墜落・転落○事故事例アーカイブ

福島第一・二で事故…東電協力企業の2人が死亡

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東日本大震災を発端として、福島第一原発事故が起こりました。

もはや福島第一原発は機能を失い、これから数十年をかけて、廃炉工事を行っていきます。

今、日本で最もリスクの高い作業であるといえるでしょう。

国の支援を受けながらも、廃炉作業を主体的に進めていくのは東京電力です。
しかし東京電力が直接行うわけではありません。
外部の業者に仕事を発注し、委託しています。

そして受注した業者は、下請けに発注し、さらにその下請けに発注する。

建設業の特徴は、重層的な下請構造にあります。

大きな工事になると元方事業者は、統括管理を行い、実際の作業を行うのは、3次、4次業者ということも珍しくありません。

重層的な下請構造には、1つ大きなデメリットがあります。
それは、意思の疎通が取りにくいということです。

別々の会社が入り交ざって、仕事をしています。
隣にいる会社がどの場所で、どのような工程で、どのような仕事をしているか、わからないのです。

そのため、機械作業がバッティングするということもあります。

こんな現象を解消するために、統括安全衛生責任者という制度があります。
これは元方事業者から、現場全体を統括管理する責任者を設け、全体の連絡調整や安全に作業を進めていくための管理を行わせるものです。

誰かが責任を持って、全体を把握し、段取りするというものです。
これにより、横の風通しはよくなるものの、完全ではありません。
どうしても、2次、3次、4次と階層を経ると、意思の疎通が通りにくくなるのが現状です。

事故なく作業を進めてくださいという指示も、遠くなると届きにくいのです。

先日、福島第一原発、第二原発で連日死亡事故が起こりました。

福島の原発の事故ということで、注目を集めています。
それと、同時にその背景には、統括管理の難しさを露呈しているように思います。

福島第一・二で事故…東電協力企業の2人が死亡(平成27年1月20日)

東京電力の福島第一原発と第二原発で事故が相次ぎ、20日、東電の協力企業の男性社員2人が死亡した。

東電や双葉署によると、20日午前9時半過ぎ、福島県楢葉町の福島第二原発の廃棄物処理建屋5階で、機器の点検中だった作業員が、円筒形の金属容器(高さ約0・6メートル、直径約1メートル)と支柱に頭を挟まれ、病院に運ばれたが約2時間後に死亡した。容器と支柱は廃棄物処理に使う機器の点検用器具の一部で、固定用ボルトを外したため容器が傾いたという。

また、19日午前9時過ぎ、大熊町の福島第一原発で、空の雨水用貯水タンク(直径9メートル)を点検していた作業員が、天板の点検口(縦1メートル、横0・8メートル)から約10メートル下のタンクの底に転落、搬送先の病院で20日未明に多発外傷で死亡した。蓋を開けようとしてバランスを崩したとみられるという。

読売新聞 (元の記事が削除されたようです。)

もう1件同じ事故を取り上げた記事を掲載します。

第1・第2原発で連日、死亡事故 東電「手順確認不十分」
(平成27年1月21日)

 東京電力福島第1原発で19日、タンク上部から協力企業の男性作業員が落下した事故で、男性は20日未明に多発外傷で死亡した。福島第2原発でも同日、協力企業の男性作業員が点検台の機具に頭を挟まれ死亡した。原発で労災死亡事故が相次ぐ異常事態となった。

 第1原発での作業中の死亡事故は昨年3月に土砂の下敷きになって1人が死亡して以来2件目。第2原発では原発事故以降初めて。

 東電は事故の要因について、作業の手順確認や複数の作業員による安全確認が不十分だったと説明した。21日に福島第1、第2原発のほぼ全ての作業をいったん中止、安全点検で作業の手順や危険性を洗い出す。広瀬直己社長は報道陣に「安全が確認されるまで作業を再開しない」と述べた。
 被災者は落下防止用の安全ベルトを使用した形跡がなかった。

 第2原発の事故は20日午前9時30分ごろ、1、2号機廃棄物処理建屋で、機器の点検準備をしていた作業者が点検台と機具の間に頭を挟まれ、死亡した。機具を固定していたボルトを緩めたところ、機具が動いて挟まれたとみられる。安全対策としてクレーンを使って機具を支えるが、当時はクレーンが使われていなかった。

福島民友ニュース (元の記事が削除されたようです。)

福島第一原発で起こった事故の型は「墜落・転落」で、起因物は「タンク」です。
福島第二原発での事故の型は「はさまれ」で、起因物は「廃棄物処理用器具」です。

それぞれ、分けて原因の推察と対策を検討してみたいと思います。

まず、19日に起こった福島第一原発事故からです。

この事故は、空の雨水用貯水タンクの上部で蓋を開けて作業していたところ、内部に墜落したというものです。
タンクの高さは約10メートル。ビルで言うと、4階から5階に相当します。

そのような高さから落ちると、人の体は耐えられるものではありませんよね。

このタンクは敷地内に設置されているものでしょうから、被災者は放射能の防護服を着用して作業していたものと推測されます。

あれは、全身を覆うので、動きづらく、呼吸もしづらいんですよね。
しかしこれがなければ、少しだって外にいられません。
作業する上では、必須の安全保護具と言えます。

また放射能数値が高いため、作業する時間にも制限があります。
1日の許容暴露時間は限られています。
丸1日作業というのは、まず不可能です。

この被災者は、安全帯を着用していなかったようです。

開口部作業なので、囲いを設けるもしくは安全帯を着用することが義務付けられています。

作業手順書には、このことは明記していたと思われます。

しかし実際には、守られていませんでした。
原因は、そもそも作業者に作業手順書を通知していなかった。
もしくは、作業者に伝えていたが、放射能保護具の上に安全帯を着用することが、煩わしく、無視されていたかでしょう。

これが統括管理の難しさです。

トップダウンが伝わりきらないことにあります。

この事故の遠因には、そのようなことがあるのではないでしょうか。

では、この事故の原因を推測してみます。

1.開口部作業だが、墜落防止柵などがなかったこと。
2.作業者が安全帯を着用していなかったこと。
3.作業手順書を周知していなかったこと。
4.作業状況の監督が不十分だったこと。

墜落・転落のある場所での作業では、柵などを設けたりすることが大切です。
もし柵などを設けられない場合は、安全帯を着用させます。

このことは作業手順書に書いただけでは意味がありません。

巡視等で、実際の作業状況を確認し、必要に応じて指導することも大事なのです。

それでは、対策を検討します。

1.開口部では、墜落防止の設備を設ける。
2.安全帯の着用を徹底させる。
3.作業手順書に従った作業を行うよう教育を行う。
4.作業場の巡視を行い、安全に作業を進めているかを確認する。

安全教育は、各下請け業者の義務ですが、実施状況の確認や、実際の作業で徹底されているかの確認は元方事業者の責務になります。

統括管理は、ただ指示するだけではないのです。

それでは、次に福島第二原発の事故について原因の推測と、対策を検討してみます。

この事故は、廃棄物処理施設の機械の点検時に起こりました。
被災者が機器のボルトを外したところ、機器が動き、被災者を挟んでしまったというものです。

挟むというものは、物と物の間に入り込み、大きな力で押しつぶされることを意味します。

とてつもなく大きな鉄の塊の間に挟まれるのですから、墜落の衝撃と負けず劣らずの衝撃を受けられたものと思います。

このような状況では、ヘルメットなどの保護具は気休めにしか過ぎません。
とても守りきれるものではなく、ただ非力なだけなのです。

この事故から身を守るためには、事前の準備が必要です。
巨大な機器が動かない、落ちないように準備してから、作業をとりかかるのです。

クレーン作業などで、何トンにもなるものを持ち上げる時、事前にワイヤーの状態や、バランスなどを確実にチェックしてから、吊上げます。
万が一も起こさないように注意しているのです。

この事故は、その準備の怠りが起こした事故です。

作業手順では、機器のボルトを緩める際は、動かないようにクレーンで固定すると手はずとなっていました。

ところが、実際にはこの手順は省かれていたのです。

推測になりますが、今まで何度も同様に手順を省いて作業をしていたのではないでしょうか。
今まで何も問題がなかったから、安全措置を省き、それが黙認されることは珍しくありません。

この事例で特に有名なものは、東海村臨界事故でしょう。
危険作業が黙認されていたがために、恐るべき事故に至ったものです。

今回の事故では、本当に慣れによる省略だったのかは推測に過ぎませんが、背景の一因の可能性はあるのではと思います。

それでは、この事故の原因を推測してみます。

1.作業手順を省略して、作業を行ったこと。
2.機器が動いた際に、挟まれる位置で作業をしていたこと。
3.不測の事態の際の、避難方法などが検討されていなかったこと。
4.巡視により、作業状況などの確認し、対応していなかったこと。

この事故も統括管理と作業手順の徹底の困難さを露わにしています。

現場作業者の判断で、時として危険なことをやってします。
そして事故になる。

どうしたら、徹底されるのか、これはずっと検討していくべき課題でしょう。

対策を検討してみます。

1.作業手順を定めたら、必ず守るよう繰り返し教育する。
2.作業位置など、現場を見て、取り決める。
3.有事の際の避難方法などを明記し、周知する。
4.現場に、作業方法を記載した掲示物を置き、作業者の眼に入るようにする。
5.作業場の巡視を随時行い、作業方法などを確認し、指導する。

作業手順を定め、文章化しても、それが実践されなければ意味がありません。

元方事業者、この場合東電でしょうが、作業手順書などの書類の提出を受けて、それで安全対策は良しとしたことはないでしょうか?

安全管理は書類の確認ではありません。
実際に作業員の身を守ってのことです。

作業員の意識を高揚させるのに、よくスローガンなどの掲示物を張ったりします。

これを作業場に、守るべき安全ポイントを書いて、張っておくのも、意識させるのに役立ちますね。
ただし、つらつらと文章を書くような、掲示物は意味がありませんので、ご注意を。
短く、ポイントを明確じゃないと、誰も見ません。

福島第一、第二原発での作業は、世界中が注目しています。

それほど危険な環境での作業だと、知っているからです。

そのような場所での安全対策は、何よりも大事です。
おそらく東京電力もよく分かっているはず。

しかし、分かっていると、徹底されるかは別のお話。
頭ごなしでは反発をまねきます。

どうやって、安全に作業を進めていくか。

本当に、本当に知恵を絞る課題ではないでしょうか?

これから前代未聞の工事を行っていきます。

それをどこまでも事故がなく、被害最小で全うすることが、この事故への対策を価値あるものにするのではないでしょうか。

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