厚生労働省労働局長登録教習機関
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建物や橋、ダム、トンネルなど、ほとんどの構造物は、コンクリート製です。
コンクリートジャングルなどと揶揄されますが、これほど重宝されている材料は他にないのではというくらい、ありとあらゆる場所で使用されています。
そして、今日もどこかでコンクリートは打設され、固まり、形を作っています。
コンクリートは、冷えれば固くなりますが、打設作業を行う時はドロドロで流動性があります。
生コンクリートという言葉あるくらい、柔らかく、打ったばかりのコンクリートの上に乗ろうものなら、ズブズブと沈んでいってしまうのです。
コンクリートは柔らかいですが、重量はかなりあります。
砂利、セメント、水の混合物なのですから、重くて当たりまえ。
これを手で運んぶことなど、難しいです。
運び終える前に、固まりかねません。
遠くの場所まで、いち早くコンクリートを打設する機械。
それがコンクリートポンプ車です。
コンクリートポンプ車は、ミキサー車で運ばれてきたコンクリートを、ポンプの力でパイプ内に圧送し、打ちたい場所まで運びます。
コンクリート打設には欠かせないので、よく使われます。
よく使われるということは、事故が起こる機会も多くなるということ。
今回はコンクリートポンプ車の事故事例を見て行きたいと思います。
コンクリートポンプ車は、長いパイプ付きのアームを伸ばし、ドロドロのコンクリートを遠くまで圧送するのですから、その特性による事故が起こるのです。
今回も、参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例
生コンクリートの圧送作業中振れたホースが激突
本災害は、道路改良工事においてコンクリートポンプ車を用いて生コンクリートの圧送作業を行っていた作業者1名が、振れたホースに激突されたものです。
本工事は、道路の改良工事であり、コンクリートポンプ車を用いて生コンクリートを打設場所まで圧送し、打設するものでした。 災害発生当日、コンクリート打設はは、被災者を含む2名がホースの先端を持って生コンクリートの打設作業を行い、他の1名がコンクリートポンプの操作を行っていました。 しばらくして生コンクリートが輸送管の途中に詰まったことから、被災者がこれを取り除こうとして輸送管とホースとの接続部を切り離したところコンクリートが吹き出すとともにホースが振れ、被災者は振れたホースに激突され、即死しました。 |
この事故の型は「激突され」、起因物は「コンクリートポンプ車」です。
コンクリートポンプ車から伸びたパイプ、そしてその先のホースまで、コンクリートを送るとなると、パイプの中のコンクリートには高い圧力がかかっています。
水道のホースでも、途中に穴があると、水鉄砲のように水が吹き出てしまいますよね。
パイプの中には高い圧力がかかっているのですから、本来の出口以外にも、出口が増えると、吹き出してしまいます。
しかも重いコンクリートを送るほどの圧力なのですから、その力は並ではありません。
パイプの出口付近は、固定されているでしょうから、横振れはないでしょうが、固定されていない場所であれば、圧力に翻弄され、パイプは大暴れしてしまいます。
ゴム製の水道ホースが、大量の水を吐きながら、大暴れしている様子を想像してみてください。
これが直径数十センチで、鉄製のパイプになるのです。
とんでもなく危険な状態だと分かりますね。
暴れて振れたパイプは、運の悪いことに被災者に直撃しました。
その衝撃は、即死させるほどのものだったのです。
さて、これらを踏まえて、事故原因を推測したいと思います。
1.パイプの接続部を切り離す前に、内部の圧力をとる措置を行っていなかったこと。
2.パイプの振れを防止する措置を取っていなかったこと。
3.パイプが詰まった際の、作業方法や手順を決めていなかったこと。
4.パイプなどの取り外し、修理に、作業指揮者を指名していなかったこと。
パイプの中には高い圧力がかかっているのですから、詰まったからといって、すぐに接続を切り離すのは危険です。 切り離しの作業を行うには、手順が大切なのです。
まず内部の圧力を減少させる。
次に切り離してもパイプが振れたり、暴れたりしないように固定して置かなければなりません。
そして大切なのは、このような修繕を行う場合は、作業指揮者を指名することなのです。
機械の修繕、修理には、全体を見渡すことができる指揮者が必要なのです。
これらの原因を踏まえ、対策を検討しみます。
1.パイプの切り離しの前には、空気圧縮機のバルブ又はコックを開放する等により
輸送管及びボースの内部の圧力を減少させ、コンクリートの吹出しを防止する。
2.パイプの接続部を切り離す場合にあっても、鎖等により頑丈なものに固定する
3.パインの接続を外す場合、作業の方法、手順等を定め、作業を指揮する者を指名して、指揮させる。
通常の作業手順だけでなく、トラブルがあった場合はどうするかなども、事前に検討しておくことは大切なことです。
事前にあり得るトラブルの時ならば、ある程度対策は検討できるのではないでしょうか。
それ以外、予想していなかったことが起こった場合は、誰に相談するのかを決めておくくらいは出来ると思います。
トラブル時の対応については、軽微なものはともかく、今回の事故のような場合は、作業員が独自の判断で行わせないようにしなければなりません。
トラブル時の対応についても、作業員に周知させることが、大変重要なことなのです。
さて、もう1件、事故事例を見てみたいと思います。
こちらも参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例
コンクリートポンプ車の攪拌機を清掃中に巻き込まれる
この災害は、作業員がコンクリートポンプ車の撹拌機内部を清掃中に、回転している撹拌棒に巻き込まれたものです。
被災者は、現場におけるコンクリート圧送作業を終了して、会社の残土置場でコンクリートポンプ車の撹拌機を1人で清掃していました。 その後、同僚がコンクリートポンプ車の撹拌機に巻き込まれ死亡している被災者を発見しました。 このとき、コンクリートポンプ車のエンジンは稼働しており、撹拌機の作動レバーも入ったままでした。 |
この事故の型は「はさまれ・巻き込まれ」で、起因物は「コンクリートポンプ車」です。
この事故は、とても痛さを生々しく感じる事故です。
コンクリートは、打設する時はドロドロですが、そのまま放置すると固まっていきます。
コンクリート製造工場から、現場まではミキサー車というもので運ぶのですが、このミキサー車のタンクはくるくる回転しています。
これは、常に動かすことで、コンクリートが固まるのを防いでいるのです。
コンクリートポンプ車は、ミキサー車からコンクリートを受け取るのですが、圧送するまでの間も固まらないように、撹拌しているのです。
作業が終わると、パイプや撹拌機の中には、コンクリートが付着しています。
機械の内部で固まってしまったら、次に使う時に支障が出ますし、取るのも困難です。
そのため、コンクリートを扱う機械は、使用後速やかに掃除しなければならないのです。
この事故は、そんな清掃時に起こってしまったのです。
普段使用する場合は、撹拌機の入口には、人が落下しないように、金網がついています。
清掃の時は、この金網を外さなければなりません。
転落防止のための、対策が何もない状態だったと言えます。
さて、これらを踏まえて、事故原因を推測したいと思います。
1.清掃時、撹拌機のスイッチを入れたまま掃除していたこと。
2.内部の洗浄のため、回転部に近づきすぎ、手を入れたこと。
災害発生後の状況では、撹拌機内部底部に溜まったコンクリートは、手で除かれた痕跡がなかったらしく、そこから推測されるに、被災者は事故の際、撹拌機の回転部に近づきすぎたのではと思われます。
このような撹拌機にかぎらず、機械の回転部の清掃、修理を行う場合は、機械を停止するのが原則です。
どうしても止めることができない場合は、刃部以外は覆いをかける、刃部であれば用具を使用するなどの規定があります。
この事故では、このいずれの措置もとられていませんでした。
これらの原因を踏まえ、対策を検討しみます。
1.撹拌機の清掃を行う場合には、撹拌棒の回転を停止させて作業を行う。
2.清掃時の作業手順を明確にし、作業員に教育する。
3.撹拌機清掃時に、巻き込まれ事故にならない構造の機械を使用する。
無防備に回転体に近づくと、巻き込まれてしまうのは、誰でも想像がつくでしょう。
もしかすると、被災者は日常的に、撹拌機を動かしたまま作業していて、慣れており、油断していたのかもしれません。
慣れと油断は、安全の担保になりません。
むしろ、場合よっては、危険物に対する距離感を錯覚させます。
これくらいなら大丈夫が、どんどん拡大し、危険にじりじりと近づかせてしまうこともあるのです。
この撹拌機への巻き込まれ事故は、想像するだけで、痛い事故です。
どれほどの苦痛があったのか、とても生々しく想像させるでしょう。
この生々しい痛みの想像が、実は事故事例では大切なのだと思います。
痛いことや苦しいことはやりたくない。
多くの人はそうでしょう。
その気持が事故を避けようとする気持ちになるのだと思います。
自分の会社で事故があった、身近な人が事故にあった。
このようなことがあると、身が引きしまります。
新聞などで報道される見知らぬ他人の事故は、遠くの出来事に過ぎません。
しかし顔を合わせたり、話したことがある人に起きた事故は、身近な出来事だから、生々しいのです。
機械に巻き込まえる生々しく痛い事例は、我が身に置き換えて想像しやすいと思います。
我が身に起きたらという想像力は、事故抑止のために、身を引き締めてくれるでしょう。
どうか、痛みを我が身に置き換えて、少なくともこの事例のような事故を起こらないようにしてもらえたらと思います。