厚生労働省労働局長登録教習機関
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先日、クレーンによる大きな事故がありました。
場所は島根県松江市で、工事中の移動式クレーンのアーム(ジブ)が倒れ、道路を挟んだ向かいのパチンコ店の立体駐車場の車を押しつぶしたようです。
このことからもかなり長いアームを持った、巨大なクレーンによる事故だと分かります。
事故の詳細については、ニュース動画や新聞記事による内容からしか分かりません。
今後、調査は進み、事故原因等も明るみに出るでしょう。
しかし今ある情報は、いばくかの記事とニュース動画しかありません。
後追い記事もあるかと思っていたのですが、見つけられません。
からこの事故を事例として紹介し、原因や対策を推察してみます。
今回はいつもの事例紹介とちょっとテイストが異なります。
原因がいまいちはっきりしないので、思いつくままに原因を検討していきますので、どうかお付き合い下さい。
クレーン車倒れ立体駐車場壊す 松江、けが人なし
(平成26年12月6日)
6日午前8時25分ごろ、松江市向島町で大型クレーン車のジブ(腕)部分が倒れ、電線が切れていると、110番通報があった。松江署によると、長さ約45メートルのジブが根元から後ろ向きに折れ曲がり、市道を越えて北側の5階建てパチンコ店の立体駐車場の屋上部分に当たり、車1台が大破した。けが人はなかった。
現場は地元のテレビ局・山陰中央テレビ新社屋の工事現場。署の調べでは、鉄筋をつり上げる作業準備でジブを伸ばして旋回したところ、倒れたという。周辺の信号機や民家約600戸が一時停電した。 近くのたばこ店主の女性(86)は「ドンと雷が落ちたような音がして、すぐ停電した。近くに大型会議場や合同庁舎があり、人通りがたくさんある道。平日ならけが人が出ていたのでは」と話していた。 |
引用先の記事の写真を見ると、かなり大きな事故だったと言えます。
幸い怪我人はなかったのですが、隣の駐車場に人がいたら、大怪我では済まなかったかもしれません。
よくよく写真を見てみると、事故を起こしたクレーンは、クローラータイプの移動式クレーンです。
ジブ、つまりアーム部の長さは45メートルということなので、かなり大型のものです。
それは、事故範囲を見ても、どれほどのアーム長だったかは、分かりますよね。
事故は、この移動式クレーンのアームが根本から折れてしまって起こりました。
事故原因は、今後調査するとありますが、今ある材料で原因を検討してみます。
まず原因として排除しなければならないこととして、地盤が軟弱で、機械の安定が悪かったということです。
クローラータイプの移動式クレーンは、アウトリガーはありません。
その代わり、クローラーを張出し、安定をとるのです。
もし安定が悪いと、機体ごと倒れてしまいます。
しかしこの事故は、アームが折れていますが、機体は倒れていません。
そうすると、足元が不安定だった線は、排除できそうです。
では、まず原因として考えられるのは、定格以上のものを吊ったために、重さに耐え切れなかったということがあります。
しかし、記事によると鉄筋を吊り上げる準備してとのこと。
また辺りに鉄筋が散乱していないことからも、まだ何も吊っていない状態だったと考えられます。
もし鉄筋を吊っていたならば、被害はこんなものではなかったはずです。
何も吊っておらず、旋回している時に、アームが折れたとのこと。
では、風が強く吹いていたのでしょうか?
風にあおられ、偏荷重がかかり、折れたのか?
残念ながら、この線もなさそうです。
別の記事によると、当時は強い風は吹いていないとのこと。
念のため、過去の天気を調べてみたら、その日の平均風速は5メートル。
一時的に突風が吹いてもいなさそうです。
これで、風の線も消えました。
次に考えられるのは、アームの整備不良です。
これだけ大きなクレーンなので、アームは現場で組立を行います。
当然、組立に際しては、ボルトナットで固定するわけですが、これがきちんと締まっていなかった。
また、緩んでいたのに、点検で見落としていた。
これは原因として有力そうです。
しかし、別の記事での一文が、この推測に疑問を投げかけます。
それは、警察は操作ミスが原因と見ているというものでした。
整備不良はあったかもしれませんが、直接原因は別にありそうです。
操作ミス?
はてさて、原因は何かと頭を抱えてしまいます。
2つ可能性があります。
1つは、アームを水平近くに倒したまま旋回していたこと。
移動式クレーンでは、旋回時はアームを垂直近くまで立てて、旋回します。
水平近くまで寝かせていると、必要以上に荷重がかかります。
これは、人間の体でも体感できます。
スーパーなどで買い物をして、袋に荷物を詰めます。
この荷物を、肘をまっすぐに伸ばして持ち、肩の高さで水平に前へ突き出して保つ場合と、頭の上に掲げる場合では、どちらの方が力を必要とするでしょうか?
実際にやってみると分かると思いますが、水平に持つとかなり負担がかかります。
移動式クレーンも同じです。
クレーンのアームを寝かすと機体から荷物の先までの水平距離が長くなります。
つまり、作業半径がながくなるのです。
作業半径が長くなると、吊れる荷物の重さは小さくなるのです。
作業半径は短くなるほど、つまり機体に近くなるほど、重いものを吊ることができるのです。
半径を短くするには、アームを垂直に近づければいいのです。
これは荷を吊っていない状態、アームの荷重だけしかかったていなくとも同様です。
水平近くに倒して、旋回すると、アームが横殴りになってきて危険なだけでなく、アームにかかる荷重も大きくなるのです。
この事故も、アームを水平近くに倒して旋回したのではと考えたものの、事故の写真を見て、否定されました。
アームは機体の後方に倒れているのです。
もし、水平に倒して旋回したならば、前方に倒れるはずです。
こうして、この可能性も消えました。
残るはもう1つの可能性。
アームを水平に倒しすぎたのではなく、逆に立てすぎたことです。
今回の事故で使用された、移動式クレーンは、アーム後方のワイヤーケーブルで操作します。
これで立てたり、寝かせたり、フックを昇降させたりします。
ワイヤーケーブルが操作の要なのです。
移動式クレーンのアームは寝かせたり立てたりしますが、制限があります。
立てる角度も90°まで建てることはできません。
あまりに立てすぎると、機体ごと後ろにひっくり返ってしまいます。
立てすぎた原因としては、フックの付いたケーブルを巻き過ぎ、ワイヤーケーブルを後方に引っ張りすぎたことなどが考えられそうです。
通常であれば、起伏制限装置もしくは巻過防止装置などが働き、限界以上にケーブルを巻けません。
何らかの原因で、過剰に巻かれ、後方に引っ張られたのかもしれません。
後ろにアームが折れて倒れている状況を考えると、これが一番可能性としてありそうです。
ほぼ推測ですが、このような状況だったのではないでしょうか?
作業を開始し、クレーンで鉄筋を吊ろうとフックを巻き上げ、アームを立てながら、旋回していました。
勢いがあったのか、巻過防止装置などの安全装置が働かなかったのか、後方に傾く力がかかります。
限界以上に後方への力がかかり、アームの根本が折れてしまいました。
もしかしたら真相は全然違うのかもしれませんが、今ある情報で推測してみました。
一応、これが事故状況だと仮定して、原因の推察をまとめてみたいと思います。
1.アームを起伏限界以上にたてたこと。
2.フックが付いているワイヤーケーブルを限界以上に巻いたこと。
3.クレーンの合図者が指名されていなかったこと。
4.安全装置が機能しなかったこと。
アームが折れた原因としては、おそらくこうではないかという推測です。
しかし、移動式クレーンなどの作業では、元方事業者が合図を統一するとともに、合図者を指名しなければなりません。
作業はこの合図者の合図によって行われます。
まだ物を吊る前だったのでは、特に合図もなかったのかもしれませんが、操作ミスなどは、合図に従うことで防げたかもしれません。
アームが折れるということなので、ボルトナットの締め付けが十分ではなかったことも可能性があります。
さらに起伏制御装置や巻過防止装置などが安全装置が正常に機能していなかったかもしれません。
その場合は、作業前の点検が不十分だったことなどもあったのではないでしょうか。
これらの原因に対して、対策を検討してみます。
1.移動式クレーンの起伏は限界まで立てない。
2.ワイヤーケーブルは限界以上に巻かない。
3.クレーンの操作は合図者に従う。
4.定期自主点検や作業前点検を行う。
起伏限界や巻過限界などを守ることは大切ですが、各安全装置が常に正常に動くことが大切です。
点検はこれらの確認もあるので、しっかり行いましょう。
この事例では、おそらく操作ミスなのではないかという報道ですが、アームが折れる事故は、組み立て時にしっかりボルトがとまっていなかったというケースもあります。
クレーンの操作を誤ると、今回の事故のように大きな被害がでます。
この事故では、たまたま怪我人がいなかっただけで、これだけ巨大なものが落ちてくるのですから、もし落下地点に人がいたら、無事ではすみませんね。
街中での作業は、周囲の影響が大きくなるので、慎重に作業しなければなりませんね。