○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、荷物で手がギューッとされる

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

現場の仕事を終えた猫井川は、1人倉庫で荷物の片付けを行っていました。
作業で使ったコンパネや仮設足場用のパイプ、工具などを運び込み、所定の場所に置いていくとともに、明日使う材料の準備をしていきます。

「現場終わって疲れてるから、早く終わらせよう。」

そんなことを思いながら、1人で黙々と車と倉庫の中を往復します。

「俺も完璧にどこに何があるかが分かるようになったな。
 今なら目をつむっていても歩けるかも。」

毎日のように荷物の出し入れをしている倉庫なので、すっかり勝手知ったる主の気持です。

しかし入社した頃は、右も左もわからない状態でした。

「そういえば、昔はどこに何があるかわからないし、重くてふらついて、道具を落として怒られたこともあったな。」

慣れている作業者ならば、軽々と持っているように見える材料も、入ったばかりの新人には簡単に持てません。
筋力も持つコツも分からないので、腰が引けたように不格好になります。
持ち方のバランスも悪いので、すぐに落としてしまいます。

猫井川もよく荷物を落としてしまい、怒られたこともしばしばしでした。

猫井川は、この仕事を初めて2年になります。
最初の頃は何もかも分からず、荷物1つを運ぶだけでも失敗してしまいました。

さすがに荷物を落とすくらいでは、怒られなかったものの、周りの人を危険にさらすようなことをしたら、犬尾沢にガッツリ怒られていたのでした。

「本当に怒られてばかりだったな。でもたまには心配してくれたこともあったな。」

少し昔のことを思い出していたら、そんな犬尾沢とのエピソードを思い出したのでした。

猫井川が入社して、数ヶ月経った頃のことでした。

猫井川は犬尾沢たち数人と倉庫内で荷物の整理をしていました。

犬尾沢たちは、軽々と持ち上げ、スイスイと運んでいきます。
一方、猫井川はヨタヨタと危うそうに運んでいます。

「猫井川、大丈夫か?しっかり運べよ。」

「は、はい。」

全然大丈夫そうにない感じで返事をします。

「ふう~」

ようやく運び終え、すぐさま新たな荷物を取りに戻ります。

「さて、次はこれだな。よいしょっと。」

両取っ手のついたコンテナを持ち上げます。

「これは腰にくるな。」

しっかりと腰を入れて持ち上げ、よろよろと歩き始めました。

「ふう、ふう。」

一歩ずつゆっくり歩いていきます。
荷物を持つことに集中しているため、前を見るというより、ほんの数メートル先しか見えていません。

猫井川は通路を歩いています。
しかし通路脇の荷物は片付け途中なので、通路脇の荷物も整理整頓されているわけではありません。

整理整頓されていない材料棚の中には、少し通路にはみ出しているものもあったのでした。
何度か荷物を持って往復している猫井川は、それに見るとはなしに気付き、無意識ながらに避けていました。
今まではですが。

しかし今は荷物に集中しているので、そのことに意識が向いていないのでした。

「ふう、ふう。」

猫井川は一歩ずつ歩きます。

そして通路脇からはみ出す材料棚と、猫井川が近づいていきます。

猫井川が荷物を持つ左手は、通路にはみ出す荷物の線上に位置しています。

左手と材料棚が徐々に接近します。
猫井川の視界には、それが入っていません。

そしてお互いが接触し、猫井川の手は材料棚と荷物との間に、ギューッと挟まれてしまいました。

「痛てて」

思いの外、強く挟んでしまったので、左手には強い痛みが走ります。
その痛みで、思わず手を離してしまい、荷物を落としてしまいました。

「ああ、やべー」

荷物を落とした衝撃で、コンテナの中の荷物が散らばります。

「おい、猫井川どうした?大丈夫か?」

落下した音に気づき、犬尾沢が声を掛けます。

「大丈夫です。落としただけです。いてて」

「怪我はしてないか?」

「平気です。少し棚と荷物で手を挟んでしまっただけです。」

「そうか、痛むようなら湿布しとけ。あとその荷物棚をどかしてから運んだほうがいいな。」

そう言うと、犬尾沢は荷物棚をずらし、通路からはみ出ないように動かしました。

「これで大丈夫だな。気をつけて運べよ。もう少しだ。頑張れ!」

そして、犬尾沢はまた自分の仕事に戻っていきます。

「あ、ありがとうございます。」

痛む左手をさすりながら、猫井川は応えます。

「よし、運ぼう。」

犬尾沢の行動が少し嬉しく思いながら、散らばった荷物を拾い集めるのでした。

・・・昔はこんなこともあったなと思い出していると、倉庫の入り口から犬尾沢が声をかけます。

「猫井川。はやくしろよ」

「はい。もう終わります。」

そう言いながら、ひょいと荷物を持ち上げ、明日の準備をするのでした。

今回は、猫井川が少し昔のことを思い出したお話でした。

入社した当時は、荷物1つ運ぶにしても、筋力もコツも分からず、へっぴり腰です。
猫井川がそんな状態なので、犬尾沢もまだあれこれ気をかけたりしています。

今では成長し、荷物1つ運ぶにしても、慣れたものです。

仕事は続けることで、コツを学び、必要な力を身につけていきます。
職人さんが軽々と行っていることも、毎日の積み重ねが形作るものなのです。

さて、この話の舞台は倉庫の中になります。
倉庫は荷物であふれていますが、整理整頓がされているのが通常です。

通路を示す線が引かれ、その線にはみ出さないように荷物が並べられています。
通路と荷物がきちんと明確に分かれていないと、歩いている最中に体をぶつけてしまったりします。

整理整頓は、仕事を怪我なく安全に行うために最も注意スべきことと言えます。

猫井川が手を挟んでしまったのは、倉庫の整理整頓作業中の事だったので、全ての荷物が整然と並んでいたというわけではなかったようです。

一部の荷物が通路にはみ出していました。
この荷物と猫井川の手が挟まってしまったようです。

ただ荷物と手を挟むというのは、あまり大したことはなさそうに見えます。
確かに切ったり、打撲したりという大きな怪我にはなりにくいかもしれません。

しかしこの猫井川のように、荷物を落として足をけがをすることもあります。
挟みどころが悪かったら、最悪の場合骨が折れてしまうこともあります。

大きな怪我になりにくのですが、他の怪我や事故を誘発してしまうのが、こういったささいな怪我なのです。

すぐに犬尾沢が対処しましたが、何か問題がありそうな場合は、すぐに対処するのが重要ですね。

さて、今回のヒヤリハットをまとめてみます。

ヒヤリハット 倉庫内で荷物を運んでいたら、通路にはみ出していた荷物棚に接触し、手を挟んだ。
対策 1.荷物は通路にはみ出さないようにする。
2.荷物で張り出している所があれば、はみ出さないようにする。対処できない場合は、明示するなどの工夫をする。

整理整頓は、全ての安全活動の基本になります。
これは倉庫や工場、現場でも同じです。
ほんの少し放置しただけでも、後々大事故につながることもあるのです。

猫井川も少しずつ成長していきます。
小さな失敗を繰り返して、学び、その対処法を身につけていっているのです。

まだまだ猫井川は、ヒヤリハットを繰り返すでしょうが、それを糧にこれからも一人前への道を進んでいきます。

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