厚生労働省労働局長登録教習機関
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昔、ダウンタウンの松本さんがパーソナリティを務められていた「放送室」というラジオ番組が好きでした。
その中では、昔の話もされるのですが、こんな話がありました。
確か松本さんがNSCにいた、もしくはデビューされて間もなくの頃です。
喫茶店でゲームをしていたとき、高校の同級生が入ってきたそうです。
卒業してから、久しぶりに出会ったので、「今なにしてるの?」という話になりました。
友人は「今は無職している」と答え、手をドンを卓の上に置いたそうです。
友人の手は、指が4本なかったのでした。
友人は、卒業してから工場に勤めていたのですが、事故で指を落としてしまったのでした。
それを見て、松本さんは「気ぃつけや」としか言えなかったとか。
仕事には職業病というものがあります。
職業病を患うということは、ある種長くその仕事に携わってきたことでもあります。
そのため、ベテランの証というある種の誇りのように見ることもあります。
しかし、これは本当にそうなのでしょうか?
先日、日本の保護具のパイオニアということで、重松製作所の創業者、重松?造氏のエピソードを読む機会があり、職業病というものを考えてしまいました。
重松氏が、理化学機械店に勤めていた時、得意先のメッキ工場に行きました。
そこでは、多くの労働者の歯はボロボロになっていたのを見たのでした。
ベテランが「たくあんをボリボリ食えるうちは、一人前じゃない」というようなことを言っていたのでした。
メッキ工場では、使用する酸に触れ続け、酸蝕症にかかり、歯がぼろぼろになっていたのでした。
そして、ボロボロの歯は長年勤めていた、労働者の誇りでもあったのです。
仕事を行っていくことで、体を蝕まれることが、あたかも当然のような環境。
衝撃を受けた重松氏は、その後、保護マスクを開発していったのでした。
開発には、「赤貧洗うが如し」という苦労があったようです。
製品も、最初のうちは、労働者からは「誰が着けるか」などと反発を受けたようでした。
しかし、重松氏はあきらめません。
重松氏の信念は、やがて少しずつ浸透し、鉱山や化学工場で使用されるようになり、今や幅広い分野で使用しているのです。
重松製作所は今も、重松?造氏の信念を守り、数多くの防護マスクを手がけています。
私の会社も防じんマスクなどを調べると、重松製作所製でした。
ステマじゃないですけど、一応ホームページを載せておきます。
株式会社 重松製作所
このエピソードは考えさせられました。
職業病は、決してベテランの証なのではありません。
重松氏が、防護マスクを作ろうとしたきっかけになった時には、酸蝕症などを防ぐ手立てがありましせんでした。
今であれば、マスクや特殊健康診断、特別教育などの対策が義務付けられています。
しかし、今も怪我や職業病を患うことが、一人前というようなことを考えていることは、あるのではないでしょうか?
少し古い記事ですが、こんな記事を目にしました。
「指を落として一人前」 安全を犠牲にした工場は「究極のブラック企業」(2013.09.07 )
2013年8月28日夜、大手自動車部品会社の富山県にある工場で、22歳の男性が仕事中に死亡したと報じられた。プレス機の型枠についた砂を取る作業をしていたところ、機械が動き出して上半身を挟まれたという。 事故原因について、警察が実況見分を行っている。大型機械のメンテナンスをする場合、主電源を切り、機械のスイッチにカバーをかけ操作できないようにしつつ、万一に備えストッパーを置いておくはずだ。安全は適切に確保されていたのか。 (中略) 今年7月にも、プレス機に安全装置を取り付けず、女性従業員に左手の人さし指と中指を切断する大ケガを負わせたとして、大阪府の男性工場長(72)が逮捕された。 この工場長は労基署の任意の調べに、「従業員の注意力がなかった。会社に責任はない」などと容疑を否認し、捜査にも協力しなかったという。普段からいかに従業員の安全をおろそかに扱っていたかが垣間見られる事件である。 「指を落として一人前」という意味の言葉も聞いた。「一度大きなケガをすれば、命を落とすような大事故を起こさないように注意するようになるから」だそうだが、一生取り返しのつかないケガなどしないに越したことはない。 (後略) |
この記事は、工場の加工機械に十分な安全対策をしていなかったので、作業者が巻き込まれ死亡したというものです。
工場の加工機械は、せん盤やプレス機械など、とても強い力で作業するものばかりです。
当然、それに巻き込まれたら、ひとたまりもありません。
通常は、そのような事故にまきこまれないように、カバーや柵など、安全装置があります。
巻き込まれたということは、これらの安全装置を、意図的に外していたのです。
なぜ、安全装置を外していたのでしょうか?
理由は、仕事の邪魔になったからでしょう。
安全装置の多くは、作業を制限させてしまいます。
開口部は、人の手が入らないほど狭かったりするので、一度に加工できる量も減るのです。
安全装置を外せば、仕事量は多少増えます。
その代わり、作業者のリスクは何倍にもなります。
事業者は、機械に安全装置を着けることを義務付けられています。
もし作業者が勝手に外していたら、すぐに直させなければならないのです。
この事故を起こした会社は、安全を顧みない作業を行わせていたのでした。
大阪のプレス加工の会社では、対応も無責任であり、社内では、「指一本を落として、一人前」なんてことが言われていたそうです。
指を落としたら、今後は気をつけて、命までは落とさないようにするとのことです。
断言しますが、そんな訳ありません。
指を一本も落とさない方がいいに決まっているのです。
女性も指を落としたと記事にありますが、男女問わず、怪我をする必要などないのです。
安全装置は、確かに100%事故や怪我を防げるとは言えません。
故障していたりしたら、怪我になるでしょう。
しかし、かなりの確率で、事故を防げるのです。
それを自ら外しておいて、指を落として一人前など、言語道断でしょう。
ブラック企業というと、長時間労働が取り沙汰されます。
同時に、安全対策を疎かにしている企業もブラック企業なのです。
これらは中小企業に多くなる傾向があります。
理由は、安全に当てる費用がないから。
日常の作業に追われ、余裕が無いことがあるでしょう。
そのため、しっかりとした対策や教育が不足します。
結果として、個人の技術やカンに頼った安全対策になるのです。
安全対策には費用がかかります。
しかもこの費用は、目に見えた生産性があるわけではありません。
費用対効果が見えにくいので、削られるのです。
どうしても、この人に当てる費用が後回しになってしまいがちなのです。
しかし、仕事は、作業する人があってからのことですよ。
冒頭の松本さんの友人の話も、プレス機の事故でしたね。
指を失った結果、一人前どころか、仕事を失ってしまいました。
その後も、様々な場面で制限を受けてしまいます。
本当は、酸を扱っても、たくあんをバリバリ食べられるに越したことはないのです。
重松氏は、熱意をもって、職業病と戦いました。
今は重松氏が奮闘した時代とは異なります。
安全衛生に対して、法整備も社会的な意識も高い時代です。
その中で、職業病や職業での怪我を誇りにするのは、いかがなものでしょう。
怪我は頑張ってきた証。
確かにそうだと思います。頑張ってきてこられたから負ったものです。
でもその証は、怪我だけではないはずです。
仕事の仕方、姿勢、指の形、使い込んだ道具、知識、経験、見識など、たくさんのものを蓄えてきているはずです。
後輩に継承できるものは、怪我を見せなくとも、あるはずなのです。
ベテランさんほど、職業病や怪我に対して、防ごうという意識を持ってもらえたらと思います。
新人や若い作業者は、ベテランの背中を見ています。
そのベテランが怪我をして一人前と思っていたら、若い人もそう思ってしまいます。
逆に、安全が大切なのだという姿勢を見せれば、若い人も安全を大切にするのです。
職業病は避けられないものがあると思います。
しかし、誇りにしてはならないのです。
怪我をして誇れるのは、ドラマや漫画の中で、友達や恋人のために、勝てない相手に立ち向かってやられる時くらいです。
仕事上では、誇りでもなんでもありません。
むしろ、自分や家族、同僚や会社への迷惑になることが多いです。
事故を防ぐこと。
毎日防ぐこと。
そして一年を無事故で過ごすことが、一番誇りにしていいことだと思います。