厚生労働省労働局長登録教習機関
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移動式クレーンは、建設業を始めとして幅広い業種で使用される機械です。
重い荷物を吊上げ、任意の場所にまで運ぶ。
これを人力で行うのではなく、機械を使うことで作業はとても効率化するのです。
しかし一方では、使い方を誤ると、容易に大事故になります。
移動式クレーンの事故事例として、今まで「飛来・落下」、「激突」、「転倒」、「感電」などの事例を紹介してきました。
いずれの事故も、特殊な状況で起こる事故ではありません。
今日でも明日でも、移動式クレーンで作業を行う限り、常に起こりうる可能性があるものなのです。
しかし事故が起こるのは、作業時だけとも限りません。
本作業以外、つまり本作業の前後の段階でも、発生してしまいます。
そういった事故で最も多いのは、交通事故でしょう。
作業場所までの行き帰りで、交通事故を起こす、または巻き込まれるのは、あり得ることです。
その他には、クレーンのアームによる接触事故などがあります。
移動式クレーンの特性は、クレーン作業を行うアームであり、ワイヤーを備えていることです。
これらの装備が、時として思わぬ事故を招くこともあるのです。
この移動式クレーンのアームが接触して起こってしまった事故というものが、先日北海道で起こりました。
この事故を事例とし、原因と対策などを検討してみたいと思います。
「クレーン車」電柱なぎ倒す 北海道千歳市
(平成26年11月11日)
11月11日午前、北海道千歳市でクレーン車のアーム部分が電線に引っかかり、電柱12本を倒した。
この事故の影響で、付近の住宅などでは現在も停電が続いている。 事故があったのは、千歳市の市道。午前10時頃、市道を走っていたクレーン車のアームが電線に引っかかり、付近の電柱12本が倒れた。 現在、北海道電力が復旧作業を進めているが、現場付近の住宅などでは一部で停電が続いていて、完全復旧のめどはたっていない。 |
参照:日テレ NEWS 24 (元記事が削除されてしまったようです)
この事故の起因物は「移動式クレーン」ですが、事故の型の判断は迷います。電柱が倒れているので「崩壊・倒壊」、または移動式クレーンが接触しているので「激突」でしょうか。
事故の影響で、付近は大規模停電となり、近所の学校では暖房や水道が使えなくなり、午前中で休校となったそうです。 学校以外でも、商店はかなり困ったことになったことでしょう。
この事故の原因となった、移動式クレーンは車載型クレーンと呼ばれ、トラックにユニックというクレーン装置が付いた構造をしています。通称ユニック車も言います。
このユニック車のアームが電線を引っ掛け、そのまま走ってしまったようです。
引っかかった電線は、切れることなく、電柱をなぎ倒し、結果12本もの電柱を折ったようです。
電線を引っ掛けた原因は、アームを立てたまま走ったからで間違いないと思います。
移動式クレーンのアームは走行時、荷台側に水平に寝かせた状態で収納しています。
もちろんワイヤーも巻上げて、フックもブラブラしないように収納します。
移動時はこれが原則です。
ニュース映像を見てみると、事故を起こしたトラックの荷台部分には、コンバインのような機械を載せており、荷台にアームを寝かせるのは不可能でした。
そのため、アームが収納されていなかったようです。
このように荷物が載っていて、アームが荷台側に寝かせられない場合はよくあることで、その時にアームの収納方法も決まっています。
それは、荷台と反対側、つまり前方に寝かせるのです。この場合もフックがブラブラしないように収納しておきます。
前方にアームがはみ出てしまうのですが、荷台側に寝かせられない場合は、このような状態で、路上を走ります。
今回の事故では、アームを寝かせていなかったようです。
うっかり寝かせたり収納するのを忘れたのでしょうか、アームを立てたまま、走り始めたようです。
道路の空中には、横断するように電線が走っています。
アームはこの電線に引っかかり、そのまま引きずり、電柱を引き倒してしまったのです。
電線に引っかかったのですから、運転手は下手をすると感電したかもしれません。
また近くに歩行者などがいたら、電柱の下敷き、もしくは電線に接触していたかもしれません。
本当に怪我人がいなかったことが、幸いでした。
さて、これらを踏まえて、事故原因をまとめたいと思います。
1.クレーンのアームを立てたまま、走行した。
2.アームの収納状態のチェックが不十分だった。
3.道路上空の障害物の確認を行っていなかった。
アームを立てたまま走ったのは単に不注意だったのか、もしくはこれくらいなら電線をくぐれるという判断があったのかは分かりません。
いずれにせよ、撤収時の確認不足が大きな要因のようです。
これらの原因を踏まえ、対策を検討しみます。
1.移動式クレーンのアームは必ず寝かせてから、走行する。
2.撤収時には、忘れ物や問題はないか、再度チェックする。
3.道路や路上だけでなく、上空部に障害物があるかも確認する。
チェックには、指差呼称も有効です。
あえて、指をさすアクションを行うことで、意識的な確認ができるのです。
クレーンのアームが電線に引っかかり、停電を起こす事故は、以前にもありました。
記憶に鮮明に残っているものとしては、2006年の首都圏大停電ではないでしょうか。
次はこの事故を事例として見てみたいと思います。
首都圏大規模停電
(平成16年8月14日)
2006年8月14日、日本の東京都23区東部とその周辺139万世帯の住宅や鉄道などに電力が供給されなくなった。
旧江戸川を航行中のクレーン船がアームを送電架空線に接触させ、これを切断した。 およそ1時間17分後に大部分は復旧したが、完全に復旧したのは17日になった。 この停電の影響で鉄道が運休、道路は信号が使えなくなり、警察官が交通整理にあたった。 |
参照:wiki首都圏大規模停電
この事故の詳細は、wikiなどにもありますので、参照にしてください。
東京は日本の中枢ですので、ここが停電してしまうと、多大な影響が必至です。
大きく話題にあがらない被害もたくさんあったことでしょう。
電気がなければ、生活も企業活動も、何もできないことを痛感させる出来事でした。
同時にたった1本の電線が切れるだけで、多大な影響が出てしまう、電気インフラの惰弱さ露呈してしまった事故でもあります。
この事故の原因も、千歳市の事故と同様ですね。
クレーン船がアームを上げたまま走行しており、電線に接触したことです。
当然、走行中はクレーンのアームは寝かせています。
これはユニック車でも、クレーン船でも同様です。
しかし事故を起こしたクレーン船は、目的の場所に到着したら、すぐに作業に取り掛かれるよう、走りながらアームを立てたのでした。
川の上に何もなければば、アームを立てても、影響はなかったでしょう。
おそらく船に乗っていた作業員は、影響はないと思っていたことでしょう。
しかし残念ながら、この事故現場では、東京の大動脈が通っていたのです。
ちょっとしたショートカットが、とんでもない被害を生み出してしまったのです。
さて、これらを踏まえて、事故原因をまとめたいと思います。
1.目的に到着する前に、走りながらアームを立てた。
2.走行する川の空中部にある障害物の確認を行っていなかった。
3.作業計画や手順が守られておらず、作業員の安全意識が不十分だった。
作業開始を短縮しようとして、走りながらクレーンを操作するといった作業手順は作られないはずです。仮に作っても職長などは許可してはいけません。危険極まりない作業になるからです。
クレーンのアームの上げ下げ、旋回には、安定した土台が必要です。
移動式クレーンであれば、固い地盤の上にアウトリガーを張出し、しっかり安定させてから、操作を行います。
そのように安定させないと、容易にバランスを崩して、転倒してしまうからです。
クレーン船も同様です。
固い地盤の上とは行きませんが、しっかりと本船は安定した状態で行わなければなりません。
地上よりも不安定なのですから、安定させることは大切なことです。
走りながらなど、不安て極まりなしです。
電線を切る事故が起こらなかったとしても、バランスを崩し倒れるというのは十分起こりうる事故です。
そのような作業を許した責任者も、作業者も安全意識が低かったと言えますね。
これらの原因を踏まえ、対策を検討しみます。
1.走行中にはクレーン操作は行わない。
2.走行ルートと上空の障害物のチェックを行う。
3.作業計画、作業手順を守る。安全意識を高めるための教育を行う。
アームを立てたまま走ることは、例外なくダメです。
そのためには、作業前後の確認は重要です。
また少しくらいなら立てても大丈夫だろうという判断も、いけません。
その油断は、とんでもないツケを払うことになってしまいます。
移動式クレーンは、便利で、重宝します。
同時にちょっとしたことで、事故になりますし、停電のように多大な影響を起こしてしまうのです。
移動式クレーンの使用者は、そういった意識を持つことが大切ですね。