○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

羊井、はしごで横滑る

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

今はしっかりものの犬尾沢ガウも昔は、それなりに失敗したりしていたという話を、羊井メェから聞いて時のことです。

自分の失敗の話をされた犬尾沢は、気恥ずかしい気持ちでいっぱいになりました。
言われっぱなしというのも、気に食わなくなった、犬尾沢は、負けじと羊井に言い返しました。

「鼠川さんとの現場でなら、お前も色々やらかしてただろう。
 結構怒られたのとかも、あったよな。」

昔、犬尾沢と羊井は、今は引退した鼠川(そがわ)チュウ一郎がリーダーをする現場で働き、仕事のノウハウを教えこまれていたのでした。

「あー、俺もよく鼠川さんには怒られたな。
 ほんと、今考えたら、結構危険なこともやってたもんな。」

犬尾沢の反論に、羊井は笑って返し、昔を懐かしみます。

「そうだね。鼠川さんもよく怒ってたよね。」

二人の話を聞いていた保楠田も昔のことを思い出したようでした。

「へー、羊井さんも何かやらかしたんですか?」

羊井に犬尾沢のエピソードを話してもらっていた、猫井川は、今度は羊井の話に興味をもったようでした。

「うん、怒られたことは、猫井川と同じくらいあるかな。
 犬尾沢より、俺のほうがよく怒られたよ。」

笑いながら羊井が答えます。

「さっき聞いた犬尾沢さんのようなこともあったんですか?」

「おー、そんなのはよくあったよ。
 ズボンが破れるほど、インパクトがあることはないけどな。」

羊井の答えに、また犬尾沢の顔が赤くなります。

「そうだな、結構ヒヤッとのは、これかな・・・」

と、羊井は、自分の体験を話し始めました。

それは、犬尾沢のエピソードと同じ10年位前の出来事です。
犬尾沢も羊井もまだ若く、経験も浅く、鼠川に就いて日々勉強の毎日でした。

その日は、ビルの新築工事で、屋外の配管工事を行っていました。

「犬尾沢、そこの塩ビ管を持ってこい。
 羊井は、はしごの準備しとけ。」

鼠川の大きな声が現場に響き渡ります。

犬尾沢と羊井は、言われた通りに材料を持ってきます。

「よし、これから雨水の排水管を取り付けていくぞ。

 いいか、よく覚えておけよ。
 屋根に降った雨は、雨樋から縦管を通じて、集水桝に入る。
 それから、水路を通って排水されるわけだ。

 排水桝は、もう取り付けてるから、これから雨樋と縦管をつけていくからな。」

おおまかな作業内容を説明して、役割を当てていきます。

「犬尾沢は、下で塩ビの加工をしてくれ。ちゃんとバリも取るんだぞ。
 羊井は、はしごに登って、金具を取り付けていけ。
 屋根のとこに親綱張ってるから、ちゃんと安全帯つけろよ。

 俺は、他の仕事も見なきゃいけないから、張り付けないけど、気をつけてやるんだぞ。」

「「はい。」」

鼠川の指示に、2人は返事しました。

「よし、何かあったら呼んでくれ。」

というと、鼠川は少し離れた場所で作業している、保楠田のもとに移動していきました。

「よし、それじゃ墨出しからしてくよ。」

羊井がそういうと、はしごを置き、位置決めを始めました。

犬尾沢は、電動カッターで塩ビ管を切り、切断面にはヤスリをかけ、バリ取りも行っていました。

ウイーン、ウイーンと電動カッターが鳴り響きます。

しばらくすると、羊井は雨樋と垂直の排水管を取り付ける金具の位置も出し終えました。
はしごから降り、電動ドリルを持って、今度はネジ止め用の穴を開けていきます。

ゴゴゴとドリルは壁に穴を開けていきます。

縦管取付金具の穴あけが終わり、次は雨樋の穴あけ位置に水平展開です。

縦管は建物の端から、30センチくらい、中に入った所に付ける予定です。
雨樋は屋根の沿って横に付けられます。
当然、建物の横幅いっぱいに雨樋は付けられるので、縦管から端に掛けての部分にも、雨樋はあるわけです。

羊井は、次は縦管から建物の端にかけての部分の穴あけを行おうとしました。

通常であれば、一旦地上に降り、はしごの位置を設定しなして、作業に当たる必要があります。

しかし羊井は、手を伸ばせば作業できる範囲だと思い、そのまま作業しようとしたのでした。

「おい、あんまり横着するなよ。」

はしごを移動させずに作業している羊井を見て、犬尾沢が声を掛けます。

「大丈夫、このあたりは、まとめて穴を開けられるから。
 いちいち、降りてはしご動かすのも面倒だ。」

犬尾沢も、声を掛けたものの、まあ確かにと心情的には理解できるので、それ以上は何も言いませんでした。

羊井は、屋根の親綱に安全帯を掛け、そのまま作業を行います。

手元から1つ、2つと穴を開けていきます。
しかし3つ目の穴ともなると、思った以上に遠く感じます。

壁に対して垂直に穴を開けるとなると、体を横に乗り出さないと難しそうです。

「ちょっと、遠いかな」

そう思いつつも、作業を進めていた時でした。

ガク。

羊井の体が少し傾きます。

おッ!?

はしごから体を乗り出しすぎたために、はしごが傾いてしまったようでした。

おおぅ!!

焦る羊井。やばいな、これは落ちるかもと思った時でした。

ガシッ!!と大きな音がして、傾きが止まったのでした。

「助かった・・・」

ひとまず、倒れるのを防ぐことができた羊井は、どうして止まったんだろうと不思議に思い、足元を見ました。

はしごの足元には、しっかりと掴む犬尾沢と、最下の下さんを踏み支えている鼠川がいました。

「あ、やべ」

ホッとしたのもつかの間、鼠川の眉を吊り上げた顔を見て、さっきとは違う冷や汗が背中を伝わりました。

羊井ー!!

烈火のごとく大声で怒る鼠川に、羊井はまたバランスを崩しそうになったのでした。

「・・・とまあ、こんなことがあったよ。」

「なんか、俺と似たようなことしてますね。」

猫井川は、今の犬尾沢と羊井からでは、想像がつかないような失敗に、親近感を感じます。

「鼠川さんには、いっぱい怒られれたな。
 あの人は今何やってんだろう。 知ってる?」

羊井の問いかけに、保楠田も犬尾沢も「分からない」と答えました。
面識のない猫井川には、知るよしもありません。

鼠川のことをみんなで懐かしんでいた時でした。

おーう、久しぶりだな!

突然、大声で事務所に入ってきた人影がありました。

みんな入口を見ると、そこには。

「そ、鼠川さん!」

驚きの声を上げたのでした。

「おう、久しぶりだな。
 元気してたか?」

鼠川がニコニコしながら、話します。

「いやー、今ちょうど鼠川さんの話をしてたとこなんですよ。
 今何してるんだろうなとか。」

羊井が言います。

「そうか、いいタイミングで来たようだな。ははは。」

「それで、今日はどうしたんですか?」

「おう、長いこと前に離婚したままだったんだけどな、この前結婚したんだよ。
 それで、社長に報告しにな。」

ニコニコ顔で、鼠川が話します。

「えー!再婚ですか!誰と!?」

もう10年以上前に離婚していたことをしっていたみんなは、驚きの声をあげます。

「おう、それがな、ふふふ。
 写真があるから、ちょっと見てくれ。」

胸からスマホを取り出すと、みんなに写真を見せたのでした。

「が、外人じゃないですか!?
 しかも若い。
 相手はどこの国の人で、何歳ですか?」

これには、結婚したと聞いた以上に、みんな驚きの声をあげます。
犬尾沢も目がまんまるです。

「おう、スペイン人だよ。
 年は29歳。
 ほんとにいい子で、スイートハニーだよ。」

もはや驚きの余り声も出ない、一同。

「それでな、その話をしにきたら、社長からまた現場手伝ってくれないかと言われてな。
 来週から、手伝いに来るよ。」

続けざまに、爆弾を投下してきます。

「あと、スペイン人と結婚したから、わしもこれから名前を変えることにしたよ。

 これからは、

エスパニョール鼠川

と呼んでくれ!」

「来週から、よろしくな。」

もはや、あっけにとられすぎて、言葉もない、HHC社内。

また、新たなメンバーによる、お話が展開していきそうです。

今回は、羊井の昔のヒヤリハットなのですが、後半の鼠川が全てを持っていったお話です。

若いスペイン人と結婚。バイタリティがあります。
エスパニョール鼠川という、なんとも安直な名前は、個人的になかなか気に入っています。

今後、エスパニョール鼠川を交えて、色々なヒヤリハットを作っていてくれそうです。

さて、今回のヒヤリハットは、はしごから墜落しそうになったです。

移動はしごは、高所の昇り降りに使うだけでなく、作業床を設置するほどではない、ちょっとした高所作業で使用します。
とはいえ、ハシゴの上での作業ですから、とても不安です。
そのため、ふんばったり、力を入れたりする作業では使ってはいけません。

今回、羊井は雨水の排水管取り付け作業に、はしごを使用していました。

はしごの幅は、30センチ以上ではありますが、幅広いというわけではありません。
横幅が1メートルもあるはしごはありません。
そのようなものは、使いづらくて仕方がありませんからね。

せいぜい幅としては、肩幅程度が一般的ではないでしょうか。

肩幅程度の幅しかないはしごに昇って、作業できる範囲は、限られています。

作業範囲は、横に手を伸ばした程度です。
もっと遠くまでと、体をハシゴの外にはみ出すと、バランスを崩して、倒れてしまうのです。

作業床と違い、2本の足で支えられているに過ぎません。
墜落や転倒の危険がとても身近なのが、はしごでの作業と言えます。

羊井は、作業範囲を越えて手を伸ばし、バランスを崩しそうになったのでした。

なぜ、そのような事態になったのかというと、面倒臭がったからに他なりません。

手が届かない範囲の仕事をしようとするならば、一旦はしごは降り、はしごを移動させて、また登る必要があります。
確かに、非常に労力のかかることですね。

しかし、この労力を惜しんでしまうと、墜落や転倒することがあるのです。

今回は鼠川たちが、倒れる前に支えてくれたので、なんとか墜落せずにすみましたが、いつもこうなるとは限りません。
仮に、倒れた場合、安全帯を着用していたので、地面まで落ちないにしても、体にかかるダメージは相当なものになります。

はしごでの作業は、安定した場所で、横の乗り出しも行わず、安定した状態で行うことが大切です。

それでは、今回のヒヤリハットをまとめてみます。

ヒヤリハット はしごで横に乗り出したら、倒れそうになった。
対策 1.はしご作業では、横に乗り出してはいけない。
2.はしご上での作業範囲を超えたら、はしごを降り、移動させる。
3.親綱などを張り、安全帯を取り付ける。

はしごから横に乗り出さないのも大切ですが、万が一墜落することをに備え、安全帯を使用することも大切です。

安全帯は、ただ身につけているだけでは意味がありません。
必ず親綱などの設備や、堅固な構造物に取付ます。
また、腰よりも高い位置に引っ掛けましょう。
これはロープが作業のじゃまにならないだけでなく、墜落時の衝撃を弱めるためです。

たかがはしごと侮っていると、大怪我します。
場合によっては、1.5メートル程度の高さから落下して、亡くなったというケースもあるのです。

正しく使い、正しく作業することが大切なのです。

鼠川チュウ一郎改め、エスパニョール鼠川が加わったHHCの物語は、まだまだ続きます。

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