○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、思い出のファースト雷

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

「まあ、犬尾沢のことは、また聞けばいいんじゃないか。
 色々とあるし、中には参考になることもあるだろう。」

エスパニョール鼠川は、猫井川の向かいの席に座り、グラスを空けながら言いました。

「はあ、参考にですか。
 でも犬尾沢さんて、あまり昔のこととか話さないですよね。
 
 この前、羊井さんから、ちょっと聞いたくらいで。」

「まあな、あいつはあまり話さないからな。
 その辺りは、ワシからも後輩指導をするように言っておいてやる。」

グラスを傾け、飲み干すと、奥さんにキープしている焼酎を持ってきてもらうように言いました。

「ここは、スペイン料理やだから、ワインとかの方がいいんだろうけど、わしは焼酎がいい。
 お前も飲むか?」

猫井川がエスパニョールを自称しているのに焼酎なのかと思いつつ、頷くと、鼠川は2人分の水割りを作りました。

グラスの1つを猫井川に渡しながら、今度は猫井川に話を振ってきます。

「そんなことより、お前の話をしろ!
 お前は前はバイトとかしてたと言ってたな。
 どんなことしてた?
 それで、何でこの会社に入ったんだ?」

グラスに口をつけていたところ、急に話を振られたので、少しむせてしまいます。

「前のバイトですか?
 うーん、学校卒業してから色々やりましたよ。
 居酒屋とかパチンコ屋とか、あとガードマンもやりました。」

「ほう、ガードマンか。
 道路工事か?」

「そうです。ちょっとの間でしたけどね。
 あれって、すぐにやれるかと思ったら、講習とか受けなきゃならなくて。
 で、やったのはいいんですけど、冬だったから、心底冷えました。」

「そうだろう。
 わしらは寒空でも、体を動かすからな。
 ガードマンは、動きまわるわけにもいかないから、体が冷えるよな。」

「それが辛くて、すぐ辞めちゃいました。」

「そうか、こらえ性がないな。」

「まあ。。。
 ガードマンしている時に、道路工事とか見てましたよ。
 何やってるかは分からりませんでしたけど、いっぱい機械があるなと思いました。

 そんなこんなしている時に、そろそろきちんと就職しないとと思いまして。」

「この会社に来たということは、お前の親父さんは、建設とかか?」

「いや、全然。普通のサラリーマンでしたよ。
 まあ、母親と離婚して、今はよくわかんないですけど。
 だから父親の影響でとかではないです。」

「そうなのか。
 で、何でこの会社に?」

「当時、俺はものすごく太ってたんですけど、痩せるかなと思って。
 あと、ガードマンやってた時に、でかい機械を動かすのが面白そうだし、俺でもできるかも思ったんですよ。」

「そんなに太ってたのか?
 今は普通くらいだから、想像つかないな。」

「結構なものでしたよ。
 面接の時に、太ってても平気ですか?痩せれますか?と聞きましたもん。」

「そうしたら、何て言われた?」

「大丈夫、半年もしたら標準になると言われました。
 半年とは言わないですが、1年くらいで、服のサイズがLLからMになりましたけどね。
 ちょっとずつ筋肉もついてきましたし。」

「ほほう。そりゃ目的はかなったな。
 体が資本だから、痩せるし、筋肉はつくわなー。
 でも、最初はきつかったろう?」

「めちゃくちゃキツかったです。
 初日に辞めてやろうと思いました。」

「ははは。そりゃそうだ。
 太ってなくても、最初はきつい。
 でも慣れてくるんだけどな。」

「最初はしんどすぎて飯も食えなかったですもん。
 それで、痩せたというのもあるんですけど。
 確かに慣れてきますね。」

「若いもんは、我慢を知らんのがいかん。」

「まあ、それは年関係ないですって。
 俺の後にも、30とか40超えた人も入ってきましたが、すぐ辞めましたもん。
 もうちょっと続けていたらなーと、持ったないないなと思うんですけどね。」

「そうだな。
 1年位続けていると、仕事が分かってくるのにな。
 なんで、お前は辞めなかったんだ?」

「最初はちくしょーという気持ちですね。
 でも橋の現場に行ったんですけど、自分が関わった物ができて、使われているのを見て、やりがいを感じました。
 仕事の時は、めちゃくちゃ怒られるし、しんどいんですけどね。
 できたものを見ると、嬉しくなりますね。
 これは俺が作ったんだーと思います。」

「それが多いんだよ。この仕事は、目に見えるものができるからな。
 お前はいいところに気づいている。

 ところで、お前が最初に怒られたことは覚えているか?」

「何となくですけど、覚えています。
 犬尾沢に怒られました。」

「どんなことだ?」

「あれですね・・・・」

猫井川が、HHCに入って間もない頃、橋脚工事に入っていました。

「おーい、猫井川。そこのバタ角持ってきてくれ。」

犬尾沢が猫井川に呼びかけます。

「バタ角?バタ角って何ですか?」

「その四角い角材のことだよ。それを5本ほど持ってきてくれ。」

「はーい。」

大きなお腹の猫井川は、バタ角の前で屈み込み、1本ずつ腕に抱えていきます。
両手で、5本抱えて、よろよろと歩いて行きました。

「持ってきましたー」

フゥフゥ言いながら、バタ角を運びます。

「おう、そこに置いてくれ。お前すごい汗だな。」

息を吐きながら、バタ角をドサッと置きます。

「おい!落とすな。静かに置け!」

犬尾沢に怒られます。

「は、はい。」

返事をしながら、汗をかいたので、ヘルメットをずらし、汗を拭います。

「それと、汗を拭くのはいいが、ヘルメットのちゃんと調整しておけよ。
 あご紐もきちんと締めろ。
 ぶかぶかだと、役に立たないぞ。」

「はいー。」

ヘルメットなんて頭に被ってりゃ、別にいいじゃないかと内心うそぶき、ヘルメットの調整も特にやらないままでした。

「猫井川、こんどはそこにある短い塩ビ管を足場の上に持って行ってくれ。
 足場だから落ちないように、気をつけろよ。」

そう指示された、猫井川は「分かりました。」と返事をして、塩ビ管3本を抱えていきました。

「ふぅ、休む暇ないな」
と独り言を言いながら、また額から流れる汗をそのままに歩いていきました。

足場の前に立つと、汗が目に入りヒリヒリします。

階段を登りながら、塩ビ管を抱えたままの腕を顔に持って行き、何とか汗を拭こうとします。

2度、3度汗を拭います。

その時です。
拭った手に当たり、ヘルメットがするりと後ろにずれてしまったのです。

ずれてしまったヘルメットのあご紐は、猫井川の首にかかり、締めてしまいます。

「ぐへぇ」

妙な声を出しながら、猫井川は後ろにそり返ります。

階段を、後ろに倒れそうになった時でした。

ガシッと背中を支えられる間隔。
間一髪で、倒れるのを免れました。

「す、すみません。ありがとうございます。」

そう言って振り返った猫井川の目に映ったのは、顔を真赤にした犬尾沢でした。

「猫井川!ヘルメットの調整はさっき言ったところだろうが!」

ひぃぃぃ!と唸る猫井川の汗は、通常より多く出てしまい、作業服の上半分は変色してしまうのでした。

「・・・確か、こんな感じでした。」

猫井川は、語り終えました。

「ははは、最初から雷を落とされたか。」

「今では、多少は怒られた理由は分かりますけどね。」

「そんなもんだ。少しずつ覚えていくもんだ。」

そういう2人の話は、まだ続きそうです。

前回からの引き続きで、鼠川と猫井川が飲みながら話をするものです。
ちょっと、会話の描写が長いため、過去のヒヤリハットの部分が短めになってしまいました。

それでも、何をやって、何を学んできたかというのは大切ですね。

ところで、猫井川は昔ものすごく太っていたんですね。
体を使って働く内に、脂肪は燃え、スリムになってきたようでした。
きっと今でもお腹の皮膚には妊娠線があるのでしょう。
きちんと健康的な体型になったということは、猫井川にとっては、今の仕事は天職だったのかも。

次回には、飲みながらの話は終わらせたいなと思っています。

さて、今回のヒヤリハットは、保護具の内ヘルメットに関してのものです。

建設業の現場に限らず、工場内や倉庫作業、運送業の荷役作業などでは、保護帽、つまりヘルメットは必須です。
特に今や建設業の現場でヘルメットを被らないとなると、追い出させれも仕方ありません。

ヘルメットの役割は頭部の保護です。
何から守るかというと、上から降ってくる飛来物、頭部付近の出っ張り、墜落時の地面からです。

ヘルメットには、飛来・落下用と墜落用、あと電気用があります。
飛来用と墜落用は分かると思いますが、電気用は電気を通さない素材で出来ていて、電気工事の際に頭部からの感電を防ぐものです。

さて、ヘルメットには、正しいかぶり方があるのです。
ただ頭に乗せていたら大丈夫ということではないのですね。

当然のことながら、頭を覆っていないような、いわゆるアミダ被りなどは論外です。

また、きちんと頭を覆っていても、調整されていなければ、効果が薄くなります。
具体的な調整方法については、長くなるので割愛しますが、原則として頭の形に合わせるということです。

頭の周囲の合わせて、内部のバンドを狭くしたり、広げたりして調整する。
そしてあご紐の長さを調整して、グラグラしないようにします。

頭に合わない、またすぐに脱げてしまうようなかぶり方では、いざというとき役に立ちません。

猫井川の場合、頭の周囲の調整も、あご紐も緩いままの状態で仕事をしていたため、少し触れただけで、頭から外れてしまったんですね。

もし汗を拭う手ではなく、足場の鉄パイプやコンクリート構造物の出っ張りにあたっていたら、怪我をしたかもしれませんね。

とはいえ、今回のケースもあご紐が首を絞めて、階段から落ちそうになったということなので、結構危険でした。

さて、今回のヒヤリハットをまとめます。

ヒヤリハット 汗を拭ったら、ヘルメットがずれて、あご紐で首が絞められ、倒れそうになった。
対策 1.ヘルメットのあご紐など、きちんと調整する。
2.汗が流れないように、ヘルメットの下にインナーを入れる。

ヘルメットの調整は、必ずやっておきましょう。
そして、ヘルメットは、あご紐を確実に着けましょう。

被っただけ、あご紐は接続されず、ぷらぷらしているのでは、全く意味がありません。

もしそんな作業者がいたら、注意してください。

そして、体を動かすので、どうしても汗をかいてしまいます。
そんな場合は、ヘルメットの下につけるインナーキャップやタオルを巻くなどができますね。
ただしその場合一つ注意点があります。
タオルなどを巻いて、ヘルメットが動いたり、ずれたりしないようにしましょう。
必ず、調整し、グラグラしないように固定しなければ、これもいざという時役に立たないのです。

保護具は命を守る最後の砦です。
猫井川の最初の教訓は、保護具の大切さだったというわけですね。

まだ2人の話は続きそうです。
次はどんなヒヤリハットが出てくるのでしょうか。

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