません。
玉掛けのワイヤロープ等についての基準や不適格要件などは、安衛法等で規定されています。
しかし、作業方法や管理方法については、触れられていないのです。
いわば、資格を受けた玉掛け者に任せるといったことでしょうか。
しかし、玉掛けをしっかり行われておらず、吊り荷が落下するなどの事故も少なくなったのでしょう。
条文に玉掛けについて追加するほどではありませんが、何かしら対策を必要となりました。
そこで、労働基準監督署長の通達(基発)という形で、玉掛け作業のガイドラインを策定しました。
このガイドラインが安全に玉掛け作業を行うための、基準になっているのです。
今回は、玉掛け作業のガイドラインについてです。
基発第96号(平成12年2月24日)
玉掛け作業の安全に係るガイドラインの策定について
玉掛け作業は、製造業、建設業等において、日常的に その内容をみると、玉掛け方法が適切でなかったためにつり荷が また、つり上げ荷重が小さいクレーンや1トン未満の比較的軽いつり荷に このような状況を踏まえて、今般、玉掛け作業に起因する労働災害を |
ガイドラインの策定に至った背景について、説明がありますね。
この通達が出されたのは、平成12年です。
平成12年までの10年間で、玉掛け不良が原因と思われる死亡者が、毎年50人もあったとのことです。
これは非常に多いですね。
玉掛け不良で起こる事故で、最も多いものは、「飛来・落下」事故でしょう。
ワイヤロープが切れる、重心がずれて滑り落ちるなどです。
平成25年度の、クレーンや移動式クレーンを使用している際に発生した、飛来・落下による死傷事故は、5件です。
全てが玉掛け不良がどうかは、判別できませんが、毎年50人もの死亡者を出していた時に比べ、非常に減少しているのはわかりますね。
玉掛け事故の減少の原因は、ガイドラインにより、各労働基準監督署等の指導もあるでしょうが、作業者自身の安全意識の高まりも要因といえます。
さて、ガイドラインの中身は、別添にあります。
この別添を見ていきます。
別添
玉掛け作業の安全に係るガイドライン
第1 目的 本ガイドラインは、労働安全衛生関係法令と相まって、 第2 事業者等の責務 玉掛け作業を行う事業者は、本ガイドラインに基づき適切な措置を 玉掛け作業に従事する労働者は、事業者が本ガイドラインに 第3 事業着が講ずべき措置 1 作業標準等の作成 事業者は、玉掛け作業を含む荷の運搬作業 また、作業標準が定められていない玉掛け等作業を行う場合は、 2 玉掛け等作業に係る作業配置の決定 事業者は、あらかじめ定めた作業標準又は作業の計画に基づき、 また、指名した玉掛け作業責任者に対し、荷の種類、質量、形状及び数量、 3 作業前打合せの実施 事業者は、玉掛け等作業を行うに当たっては、玉掛け作業責任者に、 (1) 作業の概要 ロ 運搬経路を含む作業範囲に関する事項 ハ 労働者の位置に関する事項 (2) 作業の手順 イ 玉掛けの方法に関する事項 ロ 使用するクレーン等に関する事項 ハ 合図に関する事項 ニ 他の作業との調整に関する事項 ホ 緊急時の対応に関する事項 4 玉掛け等作業の実施 (1) 玉掛け作業責任者が実施する事項 イ つり荷の質量、形状及び数量が事業者から指示されたものであるかを ロ クレーン等の据付状況及び運搬経路を含む作業範囲内の状況を確認し、 ハ 玉掛けの方法が適切であることを確認し、不適切な場合は、 ニ つり荷の落下のおそれ等不安全な状況を認知した場合は、 (2) 玉掛け者が実施する事項 イ 玉掛け作業に使用する玉掛用具を準備するとともに、当該玉掛用具に ロ つり荷の質量及び形状が指示されたものであるかを確認するとともに、 ハ 玉掛けに当たっては、つり荷の重心を見極め、打合せで指示された方法で ニ 荷受けを行う際には、つり荷の着地場所の状況を確認し、打合せで (3) 合図者が実施する事項 ロ 常につり荷を監視し、つり荷の下に労働者が立ち入っていないこと等 ハ つり荷が不安定になった場合は、直ちにクレーン等運転者に合図を行い、 ニ つり荷を着地させるときは、つり荷の着地場所の状況及び玉掛け者の (4) クレーン等運転者が実施する事項 イ 作業開始前に使用するクレーン等に係る点検を行うこと。 ロ 運搬経路を含む作業範囲の状況を確認し、必要な場合は、 ハ つり荷の下に労働者が立入った場合は、直ちにクレーン操作を 5 玉掛けの方法の選定 事業者は、玉掛け作業の実施に際しては、玉掛けの方法に応じて以下の (1) 共通事項 イ 玉掛用具の選定に当たっては、必要な安全係数を確保するか又は ロ つり角度(図1のa)は、原則として90度以内であること。 ニ クレーン等のフックの上面及び側面においてワイヤロープが ホ クレーン等の作動中は直接つり荷及び玉掛用具に触れないこと。 ヘ ワイヤローブ等の玉掛用具を取り外す際には、クレーン等のフックの (2) 玉掛け用ワイヤロープによる方法 標準的な玉掛けの方法は次のとおりであり、それぞれ以下の事項に イ 2本2点つり、4本4点つり(図2及び図3) (ロ) フック部でアイの重なりがないようにし、クレーンのフックの (ロ) 目通し部を深しぼりする場合は、玉掛け用ワイヤロープに通常の ハ 2本4点半掛けつり(図6) (ロ) アイの圧縮止め金具に偏荷重が作用しないような ホ 3点調整つり(図8) (ロ) 調整器の上、下フックには、玉掛け用ワイヤロープの (ハ) 調整器の操作は荷重を掛けない状態で行うこと。 (ニ) 支え側の荷掛けがあだ巻き、目通し及び半掛けの場合は、 ヘ あや掛けつり(図9) (ロ) 玉掛け用ワイヤロープの交差部に通常の2倍程度の張カが (3) クランプ、ハッカーを用いた方法 イ 製造者が定めている使用荷重及び使用範囲を厳守すること。 ロ 汎用クランプを使用する場合は、つり荷の形状に適したものを ハ つり角度(図10のa)は60度以内とするようにすること。 ニ 横つりクランプを使用する場合は、掛け巾角度(図10のθ)は ヘ つり荷の表面の付着物(油、塗料等)がある場合は、 ト 溶接又は改造されたハッカーは使用しないこと。 6 日常の保守点検の実施 (1) 玉掛用具に係る定期的な点検の時期及び担当者を定めること。 (2) 点検については別紙の点検方法及び判定基準により実施するとともに、 (3) 点検の結果により補修が必要な場合は、加熱、溶接又は局所高加圧に (4) 玉掛用具の保管については、腐食、損傷等を防止する措置を |
このガイドラインの目的は、玉掛け作業について安全対策を講ずることにより、玉掛け作業による労働災害を防止することです。
そのために玉掛け作業を行うにあたって、準備や体制、作業中など、具体的な実施事項について定めています。
特に明確にしているのは、事業者、玉掛け作業責任者、玉掛け者、合図者、クレーン運転者の各役割についてです。
1つの荷を吊上げ、運ぶために、全員が役割を果たすことが、安全に玉掛け作業を行うことになるのです。
各員の役割をまとめていきましょう。
事業者が講ずる措置 | 1.作業手順、作業計画の作成とその周知徹底 2.作業配置の決定と玉掛け作業責任者の指名 3.作業前打ち合わせの実施と指示の周知徹底 4.玉掛け方法の選定 5.日常の保守点検の実施 |
玉掛け作業責任者の 講ずる措置 |
1.作業指示内容と用具の適否確認。 必要に応じて用具の変更、交換。 2.クレーンの据付状況、荷の運搬経路の状況の 確認と不具合や障害物の撤去。 3.適切な玉掛け方法の確認と、不適切な場合の改善指示。 4.吊り荷の落下の恐れ等不安全な場合の作業中断、 場合によっては、吊り荷の着地指示。 |
玉掛け者が実施すること | 1.適正な用具の準備、点検。 2.吊り荷の質量、形状の確認。 必要に応じ、玉掛け方法、用具の変更要請。 3.地切時、安全な場所への退避し、合図者に指示。 4.吊り荷の安全の確認し、不安全な場合にはやり直し指示。 5.着地場所の状況確認。着地後の荷物の安定確保。 |
合図者が実施すること | 1.クレーン運転者と玉掛け者が目で確認できる場所で合図。 2.退避状況、荷の運搬経路の安全を確認し、 運転者に合図。 3.吊り荷誘導中の安全確認。 吊り荷が不安定になったら、停止させる。 4.着地場所の安全を確認し、合図。 |
クレーン運転士が実施すること | 1.作業開始前の機械と地盤強度の確認。 2.運搬経路、作業範囲の障害物等の除去要請。 3.作業範囲に、作業員が入ったら、作業を中断し、 退避を要請。 4.定格荷重を超えたら、作業を中断し、責任者に確認。 |
事業者や作業責任者は計画や体制を、玉掛け者、合図者、クレーン運転士は実施にあたっての役割を話します。
玉掛け作業は、作業者だけの責任で行われるものではありません。
全員が同じ目的、事故なく荷物の運搬を行うための役割を果たすことが重要です。
そのためには、計画をしっかり立案し、打ち合わせで全員が作業内容を把握しなくてはなりません。
何となく現場に来てから、作業に着手するようなものであれば、適切でない方法で作業してしまうかもしれません。
ガイドラインでは、事業者が事前に準備と打ち合わせて周知することを求めています。
その他、よく読むと安全な位置で合図に従う、不安定だと思ったら、すぐ中止してやり直すなど、作業時で当たり前に行っていることを明文化しているのだと分かります。
逆に事故が多かったのは、こういった対応を疎かにしていたからでしょう。
荷物が傾いているのに、あと少しで目的の場所だから、そのまま行ってしまえ、といったことがアッたのかもしれませんね。
ガイドラインの第3の5は、吊り方についてです。
これは作業方法なので、ここでは詳細にはのべません。
6は点検についてです。
これは先に、安衛則等でも点検して、不適格なものは使用しないことの規定がありましたが、それをより具体的にしたものですね。
補修についても、溶接はだめといったことが定められています。
点検方法については、また別紙にまとめられていますので、これは改めてまとめたいと思います。
玉掛け作業は、林業、製造業、建設業、道路運搬業など、幅広い業種で行われます。
それは、多くの人が玉掛け作業を行っているということでもあります。
とても日常的な作業なのです。
そんな作業だからこそ、慣れてしまい、油断が生まれやすい作業であるとも言えます。
このガイドラインのお陰かどうかは分かりませんが、玉掛け不良による事故は減少傾向にあります。
しかし、大きな事故に至らなくとも、吊り荷がグラっとするということは、あるでしょう。
玉掛け作業を適切に行うことは、作業員全員の安全を守ることでもあります。
とても頻繁に行われる作業こそ、安全に意識しなくていけませんね。