厚生労働省労働局長登録教習機関
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建設業では、機械を使用しなければ、ほぼ仕事にならないといっても過言ではありません。
建設用機械が、進化発展することにより、作業効率は飛躍的に向上し、安全性も高まってきました。
最近の機械は、機械側でなるべく危険を排除するという風潮があります。
例えば、運転室の扉を開けたまま作業しないように、扉を締めないとエンジンがかからないなど、安全の条件を満たさないと使えないような仕組みになっています。
身近な例で置き換えると、洗濯機で中のドラムが完全に停止しないと、電源をOFFにしても、扉が開かない、電子レンジは扉が閉まらないと動かないなどでしょうか。
一歩間違えれば、容易に大事故を起こし、人を傷つけ、時には命も奪ってしまう、建設機械なのですから、安全対策にもしっかり配慮されています。
機械側で安全対策を施すと、ある程度うっかりな危険を解消することができるでしょう。
しかし、どんなに安全対策を施していても、使い方を誤れば、事故になります。
元々強い力を持った機械です。
少し使い方を謝るだけで、容易に凶器になってしまうのです。
平成25年度では、建設用機械による死亡者数は41人に及び、建設業の死亡事故原因の12.0%となっています。
これは決して少なくない数字です。
全ての原因が、使い方が原因というわけではないでしょうが、死亡するという結果になってしまったのです。
建設用機械は、毎日使うものです。
毎日使うものでも、危険はあるのです。
建設用機械の事故について、先日このような事故がありましたので、事例として紹介したいと思います。
兵庫県西宮市の山中で重機事故
(平成26年11月12日)
11月12日夕方、西宮市の山中の工事現場で重機が倒れて、運転していた50代の男性が下敷きになりました。 消防によりますと男性はさきほど死亡が確認されたということで警察などが詳しい状況を調べています。 西宮市消防局によりますと、12日午後5時ごろ、西宮市山口町船坂の工事現場で「重機が倒れて男性が下敷きになっている」と現場の作業監督から通報がありました。 消防によりますと重機は道から溝に転落して倒れた状態で、男性は重機の下敷きになっておりさきほど救助されましたがさきほど死亡が確認されたということです。 |
参照:NHK神戸放送局 (元記事が削除されてしまったようです。)
この事故の型は「転倒」、起因物は何の重機かは分かりませんが「建設用機械」です。
一般に建設用機械は、車体が重く強い力を持っていることから、総称として重機と呼ばれたりします。
山中の工事で重機が倒れ、運転者が下敷きになり、亡くなられたという事故です。
細かい状況については、これだけでは分かりませんので、かなりの推測を含みますが、事故原因と対策を考えてみたいと思います。
まず重機についてですが、工事の内容によるのですが、いくつか考えられます。
一般には、ショベルカーでしょう。もし木の伐採を多なっていたのであれば、伐採用のアタッチメントをつけたショベルカーをだったかもしれません。
土や木を運ぶために、トラックか不整地運搬車が使用されていたかもしれません。
おそらく、大体どの現場でも使うショベルカーだったのではないかと思います。
次に転倒の原因ですが、大きく2つ考えられます。
1つは、傾斜地に乗り上げたこと。
山中で使用するショベルカーですので、駆動部はクローラー、つまりキャタピラであったと思われます。
タイヤタイプもありますが、土の上を走るのはクローラーの方が安定します。
クローラータイプのショベルカーは、かなりの悪路も走れますし、傾斜地を登り降りすることもできます。
傾斜地を登り降りもできますが、平坦な場所に比べ、不安定な走行であることにはかわりません。
当然ですが、バランスを崩せば倒れます。
山中の仕事なので、傾斜地で仕事していたのかもしれません。
傾斜地を斜めに登り降りした、傾斜地を横に走っていた、傾斜地を横切っている時に上部のアームを旋回させた、傾斜地を前進で降りていたなどはバランスを崩します。
特に傾斜地を登り降りする時は、アームを山側にします。
つまり登る時は前進、降りる時は後進となります。
アームが谷側にあると、アーム部が重いので前に倒れてしまうからです。
傾斜地での作業でバランスを崩し、倒れてしまったというのは十分に考えられる原因です。
もう1つは、吊り荷作業で重いものを吊ったこと。
主たる用途以外の使い方として、ショベルカーで吊り荷作業を行うことがあります。
そのためには、平坦な場所で、合図者を決め、定格より重いものを吊らないなどの条件があります。
ショベルカーで、吊り荷作業を行っていて、機械が転倒するという事故事例も少なくないのです。
何かに引っかかったなど、その他の原因があるのかもしれませんが、この2つが転倒事故として多いようです。
さて、これらを踏まえて、事故原因を推測したいと思います。
1.傾斜地でバランスを崩した。
2.吊り荷作業で、定格よりも重いものを吊り上げた。
今この文章を書いている段階では、この事故の原因が分かりませんので、推測になります。
これらの原因を踏まえ、対策を検討しみます。
1.作業計画、作業の指揮者を定め、計画通りに作業を行う。
2.傾斜地など転倒の恐れのある場所では、誘導員に誘導させる。
3.吊り荷作業を行う場合は、能力を超えるものは吊らない。
4.安全教育、KYなどで、作業員の安全意識を高める。
倒壊や転倒する恐れのある場所では、運転手だけでは、判断できないことがあります。
時には、危険なルートを走るということも少なくありません。
その場合は、誘導者を定め、安全なルートに誘導しなくてはいけません。
事故の要因として、作業員の安全意識が低く、危険な作業を行ったという事例も多々あります。
今回のケースがそうだったかは不明ですが、事業者や現場監督は安全教育やKYで、安全意識を高める努力が求められます。
さて、今回の事故以外の事故も紹介してみたいと思います。
参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例
傾斜地に乗り上げたトラクター・ショベルが横転し、運転者が下敷きとなる
この災害は、ゴルフ場敷地内において、ホイール式トラクター・ショベルが傾斜地を転落し、運転者が下敷きになったものです。
このゴルフ場では観葉植物育成ハウスを新設したが、水道の設備がなかったので、近くのクラブハウスからホースによって取水することが計画されていました。 災害発生当日、被災者らは、翌日に取水作業を行うことにしました。 トラクター・ショベルを運転してホースの放置場所に向かったところ、ホースの近くの斜面には草が生い茂っていたので、トラクター・ショベルで斜面の草を刈って通路を造ろうとしました。 斜面を運転しながら草刈を始めたとき、斜面にあった石に前輪を乗り上げたトラクター・ショベルが横転し、約14度ある斜面を転落しました。 |
この事故の型は「転倒」、起因物は「トラクター・ショベル」です。
トラクター・ショベルとは、ブルドーザーのような車体の前に土を押し出す大きな板を備えた建設用機械のことです。
これは斜面を走っていたところ、バランスを崩して倒れてしまったというものです。
横転ということなので、斜面を登り降りではなく、横に走っていたのでしょう。
車体はずっと片側が傾いたままで走っていたことでしょう。
山歩きなどで斜面を横切ってで歩く時、足元が不安定なので、慎重に歩かないと足首をぐねっとしてしまう。そんな経験はしたことはないでしょうか?
建設用機械も同じように不安定に走っているのです。
機械なので、足首がぐねっとはなりません。その代わりにひっくり返ってしまうのです。
ひっくり返ってしまったら、中にいる運転手に被害が及びます。
車外に放り出され、下敷きになる事故も少なくないのです。
数トンにも及ぶ機械が体の上に落ちてきたら。
無事で済むのは、奇跡に近いです。
さて、これらを踏まえて、事故原因を推測したいと思います。
1.トラクター・ショベルの左右安定度を上回る傾斜面で作業を行った。
2.作業者が十分に現場の状況を検討しないで、独自の判断で一人作業を行った。
3.トラクター・ショベルに関し、その使用状況等の管理が不十分だった。
4.作業計画が定められていなかった。
トラクター・ショベルには、左右の傾斜に対して、12°以内という安定度が定められています。
事故現場の傾斜角度は、約14°ということなので、安定度を超えた場所で作業したのが分かります。
また、作業計画も定めておらず、作業員が1人で独自の判断で作業を行っていました。
さらにトラクター・ショベルがいつでも、誰でも使える状態にあったのは、管理状況もずさんだったと言えます。
安全意識や管理方法などが明確でなかったことが原因にありそうです。
これらの原因を踏まえ、対策を検討しみます。
1.トラクター・ショベルは安定度を超えた場所では使用しない。
2.作業計画を定め、作業員は計画に従うようにする。
3.トラクター・ショベルの鍵は別で保管するなど、きちんと機械の管理を行う。
どんなに機械側で安全対策を施していても、使う側次第で危険な状態になるのです。
建設用機械は、重宝しますが、同時に危険でもあるのです。
使い方を誤れば、重量数トンの凶器になります。
当然のことながら、製造者はそのような使い方を意図していませんし、使用者も意図していないでしょう。
意図せずとも、危険な使い方というものはあり、その結果事故に至るケースもあるのです。
西宮の事故もどのような状況かは不明ですが、運転手の方が亡くなる事故になったのは残念に思います。