厚生労働省労働局長登録教習機関
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先日、車を運転していると、とあるトンネルで工事が行われていました。
片側通行の規制を行い、天井付近で作業しているようでした。
トンネルの天井は道路より数メートルの高さにあります。
そのような高所で作業するのは、人が背伸びをしても届きません。
通常、高所で作業する場合は、足場など作業床を組みます。
しかしトンネルの天井作業のように、随時移動し、その日の作業完了後には規制を開放する場合では、その都度組み立てる足場は、効率がよくありません。
少しの時間高所で作業したい場合に、効率的な方法は他にあります。
それは、高所作業車を使用することです。
高所作業車は、アームの先に手すり付の作業床を備えたトラックで、文字通り高所で作業するための機械です。
今回は、高所作業車にまつわる規定です。
高所作業車は、高いところで作業するための機械なので、活躍する範囲は広いです。
冒頭に挙げたトンネルの天井付近での作業に使えますし、橋梁の点検、電柱作業などで使用しているのは目にしたことがあるかもしれません。
足場を設置することができない路上や、1日から数日で完了する高所作業では大活躍です。
ただし、機械作業と高所作業を同時に行うことにもなるので、それなりの注意が必要になります。
高所作業については、安衛則に規定されています。
【安衛則】
第2節の3 高所作業車
(前照灯及び尾灯) |
(作業指揮者) 第194条の10 事業者は、高所作業車を用いて作業を行うときは、当該作業の 指揮者を定め、その者に前条第1項の作業計画に基づき作業の 指揮を行わせなければならない。 |
(転落等の防止) 第194条の11 事業者は、高所作業車を用いて作業を行うときは、高所作業車の 転倒又は転落による労働者の危険を防止するため、アウトリガーを 張り出すこと、地盤の不同沈下を防止すること、路肩の崩壊を 防止すること等必要な措置を講じなければならない。 |
(合図) 第194条の12 事業者は、高所作業車を用いて作業を行う場合で、作業床以外の 箇所で作業床を操作するときは、作業床上の労働者と作業床以外の 箇所で作業床を操作する者との間の連絡を確実にするため、 一定の合図を定め、当該合図を行う者を指名してその者に行わせる等 必要な措置を講じなければならない。 |
(搭乗の制限) 第194条の15 事業者は、高所作業車を用いて作業を行うときは、乗車席及び 作業床以外の 箇所に労働者を乗せてはならない。 |
(使用の制限) 第194条の16 事業者は、高所作業車については、積載荷重 (高所作業車の構造及び材料に応じて、作業床に人又は荷を 乗せて上昇させることができる最大の荷重をいう。) その他の能力を超えて使用してはならない。 |
(主たる用途以外の使用の制限) 第194条の17 事業者は、高所作業車を荷のつり上げ等当該高所作業車の 主たる用途以外の用途に使用してはならない。 ただし、労働者に危険を及ぼすおそれのないときは、 この限りでない。 |
(修理等) 第194条の18 事業者は、高所作業車の修理又は作業床の装着若しくは 取り外しの作業を行うときは、当該作業を指揮する者を定め、 その者に次の事項を行わせなければならない。 1)作業手順を決定し、作業を直接指揮すること。 2)次条第1項に規定する安全支柱、安全ブロック等の |
(ブーム等の降下による危険の防止) 第194条の19 事業者は、高所作業車のブーム等を上げ、その下で修理、 点検等の作業を行うときは、ブーム等が不意に降下することによる 労働者の危険を防止するため、当該作業に従事する労働者に 安全支柱、安全ブロック等を使用させなければならない。 2 前項の作業に従事する労働者は、同項の安全支柱、 |
(要求性墜落制止用器具等の使用) 第194条の22 事業者は、高所作業車(作業床が接地面に対し垂直にのみ上昇し、 又は下降する構造のものを除く。)を用いて作業を行うときは、 当該高所作業車の作業床上の労働者に要求性墜落制止用器具等を 使用させなければならない。 2 前項の労働者は、要求性墜落制止用器具等を使用しなければならない。 |
高所作業車も車両系建設機械なので、ショベルカー等と共通事項も多々あります。
まずは共通点について、まとめてみましょう。
前照灯と尾灯、つまりヘッドライトとテールライトを備えなければなりません。
十分な照度がある場合はこの限りではないとありますが、自走で道路を走るタイプのものであれば、道交法上備えなければなりません。
販売される時には、よほど意図的に外していない限り、ライトはついているはずです。
作業を行うにあたっては、事前に作業現場の地形等の特性を調査し、その調査結果を盛り込んだ作業計画を作成しなければなりません。
これは作業時の計画であって、路上を走る計画は不要です。
そして作業時には、作業指揮者を定め、その指揮のもとで作業を行います。
自走式、つまり車検を通し、ナンバープレートを備え、路上を走るタイプの高所作業車以外のものを使用する場合は、貨物車等で現場まで運ぶ必要があります。
地面が凸凹の悪路で、タイヤタイプの高所作業車では運行できない場合など、クローラータイプの高所作業車を使用することもあります。
ショベルカーと同様に、貨物車の荷台から下ろしたりする場合には、転倒しないような措置が必要です。
平坦な場所で荷降ろしし、踏み掛け板も強度があるものを使用します。
この荷台から荷降ろしや、作業後に積む時の事故もあるので、慎重に行わなければならないのです。
また主たる用途以外には使うことは原則禁止です。
ゴンドラを上げ下ろしをするのですが、この部分で吊り荷作業は、やってはいけません。
ただし書きとして、作業者に危険がない場合は、この限りではないとありますが、原則やってはいけないと肝に銘じましょう。
機械に故障箇所や不具合があれば、修理します。
その場合は、作業指揮者を指名して、その指揮のもとで作業を行うようにします。
そして修理中には、作業床を上げ下げするアーム部が、不意に落下しないような措置をとらなければなりません。安全ブロックなどを設置するのですが、これは簡単にいうとつっかえ棒のことです。
歯医者で治療中に、お医者さんが噛まれないように歯を開いたままにするものがありますよね?
あんな感じで、アームが落ちてこないようにしなければならないのです。
ここでよくあるのが、修理が終わった後に、安全ブロックを外し忘れること。
ブロックで動きが制限されているのに、無理に動かして、また故障したなんてこともあるみたいなので、終わったら必ず取り外しましょう。
そして、くれぐれも手を挟まないようにしてくださいね。
条文は順不同になりましたが、以上が他の車両系建設機械と共通する規定です。
いわば、高所作業車という機械としての規定になります。
そして、ここからは、高所作業車特有の規定です。
主に高所で作業することについて注意すべきことになります。
高所作業車は、アームの先の作業床に人を乗せ、上げ下げする機械です。
移動式クレーンほど重いものを運ぶわけではありませんが、土台がしっかりしていないと、倒れてしまいますね。
そのため、移動式クレーンのようにアウトリガーを備えているものが多いです。
昇降する場合は、アウトリガーを張出さなければなりません。
もちろん、作業環境によっては、最大に張り出せないことがあるでしょう。
そんな場合でも、必ず転倒しないほど踏ん張れる状態でなければなりません。
また路肩付近や地盤が緩くアウトリガーの足が沈んでしまうような場所では、設置場所を変えたり、鉄板を敷いて足元を強固にする必要があります。
高所作業車は、何より足場を固めなければなりません。
高所作業車に乗っての作業は、作業床で作業する人本人がリモコンで、昇降の操作をする場合もあれば、本体車両で、別の作業員が昇降作業を行う場合もあります。
作業床に乗っている本人が操作する場合はともかく、別の人が操作する場合は、意思の疎通ができないと危ないことになったりしますよね。
作業しているのに、アームを動かしたりすると、危ないです。
そのような場合は、両者をつなぐ合図者を指名し、合図を行わせる等の措置が必要です。
特に死角になって作業床の作業者と、操作者がお互いに見えない場合もあるので、合図者が両者をつなぐのは大切です。
高所作業車の運転席から、運転手が離れる場合には、作業床を最低下位置に置き、エンジンを切り、ブレーキをかけてからでないといけません。
これは、全く無人になる場合の措置です。運転手と別の作業員が作業床で作業している場合は、除外されます。
作業床を乗せたアームが伸びだまま、無人になると、何かの拍子にグラっとバランスを崩してしまった場合、対処もできず、倒れてしまいますね。
またエンジンをかけたままだったり、ブレーキが効いていないと、勝手に動き出してしまいます。
勝手に動き出すことを逸走というのですが、車両系建設機械は逸走を防止しなければなりません。
高所作業車から離れる場合は、最も安定した状態で離れることが大切なのです。
また、作業員は作業床以外の場所に乗ってはいけません。
アームの上に乗るなどもっての外だと覚えておきましょう。
そしてこれも重要なことです。
作業床に作業員を乗せたまま、高所作業車を走行させるのは、原則禁止です
理由は簡単。落下するおそれがあるからです。
乗せたまま走行してはいけない。
しかし作業上どうしても必要という場合もあるでしょう。
そういった場合のために例外規定もあります。
その場合は、いくつかの措置が必要になります。
とはいえ、平坦で安定した地盤であることが条件です。
デコボコした道ではダメなので注意しましょう。
必要な措置は次のとおりです。
1.誘導者を定める。
2.合図を定め、誘導者に合図させる。
3.作業床の高さなどを考慮した、制限速度を定める。
場合によっては、時速数キロのゆっくり運転になることもあるでしょうが、作業床から人を転落させないための措置ですので、守りましょう。
そもそも、人を乗せたまま長距離を走ることはないでしょうから、ゆっくりでも支障はないはずです。
これらの措置は、人を乗せていない場合でも、必要になることがあります。
それは、デコボコした道を走る場合です。
高所作業車は、掘削用などの車両に比べ、悪路においては不安定です。
また車両の上部に装置があるので、重心もやや上にあります。
下手にスピードを出すと、くぼみに足を取られたり、盛り土に足を取られたりして転倒してしまうかもしれません。
悪路での制限速度などの措置は重要なのです。
作業床は通常数メートルから十数メートルの高所まで昇ります。
この高さから墜落すると、どうなるかは想像つきますよね。
打ちどころが悪ければ亡くなりますし、骨折などの重症になるのは避けられないでしょう。
墜落を防止するため、作業者は安全帯(要求性墜落制止用器具)を使用しなければなりません。
高所や開口部付近など墜落するおそれがある場所で作業を行う場合は、足場であろうが、高所作業車であろうが、安全帯を着用し、使用しなければなりません。
安全帯は着用してるだけでは、効果を発揮しません。
よくあるのが、ベルトに着いているのに、使っていないことです。
必ずフックを掛けて、使用しましょう。
そして安全帯は、必ず腰よりも高い場所に装着しましょう。
腰よりも低い位置に引っ掛けると、墜落距離が伸びるので、衝撃が大きくなります。
高所作業車は、高所で作業するための機械ですので、使用する機械としての注意と高所作業の注意も必要になります。
高所作業では、墜落事故がつきまといます。
安心して作業するためには、作業車自体が安定してないといけません。
アームが高く伸びた状態で、倒れでもしたら、上に乗っている人は逃れるすべがありません。
車両系建設機械は、どの機械も有用な機械ではあります。
一方では、ちょっとした整備不良や使い方を誤ると事故になるのです。
高所作業車の使う時には、機械として、また作業方法として安全にしたいものです。
まとめ。
【安衛則】
第194条の8 高所作業車は、前照灯及び尾灯を備えなければならない。 |
第194条の9 高所作業車を用いて作業を行うときは、あらかじめ、作業場所の状況などに応じた、適応する作業計画を定めなければならない。 |
第194条の10 高所作業車を用いて作業を行うときは、作業の指揮者を定めなければならない。 |
第194条の11 高所作業車を用いて作業を行うときは、転倒または転落による労働者の危険を防止するための措置をとらなければならない。 |
第194条の12 高所作業車を用いて作業を行う場合は、一定の合図を定め、当該合図を行う者を指名してその者に行わせなければならない。 |
第194条の13 高所作業車の運転者が走行のための運転位置から離れるとき、または作業を行おうとしている場合は、作業床を最下位置に置く、原動機を止め、ブレーキをかけるなどの措置をとらなければならない。 |
第194条の14 高所作業車を移送するため自走又はけん引により貨物自動車に積卸しを行う場合は、転倒または転落防止の措置をとらなければならない。 |
第194条の15 高所作業車を用いて作業を行うときは、乗車席及び作業床以外の 箇所に労働者を乗せてはならない。 |
第194条の16 高所作業車については、積載荷重、その他の能力を超えて使用してはならない。 |
第194条の17 高所作業車を荷のつり上げ等当該高所作業車の主たる用途以外の用途に使用してはならない。 |
第194条の18 高所作業車の修理又は作業床の装着、取り外しの作業を行うときは、当該作業を指揮する者を定めなければならない。 |
第194条の19 高所作業車のブーム等を上げ、その下で修理、点検等の作業を行うときは、安全支柱、安全ブロック等を使用させなければならない。 |
第194条の20 高所作業車を走行させるときは、当該高所作業車の作業床に労働者を乗せてはならない。 |
第194条の21 作業床において走行の操作をする構造の高所作業車を平坦で堅固な場所以外の場所で走行させるときは、措置をとらなければならない。 |
第194条の22 高所作業車を用いて作業を行うときは、作業床上の労働者に要求性墜落制止用器具等を使用させなければならない。 |
墜落制止用器具に関する質疑応答集の中で質問4-2高所作業車のバケット内作業であれば特別教育は必要ないが作業床があっても高所作業者は6.75mを越える高さではフルハーネスを使用とあります。作業床がない所の6.75mでフルハーネスではないのですか?なぜ高所作業車はフルハーネスなのか?
コメントありがとうございます。
ご質問の高所作業車でのフルハーネス型の使用についての根拠としては、
安衛則第194条の22となります。(フルハーネス型を使用することと書かれています。)
高所作業車での作業は、バケットから多少なりとも身を乗り出しての作業となります。
身を乗り出し過ぎて、バケットから墜落した場合を想定しての使用です。
また、高所作業車はバケットに乗って、操作します。バケットが上下左右に動くときには揺れます。
仮に6.75m以下の高さでも、大きく揺れて墜落もありえます。
そのため高さに関係なく、フルハーネス型の使用が必要です。
高所作業車のバケットから他の構造物に乗り移る行為は禁止されているでしょうか。又は、高所作業車(スーパーデッキ等)を資材搬入用としての踊り台として利用することは法令上、問題無いでしょうか。
コメントありがとうございます。
バケットからの乗り移りは禁止なさると良いとも思います。
(乗り移り時の事故も発生しています。)
資材搬入として使用するのは、用途外使用に該当するのではないでしょうか。
コンクリートの補修工の管理をしています。桁間床版裏の補修の際、高所作業車(スーパーデッキ)を利用しての作業を計画していますが、桁間が狭い上に背も高いため、170センチの身長の人間でも、デッキからでは60センチほど丈が足ず手が届きません。脚立・作業台・足場組等を施し作業をしても法的に問題は無いでしょうか?脚立で良しなら簡単でよく、元請の意向もそのような考えでいるようですが、法的に問題があるのなら、詳しく説明して安全な足場を元請に準備していただくよう交渉にあたる必要があるのではと考えています。
こんにちは。
質問の件ですが、高所作業車でも届かないなら、別途足場を組む計画を建てられるのが良いと思います。
脚立使用が簡単とのことですが、これはデッキ上に立てたいとのことでしょうか?
もしそのようの案ならば、問題があるので、計画を変更されるのをおすすめします。
脚立を使用すると、デッキの手すりより高い場所に身を置きます。
安全帯を掛ける場所も十分でないのではないでしょうか。
墜落の危険が高くなります。
具体的な明記はありませんが、安衛則194条の16「使用の制限」が該当するのではと思われます。
高所作業車が使えない場所は、足場(ローリングタワーなど)を組む方法でお話を進めてはいかかでしょうか。