○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

今度は猫井川が足場でつまづく

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

エスパニョール鼠川は、復帰した現場で、いきなりつまづいてしまいました。

ブランクがあるからか、久々すぎて緊張していたのか、現役の頃には記憶にない転び方でした。

「昔はコンパネくらい1人で運べてたし、転んだりしなかったのにな。
 わしもやはり年をとったということか。」

先ほどのことが気になる鼠川は、ぶつぶつと独り言を漏らしてしまいます。

「鼠川さん、仕方ないですよ。久々の現場ですし。
 俺もよくやります。」

そんな鼠川を見て、一緒に作業をしている猫井川は、励まそうとしました。

「いやいや、お前がどれほどのものか、まだ分からんが、そんな励ましをもらってもな。
 年を取るのは、嫌なもんだよ、猫井川。」

「でも、鼠川さんは、若い奥さんがいるじゃないですか。
 めちゃくちゃ羨ましいですよ。」

「まあな。そのあたりは、年とは関係なく、わしの魅力というところだな。」

少し顔がほころぶ、鼠川。
ちょっと気が紛れたようです。

「どこで知り合ったんですか?」

「相手の親とは昔から付き合いがあってな。」

と、2人で話しながら、コンパネ板をコンクリートを打つ場所まで運んでいったのでした。

コンクリート打ちのための材料をひと通り運び終えると、ちょうどミキサー車が現場に到着しました。

犬尾沢の方を見ると、配筋検査を行っています。

「犬尾沢さん、コンクリートの検査はやりますか?」

猫井川は、検査最中の犬尾沢に聞きました。

「おう、先にテストピースだけ取って行ってくれ。」

犬尾沢は返事をすると、猫井川はミキサー車の運転手に、試験の準備を指示しました。

「猫井川、いい段取りしてるな。」

そんな様子を見ていた、鼠川は感心して言います。

「しっかり鍛えられてますんで。」

照れる猫井川。
褒められ慣れていないので、どうしていいのか、戸惑ってしまうのです。

コンクリートのテストピースを取り、試験の段取りを進めていると、配筋検査を終えた犬尾沢が合流しました。

「猫井川、サンキュ。
 保楠田さんがバックホウで、バケットを吊るから、鼠川さんと、コンクリ打ちを進めていってくれ。」

保楠田がバックホウのアームの先に、コンクリートを運ぶバケットを吊るします。
このバケットの中に、ミキサー車からコンクリートを流し込み、所定の位置で降ろすのです。

猫井川は、先ほど運んだ細長いコンパネ板を、配筋の上に置き、足場としたのでした。

コンパネ板は1枚が幅20センチ。
少々幅が狭いので、2枚横に並べます。

長さは、配筋の端から端までも届かないので、2枚の板を直列にも並べています。

板と板との間は、なるべくくっつけて1枚板の橋のようにして、準備が整いました。

「保楠田さん、ここからお願いします。」

猫井川が指示した場所に、保楠田はバケットを運びます。

そして、バケットの底を開けると、コンクリートが流れだすのです。

ブイーン、ブイーンとコンクリートを、型枠内の隅々まで流しこむために、バイブレーターをコンクリートに突っ込む猫井川と鼠川。

2人の共同作業で、コンクリートは配筋の間を、型枠の中を動くのでした。

型枠の端から順にコンクリートを流しこんでは、バイブレーターで行き渡らせる作業が続きます。

コンクリート打ちもちょうど中程、足場の上での作業となりました。

多少ガタガタと揺れますが、作業には支障がありません。

先ほど転んだ鼠川も、何不自由なく、足場を移動しています。

猫井川も慣れが足取りで、後退しながらバイブレーターを差しては抜き、差しては抜きの作業を繰り返しています。

猫井川が後退していて、ちょうど板の継ぎ目に差し掛かった時でした。

猫井川のかかとが、継ぎ目部分の段差に引っかかりました。
その高さはほんの1センチ未満。
それでも猫井川の足元をすくうには十分な高さでした。

つまづき、よろける猫井川。
何とか倒れまいと、後ろ足でふんばろうとしとします。
顔は空を向き、上半身は後ろに仰け反ります。
そして、手にしたバイブレーターも腕の動き合わせ、下から上に弧を描きます。

バイブレーターは、鼠川の目の前をかすめて、

間一髪。

ギリギリ直撃は免れましたが、コンクリートが飛び散り、鼠川にかかったのでした。
下から上に一直線。作業服から顔に飛び散るコンクリートの飛沫。

猫井川は、なんとか尻もちをつかずに踏ん張ったものの、ほっと息をつく間もなく、怒声が響き渡りました。

「猫井川、何をやっとるか!!」

ヒィィと、首を縮めてしまう猫井川。

「自分で置いた板なんだから、しっかり足元に注意せんか!
 もしこれがぶつかっていたら、怪我したぞ!」

顔についたコンクリートを拭いながら、説教する鼠川。

この説教はしばらく続きそうです。

その間、バケットに入れたコンクリートをどうしたものやらと迷う保楠田。

説教も一段落し、作業を再開したもの、「犬尾沢さんがもう一人増えたみたい」と恐れおののく猫井川。

そんな猫井川に、鼠川が一言。

「これからは、しっかり教えこんでいくからな。猫井川。
 お前は教えがいがありそうだ。
 これは年をとったなんて、言ってられんな。ガハハハ」

猫井川という素材を得て、かつての勢いを取り戻そうとする鼠川。

そして、先行きに戦々恐々の猫井川なのでした。

前回少し意気消沈した鼠川が、どうも猫井川の姿を見て、かつての姿を取り戻しつつあるようです。

逆に、寝てる虎を起こしてしまったような猫井川。

今後この2人の関係も面白そうなことになりそうです。

さて、今回はコンクリートを打設している時に起こった、ヒヤリハットです。

コンクリートは打設時には流動体ですが、ドロドロした粘性度が高いものです。
ただ上から流し込んだだけでは、鉄筋と鉄筋の間や型枠の角の部分まで、コンクリートは行き渡りません。

これを移動させてやるのが、バイブレーターという機械です。
バイブレーターは先端がゴム等の棒になっているタイプなどがあり、振動します。
振動を受けたコンクリートは、流れていくので、多少移動させることができるのです。

コンクリートの打設は、バイブレーターが必需品なのです。

このヒヤリハットでは、そんな打設作業をしている時に、足場板でつまづいて、転びそうになったというものですね。

板を何枚か継いで足場にするときには、どうしても継ぎ目に段差や隙間ができてしまいます。
これは配筋の上の通路足場の時だけでなく、高所で作業する場合にもつまづきの原因になるのです。

配筋の上でしたら、転んで怪我をすることはありますが、高所足場でつまづいた場合は、転落してしまう可能性があります。

つまづき転倒は、実は大事故になる可能性もあるのです。

特にこの時は、猫井川が手にしていたバイブレーターが、鼠川の顔をかすめました。
ゴムとはいえ、結構硬いものです。
ぶつかったら、切れていたかもしれません。

幸いぶつからなかったものの、コンクリートの飛沫がかかってしまいました。
もし目に入っていたら、大変なことにもなりかねません。

転倒は、時として自分だけでなく、周りの人も巻き添えにすることもあるのです。

さて、今回のヒヤリハットをまとめましょう。

ヒヤリハット コンクリート打設時に、配筋の上の足場板に引っかかり、転びそうになった勢いで、バイブレーターをぶつけそうになった。
対策 1.足場板の継ぎ目は段差や隙間がないようにする。
2.足元が悪いところでは、後進など、不注意を招く歩き方はしない。

配筋の上の足場板でも、高所でも、足を引っかけたり、つまづかせたりする原因はなるべくとりのぞくのがよいです。

隙間を埋める。小さな段差も生まないように取り付ける。
長い一枚板にして、継ぎ目自体をなくすなど。

方法としては、現場や手持ちの材料によるのですが、転倒防止対策は大切です。

特に高齢者も一緒に作業する場合は、転倒対策は非常に大切です。
年令を重ねる度に、どうしても筋力が衰え、つまづきやすくなります。
本人が自覚しても限界があるので、設備側で対策するのが大切なのです。

また足元が悪い時には、十分に確認しながら作業することが大切です。
ながら作業などをすると、注意力が散漫になるのです。

猫井川という指導しがいのある対象を見つけ、元気になる鼠川。

それを束ねる犬尾沢は、どう扱っていくんでしょうか。

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