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玉掛けの「落下」事故

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安全な玉掛け作業のために、ワイヤロープ等の吊具の安全基準と、ガイドラインについてまとめてきました。
では、玉掛けではどんな事故があるでしょうか。

玉掛け作業時での典型的な事故は、吊り荷の落下です。
クレーン等で荷物を吊って移動させている際に、荷がずれて、ワイヤロープ等から滑り落ちて落下する。
このような事故が考えられます。

今回は、玉掛けの事故事例を見てみます。

参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例

パイプサポートのつり上げ移動中、差込み管が落下し、作業者を直撃

この事故はホテルに付属するプールの改修工事において、不要となったパイプサポートを移動式クレーンでトラックに積み込む作業中、つり上げたパイプサポートの差込み管が抜け、被災者にぶつかったものです。

現場で使用したパイプサポート等の資材を搬出する作業が残っており、道路より10メートル下の現場から、移動式クレーンを用いての作業になりました。

災害発生当日、移動式クレーンは現場上方に配置し、搬出作業を行うようにしました。
被災者らは、プール側で玉掛け作業を行いました。
運び出す資材のうちのパイプサポートを、15本の束にして番線で固定し、ワイヤーロープ1本で玉掛けして合図を送った。

荷物の巻き上げを行っていたところ、荷のパイプサポートが締まる様子がしたので巻き上げを中止し、荷を停止させた。そのとき1本のパイプサポートから差込み管が抜け、つり荷の下で資材を運んでいた被災者に当たりました。

なお、被災者は保護帽を着用していませんでした。
また、玉掛け作業を行っていた作業員は玉掛技能講習を修了していませんでした。

この事故の型は「飛来・落下」で、起因物は「玉掛け用具」です。

パイプサポートとは、型枠支保等で使用するための鋼製のパイプです。
パイプですので、細長い形をしています。

この事故では、玉掛け作業を行った作業員は、特別教育や技能講習などを受けていませんでした。
当然ですが、有資格者でなければ玉掛けを行ってはいけません。
やり方を知らなければ、適切な玉掛け方法を行うことができないからです。

このケースでも、パイプサポートの束を一本吊り、つまりワイヤロープ1本で、1箇所でくくるといったものです。

割り箸などの真ん中にヒモをくくって吊っていると想像してください。
少しヒモの位置が左右にずれると、重心が変わり、容易に傾きますよね。

この事故での吊り荷、パイプサポートはこのような状態だったのです。
しかも数本束ねているので、より不安定だったでしょう。

その結果、束のうち1本が落下し、事故に至ったのです。

適切な玉掛けを行わなかったための事故と言えます。

さて、これらを踏まえて、事故原因をまとめたいと思います。

1.パイプサポートの差込菅をピンで固定していなかった。
2.玉掛け作業者に有資格者を行わせていなかった。
3.玉掛けを1本吊りするなど、適切な方法をとっていなかった。
4.吊り荷の下に作業員を立ち入らせていた。
5.作業の手順について事前の検討が行われていなかった。

荷物が落下した際に、離れた場所に避難していれば、落下物の直撃を避ける事はできます。
しかし落下物に当たったということは、吊り荷の真下付近にいたということです。
作業員が保護帽を着けていなかったや、有資格者に作業させていないことなどもあわせ、安全意識が低かったことが大きな要因であると言えそうです。

さて、これらの原因を踏まえ、対策を検討しみます。

1.玉掛け作業は、有資格者に行わせる。
2.吊り荷は落下しないように固定する。抜け落ちる可能性があるものは、ピンなどを必ずに差す。
3.長尺物は2点吊りなど、確実に固定する玉掛けを行う。
4.吊り荷の下は立ち入り禁止にし、作業員にも徹底する。
5.作業前に作業方法の打ち合わせを行う。

日常的に玉掛けを行っていると、有資格者でなくともできそうに思ってしまうものです。
しかし、油断していると、このような事故にもなってしまうのです。

確実に落下しない方法で荷物を吊る。
落下の可能性がある、荷の下には立ち入らない。
このようなことは、吊り荷作業では、最も大切なことです。

玉掛け作業が、有資格作業であるのは、理由があります。
安全な吊り荷作業のためには、有資格者を配置しなければならないのです。

さて、もう1つ事故事例を見て行きたいと思います。

ドラグ・ショベルで鋼管束を荷下ろし作業中、ベルトスリングが切断

この災害は、道路整備工事現場において、車両積載型トラッククレーンからドラグ・ショベルで鋼管の束を下ろす作業中に発生したものです。

災害日は、工事現場では、谷側の土止め、作業用道路等を整備することになっており、ダンプトラックとクレーンを使用して、型枠、鋼管を資材置場から工事現場に運搬し、搬入する作業を行っていました。

荷下ろし作業は、当初の計画では、荷を運搬してきたトラッククレーンを使用する予定であったが、現場の地盤が軟弱なためトラッククレーンを荷下ろしする場所に接近させることができなかったため、現場で使用していたドラグ・ショベルで荷下ろし作業を行うように変更しました。

荷降ろしでは、鋼管束を両端アイ形のベルトスリングで1本吊りとし、ドラグ・ショベルのバケットに取り付けたフックに掛けて吊り上げて旋回したところ、ベルトスリングが切断し吊り荷が落下し、近くで道具小屋の建築作業に従事していた被災者が、落下した鋼管束の下敷きとなって死亡しました。

切断したベルトスリングは事故後の調査で、一部に損傷が見られました。

この事故の型は「飛来・落下」で、起因物は「玉掛け用具」です。

荷釣り作業は、クレーンで行うことが原則です。
ただし例外があり、狭い場所などどうしても移動式クレーン等が使用できない場合は、ドラグショベル、つまりショベルカーで荷釣り作業を行うことができます。
その場合は、合図者を指名するなどの、条件が必要になります。

この事故現場では、地盤が軟弱であったため、ショベルカーで吊り荷作業を行うことになりました。
しかしながら、当日現場でトラッククレーンが使えないことが分かったようなので、事前の検討は不十分であったとは考えられます。

そして何より直接原因は、ベルトスリング、つまり繊維ロープが切断してしまったことにより、荷物が落下したのです。
調査では、破損していたということなので、事前に点検していれば、気づいたかもしれません。

さて、これらを踏まえて、事故原因をまとめたいと思います。

1.ショベルカーの荷の吊り上げ、運搬作業の方法について事前の検討が不十分だった。
2.旋回範囲内に作業者が立ち入っていた。
3.ベルトスリングの強度が不足していた。
4.荷を1本吊りで玉掛けして作業したこと。
5.ベルトスリングの点検が適切に実施されていなかったこと。

直接的な原因は、スリングの切断です。
しかし、この落下地点付近に、作業者がいたことが、被災者を産んでしまったのです。
荷物が空中を移動している場合は、荷の下に作業員は入ってはいけません。

この現場では、立入禁止もされていなければ、作業員も危機意識もなく、荷の下に入っていました。
荷物の落下を考えると、荷の下に入ることは禁止しなければなりません。

また玉掛けの仕方も問題がありました。
鉄筋のような長尺物の束を一本釣りすると、重心がずれ、ずれ落ちる危険性があります。
この被災現場では、玉掛け作業に対する安全意識が、あまりなかったがゆえの事故だった用に思います。

これらの原因を踏まえての、対策は次の事が考えられます。

1.荷降ろしは、原則、移動式クレーンで行う。
2.荷の積み下ろし作業を行う場合には、吊り荷の下方に作業者の立ち入りを禁止し、作業員に徹底させる。
3.ベルトスリング等の吊具は、十分な強度があるものを選定すること。
4.安全な玉掛け方法を検討する。
5.吊具は事前に点検を行うこと。

作業方法や玉掛け方法を検討するのは大切です。
同時に、吊具は定期的にも、使用前にも点検しなければなりません。

荷物の吊り荷作業は、幅広い業種で、日常的に行われる作業です。
荷物の飛来・落下の事故は減少しているとはいえ、少しの油断ですぐに起こってしまうものです。

事故の防止のためには、吊り方や作業方法、点検などを行わなければなりません。
また同時に、危険箇所への立ち入りも禁止し、全ての作業員に徹底させることが、仮に荷が落下した場合に被災者を出さないための対処になるのです。

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